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地域に住まうことを考える展覧会
アーツ前橋『ここに棲む ― 地域社会へのまなざし』

ローカルアートレポート
vol.059

posted:2015.11.10  from:群馬県前橋市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

writer profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。

credit

撮影:川瀬一絵(ゆかい)

群馬県前橋市にある〈アーツ前橋〉では、2016年1月12日まで
『ここに棲む — 地域社会へのまなざし』という展覧会が開催されている。
開催地である前橋に限らず地域社会を見つめ、地域に住まうということや、
現代の私たちがおかれている状況について、新たな気づきを与えてくれるような
多様な表現や実践を紹介している。
ユニークなのは、14組の参加作家のうち、ちょうど半分が建築家、
半分がアーティストということ。アプローチはさまざまだが、
地域を見つめ直すというテーマにふさわしい作家たちの作品が揃った。

すべてを含めた環境をデザインする

高さのある吹き抜けの空間に、圧巻のオブジェを展示しているのは
藤野高志/生物建築舎(いきものけんちくしゃ)。
藤野さんは生物建築舎という名の設計事務所を率いる建築家。
群馬県高崎市出身で、東京や福島を経て、現在は地元高崎を拠点に活動している。
今回展示している作品《キメラ》は、いくつもの建築物が
互いに連関し合っているような構造。
下にある建物が上にある建物を支え、上にあるものが下にあるものを吊っているような、
いろいろなものが複雑に絡み合い、相互依存しているような構造物だ。

建築物、動物、植物、さまざまなものが複雑に絡み合いながら存在しているような、圧巻の作品《キメラ》。藤野さんが実際に手がけたプロジェクトの模型も含まれている。

また、藤野さんはいつも「植物と人類の共生」をテーマに設計している
ということを表すように、作品には建物の中に植物が生えていたり、
植物や生物の中に人間が暮らしているような模型も見られる。
その一部には、2013年に日本建築学会作品選集新人賞を受賞した
彼らの事務所《天神山のアトリエ》の模型も見られるが、
実際に彼らの事務所は天井はガラス張り、床部分は土で、
部屋の中に木や植物が生えているというのだ。
常識を覆すような建築で、過ごしにくくないのだろうかと思うが、
ご本人はそんな環境を楽しんでいるかのよう。

「東京のような大都会や、福島のように自然が豊かな場所を経て高崎に戻ってきたら、
ダイナミックな環境の変化もなくて、とても中庸な場所だなと思いました。
でもその中庸さは、地方都市にはよく見られる、
日本の普遍性なんじゃないかと思ったのです。
こういうところで生活していると、まわりの変化を敏感に感じとりにくいんですが、
実は1日のなかで太陽の光や空の色は刻々と変化していく。
そういうことを暮らしのなかで感じたくて、こんな特殊な事務所をつくりました(笑)。
例えば去年のいまごろはツマグロヒョウモンという蝶がきたけど、
今年はまだだなとか、季節によって感じることや、
いろいろなことに意識がいくようになります。
そういう環境で設計をしていると、自然と図面にも反映されていきます」
藤野さんは建物だけでなく、そのまわりにある植物などすべてが環境をつくると考え、
それも含めてデザインしていきたいのだという。

細部を見ていくと、アリの巣のような住居や、恒温動物の中に人間が住んでいるような、奇妙な光景がいくつも見られおもしろい。

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ケアをクリエイティブにする《恋する豚研究所》とは

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建築家の乾久美子+東京藝術大学乾久美子研究室は、各地で“小さな風景”を探すプロジェクトを展開している。今回は前橋を含む群馬県内でのリサーチを展示。

人も里山もケアしながら地域とつなげていく

塚本由晴と貝島桃代、玉井洋一による建築ユニット〈アトリエ・ワン〉は、
社会福祉法人〈福祉楽団〉と協働しているプロジェクトを展示で紹介。
福祉楽団は、千葉県香取市を中心に、特別養護老人ホームや、
高齢者や障害者のデイサービスなどの福祉施設を運営する団体。
理事が養豚業に携わっていたことから、農業と福祉を地域で結びつけられないかと
始まったのが《恋する豚研究所》というプロジェクトだ。
ここでは飼料にこだわって豚を飼育し、安全でおいしい豚肉に加工して
販売までを手がけているが、障害者と健常者がともに働きやすい環境で作業をしている。

その快適な建物を設計しているのがアトリエ・ワン。
福祉楽団の理事を務める飯田大輔さんは、ケアはクリエイティブな仕事だと語る。
「例えば人に水を飲ませるということだってジャズセッションのようなもので、
クリエイティブなものなんです。
そのケアに内在しているクリエイティビティをちゃんと評価して、
きちんと社会に発信していかないといけない。
それにはクリエイターと協働したほうがいいと思っています。
空間がどうあるか、人がどう関わっていくかで、ケアも見え方が変わってくるんです」

アトリエ・ワンと福祉楽団はこれまで《恋する豚研究所》、高齢者と障害児のデイケア施設《多古新町ハウス》のふたつのプロジェクトで協働してきた。

恋する豚研究所の商品はデパートや高級食材店などにも卸しているが、
どこにも福祉や障害者雇用といったことは謳っていない。
福祉を売りにも言い訳にもしない、というのがコンセプトなのだ。
ていねいに商品をつくり、きちんと売れるしくみをつくる。
従来、障害者の月給は1万円にも満たないこともよくあるというが、
10万円を目標に始めた事業は現在7万5千円くらい支払えるところまできているという。
そして大切なのは、地域とつながるということだと飯田さん。
「特別養護老人ホームはハード的にどうしても地域から隔離されてしまって、
つながりを持とうと思っても持ちにくい。
そこを超えるためにはどうしたらいいかと試行錯誤してきました。
福祉施設が地域のひとつの資源として常に社会とつながっていることが大事」

福祉と農業を結びつけ、いまは林業ともつながる取り組みを進めている。
香取市は緑に囲まれた里山地域だが、ここでも日本各地の山林と同じく
手入れをする人がおらず、山が荒れてしまっている。
そこで間伐して継続的に手入れをし、間伐材を薪にするなど
資源化していくというプロジェクトを開始した。
「僕らはケアというものを中心に、コミュニティをつくる、
人をつなぐということをしています。
山をケアするということと人をケアするということが
つながっていくのがおもしろいですね。
ただまわりにある課題を解決していくというだけなんですけど」

現在進めているプロジェクトが《栗源第一薪炭供給所》(通称1K)。香取市栗源地域の里山をケアし、間伐材を薪に加工し、燃料として地域に供給するプロジェクト。人も里山も資源化していく。

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新築の「事前リノベーション」とは…?

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建築家ユニット〈Eureka〉は、さまざまなリサーチを積み上げながらデザインに生かしていく。代表作である愛知県岡崎市の《Dragon Court Village》の模型のほか、おもに東南アジアにおける集落のリサーチを展示。地域の特徴が表れた住まい方がわかる。

地域の人を巻き込みながらつくる建築

〈ツバメアーキテクツ〉は山道拓人、千葉元生、西川日満里による若手建築家ユニット。
今回の展示は、これまで家族のかたちや住まい方が
社会のなかでどう変化してきたかを時系列で並べたもの、
自分たちが関わったプロジェクトについて、
そして全国で見られるユニークなシェアハウスのケーススタディと、
大きく3つに分けられている。

なかでもおもしろいのが、彼らが手がけた《荻窪家族プロジェクト》だ。
これはもともと建築家の連(むらじ)健夫さんが設計し、
高齢者向けのシェアハウスとして考えられていたが、
オーナーも次第に考え方が変化し、若い人も関わったほうがいいということに。
ツバメアーキテクツのメンバーが呼ばれたときには基礎工事がすでに始まっていた。
そこで彼らは、この建物に住む予定の人や地域のNPOなど、
いろいろな世代の人を集めて何度もワークショップを重ね、
そこで出たいろいろな意見をとり入れ、
建築の仕上げや建物の使い方に反映させていった。
彼らはこれを「事前リノベーション」と呼んでいる。

《荻窪家族プロジェクト》の模型。ワークショップを重ねながら設計変更をしていった。

「新築なんだけれど、この人のアイデアでこうなった、というのが凝縮されている建物。
1階はまちの人の共用部で、住む人だけではなくて地域の人にも
開かれた建物になっていて、いろいろな人のアイデアが反映されています。
建築デザインというより、いろいろな人を巻き込んだり、
どうやってサステナブルな状態をつくるかという
チャレンジの側面が大きかったです」とメンバーの山道さん。
施工も、デッキに色を塗るなど、できることはみんなで一緒にやった。
そうして関わる人が増えることで、竣工した時点でこの建物に愛着を持つ人が
たくさんいる状況を生み出すことになったのだ。

今年3月に竣工したあとも、彼らは自治会のような集まりに参加しながら、
共用部の使い方などのアイデアを一緒に考えたりしているという。
「その人たちと一緒に育てていくような感じですね。
いろいろな人が関わって、編集しやすい、物理的にも人間関係的にも
オープンな状態になっている建築がおもしろいと思っています」
毎回飲み会にまで参加し、密なコミュニケーションをとりながらのプロセスは
大変だったと振り返るが、手応えも感じているようだ。
シェアハウスのリサーチなどからも彼らの関心事がうかがえ、今後の活動も楽しみだ。

ツバメアーキテクツの展示では、会期中も情報を追加していくために黒板を使用。ワークショップの発表も黒板に残していくという。テーブルも黒板になっている。

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まちなかに赤城山の植物が…!

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国際的に活躍する建築家の藤本壮介は、森のような建築を表現。48本の木にそれぞれ座れるスペースを設置した。彼の初期の作品が前橋にあり、会期中、週末に公開される予定。

近くにある自然を暮らしのなかで感じる

今回の展覧会では館外に展示されている作品もある。
美術家、木村崇人さんの作品だ。
木村さんがアーティスト・イン・レジデンスで前橋に滞在しながら制作したのは、
美術館から少し歩いたところにある東屋を、赤城山の植物で埋め尽くすという作品。
東屋は本来、人が集う場所。この東屋も屋根があってベンチがあるが、
たばこの吸い殻で汚れていたり、誰でも心地よく利用できる場所ではなかったようだ。
それがいまでは緑がたくさんある場所になり、少しだけ景観が変わった。

愛知県生まれの木村さんは、現在は山梨県早川町という
南アルプスの山間のまちに暮らす。
今年は各地を飛び回っていてあまり家にいられないそうだが、
自宅は築150年ほどの古民家を大工さんと直し、
ふだんは畑仕事をしたり猟をして暮らしているそう。
木村さんが作品をつくるときにテーマにしているのは「地球と遊ぶ」ということ。
「頭のなかにあることと実際に肌で感じることというのはズレがあるんです。
でも自分で動いて、感じて得たものがリアルだし、
そこからものを考えるというのが基本だと思っています。
自分の体験をもとに作品をつくっていきたい」
自然のなかで生きる自分の実感をもとに、人にも体験してもらえるような作品をつくる。
そのため地域に入り込んで制作するというスタイルが多いそうだ。

自分が住んでいる山と赤城山は全然違っておもしろいという木村さん。東屋は川沿いの道にあり、川からポンプで水を汲み上げている。

赤城山は前橋の中心地からほど近いが、前橋の人の日常とつながっているかというと、
そうではない。行ったことのない人もいるという。
「本当は山と関わっていない人なんていないと思う。
飲み水だって空気だって、エネルギーは循環していますから、
山の恩恵は何かしら受けているはずなんです」
その山をまちとつなげようと考え、この東屋の作品をつくった。
山の苔やシダなどの植物をプランターに植え、
約1か月間、まちの人に預かってもらい、それらを東屋に集めた。

おもしろいのは、まちの人たちがひと月面倒を見ただけで、
植物に愛着がわいているということ。
東屋に「私のプランターはどこかしら」と見に来る人もいるそうだ。
「山にあったらただの雑草なんですけど、
ちょっと手間をかけるだけで人の意識が変わるんですよね。
みんなここに立ち寄ってくれると思います。
いろいろな人の思いがつまった作品になりました」
会期中に植物も成長して変化していく。
東屋も再び人が集う場所になって、風景が変わっていくかもしれない。

まちの人たちの手を経て集められた植物。木村さんはここから新たなコミュニケーションが生まれることも期待している。

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美術館の中に不思議な《LUNA PARK》が出現

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テクノロジーを駆使し、メディアアートやエンターテインメント、広告などさまざまな分野で活躍するクリエイティブ集団〈ライゾマティクス〉内に結成され、人とテクノロジーの関係について研究開発する〈ライゾマティクスリサーチ〉。展示作品《Internet of Idol》は、位置情報や心拍数、脳波の情報などあらゆるパーソナルデータをオープンソース化し、コミュニケーションやエンターテインメントを生むプロジェクト。

不思議な感覚を呼び起こすまちの風景

美術家の三田村光土里さんは、会場のなかに異質な、幻想的ともいえる空間
《LUNA PARK(ルナパーク)》を生み出した。
ルナパークは、もともとは1900年代初頭から
アメリカをはじめ各国につくられた遊園地の原型。
三田村さんは2011年にオーストラリアで初めてルナパークに出会い、
子どもの頃に見たような、どこか懐かしい風景に郷愁を覚えたそうだ。
現実を忘れさせてくれる、夢やあこがれを叶えてくれるような場所は
三田村さんの心をとらえ、いつかルナパークにまつわる作品をつくりたいと
温めていたという。偶然にも、前橋には〈るなぱあく〉という小さな遊園地があるのだ。
それは三田村さんが見たルナパークとは少し違うが、
前橋のまちを歩いていても、どこか時間の止まったような、
郷愁を誘うような風景に出会うことができたという。
そんな三田村さんの心象風景にあるルナパークを表現したのが、この作品だ。

「前橋は大きなチェーン店もほとんどなくて、個人経営の小さなお店が多い。
私は愛知生まれですが、10代の頃に地元で見ていたようなまち並みがあって、
それは時代に取り残されたような風景なんだけれど、
とても不思議な感覚を呼び起こしました。
まちのちょっとした表情にどこか引き込まれるような、
異次元に迷い込んでしまうような瞬間がありました」
三田村さんはそんな前橋のさまざまな表情を切り取った写真をウェブサイトでも公開し、
インターネット空間にもルナパークをつくりあげている。

三田村光土里さんのインスタレーション《LUNA PARK》。取り壊しが決まっている公民館の備品や、リサイクルショップの家具など、ほぼ前橋のものでつくり上げた。

まちの人の活動を活性化していく場所として

美術家と建築家が半々という展覧会はあまり見られないが、
若い世代の建築家を紹介する展覧会をしたかったと館長の住友文彦さんは話す。
「建築家というとこれまでは大きな社会のビジョンだとか
イデオロギーといったことも含めて、社会を牽引してきた存在だと思います。
特に高度経済成長期はそういう役割があったと思う。
でもそういう時代ではないいま、若い世代の建築家たちは
どういうことを考えているのかということに関心がありました。
美術作家というのは大きいビジョンやイデオロギーよりは、
すごく個人的なことから出発して作品をつくることが多い。
だから新しい世代の建築家だったら、
美術家がやっているようなことに共鳴できるかもしれないと思って、
美術の作家と建築家を一緒にした展覧会を企画しました」
結果、2015年のいまという時代に、地域社会とどう向き合うか、
何を考えるべきか、ということが提示された展覧会になった。
「以前はもっと個人主義でもいいという考え方があったと思いますが、
アーティストも建築家も、社会に関わるということが
価値観として重要になってきていると思います」

作家でもある小林エリカは、マリー・キュリーと放射能の半減期をテーマにした作品を展示。半減期とは放射性物質が崩壊を繰り返し、その原子数が半分になるまでにかかる時間のこと。ラジウム226の半減期は1601年で、キュリー夫人が純粋ラジウム塩を取り出した1902年を起点にしても、西暦3503年までかかる。これはその時間を表現した《半減期カレンダー》。裏には「母の話をしよう」というテキストとイラストが描かれ、会場で配布している。

グランドオープンした2年前に取材したときに
「ハードをつくるだけではなく、ソフトも同時につくっていく」と話していた住友さん。
当時からアーツ前橋周辺ではクリエイティブな動きが活発化していたが、
いまもまちのいろいろなところで展示をしたり、さまざまな活動が生まれているようだ。
「アトリエ・ワンもツバメアーキテクツもそうですが、
いまの建築家はハードをどうかっこよくデザインするかではなくて、
最終的にそれが人々の活動や生活をどう活性化するのかというところに
意識が向いています。展覧会をやってみてそれを強く感じたし、
われわれにとっても、この美術館がこの地域とどう結びついていくかということに、
すごくいろいろなヒントをもらいました」

昨年は『服の記憶』という展覧会を開催し、
今回は「棲む」ということをテーマにした展覧会。
来年には「食」にまつわる展覧会を考えているという。
今後も意欲的な企画が続きそうだ。
「やはりまだ美術が一部の人の趣味の場所だと思っている人は多い。
でも個人的には、何かを表現して人と関わるというのは、
生きていくうえで必ず必要なことだと思っています。
単に絵を描くということだけでなくても、いろいろな表現の仕方があるということを
知ってもらう大きな役割が、美術館にはあると思います」

information


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ここに棲む 
地域社会へのまなざし

会期:2015年10月9日〜2016年1月12日(火)
会場:アーツ前橋
http://artsmaebashi.jp/

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