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目線を変えることで
新しい働き方が生まれる。
豊嶋秀樹 前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.028

posted:2015.11.24   from:全国  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's prodile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Kiyoshi Tanaka(NIPPA米)

ゆるく連携した働き方

豊嶋秀樹さんは、〈岩木遠足〉や〈津金一日学校〉などの地域イベントを手がけてきた。
地域に人を集めて催しをすることは、今や珍しいことではないが、
豊嶋さんが手がけるイベントは、都会的なエッセンスがありながらも、
カタヒジはっていないような、なんだか独特の心地よい空気に包まれている。
その秘密を探るべく、まずはこれまでの略歴をうかがった。

「アーティスト志望で、アメリカの美術系大学に通いました。
当時から、製作していたものは絵画や彫刻というよりも、
インスタレーションやパフォーマンスアート。
状況自体を作品化したいという気持ちでした」

卒業後、日本に帰国。
大阪で、クリエティブユニット〈graf〉を立ち上げる前のメンバーたちと出会う。

「grafの初期メンバーたちは、デザイナーとか家具職人とかいろいろいました。
当時の僕は頭でっかちで、“アートが一番”と思っていました。
でも、みんなは生活にダイレクトに使える実用的なものをつくっているのに対して、
アートは使えないなと(笑)。
メンバー自身の嗜好を見ても、デザイン的なものだけでなく、
音楽も、食も、ファッションも好き。それって生活ですよね。
そういった出会いから、みんなで一緒に何かつくってみようと、grafが発足したんです」

福岡に移住したが、全国を飛び回っているという豊嶋秀樹さん。

豊嶋さんは、そのgrafから派生したgmというセクションを担当し、
展覧会を開催するなどアート的な活動に従事していく。
その部署を独立させるかたちで、現在の〈gm projects〉になった。
grafは同じ職種の集まりではなかったが、gm projectsも同様。
ウェブディレクター、家具職人など、バラバラの職種が集まっている。

「働きたい人が働きたい分量で働く。それぞれのライフステージに合わせた
自由なあり方でいることができて、つながりたいところは、
その都度、つながることができるという、
“イイトコドリ”な組織ができないか試していると思っています」

メンバーそれぞれは、自分の屋号やレーベルなどで活動していたり、
ほかの会社の会社員だったりもする。
これは、豊嶋さんとgm projectsの仲間なりの働き方や組織の実験でもある。

「おもしろい人は集まっているけど、ビジネスは集まっていません」

結局は人間関係。であれば、会社という組織である必要もない。
“人が集まる舞台があればいい。そこにいる人たちでやればいい”。
当初から持っていたそんな考えが、のちの豊嶋さんの活動のベースにもなっている。

豊嶋さんがディレクションしている那須にあるスペース、〈森をひらくこと、T.O.D.A.〉

アートと地域イベントの共通点

gm projectsとして独立してからも、固定の場所ではなくなったが、
アート活動を続けている。
それは作家としてだったり、空間構成やキュレーターだったりとさまざま。
しかし「どれも基本的な考え方は同じで、アウトプットの違いだけ」だという。

この流れで、地域に場をつくる活動も増えてきた。
例えば青森県の〈岩木遠足〉、山梨県の〈津金一日学校〉、
岩手県の〈陸前高田ミーティング(つくる編)〉。
これらは、これまで豊嶋さんが企画運営してきた
アートイベントやギャラリーなどと地続きであるという。
それは豊嶋さんがアートにのめり込んだ理由からわかる。

「アートは、物の見方を変えてくれるきっかけになっていることが多いと思うんです。
それがアートのおもしろいところだし、自分が興味があるのもそういう“アート”でした」

豊嶋さんにとって、アートは異世界に入っていく方法。
最近ハマっているという山登りにも、同じ効果があるという。

「八ケ岳の山頂から見下ろすと、物理的にパースペクティブを変えられてしまいますよね。
世界を旅することも、まるで違う異文化の価値観を突きつけられたりして、
衝撃を受けたり、興奮したりします」

物の見方を変えてくれるものは、豊嶋さんにとってはアートだったが、
こうした思考回路は、イベントにも応用できる。

発売中の『岩木遠足 人と生活をめぐる、26人のストーリー』。写真提供:gm projects

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“山登りのついでに仕事”“仕事のついでに山登り”の極意

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その場にいる人たちで生み出す

豊嶋さんの活動に、地域の活動が多いのは偶然だという。
偶然の元は、人。すべては人との関係性から始まっている。
そこにいる人たちと、その場でできることは何か?
何か目的を成すために適任者を集める動きとは、対極にある。

「例えば野球をやりたくて人を集めるのではなく、
今この場で、目の前にいる3人できることを考えたい。
野球はできないけど、卓球ならできるかもしれません」

それはその場と人を生かす方法論。ワークショップもイベントも、チームづくりが肝で、
いいチームさえつくれば、いいものが生まれるだろう。
キャスティングや舞台づくりにこそ時間をかけるのだ。
あるワークショップの話をしてくれた。

「自分のできることを3枚のカードにひとつずつ書いていきます。
例えば僕なら、1アートに詳しい、2山登りによく行く、3英語が喋れる。
そしてカードを見ないで、3人同時に1枚出します。
例えば、英語と文章と写真というカードが揃うと、
英語の雑誌がつくれるかもしれない、となるわけです。
これはこの3人ありきで成り立つものなのです。
それなりのスタッフを集めれば、もちろん英語の雑誌をつくれます。
しかしそうではなくて、この3人だからこそできることを考えていくという順番です。
だからスタッフのチェンジはないので、長続きします。
この3人でできる内容を考えていくから、無理せず身の丈のものができます」

目標設定をして、適任のプレイヤーを揃えていく手法もあるが、
このようにまったく逆の順番もある。人と場所が最優先。
そこに偶然性が加味されるのだ。

〈陸前高田ミーティング(つくる編)〉では、現地のコーディネーターと話していて、
「僕たちのリサーチにみんなも来られたらいいのに」という話から始まったという。
そこに人がいたから。ソリューション型ではない。

ダブルフェイマスの坂口修一郎さんを招いてワークショップが開催された。その様子は次週。

ワークショップのひとコマ。こんな缶カラから、何が生まれたのか。

「実は僕の場合、趣味である山登りとかスキーも重要です。
ビジネスとして、僕の打ち合わせなどの交通費を毎回払っていくのは大変なので、
僕が山登りやスキーに来たついでに打ち合わせすればいい。
津金は、八ケ岳のふもとにあるんですけど、山頂から電話して
“これから下山するけどどう?”って(笑)。
ちなみに山登り中は、携帯電話をオフにするという人も多いと思うけど、
僕は山頂からでもメールします。
吹雪のテントのなかで、“お世話になっております”とか打ってたり(笑)」

山登りのついでに仕事。仕事のついでに山登り。もうどっちだっていい。
出かけていくモチベーションとして、あまり区別はないようだ。

「岩木遠足でも、自分が遊びに行くとき限定で打ち合わせしてもらっています。
津金一日学校は、現物支給でお米を30キロもらったりしています。
そうなってくると、お金を稼ぐことということが仕事の定義なら、
これらは仕事ではなくなってきますよね。仕事の定義があいまいになってきます。
お金をもらえる仕事もあれば、もらえない仕事もあれば、払う仕事もある。
お金を軸に考えるとそうなっていておもしろいですね」

仕事はお金を稼ぐものという当たり前の概念も考え直してみると、
自分にとっていいワークライフバランスが見つかるかもしれない。
地域も、仕事も、お金も、“パースペクティブ”を変えてみれば、
新しい地平が見えてきそうだ。

ワークショップに参加する豊嶋さん。枝を折っている?

後編【音楽も地域も生活も、“ものの見方”を変えたなら。豊嶋秀樹 後編】はこちら

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