連載
posted:2015.7.28 from:兵庫県豊岡市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
NOTE
一般社団法人 ノオト
篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。
http://plus-note.jp
みなさん、こんにちは。一般社団法人ノオトの星野新治です。
vol.1に引き続いて担当します。
今回は兵庫県豊岡市の中心市街地を舞台として、
歴史的建築物の再生から動き出す、地域づくりについてお話していきます。
豊岡市は兵庫県北部に位置する但馬地域の中心都市で、
国の天然記念物「コウノトリ」を再生し、共に暮らすまちとして全国的に知られています。
そのほか、風情ある外湯めぐりの「城崎温泉」や、
歴史的城下町の景観が残る出石地区などの観光名所から、
地場産業の「カバン製造」など、さまざまな顔を持っています。
そして何よりも、カニなど日本海の海の幸から、神戸牛のルーツである但馬牛、
豊かな土壌が育む農産物までが揃う「豊かな食の宝庫」のまちです。
多様な魅力を持つ豊岡ですが、
実は今から90年前、1925年の北但大震災により、壊滅的な被害を受けました。
M6.8・最大震度6の巨大地震は、
豊岡市街地や城崎を中心に、大半の建物が焼失するなどの被害をもたらしました。
現在の豊岡や城崎は、その壊滅的な状況から復興して築いてきた、
大切な「まち並み」や「生業」なのです。
当時の人々は復興に際して、
災害に強いまちを目指して、道路拡大や耐火建築の促進に取り組み、
復興建築として鉄筋コンクリートの建物が数多く建設されました。
そのひとつとして1934年に建てられたのが、〈兵庫県農工銀行豊岡支店〉です。
当時の洋風建築の要素を取り入れた、ルネッサンススタイルの重厚な銀行建築で、
長年の間銀行として活躍したのち、市役所の南庁舎別館として利用されていました。
登録有形文化財にも登録されている「近代化遺産」です。
その古き良き建築物を未来へつなげ、新たな地域づくりの拠点として再生する、
それが〈豊岡1925〉のプロジェクトです。
豊岡1925のプロジェクトは、2012年にスタートしました。
開発の手法は、vol.3でご紹介した朝来市の〈旧木村酒造場 EN〉と同様に、
新しい公民連携の仕組みが取り入れられました。
豊岡市が施設の整備計画を公募し、運営事業者が選定されます。
その整備計画に基づいて、市は、施設整備(設計/工事)を実施。
そして、管理運営は、選定された運営事業者が整備計画に基づいて実施する、
という方式です。
豊岡市は2012年10月に運営事業者の公募を開始。
その結果、ノオトの提案が採用運営者として選定されました。
ホテル、レストラン&カフェ、ショップ、ギャラリーなど
市民や観光客をはじめとしたさまざまな人々が、
交流・観光拠点として気軽に利用できるような新しい用途を加えながら、
収益も確保できるような、持続可能な機能を持たせることで、
歴史ある建築を次の時代へつなげていく試みを提案しました。
また、お菓子の神として古事記や日本書記にも記されている、
〈田道間守(タジマノモリ)〉が祀られる総本社・中嶋神社が豊岡にあることから、
スイーツショップを設置し「お菓子のまち」としての要素を取り入れました。
リノベーションにあたっては、
当時の銀行建築の古き良き趣をできるだけ生かすように、
天高の高い窓口・ホール部分は、開放感のあるカフェやスイーツショップとして、
趣のある執務室は、宿泊施設やレストランの個室などとして、
重厚な金庫は、ギャラリーや倉庫として活用しています。
そして、2014年4月に〈豊岡1925〉としてオープンしました。
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オープンから約1年。
2015年の4月からは、ホテル、カフェレストラン部門のオペレーターとして、
バリューマネジメント株式会社を迎え、
但馬地域の食材を使ったフランス料理を提供する、
オーベルジュ(宿泊できるレストラン)として営業しています。
さらに、ウエディング会場としての活用も進めており、
10月には、第1号が行われる予定です。
隣接した豊岡市役所の歴史的建築物〈豊岡稽古堂〉と連動し、
豊岡稽古堂で結婚式を挙げて、豊岡1925で披露宴を実施する、
といった、まちに広がる結婚式が実現します。
また、新しい施設活用の試みとして、
豊岡市内のさまざまな分野の方を招き、
市民が但馬の食を楽しみながら語り合う交流会〈豊岡1925晩餐会〉を開催するなど、
新しい文化・交流の場としての取り組みも進めています。
大震災から復興し、先人たちが積み重ねてきた歴史ある大切な建築物を守り、
新しいかたちで再生し、活用し、次の世代につなげていくことが、
地域づくりを考えるうえで重要なことであると考えています。
ノオトでは、豊岡1925を起点として、
ふたつの新しい地域づくりの取り組みをスタートさせています。
ひとつ目は、スイーツコーナーでの「インキュベート・ショーケース」です。
これは、地域の事業者が豊岡1925のショーケースを活用して出店できる仕組みで、
まちの名品にもなる新商品開発や中心市街地への出店の足がかりなど、
スイーツ産業のインキュベート(支援、育成)が生まれるような取り組みです。
具体的には、小規模で郊外に数店舗持っている事業者や、
実店舗をまだ持っていないがイベントやインターネットで販売している事業者など、
小規模事業者を中心に、中心市街地へのテスト出店の場所として提供しています。
販売は一定の販売手数料と引き換えに豊岡1925のスタッフが行います。
定期的にショーケースに商品を持ち込むだけで、低リスクで販売がスタートでき、
店舗展開への足がかりとなればと考えています。
前述のお菓子の神社、中嶋神社を背景に、
〈菓子祭り前日祭〉などのイベントが行われ、
少しずつ“お菓子のまち”としての認知が高まってきていますが、
カバン産業のような地場産業として確固たる産業を確立している状況ではないため、
さらなる発展を目指して、新たな取り組みを進めています。
ほかにも、出店事業者さんと協力して、地域食材などを活用した、
豊岡1925オリジナル商品の開発も行っています。
谷常製菓と開発した〈豊岡ストークフロランタン〉は、
契約農家が栽培した〈コウノトリの舞〉ブランド認定の〈豊岡1925米〉や、
〈但馬はちみつ〉など、但馬地域の素材を使用して焼き上げたフロランタンを、
豊岡のシンボル、〈コウノトリ(ストーク)〉をモチーフに商品化しました。
今後も、地域の事業者(プレイヤー)や地域素材を生かした魅力ある商品を、
増やしていく取り組みを進めていきたいと考えています。
ふたつ目が、「食のアルチザン(職人)のまち」を目指し、
豊岡1925を含む豊岡駅通商店街を中心とした地域を活性化させるという取り組みです。
2015年度より豊岡市から、
豊岡中心市街地の地域プロデューサーとして任命を受け、スタートしているものです。
豊岡1925から少しだけ歩くと、隣接してふたつの市場が残っています。
その名は〈ふれあい公設市場〉と〈あおぞら市場〉。
表通りの豊岡駅通商店街から一歩入った、裏路地に位置しています。
ふれあい公設市場は、震災後に復興建築の共同店舗として、
あおぞら市場は、1958年に行商用の朝市店舗としてつくられた市場です。
数十年の時を経て、どちらも市場としての風情は残っていますが、
高齢化や店舗の減少など同じ問題を抱えています。
しかし、地域の方々に昔の様子を尋ねてみると、
かつては但馬地域全域から新鮮な食材が集まり、かなりの賑わいを見せていたそうです。
豊かな但馬の食を支えてきた「但馬の台所」であった場所でした。
そこで、魅力的な空間を持つこのふたつの市場を中心に、
こだわりを持って創造的に食文化をリードする若い事業者(食の職人)を、
集中的に誘致し、次世代の「食の商い」を生み出す取り組みを考えています。
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その第一歩として、今秋にふたつの市場を中心とした周辺地域を会場に、
食の職人によるマーケットの試験的実施を計画中です。
ふたつの市場がもつ歴史や空間を生かし、
周辺地域と連動するかたちで“豊かな但馬の新しい食文化”を生み出す場にしたい。
単発的なイベントに終わらない、長期的戦略に基づいた地域づくりを目指していきます。
将来的には、市場から小さくスタートした店が成功し、
表通りの歴史的建築物(復興建築群)などに出店することで、
商店街全体として発展していくことができればと考えています。
この市場に隣接する宵田商店街(カバンストリート)には、
商品の販売、教育などのカバン産業の拠点施設である、
〈カバン・アルチザン・アベニュー〉があります。
長期的には、職人や店舗の育成など、両施設が連動するかたちで、
「但馬の食」と「カバン」のふたつの職人が息づく「職人のまち」として、
城崎温泉と双璧をなす観光・産業資源として確立していくことが目標です。
豊岡での私たちの取り組みは、
旧兵庫県農工銀行豊岡支店という歴史ある建物の再生をきっかけとして、
新しい地域づくりへと広がってきました。
どれも小さな取り組みからのスタートですが、長期的視点をもって、
具体的な動きを積み重ねることが重要であると考えています。
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