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これからの建築が見えてくる!
水戸芸術館で
『3.11以後の建築』展開催中

コロカルニュース

posted:2015.11.12   from:茨城県水戸市  genre:アート・デザイン・建築

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

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Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。

伊東豊雄+乾久美子+藤本壮介+平田晃久+畠山直哉《陸前高田の「みんなの家」》 Photo: HATAKEYAMA Naoya

水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、11月7日より『3.11以後の建築』展がスタート。
これは、昨年11月1日より2015年5月10日まで
金沢21世紀美術館で開催された展覧会の巡回展で、
建築史家で建築評論家の五十嵐太郎さんと、コミュニティデザイナーの山崎亮さんが
ゲストキュレーターを務めているというのもユニークな展覧会です。

2011年に起こった東日本大震災は、建築家と建築界にも
大きな衝撃を与えました。単なる器としての建物ではなく、
地域と人でつくるコミュニティのあり方やエネルギーの問題など、
現在の私たちを取り巻く状況に対応しうる建築が、いま問われています。
この展覧会では、これからの建築を考え、さまざまな手法で実践する
21組の建築家の取り組みを紹介。金沢での開催から1年が経過し、
水戸にローカライズした展示も加えられています。

伊東豊雄+乾久美子+藤本壮介+平田晃久+畠山直哉による展示「みんなの家」。みんなの家は伊東豊雄さんを中心にしたプロジェクトで、陸前高田市につくられ、ベネチア・ビエンナーレ金獅子賞(パビリオン賞)を受賞した。

今回の展示は7つのエリアに分かれています。
「災害後に活動する」というエリアでは、
東日本大震災直後に見られた動きについて紹介。
東京の総合設計事務所、日建設計は、東日本大震災直後に
東北の建築学生とともに被災地のリサーチに取り組み、
社内にボランティア部を結成。過去の津波の履歴を重ね合わせ、
浸水の危険性のある地区を示し、避難するための所要時間の情報も入れこんだ
避難マップ「逃げ地図」を作成しました。
この東北の逃げ地図とともに、今回は水戸版として、
那珂川が氾濫した場合の逃げ地図が展示されています。

ワークショップやリサーチを通じて「逃げ地図」を作成。そのワークショップのようすも写真で展示。

このエリアではほかに、坂茂さんの避難所用の間仕切りシステムなども展示。紙管と布でスペースが仕切られ、実際に避難所で使用されて大きな話題となった。

トラフ建築設計事務所+石巻工房が協働する取り組みも紹介。クリエイターが集まり、D.I.Y.でプロダクトをつくり販売する石巻工房については「木のある暮らし」でも紹介したが、今回の展覧会の会場各所に置いてあるスツールも石巻工房のもの。

「使い手とつくる」のコーナーでは、
青木淳建築計画事務所+十日町市民有志による展示が目を引きます。
新潟県十日町市では〈十日町まちなか拠点プロジェクト〉として、
〈市民活動センター・まちなか公民館〉と〈市民交流センター〉の
2施設の設計を青木淳建築計画事務所が手がけていますが、
設計段階から地域の人たちとワークショップを重ね、
市民が参加してつくる建築をめざしています。
現地の青木淳建築計画事務所十日町分室は〈ブンシツ〉として市民に開放され、
市民が気軽に出入りできるようになっていて、
新たな活動が生まれるコミュニティスペースのようになっているそう。
展示ではそのブンシツを再現しています。

金沢での展示を経て、現在に近い状態でアップデートされた展示。

ブンシツの活動を伝える冊子『ブンシツ通信』も会場で配布。

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コロカルの人気連載に登場した人たちも出展!

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「地域資源を見直す」というエリアでは、
コロカルの「リノベのススメ」でもおなじみの、
403architecture [dajiba]の活動も紹介されています。
静岡県浜松市を拠点に活動するこの3人は、新しい建物をつくるのではなく、
浜松の古いビルやマンションの一室をリノベーションし、
ショップなどにして多くの人が集まる場所に変えています。
今回は、彼ら自身が手がけた物件を歩いて紹介するという映像を展示。

同時に歩きながら、三者三様の視点でとらえた映像。20分ほどのノーカットの映像で、それくらいの範囲内に彼らの仕事が集中しているのもおもしろい。

「建築家の役割を広げる」というエリアでは、
建築をもっと広い視点から捉えるような活動や事例を紹介しています。
東京R不動産は、リアルな不動産屋のように、過去に扱ったことのある物件を紹介。
表側から見ると、よくある不動産広告のようですが、裏側に回ってみると、
同じ建物について東京R不動産が実際にウェブ上に掲載していた情報が示されています。
ひとつの建物について、一般の不動産屋と東京R不動産が
どういう視点でこの建物を見ているのかがわかる展示になっています。

東京R不動産は新しい視点で不動産を紹介するサイト。運営メンバーのひとりである馬場正尊さんは、今回の展覧会で、ほかに竹内昌義さん(みかんぐみ)、東北芸術工科大学とともに展示している作品も。

リノベのススメ」にも登場した西村浩さんとワークヴィジョンズの活動も、パネルで紹介。彼らの、空き地を活用することでまちを活性化させていく試みを解説する山崎亮さん。12月5日(土)には、西村さんによるレクチャーとワークショップ「展示室を芝生でリノベーション」も開催される。

この展覧会を企画した金沢21世紀美術館の学芸員、鷲田めるろさんは、
五十嵐太郎さんと山崎亮さんにゲストキュレーターをお願いしたということに、
この展覧会の最大のメッセージを込めた、と話します。
「山崎さんは狭い意味での建築をつくるということではなく、
もっと広い視野で建築を捉え、建物をつくらないという手法すら
視野に入れていらっしゃいます。
また五十嵐さんはご自身で設計する建築家ではありませんが、
歴史家として、社会と建築の関係に広く関心をお持ちの方です。
これくらい広い視野で建築を考えなければ、
いま日本が直面している問題に立ち向かえないのでは、と考えました」

山崎さんは関西を拠点に活動してきましたが、阪神淡路大震災が起きた1995年から、
徐々に建築が関わるべき社会的テーマが見えてきたのでは、とみています。
「西日本では阪神淡路大震災後から建築家の意識が変わり始めた印象がありますが、
それを決定的にしたのが3.11だったのではないでしょうか。
エネルギーの問題が明らかになり、地方の疲弊が止まらず、
都市部では隣に誰が住んでいるかもわからないような状況のなかで、
建築家に何ができるのか。
この展覧会では、建築の枠を超えるような活動をしている建築家や、
まちのあり方、人の生活スタイル自体を変えていくような提案も紹介しています。
建築家は建物を建てるだけではなくて、もっと建築的発想を応用すると、
世の中をよくしていくような活動を生み出すこともできるのではないか。
そういう可能性を感じます。
『3.11以後の建築』というのは2011年から2015年の現在までというよりは、
2011年以降この先もずっと、建築の分野が取り組まなければならない
課題だと思います。それに対する解決策の事例を示した展覧会です」

11月23日(月・祝)には、五十嵐さんと山崎さんの対談
「『3.11以後の建築』のその後」も開催されます。
そのもようはコロカルでも紹介予定。

また、館内の一室では、瀬尾夏美さんの展覧会が同時開催されています。
瀬尾さんは、2012年にこの水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された展覧会
『3.11とアーティスト』にも出品していたアーティストで、
ローカルアートレポート」でも紹介しました。
彼女のこれまでの活動がわかる展示になっているので、ぜひ訪れてみてください。

information


map

3.11以後の建築

会期:2015年11月7日(土)〜2016年1月31日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー

■関連イベント
◎五十嵐太郎 × 山崎亮 対談
「『3.11以後の建築』のその後」
日時:2015年11月23日(月・祝)15〜17時(14時30分開場)
会場:水戸芸術館会議場
定員:80名(先着順・予約不要)
料金:無料

◎西村浩レクチャー&ワークショップ
「展示室を芝生でリノベーション」
日時:2015年12月5日(土)14〜16時
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室、展示室8
定員:40名(先着順・要申込)
料金:展覧会入場料に含まれます

◎青木淳講演会
日時:2016年1月24日(日)14〜16時(13時30分開場)
会場:水戸芸術館会議場
定員:80名(先着順・予約不要)
料金:無料

http://arttowermito.or.jp/

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