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都市とローカルの新たな関係。
〈eatrip soil〉で野村友里さんが
試みていること

Taste Locally
vol.003

posted:2020.7.16   from:東京都渋谷区  genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ

〈 この連載・企画は… 〉  日本のローカルにはおいしいものがたくさん。
地元で愛されるお店から、お取り寄せできる食材まで、その味わい方はいろいろ。
心をこめてつくる生産者や料理する人、それらを届ける人など全国のローカルフードのストーリーをお届けします。

writer profile

Kei Sasaki

佐々木ケイ

ささき・けい●埼玉県出身。食、酒、旅を軸に、全国各地を取材し記事を執筆。雑誌連載は『BRUTUS』『dancyu』『Hanako』ほか。JSA認定ワインエキスパート。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

野村友里さんが教える、ローカルのおいしいもの vol.3

いまこんなときだからこそ、地域のおいしいものをお取り寄せしたい。
〈eatrip〉など多彩な活動で知られ、全国のおいしいものを知り尽くした
料理人・野村友里さんに、家での食事を楽しく、
豊かにしてくれるものを教えてもらいました。

野村さんセレクトのおいしい食セットを
インタビューとともに紹介する3回シリーズの最終回です。

第1回第2回はこちら。

都市と地方の新しい関係性を探る場に

レストラン〈eatrip〉を拠点に、地方の役割や都市との関係について考え、
さまざまな挑戦を続けてきた野村友里さん。
2020年1月には、“SHOP&THINK”をコンセプトにした新しい商業施設
〈GYRE〉4階〈GYRE. FOOD〉内にグロサリーショップ〈eatrip soil〉を開き、
これまで関係性を築いてきた日本全国の生産者のプロダクトを紹介しながら、
「土のある暮らし」とつながる都市のあり方を模索している。

「都心の空中階にある小さな庭に、できることは限られている。
でも、この場所だからこそできることがあると信じてもいるんですよね」

野村さんは、東日本大震災以降、都市と地方の関係は、段階的に変化しているという。

「いまや生産者も、自ら情報を発信できる時代に。
地方だからこそ、生産者だからこそできる情報や価値の発信、提案に
皆が注目し始めていますよね。東京を経由せずとも、
必要な情報は必要な人のところに届き、都市を介さず地方と地方の結びつきが生まれる。
正確にいえば、人と人との結びつき、ということになるのでしょうか。
地方=産地、都市=消費地という二極化も意味をなさなくなりつつあります」

シンプルなバニラクッキーや和魂洋才の焼き菓子〈和心缶〉は、店頭に並ぶや売り切れてしまう大人気商品。

シンプルなバニラクッキーや和魂洋才の焼き菓子〈和心缶〉は、店頭に並ぶや売り切れてしまう大人気商品。

震災を機に世の中は大きく変わり、
大量生産、大量消費、さまざまな機能の都市への一極集中化など、
高度成長期以降、良しとされてきた価値が見直されつつある。
新型コロナウイルスのパンデミックは、その流れをますます後押しするはずだ。
野村さんは、次のように続ける。

「誰もが大変な経験をしたけれど、いまほどいろんなことを考えるのにいい機会はない。
生きることにとって本当に大切なことは何なのか。
何もかもがうまくいっているときは、
その流れに乗ってさえいれば迷う必要が生じないですから」

野村さんの味の原点ともいえる母・野村紘子さんのレシピ本や自身の著作に加え、食、農、環境などさまざまなジャンルの書籍も紹介。

野村さんの味の原点ともいえる母・野村紘子さんのレシピ本や自身の著作に加え、食、農、環境などさまざまなジャンルの書籍も紹介。

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夢は2拠点、3拠点暮らし…!?

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「自分の暮らしを自分でつくる」ことができれば

東日本大震災以降、地方への移住がブームとなったが、野村さんいわく
「いま、移住者たちのライフスタイルも変化している」とのこと。
友人や仕事仲間には、都市とローカル、
2か所を拠点に活動する人も増え始めているのだそうだ。

「昔は一生懸命働いて、小さくても首都圏にマイホームを建てるのが夢とされてきた。
30年ローンを組んでね。でも、いま私の周りの人はそれを見直している。
“新しい”=価値ではないし、人生の目標は人と同じでなくていい、と。
都市で労働者・消費者として暮らし一生を終えるより、地方に拠点を持って、
土地に古くから伝わる文化、産業、暮らしや景色を未来につなぐ暮らしのなかで、
自分ができることを探す。そんな生き方をする人たちが続々と現れ、
刺激をもらっています」

泥染めのふろしきや、草木染めのエコバッグなど、天然素材を生かしたオリジナルグッズもいろいろ。

泥染めのふろしきや、草木染めのエコバッグなど、天然素材を生かしたオリジナルグッズもいろいろ。

野村さん自身も、2拠点、3拠点生活の夢は、常に頭の中にあるという。

「地方の魅力は豊かな自然、ふんだんに手に入る
新鮮な農産物にとどまらない時代になってきている。
例えば、軽井沢に今年開設された〈軽井沢風越学園〉は、
幼稚園から中学校まで一貫教育を行うまったくこれまでになかった学校。
画一的なカリキュラムや学年・学級制などを見直し、
新しい学校教育のあり方を示すというモデルに、と創設されたそう。
ここで子どもに教育を受けさせたいと、軽井沢に移住した人が何人もいる。

自然と、1次産業に加え、教育と、医療があれば、強い地域コミュニティが成立する。
今後は、こういうケースが首都圏から離れた場所でもどんどん増えていくと思うんです」

小さな農園越しにビルを望む、ここにしかないロケーション。

小さな農園越しにビルを望む、ここにしかないロケーション。

多くの人々が人間らしい、多様な生き方を選択するため、
地方都市がますます注目を集め、個別に独自の発展をしていくのではないか
というのが野村さんの見方だ。

「貯蓄の額の差なんて、最終的にはたいした問題ではない。
自分の暮らしを自分でつくれることのほうが、どれほど豊かなことか、と。

この店のテーマである“土”も、単なる建築の素材として、
あるいはビジュアルのイメージだけでたどり着いたものではない。
生きるために何か必要か。水と、火と、土と。
土があれば、食べるものをつくり、器をつくりそこに盛り付けて……
というふうに“暮らし”をつくっていくことができる。
土は明日の食物をも育む。そんな風に考えてのことです」

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店員さんは山口県から移住…?

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プロダクトを、店のあり方を通じて伝えていくこと

購買は投票活動といわれる時代。
どんな風に育てられた農作物か、どんな風につくられた食品か。
“買い支えること”は、生産者を支持し、彼らが仕事を続けることができる
環境づくりを手助けすることにほかならない。

eatrip soilについて、「モノをモノとして売る場所にはしたくない」
と繰り返し話すように、店の商品選びにも、当然、野村さんの意思が貫かれている。
商品セレクトだけでなく、店のあり方にも。

「店のシンボルが、ベランダのプチファーム。
都会で農業は無理? 畑は自然豊かな場所でないとダメ? 
この空中の光景を見た人々は、誰もがそれまで抱いていた概念に
クエスチョンマークをつけるはずです。

eatrip soilのショップスタッフとして働いてくれている山村ヒロミさんは、
山口県からの移住者。長門の千畳敷(せんじょうじき)に開いたカフェを、
県外からのゲストも多く訪れる場所に育て、地元に貢献してきた人ですが、
50歳を過ぎてこの店に立つために東京に移り住んできてくれました。
知恵やノウハウの共有も、移住も“東京から地方”の一方通行ではない。
等しく、双方向であるべきということを教えてもらった気がします。

“ローカル”は必ずしも、東京や都市部から離れている必要はない。
毎朝、野菜を届けてくださる青梅の〈Ome Farm〉さんは
東京から車でわずか1時間の場所で、
多くの農家がお手本にしたがるような循環農に取り組んでおられる。
こうして私自身がこの店を始めて得た気づきを、商品をご紹介しながら、
お客様にお伝えできる場にしていきたいと思っているんです」

〈eatrip soil〉で働くため、山口から東京へ移住してきた山村ヒロミさん。

〈eatrip soil〉で働くため、山口から東京へ移住してきた山村ヒロミさん。

食は文化の入り口。
何かを食べて「おいしい」が「なぜおいしい?」に変わる瞬間に、
食卓にいながらにして、旅はもう始まっているのだと野村さんは言う。
「eat」と「trip」を合わせた、店の名が示すように。

おいしい梅酒とおつまみの〈かんぱい soilセット〉(6100円・税込)。〈パリパリ焙煎いりこ(山椒)〉(40g〈やまくに〉)、〈おつな(えごま大葉味噌)〉(固形物80g、総量120g〈JIN〉)、〈とろとろの梅酒〉(720ml〈八木酒造〉)、〈徑山寺味噌〉(200g〈堀河屋野村〉)、〈くるみ醤油漬け〉(110g〈eatrip〉)の全5点。オンラインショップで販売中。*販売状況により、内容が変わることがあります。(写真提供:eatrip soil)

おいしい梅酒とおつまみの〈かんぱい soilセット〉(6100円・税込)。〈パリパリ焙煎いりこ(山椒)〉(40g〈やまくに〉)、〈おつな(えごま大葉味噌)〉(固形物80g、総量120g〈TUNALABO〉)、〈とろとろの梅酒〉(720ml〈八木酒造〉)、〈徑山寺味噌〉(200g〈堀河屋野村〉)、〈くるみ醤油漬け〉(110g〈eatrip〉)の全5点。オンラインショップで販売中。*販売状況により、内容が変わることがあります。(写真提供:eatrip soil)

「例えば〈おつな〉というマグロのオイル漬けの瓶詰め商品があります。
私たちの世代なら、あまりにも当たり前に親しんできたツナは、
水産加工品であり、マグロを育む漁業環境とダイレクトにつながっている。
その環境や漁業を次代につなげるために、
料理人や鮮魚店を経験した方が始めたメーカーの商品です。
手仕事でつくられたツナの味にはっとした瞬間、その先にある海の景色が見えてくる。

和歌山〈堀河屋野村〉の〈徑山寺味噌〉は、野菜を米や大豆麹で発酵させたおかず味噌。
なのですが、季節野菜のディップにすれば、ワインにも合うおつまみに。
洋の東西を問わない普遍的なおいしさが、
風土が育む伝統食にあると思うと興味深いですよね」

〈おつな(えごま大葉味噌)〉(1330円)。20年築地に通った店主自ら鉄分が少なく身の白いビンチョウマグロを厳選して仕入れ、手作業で加工。紅花油や米油、ごま油をブレンドし、繊細なツナの味を生かした味わいに。いろいろなフレーバーがあるが、eatrip soilでは、えごま大葉味噌、プレーン、島唐辛子の3種を用意。

〈おつな(えごま大葉味噌)〉(1330円)。20年築地に通った店主自ら鉄分が少なく身の白いビンチョウマグロを厳選して仕入れ、手作業で加工。紅花油や米油、ごま油をブレンドし、繊細なツナの味を生かした味わいに。いろいろなフレーバーがあるが、eatrip soilでは、えごま大葉味噌、プレーン、島唐辛子の3種を用意。

朝、昼にくらべ、ゆっくりと食事の時間が取れる夜、
一杯のお酒と楽しむ食事の時間は
“食を通じた旅(eatrip)”を楽しむのにぴったりの時間とも。

「ツナといえば大量生産の缶詰、味噌を使う料理は和食や日本酒に合わせないと。
そんなこれまでの“当たり前”を疑うところから“eatrip”が始まる。
私はこのささやかな“都市の農園”でみなさんをお迎えし、
その入り口を探すお手伝いをしたい。遠くに見えるビル群と、
小さいけれど土のある地面、生い茂る野菜。未来はどっち? と、考えながら」

〈eatrip〉のくるみ醤油漬け(1398円)。おつまみとしてそのままぽりぽり食べてもよし、砕いてサラダやお茶漬けに振りかけても。くるみ醤油入り炒飯は、野村さんの母、紘子さんの定番だそう。

〈eatrip〉のくるみ醤油漬け(1398円)。おつまみとしてそのままぽりぽり食べてもよし、砕いてサラダやお茶漬けに振りかけても。くるみ醤油入り炒飯は、野村さんの母、紘子さんの定番だそう。

information

map

eatrip soil 

住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE. FOOD内

TEL:03-6803-8620

営業時間:11:00~20:00

定休日:月曜

*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間短縮や臨時休業の場合があります。

Web:オンラインストア

profile

Yuri Nomura 
野村友里

のむら・ゆり●〈eatrip〉主宰/料理人。長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。ケータリングフードの演出や料理教室、雑誌での連載やラジオ出演などに留まらず、イベント企画・プロデュース・キュレーションなど、食の可能性を多岐にわたって表現している。2012年に〈restaurant eatrip〉(原宿)を、2019年11月に〈eatrip soil〉(表参道)をオープン。生産者、野生、旬を尊重し、料理を通じて食の持つ力、豊かさ、おいしさを伝えられたら、と活動を続ける。著書に『eatlip gift』『春夏秋冬おいしい手帖』(共にマガジンハウス)『Tokyo eatrip』(講談社)『TASTY OF LIFE』(青幻舎)など。

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