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〈MTRL KYOTO
(マテリアル京都)〉
京都の一軒家をリノベーション。
素材と向き合う
コワーキングスペース

ロフトワーク
ローカルビジネス・スタディ
vol.004

posted:2015.11.27   from:京都府京都市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。

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Tatsuya Iwasaki

岩崎達也

いわさき・たつや●兵庫県三木市出身、関西大学文学部卒。2008年リクルートコミュニケーションズ入社、Web新規事業開発チームリーダーを務めたのち、楽天でソーシャルメディアマーケティングを担当。 京都の雑貨店Buddy tools開業と同時期に、2014年ロフトワーク(京都)へ入社し東京から京都へ移住。クリエイティブディレクターとして制作を担当する他、コワーキング施設「MTRL KYOTO」の立上げを担う。

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Loftwork

ロフトワーク

ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/

Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの“デザイン”を手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈ロフトワーク〉がお届けする
「ロフトワーク ローカルビジネス・スタディ」。
4回目は、ロフトワークが新しく京都につくるコワーキングスペース
〈MTRL KYOTO(マテリアル京都)〉について。
なぜ京都に、古い家をリノベーションして、新しいスペースをつくるのか。
なぜ“マテリアル”なのか。
MTRLのプロデューサーの岩崎達也がその理由を語ります。

「京都で、ロフトワークだからこそできるおもしろいことをしよう」

設立4年目を迎えるロフトワーク京都オフィスに入社した2014年、
私は社内で頻繁にこの言葉を耳にしていました。

Web、空間、プロダクト、イベント、そして京都。
多様な領域で実績を積み重ねてきたロフトワークだからこそできることってなんだろう?
という問いかけと、何かやってやろう! というみんなの野心めいたものが
〈MTRL KYOTO(マテリアル京都)〉構想へとつながっていきます。

そうして完成するMTRL KYOTOは、京都の河原町五条エリアにある
大きな一軒家をリノベーションしてつくるオープンなコワーキングスペース。
長い歴史を誇る西陣織や、最新の人認識センサーなど、国内外から集めたユニークな
“素材(マテリアル)”と、3Dプリンターやレーザーカッターといった
デジタルファブリケーションマシンを常設します。

京都で活動する個人クリエイターはもちろん、
チームでの打ち合わせや共同制作などにも適した、
新しいインスピレーションを提供する場所にすることを目指しています。

なぜ京都にMTRLをつくるのか?

私を含め多くのロフトワークの社員は以前東京で働いていましたが、
それぞれに縁とゆかりのある京都へ移住してきました。
そんな私たちが日々の京都暮らしの中で感じることを挙げてみると、

・まち中に国宝や伝統工芸品が溢れている
・それでいて、最先端のテクノロジーを生み出す企業や学術機関が多い
・カフェや書店にアートなど、独自のローカルカルチャーが根づいている
・老若男女、外国の方々、さまざまな人たちがまちに馴染んでいる

などなど。

そこで私たちは気がついたのです。
これらを俯瞰して見てみると、めちゃくちゃユニークだぞ、と。

長い歴史とこれからの可能性。
ローカルとグローバル。
個人商店と大企業。
伝統産業と最新テクノロジー。
表面的には相反しそうな事柄が、絶妙のバランスで融合して成り立っているのが京都なんだ。

ここ京都なら、ロフトワークのクリエイティビティを使って、
未来を提示する場所をつくれんじゃないか。
世界中からクリエイターが集うコワーキングスペースにする?
伝統工芸品やテクノロジーを掛け合わせてみようか。
典型的な京町家ではなくあえて違う建物でやろう!

そんな風にみるみる点が線で繋がって、
とても自然な流れでMTRLプロジェクトは立ち上がりました。

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一軒の物件との出会いがプロジェクトを加速させる

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どうやって空間をつくるのか?

ある日、河原町五条というエリアの物件が空いているという一報が入ってきました。
建物は、かつて印刷工場や新聞社だった築120年、木造3階建ての不思議な一軒家。

1階はガレージ、

2階は和室、

3階は洋館。

この歴史あるカオティックな一軒家をリノベーションして、
新しい空間づくりを進めていくこととしました。

設計をお願いしたのは、茶室をつくる数寄屋大工として修行を積まれた、
建築家の佐野文彦さん。
日本の木造建築を理解しながら、未来を感じられるチャレンジをしてくださる方です。

建物が決まったことによって、物事は急ピッチで動き出していきます。

マテリアル素材を選ぶ

世の中は “素材” でできている。
素材と向き合ったものづくりをすることで、世の中をより良くおもしろくしていく。

このコンセプトを体現するために集めた”素材”は実に多種多様です。

京都の伝統的な西陣織、北山丸太、くみひもに始まり、
最新のテクノロジーを駆使したセンサーやマイコンチップ、そしてリサイクル端材まで。

新しいも古いも、かたちあるものもないものも、すべて”素材”と捉えて、
これまでの用途とは違う使い方を考えたり、見る角度を変えてみたりする。
そうすることで “化ける” 素材が必ず出てくると思うのです。

完成までのプロセスをリアルタイムに共有して、
ステークホルダーを巻き込む

MTRLをつくるに当たり、私たちがとても大切にしていたことがあります。
それは、”京都にきちんと根ざしながらも、グローバルを見据える”ことでした。

その想いが正しく伝わるようにするにはどうしたらいいのだろうか?
移転先の地元のみなさんを戸惑わせてしまう黒船襲来になってはいけない。
私たちの自己満足になってしまってはいけない。

こだわったことは、”完成までのプロセスを徹底的にオープンにしながら、
ステークホルダーの皆さんをプロジェクトメンバーとして巻き込むこと”でした。

ご近所のすてきなスポットにうかがい、ブログで紹介したり、

建築の進捗をシェアしたり、

マテリアル素材を提供くださるメーカーさんに取材にうかがって
レポート記事を制作したり、

興味を持ってくださりそうな方々をご招待したり、建築途中の空間でイベントを実施したり、

hiromi maeoさんに制作プロセスを公開いただいたロゴデザインは、
MTRLのオープン前にもかかわらず海外メディアを中心に話題に。

完成時に大きな花火を打ち上げるのではなくて、少しずつ木に水をやり肥料を与えて、
根の深い大樹へと育てていくようなイメージで、
オンライン・オフラインを駆使しながらプロジェクトをデザインしていきました。

プロセスをオープンにするということにはリスクも伴います。
予定通りにうまくいかなかったことが見えてしまったり、
競合他社に真似をされてしまったりすることもあるかもしれません。

それでも私たちは、オープンにして本当に良かったと思っています。

たくさんの方々がプロジェクトの当事者になって、完成を楽しみにしてくれている。
その状態をつくれたことが何よりの理由です。

これから

MTRLは京都にくわえ、東京の渋谷にもオープンします。
台北やバンコク、バルセロナやなどグローバル展開を進めている
FabCafeとのシナジーもつくっていきたい。
企業や学術機関とのコラボレーションの話もいくつか進行中。
私たちのチャレンジはまだ始まったばかりです。

最後にお伝えしたいこと、それはこの記事を最後まで読んでくださったみなさんに、
ぜひMTRL KYOTOへ遊びに来てほしいということです。
みなさんとなら、きっと一緒に楽しいことができるのではないかと思っています。
またいつか、お会いできることを楽しみにしています。

Information


map

MTRL KYOTO 
マテリアル京都

住所:京都府京都市下京区本塩竈町554
アクセス JR京都駅徒歩15分/京都市営地下鉄五条駅徒歩7分/ 阪急京都線河 原町駅徒歩10分/京阪電鉄清水五条駅徒歩3分

TEL:075-708-2593

営業時間:月~金 11:00-22:00

定休日:土日祝休(イベント除く)

https://mtrl.net/
https://www.facebook.com/material.kyoto

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