連載
posted:2020.9.30 from:秋田県南秋田郡五城目町 genre:食・グルメ
PR 旭化成ホームプロダクツ
〈 この連載・企画は… 〉
日本のローカルにはおいしいものがたくさん。
地元で愛されるお店から、お取り寄せできる食材まで、その味わい方はいろいろ。
心をこめてつくる生産者や料理する人、それらを届ける人など全国のローカルフードのストーリーをお届けします。
writer profile
Ikuko Hyodo
兵藤育子
ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。
photographer profile
Kohei Shikama
志鎌康平
しかま・こうへい●1982年山形市生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て山形へ帰郷。2016年志鎌康平写真事務所〈六〉設立。人物、食、土地、芸能まで、日本中、世界中を駆け回りながら撮影を行う。最近は中国やラオス、ベトナムなどの少数民族を訪ね写真を撮り歩く。過去3回の山形ビエンナーレでは公式フォトグラファーを務める。移動写真館「カメラ小屋」も日本全国開催予定。 東北芸術工科大学非常勤講師。
http://www.shikamakohei.com/
コロナ禍で、以前のように自由に旅行しにくい状況が続いている。
大小さまざまな部分で生活スタイルが変わり、
日常を楽しむ工夫をしている人も多いと思うが、
なかなか行けない地方を身近に感じることができるのが、郷土料理。
その土地ならではの食材を使った気候風土に根ざした料理なので、
再現するのが難しそうに思えるが、似たような食材で代用しても
十分にその気分を味わうことはできる。
“おうちごはん”が増えているいま、自宅で再現しやすい郷土料理として、
秋田の「だまこ鍋」を紹介しよう。
秋田の郷土料理として多くの人がまず思い浮かべるのは、
きりたんぽ鍋やしょっつる鍋、いぶりがっこなどだろう。
だまこ鍋はそれらに比べると少々マイナーかもしれないが、
すりつぶしたご飯を丸めて、野菜や肉などさまざまな具材と一緒に煮込んだ鍋のこと。
ご飯をすりつぶすのはきりたんぽも同じだが、
きりたんぽは杉の棒に巻きつけるのに対して、
だまこは団子状に丸めるという形状の違いがある。
よく食べられている地域も異なり、きりたんぽ鍋は大館周辺など秋田県北部、
だまこ鍋はもう少し南の八郎潟周辺の郷土料理といわれている。
基本となる具材は、だまこ(お米)、比内地鶏、
せり、まいたけ、ごぼう、長ねぎなど。
なかでも特筆しておきたいのが比内地鶏とせりで、
比内地鶏はご存じ秋田のブランド地鶏。
薩摩地鶏や名古屋コーチンなどと肩を並べる、味のよい地鶏として知られている。
きりたんぽ鍋でも定番の食材で、赤みが強くて適度な歯ごたえもあり、脂も上品。
お肉自体がおいしいだけでなく、比内地鶏のガラでとったスープが絶品で、
これが鍋の味を決めると言ってもいいほど。
そしてもうひとつ、鍋の中でいい仕事をしてくれるのがせりなのだが、
その仕事に欠かせないのが根っこの部分。
都市部のスーパーでは根が切られて売っていることもあるけれど、
実はうまみや香りが凝縮していて
「葉や茎は捨ててもいいけど、根っこは食べたい」とまで言う地元の人も。
夏から初秋にかけて出荷の最盛期を迎える〈山内(さんない)せり〉は、
横手市山内地区でのみ栽培されている早生せり。
山内せり農家の高橋藤一さんによると、せりは夏の強い日差しに弱いので
通常は早朝に収穫を行い、真夏だと深夜から行うこともある。
「秋田のせりというと、秋から冬に収穫される
根っこの長い〈三関(みつせき)せり〉が有名だけど、
寒くなるほど根が長くなるんです。
山内せりは夏に収穫するので根は短いけれども、うちの畑は周辺の沢から水を引いて、
米ぬかを土に混ぜて栽培しているから、普通のせりより青々としてますよ」
実は、米ぬかを土にたっぷり混ぜられるのは、
高橋さんが秋田の地酒〈雪の茅舎〉の杜氏をしているから。
そのため周辺の農家よりも毎年早めに収穫を終わらせて、せり農家から杜氏に転じる。
夏場に食べられる山内せりは、残念ながら基本的には秋田県内にしか流通していないが、
三関せりは、東京・有楽町の東京交通会館にある秋田県のアンテナショップ
〈秋田ふるさと館〉でもシーズンになれば販売している。
ちなみに山内せりや三関せりの産地である横手や湯沢などの県南エリアは、
いまでこそだまこ鍋を食べる家庭もあるものの、そこまで一般的ではないのだとか。
こちらの地域の人たちにとって、特産のせりを使う料理といえば、
断然、芋の子汁(芋煮)。
芋煮は山形や宮城でおなじみの郷土料理でもあるので、
食文化が地域によってグラデーションのように変わる様もまた興味深い。
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だまこ鍋の本場といわれている、秋田市内から車で1時間弱のところにある
五城目(ごじょうめ)町。
五城目町出身の伊藤信子さん、本間育美さん、地域おこし協力隊の張梨香さんが、
築130年の古民家をリノベーションした〈シェアビレッジ町村〉に集まってくれた。
ここでは古民家を村に見立て、年貢と呼ばれる年会費を払えば、
誰でもどこに住んでいても“村民”になれるという
ユニークなプロジェクトを展開している。
昔話に出てきそうな茅葺屋根の佇まいや、風通しのいい広々とした土間、
大の字になって寝転びたくなる座敷など、手入れの行き届いた居心地のよい空間だ。
地元の人たちは、どんなときにだまこ鍋を食べるのか聞いてみた。
「やっぱり鍋だから、人がたくさん集まるときにつくることが多いかな」(伊藤さん)
「季節は関係なく、私は夏でも食べたくなりますね」(本間さん)
きりたんぽ鍋よりも頻繁に食べるのだろうか。
「きりたんぽは棒につけるのが手間だけど、だまこは丸めるだけだから簡単でしょ。
だからきりたんぽはスーパーで買って、
だまこは家でつくる人がこの辺は多いと思いますよ」(本間さん)
その手軽さはたしかに大きい。
百聞は一見にしかずなので、さっそくつくってもらうことに。
せりはざく切りにして、もちろん根の部分も捨ててはいけない。
ごぼうはささがき、まいたけは適当にほぐし、長ねぎは斜め切りに。
比内地鶏は、伊藤さんが家畜として飼っているものを使用。
半日かけてじっくり煮込んだ鶏ガラスープも、事前につくっておいてくれた。
そうこうするうち、ご飯が炊けてきた。
なんと今回は、この古民家で現役の羽釜で炊いたあきたこまちを使うことに。
そしていよいよ、だまこづくり。大きめのすり鉢に炊きたてのご飯を入れ、
すりこぎでつくようにしてお米の粒を押しつぶす。
こちらでは「半殺し」と表現するそうで、
半分ほど米粒がつぶれて粘りが出てきたら頃合いだ。
「すり鉢を使うのが面倒なら、厚手のビニール袋にご飯を入れて、
テーブルなど平らなところに置き、手で押しつぶしてもいいですよ。
ご飯の量が少ないときは、このほうが楽かもしれないね」(伊藤さん)
だまける(丸める)作業はボウルに塩水を用意して、手を湿らせながら行う。
餅を丸めるときのように、ひとりが棒状に伸ばしたご飯を適度な量に分け、
ほかの人は両手のひらを使ってスピーディに丸めていく。
ピンポン玉サイズの艶々とした、かわいらしいだまこが次々とできあがっていくのが、
見ていて気持ちいい。ポイントはなるべく大きさを揃えることと、
まん丸に仕上げること、そしてご飯が熱いうちに素早く丸めること。
「だまこ鍋は人が集まったときにつくることが多いから、
こうやってみんなでやるとあっという間にできあがるんです」(本間さん)
「うちでは丸めただまこを、塩水にサッとくぐらせます。
そうすると鍋に入れても煮崩れしにくいから。
きりたんぽみたいに、焼いてから入れる人もいますよ」(伊藤さん)
だまこができあがったら、スープの入った鍋に比内地鶏、
ごぼうなど火の通りにくいものから投入。
火が通ったら、だまことほかの具材も入れていく。
味つけはしょうゆ、酒、みりん。
伊藤さんは隠し味としてほんの少し味噌も入れるそう。
せりの葉先など柔らかい部分は最後に入れると、シャキシャキとした食感を楽しめる。
あとは煮込むだけ。本場のだまこ鍋のできあがりだ。
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煮込んでいるときからすでに食欲をそそる香りが漂っていたが、
比内地鶏のスープはしっかりとコクがあるのに上品で、
体に染みわたるようなやさしい味わい。
そしてそのスープを吸っただまこはふんわり柔らかく、
もちもちとした食感もほどよくあって、
せりやごぼう、比内地鶏などほかの具材との食感の違いも楽しい。
それぞれに旨みや香りの強い個性豊かな食材が、鍋の中でひとつになって、
だまこがそのおいしさをまとっている。
まさに鍋料理のいいところを最大限生かしたような一品だ。
とはいえこれは、秋田の上質な食材を使って、
地元のお母さんたちが調理してくれた、最高に贅沢なだまこ鍋であることも事実。
普段はそのときどきで家にある食材を使って、もっと気軽に味わっているそう。
たとえば、地元の人でもなかなか手を出しにくいのが比内地鶏。
「やっぱり普通の鶏肉よりも高価なので特別な食材ですが、
鶏ガラだけでも比内地鶏を使うと旨みが全然違います」(本間さん)
なのでこの辺の人たちは、比内地鶏の鶏ガラがスーパーで売られているときに
買い置きして、冷凍ストックしておくのだとか。
せりがないときは、三つ葉や春菊、水菜、白菜などもおすすめ。
「だまこは多めにつくって冷凍しておくと、
食べたいときにすぐにつくることができますよ」(本間さん)
実際にアレンジしてみたのが、みそ仕立てのだまこ鍋。
定番はしょうゆ味だが、伊藤さんのように隠し味にみそを使うこともあれば、
ベースをみそ味にする家庭もあるそう。
今回はしょうゆで味つけする前に、スープと具材を小鍋に分けてみそを溶き、
翌日の朝ごはん用として〈ジップロック® スクリューロック®〉に入れて冷蔵庫へ。
「2日目のだまこ鍋こそおいしい」という通な人もいるそうで、
スープをたっぷり吸って色づいただまこはしっとりして、
1日目とは違う味わいを楽しめる。
翌朝、電子レンジで温めるだけの手軽さもうれしいし、
これ一品でごはんも野菜も食べられる、ボリュームのあるみそ汁になる。
最初に小分けにしないで、鍋の残りにだしを加えてみそ仕立てにしてもおいしいだろう。
家庭ごとにレシピが微妙に違っていたり、アレンジがどんどん加えられるのも
郷土料理のおもしろさであり、懐の深さ。
生きた郷土料理の証ともいえるので、秋田に思いを馳せながら、
ぜひ自分流のだまこ鍋をつくってみよう。
information
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中サイズ 内容量:473ml
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Web:https://www.asahi-kasei.co.jp/saran/products/ziploc/screw.html
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