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音楽も地域も生活も、
“ものの見方”を変えたなら。
豊嶋秀樹 後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.029

posted:2015.12.1   from:栃木県那須塩原市  genre:活性化と創生 / エンタメ・お楽しみ

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

editor’s profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Kiyoshi Tanaka(NIPPA米)

前編【目線を変えることで新しい働き方が生まれる。豊嶋秀樹 前編】はこちら

アーティストの違う側面が見られるイベント

〈gm projects〉の豊嶋秀樹さんは、多くの地方で、
さまざまなワークショップやイベントを開催している。
なかでも豊嶋さんらしいところは、
これまでのアート活動の人脈で培ったアーティストやクリエイターが
ふんだんに登場することだ。

「アーティストやクリエイターって、専門の職能だけではなく、
違うことをやったとしてもおもしろい人が多いんです。
だから、いろいろな役割で関わってもらうようにしています」

だから、できあがるものはアート作品でも展覧会でもなく、
音楽イベントであったり、ワークショップの集まった学校形式だったりする。

今回参加させてもらったワークショップで、開催前の挨拶をする豊嶋秀樹さん(左)とミュージシャンの坂口修一郎さん(右)。

例えば〈岩木遠足〉。
青森の岩木山麓で育まれた風土や文化を体験する遠足型のイベントで、
2009年から13年にかけて行われた。ねぷた製作の現場やこけしの工人、
縄文遺跡などを訪れ、マタギ体験も行った。
それらの場所にはバスで向かうのだが、
そのバスガイドがクリエイターやアーティストだったりする。
バスガイド役とはいえ、話す内容は自分のこと。
この移動がレクチャーの時間になっているのだ。
最近ではこのイベントをまとめた
『岩木遠足 人と生活をめぐる、26人のストーリー』(青幻舎)を
上梓したばかりでもある。

例えば〈津金一日学校〉。
山梨県北杜市で開催されたイベントで、
今は使われなくなってしまった木造校舎に1日だけの登校日をつくった。

「僕は教育者ではないので、普通に子どもたちに教えることはできないし、意味がない。
自分の小学生時代を振り返ってみると、授業の内容よりもむしろ、
おもしろい先生がいたという記憶が鮮明に残っているんです。
だから“おもしろい大人”に会える場所にしようと考えました。
そこで子どもたち30人の先生役として、
いろいろな意味でクリエイティブな人たちを招くことにしました」

参加したのは鉄割アルバトロスケットの戌井昭人さん、
珍しいキノコ舞踊団の伊藤千枝さん、サバイバル登山家の服部文祥さん、
音楽家のトウヤマタケオさんなど、多様な面々。
この日は授業参観日という設定にした。だから子どもたちを対象にしながらも、
後ろで大人たちも熱心に聴いているという入れ子構造だ。

「アーティストは作品で見せるのではなく、
先生として子どもたちにわかりやすく話さないといけません。
すると大人たちにも伝わりやすいのです」

参加した音楽ワークショップの会場となった〈森をひらくこと、T.O.D.A.〉。

例えば〈陸前高田ミーティング(つくる編)〉。
現地で何かをつくっている人を訪ねて回る、2泊3日の合宿スタイル。
仮設住宅で手芸を教えていたら自然とでき上がったコミュニティや、
英語で震災体験を綴っている人など、アーティストではなく普通の人を訪れた。

「震災ですべてを失いながらも、
何かをつくることで日々の自分自身をつなぎとめている人たちと直に出会うことが、
重要ではないかと思いました」

陸前高田ではかさ上げ工事を行っているが、
「盛り土を山から直接、長いベルトコンベアのようなもので運んできている」
というような壮絶な仕事。それも風景を“つくる”のひとつであり、みんなで見学した。

「手芸も別に発表することはなくて、ただつくっているだけ。
つくっているという行為と、つくっている時間に意味があるんです。
このように、つくることで生かされているという現状もあります。
つくることは、原始的なモチベーションに作用するんですね。
自分たちの“生きるをつくっている人たち”から、
“つくる”とは何か? ということを感じました」

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いよいよ音楽ワークショップが始まります!

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坂口修一郎による音楽ワークショップ

栃木県の那須に、豊嶋さんがディレクションをしている
〈森をひらくこと、T.O.D.A.〉というスペースがある。
そこでは豊嶋さんが企画するイベントなどが行われているが、
その中から、あるイベントに参加してみた。
ダブル・フェイマスというバンドの坂口修一郎さんによる音楽のワークショップだ。

参加者の持ち物は、“音の出るもの”。楽器でなくてもいい。
20名程度の参加者を見てみると、ギターやおもちゃのタイコを持ってきた人もいれば、
お皿やメジャーカップ、ペットボトルに豆を入れてきた人もいる。
豊嶋さんはというと、外で拾ってきた木の枝を持っている。
パキッと折る音で参加するようだ。

床に枝を並べる豊嶋さん。枝も立派な“楽器”だ。

よく見ると計量カップ。叩くもの次第で音が変わる。

それらを使って、みんなで音楽をつくって録音してしまうおうという試みだ。
まずはみんなの持ってきたもので音を出してみる。
ドンドン、コンコン、シャカシャカ、シャンシャン、いろいろな音がある。
これを坂口さんがバランスを考えながら、みんなに役割を振り分けていく。
最初は単純なリズムだったが、だんだんと裏打ちを使ったり、ブレイクを入れたり、
速さを変えたり、複雑なリズムをつくっていく。
その上に坂口さんがトランペットでメロディを乗せていく。
こうしていろいろな音色やリズムを重ねることで、曲はでき上がっていくのだ。

「音楽の自由さを伝えたい」と坂口さんは言う。
「西洋音楽が現代の音楽のルールをつくりましたが、
逆に言えばそれに縛られて不自由なわけです。
世界のエスニック音楽やワールドミュージックと呼ばれるものは、もっと自由。
だから音楽をやったことのない人とコラボレーションすることは、
おもしろいものが生まれる可能性を秘めています。
同じ曲でも、演奏する人によっても、場所によっても変わってきます」

実際、演奏したベースの曲は、
ダブル・フェイマスでもよく演奏するというという民族音楽。
それがまったくの素人の集まりが演奏するとどうなるか。
録音した曲を聴いてみると、もちろんプロとはほど遠い作品。
しかし、どこか懐かしく、プリミティブな衝動があった。
“そこにいる人たちで、できることをやっていく”というのは、
前編でも紹介した豊嶋さんにチームづくりにも共鳴するようだ。

何かわからない鉄製の板のようなもの。いい音が出れば良し!

指揮者のごとくキューを出していく。

このようなイベントを通して、豊嶋さんが伝えたいこと。

「こういう“もの”があるよではなく、こういう“やり方”があるよという提案です。
そういうやり方で自分のまちを見てみたら、新しい発見があるかもしれません。
もちろん、岩木なら岩木のすばらしさを参加者が発見して、
それ以降にも訪れてくれたらうれしいけど、
岩木遠足で感じた“ものの見方”を、
自分たちのまちや生活のなかで生かしていけることのほうが
よほど重要だと思っています」

豊嶋さんが伝えたいのは、ものの見方=パースペクティブを変えること。
かつてアート青年だった豊嶋さんがアートから学んだことは、それだった。
たくさんの視点を持てることが、多様な社会への道かもしれない。

そうなれば、未来はこうなっているかも。
「やらざるを得ないのではなく、選択できる状況になったらいいですね。
選択肢を持てる職業や人生が、自由な社会だと思っています」

ここはプロの腕の見せどころです。

この列はシャカシャカ部隊。

Information


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T.O.D.A 

住所:栃木県那須塩原市戸田12–1

http://www.toda.jp.net/

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