豊嶋秀樹さんは、〈岩木遠足〉や〈津金一日学校〉などの地域イベントを手がけてきた。
地域に人を集めて催しをすることは、今や珍しいことではないが、
豊嶋さんが手がけるイベントは、都会的なエッセンスがありながらも、
カタヒジはっていないような、なんだか独特の心地よい空気に包まれている。
その秘密を探るべく、まずはこれまでの略歴をうかがった。
「アーティスト志望で、アメリカの美術系大学に通いました。
当時から、製作していたものは絵画や彫刻というよりも、
インスタレーションやパフォーマンスアート。
状況自体を作品化したいという気持ちでした」
卒業後、日本に帰国。
大阪で、クリエティブユニット〈graf〉を立ち上げる前のメンバーたちと出会う。
「grafの初期メンバーたちは、デザイナーとか家具職人とかいろいろいました。
当時の僕は頭でっかちで、“アートが一番”と思っていました。
でも、みんなは生活にダイレクトに使える実用的なものをつくっているのに対して、
アートは使えないなと(笑)。
メンバー自身の嗜好を見ても、デザイン的なものだけでなく、
音楽も、食も、ファッションも好き。それって生活ですよね。
そういった出会いから、みんなで一緒に何かつくってみようと、grafが発足したんです」

福岡に移住したが、全国を飛び回っているという豊嶋秀樹さん。
豊嶋さんは、そのgrafから派生したgmというセクションを担当し、
展覧会を開催するなどアート的な活動に従事していく。
その部署を独立させるかたちで、現在の〈gm projects〉になった。
grafは同じ職種の集まりではなかったが、gm projectsも同様。
ウェブディレクター、家具職人など、バラバラの職種が集まっている。
「働きたい人が働きたい分量で働く。それぞれのライフステージに合わせた
自由なあり方でいることができて、つながりたいところは、
その都度、つながることができるという、
“イイトコドリ”な組織ができないか試していると思っています」
メンバーそれぞれは、自分の屋号やレーベルなどで活動していたり、
ほかの会社の会社員だったりもする。
これは、豊嶋さんとgm projectsの仲間なりの働き方や組織の実験でもある。
「おもしろい人は集まっているけど、ビジネスは集まっていません」
結局は人間関係。であれば、会社という組織である必要もない。
“人が集まる舞台があればいい。そこにいる人たちでやればいい”。
当初から持っていたそんな考えが、のちの豊嶋さんの活動のベースにもなっている。

豊嶋さんがディレクションしている那須にあるスペース、〈森をひらくこと、T.O.D.A.〉。
gm projectsとして独立してからも、固定の場所ではなくなったが、
アート活動を続けている。
それは作家としてだったり、空間構成やキュレーターだったりとさまざま。
しかし「どれも基本的な考え方は同じで、アウトプットの違いだけ」だという。
この流れで、地域に場をつくる活動も増えてきた。
例えば青森県の〈岩木遠足〉、山梨県の〈津金一日学校〉、
岩手県の〈陸前高田ミーティング(つくる編)〉。
これらは、これまで豊嶋さんが企画運営してきた
アートイベントやギャラリーなどと地続きであるという。
それは豊嶋さんがアートにのめり込んだ理由からわかる。
「アートは、物の見方を変えてくれるきっかけになっていることが多いと思うんです。
それがアートのおもしろいところだし、自分が興味があるのもそういう“アート”でした」
豊嶋さんにとって、アートは異世界に入っていく方法。
最近ハマっているという山登りにも、同じ効果があるという。
「八ケ岳の山頂から見下ろすと、物理的にパースペクティブを変えられてしまいますよね。
世界を旅することも、まるで違う異文化の価値観を突きつけられたりして、
衝撃を受けたり、興奮したりします」
物の見方を変えてくれるものは、豊嶋さんにとってはアートだったが、
こうした思考回路は、イベントにも応用できる。

発売中の『岩木遠足 人と生活をめぐる、26人のストーリー』。写真提供:gm projects