連載
posted:2015.5.20 from:兵庫県篠山市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
NOTE
一般社団法人 ノオト
篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。
http://plus-note.jp
みなさん、こんにちは。一般社団法人ノオト代表の金野(きんの)です。
弊社はどうやらフラットな組織のようで、入社したばかりの担当者から、
連載第2回目を執筆するよう指示がありました。
〆切厳守とのことです。
そんなわけで、弊社スタッフもあまり知らない創業期のことを書くことにします。
昨今は、全国で「空き家問題」が取りあげられるようになってきましたが、
ノオトが創業した平成21年頃はそうでもありませんでした。
私はまだ兵庫県の篠山市役所に籍があって、
景観まちづくりの仕事もしていたので、
景観条例に基づく景観地区、景観重要建造物の指定に向けて、
その候補地、候補物件を探していました。
実は、ここから、空き家問題、空き家活用事業の創業に辿り着いたのです。
役所のことを書き始めると文章がどうしても固くなりますね。
篠山市のほぼ中央に位置する篠山城から北に車を走らせると、
多紀連山に向けて、小さな谷筋に入って行きます。
7分も走れば、もう行き止まるのですが、
そこに「丸山集落」があります。
ほとんどの家屋が、茅葺き屋根にトタンを葺いたもので統一されていて、
家と家との距離感や、各家の配置が何とも絶妙なんです。
石積みや水路や樹木も、その景観を構成しています。
計算され尽くしたような、と言いますが、
昔の人は本当に計算し尽くしたのだと思います。
土地を読み、気候を踏まえ、暮らしを想像し、
名もなき人たちが長い時間をかけて
ひとつの有機体として設計し続けてきたのでしょう。
それは現代社会の「計算」とは違う計算の方法です。
私は最初、この美しい集落の景観地区指定のことを考えていました。
平成20年春のことです。
しかし、よく眺めていると空き家が多数あることに気がつきました。
空き巣が入った形跡も見受けられ、少しすさんで残念な印象をもったのを憶えています。
後日、自治会長であった、
佐古田直實さん(現在はNPO法人集落丸山の理事長)と話をする機会があり、
全12戸のうち7戸が空き家であること、
かつては城下町水源を守る「水守」の集落であったこと、
集落の未来に危機感を抱いていることなどを伺ったのでした。
法令に基づく景観地区指定やルールづくり(景観形成基準など)は
とても重要な政策ですが、
それだけでは美しい景観を守ることができない。
私たちはそういう時代に生きている。
ルールをつくっても開発が押し寄せてくるわけではない。
ルールを使うシーンはあまりなく、建物が空き家となり、農地が放棄地となり、
景観は内側から朽ちていく。
だから、何かその空間にエネルギーを注ぎ込む政策がなければ、
景観を守れない。何より地域を守れない。
私たちは、そのことを丸山集落で学んだのでした。
Page 2
エネルギーを注ぎこむためにはどうすれば良いのか。
平成20年秋から、丸山集落で、
村人総出の住民ワークショップが始まりました。
半年で合計14回のワークショップと学習会を重ねて、
導かれた村づくりのビジョンは、
“集落には今も残っている「日本の暮らし」を体験できる場所にする”
“空き家を宿泊施設やレストランとして活用する”というものでした。
平成21年春には3戸の空き家の改修工事に着工。
そして、その年の秋には古民家の宿「集落丸山」がオープンしました。
村人とのワークショップを始めてからわずか1年後のことです。
わたしたちノオトは、この活動に寄り添うかたちで、平成21年4月に、創業しました。
このワークショップには村人だけでなく、
多様な外部者が関わりました。
丹波の森研究所の研究員、市役所若手職員の有志、
大学生、学習会に講師として招かれた各分野の専門家、
そしてノオトの創業メンバーなどです。
5世帯、19人の村人が、
ワークショップを通じてビジョンをつくり上げたことは確かですが、
多くの選択肢や可能性を提供して、
ビジョン構築に貢献したのは外部者たちの存在でした。
実際の事業展開に際しては、ノオトが事業パートナーとして連携することも、
ビジョンづくりの前提となっていました。
(後に、NPO法人集落丸山と一般社団法人ノオトは
LLP〈有限責任事業組合〉)を設立して、
10年間限定の宿泊営業を始めることになります)
外部者があれやこれやと話題を投げかけて、
村人がそれぞれに抱いている希望の束の延長線上に、
新しい目的地を見つけ出す、そのような作業であったと思います。
地域の夢を実現する、というときの「地域の夢」とは、
一般に、顕在化していない場合が多いのです。
一般的なワークショップの手法を使って集落住民の意識を整理し、
意志を拾い上げて方向性をまとめたとしても、
これまでの常識的な発想を超えることができなければ、
事業化に向けた推進力のあるビジョンにはなりません。
中間組織の役割とは、
地域の発想に跳躍をもたらして、地域の夢を具体的に指し示すこと、
地域の伴走者として、地域の夢の実現を支援すること、
にあるのだと思います。
よく言われるような活動支援、
情報提供は、中間組織の役割のごく一部に過ぎません。
ワークショップのプロセスを通じて、私たちはそのことを学んだのでした。
さて、ビジョンを実現するために、
丸山集落にある空き家を
宿泊施設やレストランとして活用することになりました。
所有者に空き家の提供を打診したところ、
3戸の所有者があっさりと無償提供の意向を示されたのでした。
一般的に、田舎では空き家は流動化しない場合が多く、
空き家であっても簡単に売ったり貸したりしてくれないのです。
その理由としてよく語られるのは、
「仏壇が残っているから」「荷物が残っているから」
「盆と正月には子どもが帰ってくるから」というものですが、
それは本当の理由ではありません、断る時のいいわけです。
本当の理由は、
「見ず知らずの変な人に貸すとコミュニティに迷惑がかかる
(実際にそのような事例も散見されます)」
「お金に困っているのではないかというウワサをされるのを避けたい」
というところにあります。
空き家を貸してもらえない理由をひと言でいうと
「世間体が悪い」からやめておこうというもので、
都会人には想像できない考え方かと思います。
そんなわけで、空き家は流動化することなく、放置され、傷み、
相続の機会に地域とは無縁になった末裔たちが
歴史的価値のある建物を何のためらいもなく解体し、
土地を売却するという事象が、
今日も日本のあちらこちらで発生しています。
それでは、丸山集落ではなぜあっさりと空き家が提供されたのでしょうか。
Page 3
その答えは半年間のワークショップにあります。
その3戸の所有者は、ワークショップに参加していたのです。
1戸の所有者は集落内の別の住居に住んでおられましたが、
驚いたことに、2戸の所有者は、
集落に住んでいない(1戸は篠山市内、1戸は京阪神に居住)にも関わらず、
ワークショップに参加していたのです。
私には、集落には住んでいない所有者に
村づくりワークショップの案内を送るという感覚が、とても驚きで新鮮でした。
家や土地がある限り、まだ村人なんです。
それがコミュニティの力ということなんでしょう。
そして、ほかの場所に移住しているけれど、
空き家を売ったり、貸したりしないというのもそういうことです。
その家に、その集落にまだ想いを残しているということです。
見ず知らずの人に貸すのではなく、村のために使われること、
お金に困って処分するのでなく、村のために善意で提供すること、
それらの事情が村人全てに共有されていること、
そのような状況をつくりだすことが、空き家の流動化に有効である、
という法則を、私たちはこの事業化のプロセスから学んだのでした。
既にコミュニティについて触れることになりましたが、
私たちは、これが、地域再生の重要な基盤だと考えています。
私たちひとりひとりの人間は、
家族、集落(自治会)、小学校区、市町村、都道府県、国家、という具合に、
幾重にもコミュニティの衣を纏っています。
といっても、近代の都市化社会というものは、
このコミュニティを何とか捨て去ろうと腐心してきた訳なので、
若い人はそのように感じないかもしれません。
実際、大学でそのように説明すると、学生たちはきょとんとしていたものです。
ノオトの用語では、「地域」は「コミュニティ」と同義語です。
地域資源とは、そのコミュニティが保有する資源のことです。
地域再生とはコミュニティ再生にほかなりません。
集落の再生、小学校区の再生、市町村の再生……というようにエリア設定します。
コミュニティとは、時として、カタクルシかったり、息がツマったり、
メンドーだったり、ウワサ好きだったりするあのコミュニティのことですが、
私たちが、コミュニティを重要な基盤だと考えるのは、
そのコミュニティにこそ、これからの日本社会が求める豊かさの源泉があるからです。
全国に820万戸の空き家があるというデータは、
どこか茫洋として、とりつくしまもありません。
そこから思考を始めると、議論も茫洋として、
結局は役に立たない国家的な政策に結びついたりするのですが、
12戸の集落のうち7戸が空き家である、あの家の所有者は、いま……、
という思考のリアリティが具体的な地域再生に結びつくのです。
集落丸山が営業を開始して既に5年余りが経過しました。
あの時、私たち(NPO法人集落丸山+ノオト)は
空き家3棟を改修して宿泊施設を営業しようと考えたのでした。
けれども、谷奥の集落にひとが行き交うことで、
当初は想定していなかった効果が現れています。
5年後の現在、5世帯19人が、6世帯23人になり、
集落の田畑の1/2を占めていた耕作放棄地が、耕作地となり、
外部の専門ボランティアチームによる里山整備が進むなど、
農村地域が抱える課題群が、結果的に解消されつつあるのです。
……ここで第2回の紙幅が尽きてしまいました。
現在、弊社が展開している事業の手法や基本理念のほとんどを、
私たちは集落丸山から教えてもらったように思います。
このうち、事業スキーム、資金調達、運営組織(ビークル)づくりなど、
実務的に重要な事柄に触れることができていません。
このあたりは、この連載のなかで、随時触れていきたいと思います。
集落は家族。
ワークショップの当初に、村人から当たり前のように語られた言葉です。
私たちは驚いて、集落が家族なら、
私たちはその親戚になりたいと考えたのでした。
コミュニティベースで取り組むことの必然性と重要性を、
私たちは、今も、集落丸山から学び続けています。
information
古民家の宿 集落丸山
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ