連載
posted:2015.4.16 from:兵庫県篠山市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
NOTE
一般社団法人 ノオト
篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。
http://plus-note.jp
みなさんはじめまして。一般社団法人ノオトの星野新治と申します。
私たちは、兵庫県の丹波篠山を拠点に、
古民家の再生活用と古民家を入口とした地域づくり事業や中間支援などを行っています。
この連載では、ノオトで働くさまざまな立場の担当者が交替で、
私たちの取り組みを紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
第1回目の今回は、ノオトの概要を書いていきます。
私たちの拠点である篠山は、
兵庫県の中東部、京都府と大阪府の県境に位置する、山あいの盆地のまちです。
約400年前に篠山城の築城に伴って形成され、今も城下町の面影が残されています。
市の中心には国指定伝統的建造物群保存地区に選定される歴史的まち並みがあり、
周辺には、丹波栗、丹波黒豆、松茸、ぼたん鍋(猪鍋)など、
豊かな食文化を育む農村地域が広がっています。
しかし、人口減少、空き家、産業の衰退など、地方の多くが抱える課題を同じく抱えています。
私たちは、そんな丹波篠山に暮らしながら、地域づくりに力を入れています。
私たちの地域づくりの鍵となるのは、空き家となっている古民家です。
古民家の定義は人や場合によってさまざまですが、
概ね築50年以上、特に昭和25年につくられた現在の建築基準法以前の建物のことを
そう呼ぶことが多いようです。
なぜかというと、戦後につくられた建築基準法では、
コンクリートや鉄を中心とした建築に適した基準となっているため、
低層な住宅以外での木造建築の利用可能性はほとんど想定されていません。
つまり、旅館や飲食店など、まちの生業を生み出す用途には、
なかなか使いにくい状況になっています。
そのため、現状ですでに使用しているものを除き、
古民家を住宅以外の用途で使用する場合には、かなりの工夫が必要になっています。
だからと言って、使われずに放置されてしまうのは残念でなりません。
古民家には、これまで積み重ねてきた日本の暮らし方や文化、
時を超えて残る歴史的な空間の力強さ、
そして地域ごとの特色が詰まっていると私たちは考えています。
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フラットでグローバルな現在の社会において、
ほかにはない日本独自の建築形態や食文化、暮らしの文化は、
クリエイティブな人々による地方での自由な働き方や、
今後の日本の地域における産業の柱になると思われる、
インバウンド(海外からの観光客)を中心とした観光産業などを支えるための、
大きな財産となると考えているからです。
つまり、空き家になった古民家は「地域づくりの鍵」として捉え、
地域の生業や暮らしを再生するための重要な入口として、
まちの活性化に貢献するような新しい用途に再生し、活用しています。
「日本人が捨ててきたものを拾い集め、再生する」ことが、
地域の生業や暮らしの再生につながると考えています。
その実施例として、代表的なプロジェクトを3つご紹介します。
それぞれの詳しいプロジェクトの内容は、
次回以降に順次ご説明していきたいと考えています。
最初のプロジェクトは、篠山城下町の北に位置する農村集落で運営する、
古民家の宿「集落丸山」です。
下の写真に、リノベーションした宿が3軒あるのですが、
皆さんはどの建物かわかりますか?
中央奥の3軒がその建物なのです。
「集落に泊まる」ことをコンセプトにしているため、外観は周囲の景観溶け込むようにし、
内装だけをリノベーションしています。
丸山集落は、全12世帯のうち7世帯が空き家になっていた限界集落でした。
空き家3軒をリノベーションして2009年に宿泊施設としてオープンしました。
そのうち1軒は、リノベーションがきっかけとなり、
その後に所有者がUターンして暮らし始めています。
現在は2軒を、集落の住民がNPOを設立し、
ノオトとLLP(有限責任事業組合)を組んで運営しています。
丸山の集落では、この事業をきっかけとしてさまざまな人々の行き交いが生まれた結果、
耕作放棄地がなくなり、そのほかの空き家も活用する見込みとなってきています。
ふたつめは、天空の城として注目されている、兵庫県朝来市の竹田城の城下町にある、
「旧木村酒造場EN(えん)」です。
旧酒蔵をリノベーションし、宿泊施設、カフェレストラン、
観光情報館、地域交流スペースなどが入居するまちの観光拠点となりました。
この施設は朝来市との公民連携により実現したものです。
3つめは、兵庫県豊岡市にある、複合施設「豊岡1925」。
1925年の北但大震災の復興建築物として、
1934年(昭和9年)に建築された銀行跡を活用。
ホテル、カフェレストラン、スイーツショップ、バー、ギャラリーなどが入居しています。
この施設も豊岡市との公民連携により実現したものです。
近々、但馬牛や日本海の魚介類をはじめとする
但馬地域の地産地消食材にこだわったフランス料理が楽しめるオーベルジュとして、
リニューアルオープンの予定です。
現在進行しているプロジェクトに、拠点である篠山城下町での新しい試みがあります。
それは、歴史的な城下町に点在する複数の空き家の古民家を客室として活用し、
既に活用実績のある飲食店や物販店、歴史施設などと連動させることで、
城下町をまるごとホテルにする
「篠山城下町ホテル構想 Nipponia(ニッポニア)」プロジェクトです。
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本プロジェクトでは、REVIC(地域経済再生支援機構)の
地域活性化マザーファンドを中心とした民間資本の投融資が決定し、
民間資金(資本)の地方の古民家への投資による地域づくり事例に取り組んでいます。
ニッポニアは2015年10月頃のオープンを目指して、
現在準備を進めています。プロジェクトの進行状況については、
今後の記事でお話していく予定です。
このように私たちは、空き家の古民家を入口にしながら、
地域の状況に合わせてさまざまなアプローチで再生活用することで地域づくりを行っています。
いずれのプロジェクトについても、
古民家を通して地域の夢(地域が目指すべき方向性)を顕在化し、
ひとつひとつの物件を現実としてかたちにして、運営していく中で、
徐々に地域再生を進めています。それぞれの物件に取り組む中で、
私たちなりの地域のあり方やノウハウを形成しているように思います。
次回は、私たちの古民家再生の基礎がつくりあげられた、
最初のプロジェクト「集落丸山」について書いていきます。
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