連載
posted:2015.10.21 from:東京都千代田区 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Ikuko Hyodo
兵藤育子
ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。
credit
撮影:後藤武浩
8月19日、2回目となる〈SUPER VISIONSフォーラム〉が、
安倍昭恵総理夫人の協力のもと、内閣総理大臣公邸にて行われた。
「田舎から日本を変えよう!」というテーマを掲げたこのフォーラムには、
主にふたつの目的がある。
ひとつは、日本各地で地方創生のさまざまな取り組みを実践して、
成果を上げている方々に活動報告をしてもらい、
フォーラム参加者それぞれの活動に生かす勉強会としての場。
そしてもうひとつは、同じように奮闘している参加者とゲスト、
あるいは参加者同士がつながるネットワークづくりの場だ。
今回、活動報告をしたゲストは15名。
地域づくりというジャンルにおいては、どの方も一目置かれている“豪傑”ばかりだ。
バラエティに富んだその活動内容を、それぞれのプロフィールとともに
ダイジェストとして紹介しよう。
石川県羽咋市役所・文化財室長の高野誠鮮さんは、
限界集落を蘇らせた“スーパー公務員”。
地元・神子原産のお米の知名度を上げるべく、ローマ法王に献上し、
実際に食べてもらったことで大きな話題となり、農家の年収アップに貢献。
農業移住者の増加にもつながった。
さらには“奇跡のリンゴ”で知られる木村秋則さんとともに
無農薬・無肥料の自然栽培を行い、「ジャポニック」と命名。
現在はJAと共同でその指導に取り組んでいる。
「実はいま、モナコ公国の食材と、東京オリンピックの選手村の食材を
すべてジャポニックにできないか、虎視眈々と狙っているところです」
とさらなる壮大な夢を語る、高野さん。その野望はとどまることを知らないようだ。
奥田麻依子さんが取り組む〈隠岐島前高校魅力化プロジェクト〉の目的は、
人口減少により廃校の危機に瀕していた高校で魅力的な教育を行い、
地域の教育をブランド化すること。
地域が抱える課題に対して、自分たちのできることを高校生自らが考え、
解決に向けて行動することで、地域に根ざしながら世界とつながる
“グローカル”人材の育成を目指している。
現在は島留学というかたちで全国から生徒を募集し、
160人の在校生のうち約半数が東京や大阪を中心とする全国各地から集まってきている。
「いままでは高校中心に取り組んできましたが、
今後は保育園から小中高校まで連携した教育を目指していきたいと考えています」
昨年度からは教師の全国募集も始め、都道府県で連携できるかたちを模索中だ。
イザベル・プロハスカ=マイヤーさんは、ウィーン大学日本学科の講師・博士。
オーストリアの地方でも過疎化・高齢化の問題を抱えており、
長野県と山梨県の3つの山村で高齢者がどのような日常を過ごし、
自治体はどのような対策を練っているのか、フィールドワークを行った。
イザベルさんは「日本の田舎は魅力的で、無限の可能性がある」と主張する。
「高齢者は介護の対象と見られがちですが、
私が出会った方々はまさにアクティブ・エイジングでした。
もちろん人生でつらかったこと、苦労したこともうかがいましたが、
ユーモアのあるポジティブな姿勢にはとても感心しました」
イザベルさんはこうした日本の山村の現状をより多くの人に紹介したいという思いから、
ドキュメンタリー映画も制作している。
〈アジアンファームハウス百姓庵〉の井上かみさんは、
結婚を機に12年前に山口県油谷島に移住。
ご主人と耕作放棄地を開拓して、ほぼ自給自足の暮らしをするかたわら、
1日1組限定の農家民宿を営んできた。
8年前からは、昔ながらの立体式塩田で〈百姓の塩〉という天然塩を製造販売。
いまでこそ油谷島の海は美しいが、移住当初は漂着ゴミがひどかったそうで、
ご主人がひとりで始めた海岸清掃が、いまでは1000人規模のイベントになっている。
「問題はストイックに取り組んでもなかなか解決しません。
楽しいところに自然と人は集まってくるので、
こうしたイベントも楽しさを重視して企画しています」
もともと旅行業界にいた経験を生かし、今後はエコツーリズムのメッカとして
油谷島の魅力を世界に発信していきたいと考えている。
高田佳岳さんが代表理事を務める一般社団法人〈LIGHT UP NIPPON〉は、
東日本大震災の追悼と復興の祈りを込めて花火を打ち上げるイベントを企画している。
岩手県大槌町に縁のある高田さんは、広告代理店に勤めていた経験を生かし、
エンターテインメントで復興支援を考えた。
鎮魂の意味があるだけでなく、子どもたちを笑顔にして、
さらにはコミュニティの再生にもつながる花火はうってつけだった。
現在はこの活動のかたわら、被災地の漁師が釣った魚を
東京の飲食店に卸す“魚屋”を営んでいる。
「こういう場で農村のテーマは多く見聞きしますが、
島国なのに漁村の話はほとんど出てきません。
僕は農業の成功例を参考にしながら、水産業を応援して
日本中の沿岸地域を活性化していきたいと思っています」
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塩満直弘さんがゲストハウス〈ruco〉を始めたのは、
山口県萩市のよさをなかなかわかってもらえない、もどかしさから。
「いろんな人が萩の観光名所に訪れるのですが、
中に入り込んでくれている実感がなく、萩の新たな入り口になればと、
ここでは斬新なゲストハウスをつくりました」
オープン前からとにかく人気の宿のようで、
全国各地から200~300人もの人が手伝いに来たり、
真夏の工事中にまちの人がアイスクリームやフルーツを差し入れしてくれたり。
「萩に興味を持って移住を希望する方が最近多くいらっしゃるのですが、
風通しが十分でなく、居心地の悪さを感じさせてしまうこともあると思います。
そういう方にも、rucoを介して萩のことをより深く知っていただき、
好きになってもらえたらと心がけています」
白井純さんが専務理事を務める公益財団法人東芝国際交流財団の主な活動内容は、
日本のよさを海外に紹介し、海外の日本研究者の活動を支援すること。
「日本のことを愛して研究してくださっている先生方はたくさんいますが、
日本のことを外国人にきちんと理解してもらいたいのであれば、
日本人自身が日本のことをもっと深く理解してほしい、と
その方たちによく言われます」
財団では、海外の研究者から見た日本のおもしろさを通して日本を再発見し、
それをもとに知的好奇心のある外国人観光客を日本に招き入れ、
地方創生に還元されるようなビジネスモデルを模索。
そのために研究者からアイデアを募り、プログラム化を進めている。
山梨県甲州市市民課課長の飯嶋喜志男さんが取り組んでいるオンデマンド交通は、
予約に応じてルートを決められる乗り合いサービス。
交通弱者といわれる高齢者が、タクシーに相乗りして高い料金を払っている状況を
改善すべく始まったプロジェクトだ。
「中山間地域は、オンデマンド交通が本当に必要だと思います。
甲州市がオンデマンド交通を始めて4年目になり、いろんな自治体が研修に来ますが、
公共交通に一生懸命取り組んでいる自治体は元気です。
やはり終の棲家を考えたときに公共交通がないと、
病院にも買い物にも行けず安心できません。
地域創生のかたちはいろいろありますが、お年寄りが安心して
住めるような場所にすることが、一番の施策なのかなと思います」
NPO法人〈智頭町森のようちえん まるたんぼう〉の代表を務める、西村早英子さん。
まるたんぼうは園舎を持たず、どんな天気でも毎日森に通って保育が行われている。
山村での子育ては自然が溢れ、安心安全な食につながり、
地域コミュニティもしっかりしている、いいこと尽くし。
「英語を話せることが真の国際人ではなく、大切なのは英語で何を伝えられるか。
これからの日本を背負っていく子どもたちを、
日本らしい風景や文化のなかで育てることはとても大事だと思います」
子どものやりたいことに寄り添う見守り保育は、
たくましい子どもに育つだけでなく、お母さんの子育て自体が楽になる。
今後は、入園を希望する移住者向けのシェアハウスの運営や産院の開設など、
さらに子育てをしやすい環境づくりを目指している。
NPO法人〈ふくしま新文化創造委員会〉の理事長を務める佐藤健太さんは、
福島県飯舘村出身で、現在は避難先の福島市に暮らしている。
震災後の福島が数々の課題を抱えるなか、旗揚げしたのが
〈LOMEO PARADISO(ロメオパラディッソ)〉という男だけのエンタメ集団だ。
男限定なのは、震災後にがんばっている女性をたくさん見て、
男たちも負けていられない! という思いから。
2013年から3回公演を行っており、来場者はいずれも1000人以上。
さらには震災復興祈念館の創設計画や、ボランティアと音楽イベントを組み合わせた
〈RockCorps(ロックコープス)〉への協力なども行っている。
「福島=原発事故というイメージがつくなか、誇りにつながる何かをつくっていきたい。
福島がエンタメと学びの両方をできるまちになったら
おもしろいのではと思って活動しています」
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濱田健司さんは、一般社団法人JA共済総合研究所調査研究部の
主任研究員として農福連携に注目。
全国の64歳以下の障害者数は約766万人で、
障害者のひと月の平均賃金は1万5000円程度だという。
一方、日本の農業を支えているのは昭和ひと桁世代。
増え続けている耕作放棄地は埼玉県の面積と並んでいる状況だ。
賃金が低くて働く場のない障害者と、担い手を求めている農業を
マッチングしたらどうだろうという思いから始まり、
障害者が農業をする取り組みを進めている。
「これまで障害者はサービスを享受する主体でしたが、
役割を持つことでサービスを提供する主体になるべきです。
つまり障害者に光を当てるのではなく、
障害者が光を当てるような取り組みをやっていかなければいけません」
山口県立大学国際文化学部長の水谷由美子さんは、
山口の文化や自然などの地域資源に着目したファッションを発信している。
農作業で着たいおしゃれな服がないということで、
3年前から安倍昭恵夫人と共同開発しているのが〈mompekko(モンペッコ)〉だ。
山口には柳井縞という伝統的な織物があるが、手織りは高価で農作業着に向かない。
それを機械織りで「やまぐち縞」としてアレンジして、
若い人も着たくなるようなデザイン性のある実用的な農作業着が誕生した。
「年に一度、農ガールズコレクションというファッションショーをしています。
今年は全国でも珍しい海に面した油谷の美しい棚田の自然から着想を得た、
やまぐち縞を開発しました」
秋好陽介さんが設立したランサーズ株式会社は、
インターネットを使って第三の働き方をつくることをヴィジョンに掲げて、
クラウドソーシングサービスを提供している。
このサービスを活用している約15万社のうち半数は東京の企業で、
仕事を受注する70万人近い個人の7~8割は地方在住者。
つまり東京の仕事を地方に再分配するという状況が生まれている。
ほかにも、奄美市でのフリーランス支援や福岡市への移住支援など、
10の地域とプロジェクトを展開。
「2016年までには100の地域とこうした取り組みをしたいですし、
2020年には日本を中心としたアジアで、1000万人の
場所と時間にとらわれない働き方を実現できればと思っています」
地方の絶品を発掘する奇跡のスーパーと名高い〈福島屋〉。
その代表を務める株式会社福島屋の福島徹さんは、おいしさの原点は土だと考えている。
「人間も自然のなかの生き物であることを自覚すると、
おいしいということを理解できる」と福島さんは主張。
そのなかで生産と販売、顧客が三位一体になって、事業化を進めるのが福島屋の信条だ。
「三位一体の事業化に大切なのは、オープンにすること。
仕入れ値、卸値などをお金のこともひとつの事業体のなかで
オープンにするとロスが非常に少なくなり、なおかつ土壌や環境も整う。
そして結果的に各家庭の食卓も整って、健康にも環境にも寄与できるのです」
収穫後なるべく早く食べることが、何よりもおいしいのはわかっている。
そのうえでさまざまな流通手段を整理しながら、
現実的な社会にフィットさせていくことが課題と考えている。
東日本大震災のボランティアで被災地と関わったのがきっかけで、
NPO法人〈アスヘノキボウ〉を設立し、宮城県女川町で活動する小松洋介さん。
女川町は民間の活力が強いまちで、震災の約1か月後に
女川町復興連絡協議会が立ち上がり、全産業界がひとつになって再建を模索。
小松さんは民間による復興計画の作成や、各社の事業支援、
スタートアップ支援などをこれまで行ってきた。
「公民連携だけでなく、地域外の企業や個人、地域とともに
まちをつくろうという話にはなるのですが、
それぞれの使っている“言語”やルールが違う。
僕らはハブ的な役割としてそれぞれをつないで調整しながら、
女川の課題を解決していくことが大事だということを震災復興のなかで学びました」
以上の15名のプレゼンテーションはどれも実に魅力的で、
明るくバイタリティに溢れた人柄だからこそ、
決して簡単ではないプロジェクトを実現できているのだと感じさせる場面が多々あった。
フォーラム終了直後からさっそくさまざまな交流が見られ、
地域創生の新たなアイデアやネットワークが生まれる有意義な場となったようだ。
主催者であるNPO法人〈BeGood Cafe〉代表のシキタ純さんは、
フォーラムを終え、あらためて次のような展望を語っている。
「BeGood Cafeでは、これまでも多くの課題と
魅力的な資源を抱える地域を元気にするため、
さまざまなプロジェクトを行なってきました。
SUPER VISIONSとしての開催は今回が2回目ですが、
いままでのネットワークを生かし、短い時間で参加者全員のつながりを生み出し、
より実践的で具体的なアクションが可視化することを目指しました。
実際に今回のフォーラムをきっかけにいくつもの成果が見えてきています。
次の課題は、どのようにして輪をもっと広げるか。
生まれつつある小さな成果たちをどう最大化するか。
まさに時代の歯車と合致したプロジェクトなので、
しっかりていねいに進めていきたいと考えています」
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