富山湾に面したまち滑川(なめりかわ)。江戸時代には宿場町としてにぎわい、
戦後まで活気があったものの、現在はさびれ、空き家も多い。
その滑川、特に「滑川銀座」と呼ばれた瀬羽町(せわまち)に、いま変化の兆しがある。
県内外から若者を中心とした旅行者が、あとを絶たずに押し寄せ始めているのだ。
聞けば沖縄から北海道まで、わざわざこの土地をめがけて
足を運ぶ人も少なくないという。
今回はその富山県滑川市にある瀬羽町のにぎわいを紹介したい。

平日の瀬羽町。週末や休日になると若者が通りに目立ち始める。
かつての滑川宿の一帯は漁港としての機能も果たし、
その活気は明治、大正を経て昭和の戦後まで続いた。
土地の年長者に聞くと、特に瀬羽町は、
各種の商店から映画館、中央卸売市場、役場まで存在し、
「まちにないものは火葬場だけ」というほどだったという。
しかし高度成長期に入ると、ほかの地方都市と同じく郊外化が進み、
人口の流出が続いた。
「瀬羽町がいま盛り上がっている」と言うのにはまだ時期尚早かもしれない。
確かにさびれた街道に似つかわしくない、流行に敏感そうな若者の姿を、
曜日や時間帯を限って言えば多く見かける現状がある。
しかしまだ瀬羽町、あるいは滑川自体に魅力を感じて訪れるのではなく、
ある「点」を目がけて全国から人が集まっている状態とも言える。
その意味では「瀬羽町がいま盛り上がりを見せつつある」状態なのだが、
その「点」に訪れた人が、周囲のレトロで歴史ある雰囲気を気に入り、
ほかの有形文化財や店を歩いてまわるという好循環が生まれつつある。
その輝かしい「点」となる存在が、〈hammock cafe Amaca〉だ。

店名からもわかるように、ハンモックが店内にぶら下がるユニークなカフェで、
石川県の七尾に生まれたオーナーが、
滑川に移住して2017年に誕生させた。

ハンモックに揺られながらリラックスできる〈hammock cafe Amaca〉。
聞けばユニークな経歴の持ち主で、石川県内の企業の実業団で
テニス選手として社会人生活をスタートしている。
退社後は東京、金沢に居住した経験もあり、東京では芸能関係の仕事を務め、
金沢では知人の出張美容サービスを手伝った。
一見すると飲食業には無縁のように思えるが、
東京在住時には徹底して趣味のカフェ巡りを行い、
肉フェスなどのイベント出店、秋葉原でのバーテンダー業務、
神奈川の江の島にある海の家での勤務など、異色の経歴を持つ。
「下積みや修業の経験はないのですが、あえて言えば
その頃の飲食経験が僕の修業時代だったのだと思います」とオーナーは語る。
「江の島は都心から1時間30分ほどかかる立地にあります。
わざわざ江の島を目がけて遊びに来るお客さんが中心で、
そういった方をおもてなしする楽しさとやりがいを、海の家の仕事で知りました。
この店を出すにあたっても、そのときの経験が生きていて、
ふらっと来店できる場所でなく、わざわざこの店を目がけて
来ていただくような場所に出店したいと思っていました」
瀬羽町を散歩しているときに、故郷と似た旧北陸街道の雰囲気が気に入った。
さらには、あえて繁華街から離れて出店し、自分たちを目がけて
足を運んでくれるような客をもてなしたいという思いも実現できる立地から、
瀬羽町に出店を決めたという。
その新店が、強烈な輝きを放った。
集客はほとんど行わず、告知もオープン前日にSNSで発信しただけだというが、
評判が評判を呼び、全国から人が集まって、
いまでは週末になると行列が当たり前の人気店になった。
筆者が取材で訪れた日も、「売り切れ」の看板が下がっていた。
目玉商品のひとつはパフェだ。
「季節を食べる」をコンセプトに、旬の食材がふんだんに盛り込まれた
「インスタ映え」するパフェをハンモックに揺られながら食べるという体験が、
若者の五感を大いに喜ばせた。
若者だけでなくいまでは30代、40代、さらには80代の「女子」まで
「冥土の土産になった」と喜んでくれるという。

左からイチゴ、ブルーベリー、チョコレートオランジュ。(写真提供:Amaca)
この集客力が、周辺の瀬羽町に好循環を生み出しつつあるのだ。
とはいえ、まちづくりへの貢献について聞くと
「僕はもともとよそ者ですから、まちをつくってきたわけでもありません」
と、言葉を選びながら言明を避ける。
「ですが、若い人たちがうちの店をきっかけに瀬羽町に来てくれて、
いいまちだと思ってくれたとすれば、自分が店をやっている意義はあります。
田舎はかっこいいです。このまちは歴史がありますし、歴史はお金では買えません。
その良さをわかってもらえるきっかけになれればと思っています」
事実、東京や大阪など都会から来た若者が、
瀬羽町を訪れて喜んでいるという。
「楽しいごはん」を提供したいと語る「おもてなし力」も手伝って、
着実に滑川の魅力はいままでにないかたちで発信され始めている。
まさにhammock cafe Amacaが、海浜の港町に建つ灯台のように、
瀬羽町から全国に確かな光を放ち続けているのだ。
