秋田のおいしいものがひとつの鍋に
コロナ禍で、以前のように自由に旅行しにくい状況が続いている。
大小さまざまな部分で生活スタイルが変わり、
日常を楽しむ工夫をしている人も多いと思うが、
なかなか行けない地方を身近に感じることができるのが、郷土料理。
その土地ならではの食材を使った気候風土に根ざした料理なので、
再現するのが難しそうに思えるが、似たような食材で代用しても
十分にその気分を味わうことはできる。
“おうちごはん”が増えているいま、自宅で再現しやすい郷土料理として、
秋田の「だまこ鍋」を紹介しよう。
秋田の郷土料理として多くの人がまず思い浮かべるのは、
きりたんぽ鍋やしょっつる鍋、いぶりがっこなどだろう。
だまこ鍋はそれらに比べると少々マイナーかもしれないが、
すりつぶしたご飯を丸めて、野菜や肉などさまざまな具材と一緒に煮込んだ鍋のこと。
ご飯をすりつぶすのはきりたんぽも同じだが、
きりたんぽは杉の棒に巻きつけるのに対して、
だまこは団子状に丸めるという形状の違いがある。
よく食べられている地域も異なり、きりたんぽ鍋は大館周辺など秋田県北部、
だまこ鍋はもう少し南の八郎潟周辺の郷土料理といわれている。

だまこ鍋は米どころ秋田ならではの料理ともいえる。
基本となる具材は、だまこ(お米)、比内地鶏、
せり、まいたけ、ごぼう、長ねぎなど。
なかでも特筆しておきたいのが比内地鶏とせりで、
比内地鶏はご存じ秋田のブランド地鶏。
薩摩地鶏や名古屋コーチンなどと肩を並べる、味のよい地鶏として知られている。
きりたんぽ鍋でも定番の食材で、赤みが強くて適度な歯ごたえもあり、脂も上品。
お肉自体がおいしいだけでなく、比内地鶏のガラでとったスープが絶品で、
これが鍋の味を決めると言ってもいいほど。

だまこ鍋をつくってくれた、五城目町の伊藤信子さん宅で飼っている比内地鶏。昔の農家ではよくある風景だったが、出荷用ではなく自分たちで食べるために育てている。

比内地鶏の産みたての卵。
そしてもうひとつ、鍋の中でいい仕事をしてくれるのがせりなのだが、
その仕事に欠かせないのが根っこの部分。
都市部のスーパーでは根が切られて売っていることもあるけれど、
実はうまみや香りが凝縮していて
「葉や茎は捨ててもいいけど、根っこは食べたい」とまで言う地元の人も。
夏から初秋にかけて出荷の最盛期を迎える〈山内(さんない)せり〉は、
横手市山内地区でのみ栽培されている早生せり。
山内せり農家の高橋藤一さんによると、せりは夏の強い日差しに弱いので
通常は早朝に収穫を行い、真夏だと深夜から行うこともある。

日差しを調整しながらハウス栽培をしている、山内せりの畑。
「秋田のせりというと、秋から冬に収穫される
根っこの長い〈三関(みつせき)せり〉が有名だけど、
寒くなるほど根が長くなるんです。
山内せりは夏に収穫するので根は短いけれども、うちの畑は周辺の沢から水を引いて、
米ぬかを土に混ぜて栽培しているから、普通のせりより青々としてますよ」

夏場はせり農家、冬場は杜氏となる高橋藤一さんは、秋田の地酒の要といえる山内杜氏のレジェンド。せりを見つめる眼差しはやさしい。
実は、米ぬかを土にたっぷり混ぜられるのは、
高橋さんが秋田の地酒〈雪の茅舎〉の杜氏をしているから。
そのため周辺の農家よりも毎年早めに収穫を終わらせて、せり農家から杜氏に転じる。
夏場に食べられる山内せりは、残念ながら基本的には秋田県内にしか流通していないが、
三関せりは、東京・有楽町の東京交通会館にある秋田県のアンテナショップ
〈秋田ふるさと館〉でもシーズンになれば販売している。

ひと束ずつ丁寧に収穫していくのは、なかなかの重労働だ。
ちなみに山内せりや三関せりの産地である横手や湯沢などの県南エリアは、
いまでこそだまこ鍋を食べる家庭もあるものの、そこまで一般的ではないのだとか。
こちらの地域の人たちにとって、特産のせりを使う料理といえば、
断然、芋の子汁(芋煮)。
芋煮は山形や宮城でおなじみの郷土料理でもあるので、
食文化が地域によってグラデーションのように変わる様もまた興味深い。



























































































