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安曇野で
世界でも珍しいビオホテルを
八寿恵荘 後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.027

posted:2015.11.17   from:長野県北安曇郡  genre:旅行

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photo

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

前編【健康や自然環境に配慮した“ビオホテル”が日本にも誕生!八寿恵荘 前編】はこちら

カミツレの里・沿革

紅葉の美しい秋の日。
北アルプスの山々に囲まれた豊かな自然の中。
コロカル取材班は長野県北安曇郡池田町にあるカミツレの宿〈八寿恵荘〉を訪れた。
今年5月に誕生した日本で第一号の“ビオホテル”である。

“ビオホテル”とはオーガニックでエコなホテルの認証。

もともと八寿恵荘は農薬不使用カモミールの商品開発で知られる
カミツレ研究所の保養施設としてつくられた。
カミツレ研究所には有機カモミール農園と工場、有機野菜の畑があり、
敷地面積は約4万坪。
カモミールを用いた入浴剤やスキンケア商品を製造・販売している。

建材、環境、寝具、食事など、自然素材にこだわり
安心して心地よく過ごせる宿として
今年5月にリニューアルし、“ビオホテル”として認証された。

この日はちょうど有機栽培されたジャーマンカモミールの定植の作業中。
カミツレとは薬効成分のあるハーブとして知られるジャーマンカモミールのこと。
保湿効果、そして消炎に効果があると言われる。
日本でも古くから漢方薬のひとつとして使われてきた。

八寿恵荘を経営する
株式会社相互のカミツレ研究所の北條裕子さんにお話をうかがった。

日本で第一号の“ビオホテル”。安曇野にあるカミツレの宿 八寿恵荘。

「父は安曇野で生まれて、東京に印刷会社・株式会社相互を立ち上げたんです。
1982年 ハーブティーなどの文化が日本に入り始めたころ、
ハーブの印刷物を扱ったんです。それが父にとってハーブとの最初の出会いで、
それをきっかけにハーブの事業を始めました。私はそれを引継いだんですね。
ちょうどそのころ父は喉頭がんを患っていたんですが、
先生に漢方を薦められて、完治したんです。
自分が助けられた植物でみなさまのお役に立てないかと考え、
薬効の高いと言われるカモミールを広げていこうとハーブの事業を立ち上げた。
つくるなら安心・安全なものがよいだろうと、
原料から国内でつくっていこうと研究をしていて、
それを大学生の私はずっと見ていたんですね」

最初は印刷会社のなかの一部門として立ち上げたハーブ事業。
事業としては今年で34年目になる。
北條さんがカミツレ研究所として引き継いで20年。
6年ほど前に安曇野に〈カミツレの里〉をつくったが、
3年前に無垢の木を使ってリフォームする計画が立った。

「そんなとき、日本ビオホテル協会の中石和良さんと中石真由子さんと知り合い、
ビオホテルの存在を知りました。
日本ビオホテル協会さんの向かっている方向と
八寿恵荘の目指す方向は一致したので申請させていただきました」

もともと食材や調味料にはこだわり、お風呂の洗剤も無添加のものを使っていた。
それをリニューアルを機にリネンや床、
ボイラーなども含めて徹底して環境と健康にこだわるつくりにしたという。

カモミールエキスのお風呂。窓から安曇野の自然が一望できる。カミツレ研究所ではシャンプー、石けん、ボディソープなどカモミールエキスを利用した商品をつくっている。

ビオホテル認証の条件

一般社団法人日本ビオホテル協会(以下BHJ)の、ビオホテル認証の条件は厳しい。

 1. 食べ物、飲み物は基本的にすべてがBHJ認証のものであること
 2. ボディケア・スキンケア用品にはBHJ認証を受けた製品を使用すること

提供する食材・食品や製品などについては、原材料の栽培方法、成分、加工工程、
さらに流通過程にわたる詳細なガイドラインが設定されている。
生産者や生産地、栽培方法、加工工程、流通過程が明確なこと、
健康を害する物質を使用していないこと、
生態系や環境への負荷に配慮した生産方法でつくられた生産物や食品、
製品であること、可能な限りその近郊の地域のものを選ぶことなどを
ガイドラインに定めている。

さらに、 タオルやベッドリネンがBHJ認証のものであること、
施設・建物の内装材、建材などが自然素材であること、
CO2削減を中心としたエネルギー資源マネージメントに取り組むことなどを
推奨している。
食べ物、飲み物の設定基準は、
達成度合いに応じて「リーフ数」により格づけされる。
ミシュランの星の格づけのように葉っぱの数で評価し、
5リーフと4リーフに格づけされた宿泊施設がビオホテルとして認証される。

「認証にあたって、いかに環境に配慮しているか、
館内がどれだけ自然なものを使っているかを徹底しました。

日本で第一号のBIO HOTEL®認証。一般社団法人日本ビオホテル協会は、ヨーロッパのビオホテル協会(Die BIO HOTELS)と連携して、健康と環境に配慮したホテルの認証を行っている。

8種類の木を使った天然素材ホテル

クリ、スギ、アカマツ、サクラ、タモ、ケヤキ、ナラ、ヒノキ。
基本の木材は地元、長野県池田町の8種類の木を使っている。
長野県大北地域、一番遠くても長野県内の材。
それぞれの木の特徴を生かし、床材はアカマツ、柱はヒノキ、など。
建築はエコ建築で有名な山田貴宏さんにお願いした。

「木のぬくもりを感じてほしいので、スリッパを履かずに済むよう
床暖房を入れました」と

床暖房のためのボイラーもこだわった。
通常ボイラーは灯油を大量に使うが、八寿恵荘では
間伐材や松くい虫でやられたアカマツをチップにして
床暖房やお風呂を沸かすボイラーに使っている。

「松くい虫の被害にあった木はまちの外に持っていくことができないんです。
伐採して燻蒸するなど、地域で処分する必要があります。
それをチップにしてボイラーで活用しています」

カミツレ研究所の商品のメインとなるのはカミツレエキスの入浴剤。
34年間つくり続けている。
これをウッドチップのボイラーで沸かしたお湯に入れた
“華密恋(かみつれん)の湯”が八寿恵荘の自慢。
土日祝日は日帰り入浴も可能になっている。

「タオルやベッドリネンは、オーガニックコットン100%のもの。
枕カバーはカモミール染めをしています」

使い捨てのカミソリ、歯ブラシなどを置かずに、
洗面用具は持参してもらうようにお願いしているという。
そのかわりカミツレ研究所でつくられたスキンケアの商品は
各種、館内にて自由に使うことができる。
宿泊される方に会話をしてほしいからとテレビも置いていない。

木材は地元、長野県池田町の8種類の木を使用。それぞれの木が部屋のキーホルダーになっている。

こだわりのオーガニック食材

認証取得にあたり一番苦労したのは食材だという。
BHJの基準では、すべて無添加のもの、無農薬のものを使わなければならない。
自社の菜園での有機野菜の栽培があるものの、すべての食材というのはとても大変。
有機野菜販売のネットワークを利用したり、
地域の伝統的な食材、食文化を取り入れるなどの工夫をした。

「宿泊される方に昔ながらの薪割りとかまど炊きを体験してもらおうと、
かまどをつくりました。宿泊者の方と一緒に薪を割り、
かまどで地元、池田町の有機栽培コシヒカリを炊いています」

その日出された夕食は、自社農園で採れた有機野菜やカモミールの天ぷら、
カモミールとじゃがいものコロッケ、
洋梨とカモミールのサラダといったカモミールを使ったオリジナル料理。
メインは信州味噌と長野県産のハーブ鶏のグリル。
地元の金糸瓜、自社の畑でとれたナスタチウム、
しめじとほうれん草のおひたしなどだ。
ご飯はかまどで炊いた地元池田町の有機コシヒカリ。キノコと里芋のお味噌汁。
池田町の地酒で蒸したしいたけ。間引きした玉ねぎのポトフなど。
「ここでしか食べられない地場の食べ物を出していけたら」と、
料理人の小林佐和子さん。食を通して地域のつながりをつくっていきたいと考える。

野菜は自社の畑か地元池田町のもの。キノコなどは一部、有機野菜販売のネットワークも使用している。オーガニックで地産地消の食材や調味料を使うこともビオホテルの認証基準。

有機野菜は可能な限り、自社の畑でつくっている。

ご飯はかまど炊き(有料)。三重県の愛農窯。ピザの石釜にもなる。宿泊者は薪割り体験もできる。自分で割った薪で炊いたご飯は格別。

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安曇野の清らかな水と澄んだ空気のなかでつくられるカモミール

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有機栽培カモミール畑へ

5月中旬から6月上旬、北アルプスの山々に囲まれた
豊かな自然の中にあるカミツレの里は、
あたり一面が満開のカモミールで覆いつくされ、甘くやさしい香りに包まれる。
自社農園の約8000坪の畑だ。北條さんの案内でカモミール畑を見せていただいた。
「カモミールは江戸時代の末期にオランダから入ってきたんです。
いまハーブといわれるものが数千種あるんですが、
ジャーマンカモミールは日本で薬として使われていました」

カモミールは大きく分けてジャーマンカモミールと
ローマンカモミールの2種に分かれる。
そのなかで薬効成分が高いと言われるジャーマンカモミールの日本名がカミツレ。
カミツレは江戸末期から風邪薬、湿布薬に使われていたという文献が残っているという。

「カモミールの花頭にアズレンという消炎効果がある成分があります。
喉スプレーや花粉症の目薬などにも使われている成分です。
茎や葉っぱにも保湿など、多岐にわたる効果が期待されます。
ハーブティーなど飲用にも多用されているのです」
そこを利用しようと考えたという。

カミツレは長野県安曇野の清らかな水と澄んだ空気のなかでつくられている。全国の契約農家と、自社の畑、あわせて725.5アール。

花だけでなく茎と葉も使う栽培は何倍も手間がかかる。カモミールの苗を間隔をあけて定植する。すべて手作業だ。八寿恵荘では定植体験のツアーもやっている。

「カモミールは花しか使われないことが多いんですけど、
茎や葉っぱにも薬効成分がある。私たちはその全部を使おうと考えました。
精油などは一般的には水蒸気蒸留で、熱を加えるので
有効成分が半分くらいに壊れてしまうことがわかっていました。
私たちはチンキのようにアルコールにつけて抽出します。
そうすると100%近く成分が引き出せるんです。約30日間浸して成分を抽出します。
水蒸気蒸留とアルコールでの抽出の比較データを取ったんですが、
保湿・消炎の効果がぜんぜん違うんです。

アルコール抽出法は時間も手間もかかる。
また花だけを使う栽培に比べ、茎と葉も使う栽培は何倍も手間がかかる。

「ドイツのオーガニックコスメのメーカーWELEDA社の方も見学にいらして、
こんなに手の込んだことをやっているのは世界でもここだけだと驚かれていたんです」

カミツレ研究所では安曇野以外でも全国8か所で
農薬を使わないカモミール栽培を行い、
世界でも最高グレードの有機カモミール製品をつくっている。

木琴になっているテーブル。

11年続く、アトピーツアー

北條さんにこれまでの八寿恵荘で印象的なエピソードをお聞きした。

「アトピーの子どもたちを迎えて、自然のなかで過ごしてもらう自然体験教室を
11年続けているんです。とても喜んでいただいて、
お礼の連絡をいただいたのがうれしかったです。
自然体験教室ではお医者さんに同行していただいているので、
子どもたちにやりたいことをなんでも自由にしてもらいます。
ここに来たら子どもたちに土に触れてほしい。
玄関に土間もつくったし。裸足で床に触れてほしいと、
スリッパをやめて床暖房にしています。
壁を触って木や土のぬくもりも感じてほしいですね。
かまど炊き体験や自然体験など、普段できないことが全部できたと喜ばれました」

また、ピンクリボンの宿にも指定されているので、
乳がんサバイバーのツアーなどでも施設を利用してもらっているという。

最後に八寿恵荘の“八寿恵”とは? と聞いてみた。

「“八寿恵”とは私の父の母親、私のおばあちゃんの名前なんです。
昔、泥のついた大根をよく持ってきてくれました。
私にとっては、ここはそんな思い出の場所でもあるんです」

カミツレの宿 八寿恵荘を経営する株式会社相互 カミツレ研究所 代表取締役社長の北條裕子さん。

Information


map

八寿恵荘

住所:長野県北安曇郡池田町広津4098

http://yasuesou.com/

一般社団法人 日本ビオホテル協会
BIO-HOTELS Association JAPAN
http://biohotels.jp

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