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投資ファンドで実現する
古民家再生の未来(その1)
一般社団法人ノオト vol.5

リノベのススメ
vol.086

posted:2015.9.24  from:兵庫県篠山市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

NOTE
一般社団法人 ノオト

篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。

http://plus-note.jp

一般社団法人ノオト vol.5

みなさん、こんにちは。一般社団法人ノオト理事 兼
株式会社NOTEリノベーション&デザイン代表取締役の藤原です。
本シリーズ5回目となり、連載の中盤ということもあり
「古民家再生分野におけるビジネス的な観点」を含め、
今秋にオープンする、投資ファンドを利用した事例
〈篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア)〉に関するお話をしていきたいと思います。

まずは本編「その1」では全体的な概要をお話したいと思います。

そもそもなぜ「投資ファンド」を利用しようと考えたのか?

約3年前となる2012年頃の話です。
きっかけは、いつものように代表の金野とふたりでご飯を食べながら
NOTEの目標について語っている時でした。

金野: 国内には約149万棟の歴史的建築物(古民家)があるんだよ。

藤原: けっこう、ありますね~。

金野: すべては残せないと思うけど2割ぐらいは残せるんじゃないかな~。
今にも潰れそうな古民家が大半だろうから30年以内にやらないと残せないよね。

藤原: ということは30万棟を30年間で実現するということですね。
わかりました。今の体制では、それを実現するための
「人」「金」「もの(手法)」も足りないと思うので考えてみます。

と……何気なく「30万棟/30年」という目標が決まりました。

篠山市の後川新田原集落にあった改修前の古民家。

愚直な私は30万棟を30年間でやる仕組みを夜な夜な考えました。
計算では1日30棟が再生していくペースです。
1棟の再生に3,000万~4,000万円の資金が必要になります。
年間1万棟を行うとなると、
必要となる資金は3,000~4,000億円が必要になるという計算です。
これは公共・行政の補助事業だけでは不可能だし、
やっぱり民間産業として確立するしかないと思いました。
民間事業として活性化する場合、そのために必要なビジネススキームと
お金の流れ(資金調達から返済フローまで)をつくらないといけません。
当時、銀行も古民家に投融資することも難しい状況でした。

そこでまずは、
「投資家に古民家再生事業の魅力を伝え、投資ファンドで資金調達しよう!」
という考えに至ったわけです。

ファンドと収益化と産業化

古民家への投資ファンドを活用するにあたり、
投資家に伝えていくためには、事業計画や収益モデルが重要になってきます。
つまり、投資ファンドが成立するということは、
投資家にとって十分な収益があるという判断を得ることになります。
それが古民家再生事業の産業化への近道でもあると言えます。

その反面、古民家を活用した収益化で苦しんでいる地域がたくさんあります。
古民家を利用した田舎暮らし・レストラン・宿をしたいという方にとっても
最も大切になってくるのが“収益”になってきます。

我々も十分な収益が現時点で取れているかというと、
収益化できているものと、そうでないものが混在しています。
しかし、過去7年間で60軒以上もの古民家再生を行ってきた結果、
得られた知見やノウハウを元に収益を上げながら、
産業化していくためのヒントを得ることができました。

〈集落丸山〉の内観。

1.リノベーション・改修費用をかけ過ぎない。
※投資回収が難しくなる。
2.直し過ぎて歴史がつくり上げた風合いを損ねない。
※直し過ぎると、一般的な和風建築物と同じになる?。
3.新しい市場を開くためのマーケティング戦略が必要。
※新しい価値観を普及させるためのブランド・広報戦略。
単一事業の繰り返しではなく、ストック型のビジネスモデル。

これらのことを踏まえながら、
投資家に対して事業ごとの収益状態や経営状態をひとつひとつ丁寧に説明し、
我々の事業をデューデリジェンス(※注釈1)していただきました。

<一例>
●集落丸山(篠山市)は限界集落の農家民宿型ホテル(vol.2で紹介)。
採算は稼働率30%で黒字化するモデルであるということ。
●旧木村酒造場EN(朝来市)は竹田城下町ホテル(vol.3で紹介)。
人通りの少ない空き家の目立つ城下町にありながら平均70%稼働であるということ。

旧木村酒造場ENの、客室の内観。

東京から何度もデューデリジェンスに足を運んでいただいた投資担当の方々は、
驚きを隠せないようでした。
それは僻地ともいえる過疎地域で、
このような採算性のある事業ができていたのか?! ということです。
しかも、社会的な事業性は高く、投資家の心にも響かせることができる。

結果「これなら投資できる!」と言ってもらうことができました。

※注釈1:投資を行う際に、本当にその投資対象に十分な価値があるのか、
またリスクはどうなのかを詳細に調査する作業のこと。

次のページ
ついに、ファンドを導入?!

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さて、皆さまにここで一番大事なこととしてお伝えしておきたいことがございます。
まちづくりや地域活性化の分野において“社会性”といった観点はとても重要です。
その反面“社会的な志”だけで維持継続していくことは、
困難となるケースが多々あります。
かといって“営利”を追求しすぎると、
地域の宝物といえる「暮らし文化・コミュニティ」を壊してしまいかねません。

我々は、これら相反する課題を同時に解決しないことには
「個々による小規模な古民家再生」は可能だとしても
「古民家再生を産業化につなげること」は難しいと考えています。
現在、国内に空き家となっている数十万棟の歴史的建造物(古民家など)は、
数十年すれば刻んだ歴史とそこに根づいていた暮らし文化とともに朽ち果て、
かたちをなくしてしまいます。
これらを個々にやっているだけでは間に合いません。

それらを解決する手段のひとつが「投資ファンド方式」です。

このファンドの詳細についてお話する前に、
これまでNOTEが行ってきたほかのモデルとの違いを理解するために
「活用提案型指定管理方式」について説明したいと思います。

【活用提案型指定管理方式】旧木村酒造場 EN(朝来市 竹田城下町)

vol.3でも紹介されている本施設は、
一見“公共事業”のように見えますが、
これらは行政と連携し地域資源で歴史的建築物を利用した
PFI(注釈2:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)ともいえます。
地方自治体と民間の経営能力及び技術的能力を活用した新しい公共事業です。

このモデルは今後多くの地方自治体が抱える問題を解決する手法のひとつともいえます。
多くの自治体では行政が保有する施設運営に関して、
指定管理者制度といわれる仕組みを活用しています。
従来までの仕組みのほとんどは以下(図1)のような方式となっており、
運営維持(費用)が地方自治体の負担になっているため、
地方財政を圧迫し、事業廃止に至るケースも少なくありませんでした。

■図1:従来の指定管理方式

活用提案型指定管理方式(図2)において、
もっとも特徴的なのが指定管理料を0円とすることで
運営維持にかかる費用リスクを軽減している点です。
これにより、地方自治体の費用負担(税金)を少なくすることができます。
また、地域に新たな事業者を誘致(企業誘致)することによる産業活性化も見込め、
地元での雇用が生まれること(雇用促進)になります。

図2:活用提案型指定管理方式

既に似たような仕組みが欧州にあります。
所有は国や行政が所有し、運営は民間で行うモデルです。
スペイン:パラドール(Parador)http://www.parador.es/
ポルトガル:ポザーダ(Pousada)http://www.pousadas.pt/

ただし、これですべての課題が解決するわけではありません。
これにより新たな課題が出てくる場合もあります。

例えば、従前より指定管理案件を運営してきた地域の事業者にとって、
新たな収益源が入ってこなくなることをよく思わない事業者もいます。
また、新しい事業者が参入してくると、
自社の事業収益に大きく影響するのではないかと心配する人が出てきます。
つまり「地域税金負担の軽減」「新規事業者の誘致」は、
現実的にはじめから地域で受け入れられるとは限りません。

私自身も田舎育ちということもあり、彼らの気持ちは十分に理解できます。
その反面、そのまま放っておけば
さらに空き家が増え事業者が減ることも見過ごすことができない……。

このようなハレーションや一時的なアレルギー反応も視野に入れた事業計画が必要です。
地域の資源(お金や建物)を使うというモデルでは避けて通れない道ともいえるでしょう。

しかし、これらは課題であって、問題ではありません。

一番の問題は現在こういったモデルを知っている地方自治体が
まだまだ少ないというのが現状です。
つまり、冒頭にあげた“古民家再生の産業化”を実現するまでには、
地方自治体への理解が不可欠であり、
全国に広がるにはまだまだ時間がかかるということを示しています。
この手法ひとつだけで「30年で30万棟の達成」は困難です。

上記を全国の地方自治体に広めつつ、
古民家再生の産業化を加速させるために別の手段は必要になります。
その手法が「投資ファンド方式」と位置づけています。

※注釈2:「PFI(Private Finance Initiative:
プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」公共施設などの建設、
維持管理、運営などを民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法。

次のページ
投資ファンドにより、さらなる空き家再生へ。

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【投資ファンド方式】篠山城下町ホテルNIPPONIA(篠山市 篠山城下町)

古い城下町などにある商店街でも、空き家・空き店舗が点在しています。
これらを使って新しい観光資源を生み出せないか?
と考えたのが城下町ホテル構想です。
そして、これらを実現するための費用(資金)は
民間投資(ファンド)で行うというものです。

篠山城下町にある江戸時代から明治時代に建てられた空き家4棟を改修し、
宿泊10室のホテル事業で、
資金のほぼ全額を民間資金(投資ファンド)で実施しました。
2015年10月3日にオープン予定です。

篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア)の概念図。

事例1モデル(活用提案型指定管理方式)との違いは、
地方行政の税金を使わずに民間事業として
空き家となっている不動産を買い取って事業を行う点です。
・地元の不動産業者でも売れない。
・地方自治体や中央官庁も困っている。
・所有者(持ち主)も困っている。
これらさまざまな理由により空き家となっている古民家を、
民間事業者として買い取って事業運営することにより地域住民の間における
アレルギー反応も緩和されます。

そして、本モデルでは純粋に民間事業として展開できるため、
地方自治体との調整や予算化も必要ありません。
しっかりとした事業計画と投資リターンがコミットできれば、
どんどん量産できるというわけです。

次回、その2では、今回活用したマザーファンドの仕組みと、
篠山城下町ホテルNIPPONIAについて紹介します。

infoatmation


map

篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア) 

住所 兵庫県篠山市西町25番地 他

http://sasayamastay.jp/index.html
※2015月10月3日グランドオープン

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