連載
〈 この連載・企画は… 〉
さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。
writer
岡野弥生
さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第11回は、江戸土産ブランド〈新吉原〉を手がける岡野弥生さんによる
松島、平泉、石巻、気仙沼などを旅した話。
東日本大震災をきっかけに東北を再認識し、
東北旅を毎年春の恒例行事としてきたそう。
1泊2日で行ける東北アチコチの魅力を伝えてくれます。
東京から近いのになかなか訪れる機会のなかった東北。
私の住んでいる台東区には“東北への玄関口”といわれている上野駅があるし、
行こうと思えばすぐに行けると思っていたのかもしれない。
東日本大震災をきっかけに2012年から17年までの間、
春になると毎年友人と一緒に東北を旅した。
春の恒例行事にしていこうと思っていたが、
好きなときにふらっと行けていた旅が結婚や出産などでだんだん難しくなっていき、
また行けるかなと思った頃に新型コロナウイルスで旅どころではなくなってしまった。
今まで海外も国内もたくさん旅してきたが、
事前の下調べやスケジュールを組むのも大好きなので、
最近はいろいろなコースを頭の中で考えながら過ごしている。
東北旅行のときも私がほぼ全部スケジュールを決めていた気がする。
当時は友人も私も会社員だったので週末しか休みがなく、
1泊2日で行ける範囲となると大体決まってしまい、
松島、平泉、石巻、気仙沼くらいまでしか行けなかった。
松島ではお寿司を食べて素敵な風景を堪能し、
平泉ではわんこそばを食べて中尊寺に行った。
気仙沼はまだまだ復興途中という時期に訪れたが、
ちょうど〈シャークミュージアム〉がオープンしたばかりでサメについて学んだ。
東日本大震災の爪痕が残る場所へ案内してもらえる〈語り部タクシー〉にも乗り、
テレビでしか見ていなかった被災地を実際に訪れ、いたたまれない気持ちになった。
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毎回乗り換えで利用するだけだった仙台をフィーチャーした「仙台食べ歩き」の年は、
コの字カウンターがいい雰囲気を醸し出している老舗居酒屋〈源氏〉から始まり、
活気のある中華料理屋〈八仙〉で餃子、
かんぴょうが鉢巻きの様に巻かれたイイダコがかわいい〈おでん三吉〉、
仙台出身の友人から教えてもらった居酒屋〈菊水〉、
ホテルのルームサービスで〆のデザートなど1日で食べまくった。
数年前のことだが、今はもうそんなに食べられない気がする。
旅って、若いときにしておくべきだ。
食べまくった年もあれば、昼ごはんを食いっぱぐれるという年もあった。
石巻市にある〈金華山黄金山神社〉に行ったときは、
港で人気の海鮮丼を食べようと予定していたが、満席で入れなかった。
帰りの電車の時間もあったので、つまみ用に買っておいた「笹かま」でしのいだ
悲しい思い出がよみがえる。
金華山黄金山神社は女川港や鮎川港から船でしか行けない島にある神社で、
3年連続でお参りすると一生お金に困らないといわれている。
行くなら3年連続行こう! ということで、3年連続お参りに行った。
平泉に行ったときに〈中尊寺金色堂〉で購入した御朱印帳には、
金華山黄金山神社で頂いた御朱印が見開きで3セット続いている。
同じ場所を何年か続けて訪れると復興されていく様子がとてもよくわかった。
最後に行ったときには港に綺麗な観光施設ができていて、
お昼を食べる場所やお土産屋さんも増えていた。
金華山黄金山神社ではお守りを販売している所で布製のシンプルな福財布を買った。
財布というよりチャックのついたオレンジ色の袋みたいなもので、
「開運」の文字の下に大黒様のイラストが描いてある。
オレンジ色が好きなわけでもないのに何故かとても気に入り、お土産用に数枚購入した。
自分の分は今でもお店のお財布として使っている。
一生お金に困らないということだけど、いつお礼参りをしに行けばいいのかわからないので、
10年後ぐらいにまたお参りに行きたいなと思っている。
その頃には港はもっと賑やかになっているかもしれない。
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この東北旅行で宿泊した旅館のなかで、
2012年と2015年の2度泊まった石巻市の〈追分温泉〉はお気に入りだ。
山奥にあり、1回目は電車の乗り継ぎがとても大変だったので、2回目は車で行った。
電車で行ったときは最寄り駅からタクシーで宿まで行ったのだが、
どんどん携帯の電波が入らなくなり、宿に着いたら圏外になった。
あたたかみのある昔の学校のような木造の建物で、
大浴場も木造で広くとてもいいお風呂だった。
夕飯にはワカメのしゃぶしゃぶが出て、
お湯に浸した瞬間に綺麗な緑になったのを覚えている。
食べるより“しゃぶしゃぶ”するのに夢中になった。
2012年に行ったときは部屋でダラダラしていたら
ほろ酔い状態のおじさんが急に部屋に入ってきたことがあった。
翌日旅館の方に謝られたのだけど、
その前の週まで私たちの泊まっていた部屋に長期滞在していたらしく、
酔って間違えちゃったそうだ。
追分温泉は山の上のほうにあるため、東日本大震災のときには津波の被害に遭わず、
近隣の方たちの避難所になっていたそう。
ほろ酔いで間違えて入ってきたおじさんは復興作業をしている人だった。
ほのぼのした木造の建物の周りには、
旅館の方が所有しているらしいクラシックカーが何台も泊まっていた。
野良猫もたくさんいて、クラシックカーの上で昼寝していた。
いろいろと思い出していると、また行きたくなってきた。
気ままに旅行できる日々に早く戻って欲しい。
profile
岡野弥生
肩書きは土産商。1979年生まれ、東京都出身。江戸時代は遊郭としてさまざまな流行と文化を生み出し、歌舞伎や小説にも登場した歴史のある色町・吉原で生まれ育つ。雑誌編集者などを経て、2014年に土産物ブランド〈粋な江戸土産 新吉原〉を立ち上げ、2016年にはギャラリー型スーベニアショップ〈岡野弥生商店〉をオープン、新吉原の全アイテムを展示販売している。
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