連載
posted:2013.12.2 from:北海道札幌市中央区 genre:エンタメ・お楽しみ
supported by オロナインH軟膏
〈 この連載・企画は… 〉
知リ100とコロカルがコラボレーションして、
全国のリアルに体験したほうがいいコトやモノを、体を張って体験してきました!
editor profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。
photographer
Tetsuka Yamaguchi
山口徹花
知リ100は、体を大胆に使い意外な学びや感動がある日本中の体験アイデアを収集して紹介するプロジェクト。やらないより一度やってみた方がいい。検索するだけじゃ分からない、見聞きするだけじゃもったいない体験が日本にはたくさんあります。そんな知リ100体験情報を集めるために、個性あふれる10人の知リ100大使が、それぞれの地域の地元のみなさんとFacebookページを通して情報交換し、魅力的な体験を取材・レポートしています。
「知ったつもりにならないでリアルに体験したほうがいい、日本の100」
略して知リ100。
今回、リアルに体験してきたのは「鷹匠体験」。
鷹匠(たかじょう)とは、鷹狩りに使用する鷹の飼育・訓練を行う専門技師で、
最近では、九州の女子高校生鷹匠が話題になりました。
みなさんも憧れませんか? 鳥を腕や肩に乗せて歩く姿を。
「さぁ行っておいで!」と大空へ放せば、
また元の位置、私の腕や肩に戻ってくるのです。
……たぶん。
とすっかり知ったつもりになったところで、
鷹匠の体験ができるところを探したところ、札幌の円山動物園がヒット!
知リ100隊隊長のさおりとともに体験してきました。
やっぱり、リアルに体験してみないとね。
それでは、コロカルの編集部の海老原が、体を張って鷹匠体験行ってきます!
冬には冬のさまざまな動物の生態が見られて楽しい円山動物園。
札幌市の中心からほど近い円山動物園は、日本で10番目にできた動物園。
広大な敷地には、約180種、800匹の動物がのんびりと過ごしています。
さまざまな体験プログラムも用意されていますが、
そのなかでも実際に動物と触れ合えるということで人気なのが
「猛禽類フリーフライト」。
予約なしでほぼ毎日行われているのですが、
春から夏の換羽時期や雨天荒天は中止になるとのこと。
この日の札幌は雪の予報も出ていましたが、晴れてひと安心。
この日フライトで出てきてくれるのは、
ユーラシアワシミミズクの“ふくちゃん”と、
実際に鷹匠体験させてくれるトビの“デューク”です。
まずはふくちゃんのご登場。
凛とした姿のふくちゃん。時折「ニャーニャー」と鳴きますが、これはエサを求めて鳴く、「餌鳴き」という行為だそう。
フライトのスタッフが、ミミズクの生態を説明しながら、
ふくちゃんを2本の止まり木で往復させています。
ユーラシアワシミミズクは、ミミズクの中でも体が大きい種類で、
ふくちゃんは羽を広げると1.6mあり、体重は1.8kg。
ずんぐりむっくりとした体型がとても愛らしいのですが、
日々の猛禽類フライト出演に向けてかなり絞った体だそう。
飼育員さんに連れられて近くまで来てくれた、ふくちゃん。おとなしくてかわいい!
飼育員さんに頭をなでられているのではなく、頭を押さえつけると、ミミズクは何も抵抗できなくなってしまうという性質があるそう。犬や猫のように、「なでられると嬉しい!」という感情はミミズクにはなく、「きっと“いやだなぁ”と思っているでしょうね」と飼育員さん。
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遠くから羽ばたいてきたデュークが、
登場を待っていたお客さんの列にかすりそうになりながら
飼育員さんの腕に颯爽と到着。
デュークは7歳。人間で言うと中年男性だそうです。
羽ばたく音もさせず、スーッと飛んできたトビのデューク。その目には獲物しか映っていません。
さて、知リ100隊隊長さおりと海老原はいよいよフライト体験へ。
左手のこぶしに馬肉を少量乗せ、デュークに背を向けて仁王立ち。
「馬肉を持った腕は地面と平行に。上下に動かさないで!」というのが
飼育員さんの唯一のアドバイス。
次の瞬間、羽が私の顔をかすめたと思うと、
デュークがこぶしにすっと降り立ちました!
翼を広げると1.5mあるデューク。その迫力と指の先で感じる重量感にやや緊張。
突かれたり引っ掻かれたりしないよう、
くちばしの先と爪先はケアされているものの、
やはり目が合うとちょっと怖いものです。
トビの羽が顔をかすめようが堂々としていた隊長さおり(隊長の体験の様子はこちらに比べ、私は肝心なところで目をつぶってしまうチキンっぷりを発揮……。
エガケ(鹿革のグローブ)は分厚く、重い。これに指先へのトビの体重が加わるので、体感的に重く感じます。
トビが見知らぬ人間を恐れて飛んでこなかったり、警戒して攻撃してこないか。
今日はちょっと調子が悪いみたいで…… なんてこともあり得るのでは?
と思っていましたが、あっさり成功。
「鷹と人間の間にあるのは信頼関係ではなく、エサと狩りという習性の利用、
それだけですからね」と飼育員さん。
猛禽類は賢くて人間に対して従順なイメージや、
主君に尽くすイメージがあったのですが、むしろ人間に慣れることはないそうです。
「逆に言えば、猛禽類フリーフライトは、
トビと飼育員の間にも信頼関係がないので、
体験者がエサさえ持てばトビはそれをめがけて飛んで来るので
誰でもできるんですよ」
トビのデュークは脂肪がほぼなく筋肉隆々で俊敏性のある、
いわばボクサーのような体を持ち、
いつでも狩りができる状態に体を仕上げています。
狩り状態になり、手に乗ればエサがもらえると教え込まれたデュークは、
他のものには目もくれず、真っ先にこぶしの上の馬肉に向かって飛んでくるのです。
「体重が重いと飛びません。
現在800gのデュークは、5g、10gの増減で体の調子が変わってきてしまうので、
徹底した体重管理で頭も体も“狩り状態”にするんです」
矢吹丈に丹下段平がいたように、トビに飼育員さんあり。
日々、トレーニング施設で飛び回ったり、エサはカロリーの低い肉を食べたり、
猛禽類フライトでお客さんから与えられた肉の量も計算のうえで、
一日の食事量が決まっていたりとなかなかストイックで緻密な肉体管理なのです。
その上で、人間のこぶしに乗ればご飯がもらえて、
しかも敵がいなくて安全だと覚え込ませる。
猛禽類フライトは、そんなトビの狩りの習性を巧みに利用した
体験プログラムだったのです。
この猛禽類フライトは、
狩りをする猛禽類の本来の姿を観察してもらうという側面の他に、
傷ついた猛禽類たちを保護し、
円山動物園内にある猛禽類専用のリハビリ施設で
適切なトレーニングによって野生の能力を復帰させるという目的があります。
諏訪流鷹匠資格を持つ鷹匠で、
猛禽類フリーフライトの生みの親の本田直也さんに話を伺いました。
本田直也さん。トビのデュークを手に一枚。
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本田さんは、現在は爬虫類の飼育の専任で、猛禽類の飼育担当ではないそうです。
「爬虫類が子どものころから好きで、
円山動物園に入ってからも猛禽類にはそんなに興味はなかったんです」
と笑う本田さん。
ある論文を読んだことで、本田さんは鷹匠の資格を取って、
猛禽類フリーフライトを立ち上げることになります。
「『鷹匠の技術を使って傷ついた猛禽類のリハビリをする』という内容の、
のちに僕の先生となる人の論文でした。
そもそも海外の猛禽類の保護センターなどには、必ず鷹匠資格を持った者が
傷ついた鳥のリハビリ、野生復帰を行っていますが、
日本ではまだ珍しかったんです。
その論文を読んで、“誰かが鷹匠の資格を持っていなければ”という
使命感を感じて、諏訪流という流派に弟子入りし鷹匠の資格を取りました」
猛禽類はアスリートと同じで、一旦ケガをしたりして休んでしまうと、
もとに戻すまで時間がかかるといいます。
病み上がりの人をフルマラソンに出すのと同じで、
ケガが治ったからといって猛禽類を自然に放っても、
生きていくことはできません。
また、野生で少し過ごしたことのある成鳥であれば、
野鳥としてのふるまい(飛び方、エサの取り方)を覚えていますが、
卵から人工的に孵化した猛禽類は、
一からエサの取り方、すなわち「鳥として生きていく術(すべ)」を
人間が教えなければならないのです。
鷹匠は猛禽類の性質、性格を見抜くスペシャリスト。
潜在している狩りの本能を呼び覚ますために、
個体に合わせて知識と経験を注ぐのです。
展示だけではなく、
このような野生復帰へのリハビリという動物園の持つ役割を知ってもらいたいと考え、
本田さんは動物園の他のスタッフと知識や技術を共有し、
2004年に猛禽類のフライトチームが誕生。
昨年は2羽、今年は1羽が円山動物園を巣立ち、
今までに10羽以上の、鷹やハヤブサなどの鳥たちを自然界に復帰させてきました。
「鷹匠として実際に鷹やトビを腕に乗せて肌で感じている僕らだから、
猛禽類の研究者にもわからないような鳥への理解や本質の見極めができるんです。
野生復帰のタイミングを、鳥の肉体面と精神面から判断するのも鷹匠の技術です」
デュークは少しだけ野生で生活していたことがあるので、「鳥としてのふるまいができている」のだとか。「だから誰でも扱いやすいんです」と本田さん。猛禽類は種類もさまざま、個体もさまざまなのでセオリー通りにいかないのだと言います。
猛禽類のリハビリセンター。飛行訓練や地面に落ちているエサを取る訓練など、鳥の状態に合わせて少しずつトレーニングをしていきます。
本田さんは鷹匠技術を使った猛禽類の野生復帰のパイオニアとして、
県外の動物園にも、技術やノウハウを提供しています。
スタッフに技術の継承が行き渡った2008年からは、
爬虫類に専念するようになり、
現在は自宅で7羽の鷹たちを育てている本田さん。
晩秋に解禁となる鷹狩りに向け、最近また新たな鷹を自宅で調教しているそう。
その話になると、本田さんは、
「あいつはね〜危ないやつですよ」とニヤリ。嬉しそう。
どうやら、人間に飼われて人間の怖さを知らずに本田さんに引き取られたため、
すごく凶暴なのだそうです。
本田さんに鷹狩りの魅力を尋ねると、
「自然のもので自然のものを狩るという中で、
自然の一部を理解できるようになるというところです」と答えが。
育てた鷹が、文字通り自分の右腕として狩りの手腕を発揮するとき、
飼育に成功したと言えるのでしょう。
来る日本の冬の染みるような寒さを心待ちにしている様子でした。
展示だけではない動物園の役割。
鷹匠体験から見えてきたのは、
一度離れてしまった野生の感覚を呼び覚ますことができるのは、
生みの親ではなく育ての親(=人間)だけなのだという気づきでした。
そして、猛禽類に限らず、
円山動物園の飼育員のみなさんが“我が子”を見る目は本当に温かい!
これは体験しないとわからないことですね。
本田さん、円山動物園のみなさん、ありがとうございました。
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