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説得に3年。
元資材置き場が生まれ変わった。
〈KUHONJI GENERAL STORE〉
ASTER vol.1

リノベのススメ
vol.091

posted:2015.11.5  from:熊本県熊本市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

SHOTARO NAKAGAWA

中川正太郎

ASTER代表。1977年熊本市生まれ。20代前半から建築現場や家具店など内装に関わる職を経て、
2003年よりASTERで活動開始。ASTERは、熊本県内を拠点に個人住宅、店舗、賃貸物件などデザイン・設計・施工を一貫して行うリノベーション集団。ほかに、運営する“街のよろず屋”KUHONJI GENERAL STOREや、熊本のマニアックな物件を紹介するサイト「あんぐら不動産」なども企画運営している。

ASTER vol.1
妄想を、最高のかたちにする。

みなさまはじめまして。ASTERの中川と申します。
僕たちASTERは熊本市を拠点に活動している内装屋です。
個人住宅、賃貸物件、店舗などのリノベーションを主に
デザイン、設計、施工まで行っています。

この連載では僕らがこれまで実際に関わってきた物件事例をベースに
僕らが思う熊本の魅力的な建物、場所、人を紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

まず初回なので僕が今の仕事をすることになった経緯と
今僕らで運営している店をつくった話をしたいと思います。

僕はもともと建築の知識や興味があったわけではありません。
二十歳ぐらいの頃、建設現場でのアルバイト経験をきっかけに、
その後熊本市内の新規オープンの家具屋へ就職しました。
はじめは家具の配送と接客をやっていて、
後に住宅のリフォームコーナーへ配属になりました。
この頃から内装にも徐々に興味がわいてきたのだと思います。

ようやく仕事にも慣れたころ、
実家から仕事を手伝ってくれとの連絡が。
僕の実家は熊本市内にある畳屋。
畳屋といってもつくるのではなく、
畳をつくる畳屋に材料を卸す畳資材の卸売業をやっていました。
内装工事部門もあり、そこの人手が足りないということで、
僕は実家に戻ることになりました。
まあ内装の仕事はインテリア関係だからいいかと。
それが現在のASTERです。

理想と現実のギャップ

戻ってきたからには、
やる気を出して頑張ろう! カッコいい空間をつくるぜ!
と奮起していましたが、そんな気合いは空回りしました。
当時の仕事は地場の工務店や不動産屋の下請け業務。
特に賃貸アパートの原状復帰がメインでカッコいい空間とはほど遠く、
どれも同じ内装ばかり。
毎日決まった同じ品番の壁紙の張り替えを、
職人さんへ依頼することが僕の仕事でした。
仕事だから文句は言えないけど、さすがにずっとそれじゃつまらない。
部屋に合わせて壁紙を選ぶことなど現在では当たり前ですが、
当時はもとの壁紙と同じ柄を探す行為が、唯一壁紙を選ぶというものでした。

いつか自分たちで自由に考えたカッコいい空間をつくってみたい。
でもやり方がわからない。
そんな想いを常に抱いて日々過ごしていました。

リノベーションとの出会い

たまに県外などへ行ったときはいろんなショップ巡りをするのが
当時の僕の楽しみでした。
そして2003年。
たまたま大阪のインテリアショップでみつけたフライヤーに
こんな言葉が書いてありました。
「STOCK×RENOVATION」
大阪を拠点に活動されている業界の先駆者、
〈アートアンドクラフト〉が開催していたリノベーション展のフライヤーでした。
古い空間が魅力的に改修されていて、とにかくカッコいい。
「コレばい!」と直感的に思い、冊子『STOCK×RENOVATION』も取り寄せました。

アートアンドクラフトが2003年に出版した『STOCK×RENOVATION』の冊子。

実家の仕事に違和感を感じていたなかで、
初めて知った“リノベーション”という方法。
「僕がやりたかったのはこんな空間づくりだ!」
と、リノベーションについてすぐに調べ始めました。
そうして知ったのがデザインだけでなく、
日本は欧米に比べ、家の平均寿命がとても短いことや、
年々空き家が増えて家が余っていることなど、
日本の住宅事情について、このとき初めて知りました。

そしてリノベーション事業の草分け会社である、
東京の〈ブルースタジオ〉を知り、
パイオニア的存在であるこの2社に憧れ、
このときをきっかけにただの内装会社から、
物件の価値を高めることができる
リノベーション専門の内装屋へなることを目指しました。

もちろん最初はほとんどリノベーションと言える仕事はなく、
内装の手直し工事やリフォームばかりでしたが、
目指すところがあると俄然日々の仕事もやる気がでます。
その後、徐々に熊本にもリノベーションという言葉が露出し始め、
2007年ごろから僕らも少しずつですが仕事の依頼が来るようになってきました。

僕らがリノベーションをするとき、
使用する建材やパーツに特にこだわります。
建材店や近くのホームセンターには好みの建材やパーツが売っていないこともあるので、
インターネットで建材をよく買っていました。
そしてスタッフとともにいつも言っていました。

「近くにこんなお店あったらいいよね」と。

それでだんだんと欲求が高まり、
僕らが使いたい建材やパーツをストックして置く場所がほしい。
いや、いっそのことショップにして販売もしよう!
と、自分たちの店をつくる目標ができ、熊本市内で突如物件探しが始まりました。

岩崎ビルとの出会い

僕らの事務所は熊本市内の九品寺というまちにあります。
熊本城やアーケードがある中心市街地から徒歩圏内にあり、
学校なども多いエリアです。
数年前、いつも通る道路で信号待ちをしていて、
ふと横を見ると、とても魅力的な建物が。
ずいぶん昔からあったようけど特に気に留めることもなかったビル。
ただじっくり見るとなんとも魅力的なビルでした。
築48年。RC造3階建で、建築資材屋さんが所有する〈岩崎ビル〉でした。

施工前の岩崎ビル外観

外壁に貼ってある渋いブラウンのタイルや
2階部分のスチールサッシなど
48年前の建材がそのまま残っている建物はほかにない味わいがあり、
ここで僕らの店ができたら最高だなと勝手に妄想が始まりました。
そうして僕は居ても立ってもいられず
大家さんのところへこの場所を貸してくれないかと交渉に行きました。

もともとは建材屋さんの資材置場だった。

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大家さんの返答は、まさかのNG?!

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大家さんと3年にわたる、交渉

当時、1階は資材置場として大家さんが使われていたので、
そこを貸してくれと頼みに来た僕は相当不審者(笑)。
当然のごとく断られましたが、
あきらめきれず定期的にこの大家さんのところへ説得に通い始めました。
僕がこの場所でどんなお店をしたいのか、
古いビルでもリノベーションで魅力的に生まれ変わることや、
現在は資材置場だけど立地がいいのでお店に向いていること。
また賃貸収入も入りビルも活性化して価値も上がることなど切々と説明しました。

しかし、なかなか大家さんは首を縦に振らない。
あまりにもしつこく僕が来るので大家さんも居留守を使い始める始末。
そんな攻防戦が3年ほど続いたちょうどクリスマス時期のある日、
いつものように突然僕が訪れると、
いつもと少し様子が違う大家さんがこう言われました。

「君があんまりしつこいから身内で話ばしてみた。
たしかにウチでは物置きスペースでしかないこの場所を
有効に使ってもらえるなら貸してもいいんじゃないかという結論に至った。
近いうち荷物ば片づけるけん」

と、ついに大家さんから念願のOKの返事をいただき、
ビル1階部分、資材置場の約8坪のスペースを貸してもらえました。

長年妄想し続けたことが現実になるはじまりの瞬間でした。

いよいよお店づくり

店のコンセプトは「街のよろず屋」に決めました。
よろずや(万屋)とは多様な商品を扱う商店の呼び名です。
「よろず」とは“万”と書き、あらゆるものという意味を持つそうです。
昔は人口が少ない地域では需要がないため専門店が成立しづらく、
なんでも取り揃える「よろずや」と呼ばれる店が地方に多くありました。
現代ではよろずやはコンビニに変わってしまいましたが、
僕らは自分たちのまちに、
自分たちが欲しいと思うものが揃う“現代版よろず屋”をつくることを目指しました。

店名には九品寺という地名を入れたかったので
〈KUHONJI GENERAL STORE〉
呼び名は略して“9GS”。
熊本弁で言うとちょっと“しこつけた(格好つけた)”名前です。

いよいよ工事開始。もともと仕切りのない、
スケルトンの空間だったから解体工事は必要なし。
48年前のビルは現在ではつくり出すことのできないさまざまな味わいがあります。
長い時を経て出された味のある質感を最大限生かす内装プランにしました。
もともとあった荷物を撤去したらいよいよ大工さんが壁をつくっていきます。

施工前の内部

天井は昔の杉板1枚1枚の型枠模様が。

まずは奥にある大家さんの事務所との境界の壁をつくっていきます。

そして、道路側には新しく壁をつくることに。
光をたくさん取り込むのと、
ショップですから、
どんなものを売っているのか、外から見やすくするため、
大きなガラスのFIX窓(※開閉できない窓のこと)にしました。

サッシはオリジナルの鉄製。
色も鉄の素地そのままの色を生かした黒皮鉄仕上げ。
鉄のつなぎ目は通常、溶接しその溶接部分を削りきれいにするのですが、
その場合黒皮鉄の色が剥げてしまい塗装が必要になるため、
削らなくていいよう、
溶接も職人さんにお願いして最小限でしてもらいました。

入口は重厚感ある雰囲気にしたかったので、ドアも同じく鉄でつくりました。

ファサードの壁ができ、
鉄のサッシにガラスが入ると少しずつお店らしくなってきました。

店内からみると、こんな感じです。

通常の業務と並行しながらの工事だったので、
現場の打ち合わせは、仕事を片付けた夜に行うことも。
事務所から近いのでチャリンコで通いました。

店内はリノベーション空間のショールームも兼ねるので、
モルタル、ブロック、構造用合板など、
さまざまな仕上げの壁にしました。

自分たちでも壁を塗ったり、
什器の組立や棚の取付けなどできるところはスタッフみんなでやりました。

業務の合間に、スタッフで塗装しました。

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そして、ついに……!

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そしてついに、
全国のさまざまな場所で買い付けて来た商品たちを並べると
僕らのお店“KUHONJI GENERAL STORE”が完成!

DIYパーツや金物に加え、
そのほかにもスタッフみんなでセレクトした雑貨、照明、植物、コーヒーまで
僕らがこのまちで暮らして、欲しいと思うアイテムが
たくさん揃ったよろず屋ができ上がりました。

植物と鉢をセレクトしつくられたプランツたち。

ガラスのショーケースの中にはドアノブなどがズラリ。

コーヒー豆は熊本で人気の『AND COFFEE ROASTERS』のスペシャリティコーヒーを。

2014年12月、ついにグランドオープン。
完成後、あんなに反対していた大家さんが、
うれしそうに何人も知り合いの方を連れて来られました(笑)。
その後、ずっと空いていた2階にも入居希望者が現れ、
自分たちでDIYしすてきな革作家さんの工房兼ショップがオープンしました。
これまでずっと素通りされていたビルが、
今では活気溢れる場所へ生まれ変わりました。

お客さんが店内に入ることでいっきにお店らしくなります。

僕らは大きなまちづくりなどはできません。
ただ自分たちが住んでいるまちに
自分たちがいいと思う小さな場所をつくることはできます。
古い建物の価値を見つけだし、
その物件の価値に惹かれる人たちを建物へとつなげリノベーションしていく。
そこにできた小さくても新たな価値ある場所に
おもしろい人たちが集まってきて何かおもしろいことが起き始める。
きっとその繰り返しでまちはどんどんおもしろくなるのだと思っています。

僕らはそんなことを毎日楽しみながらやっています。

次回は同じ九品寺エリアにできたコンバージョン複合施設と
その中にできた新しい空間と働き方のお話をしたいと思います。

information


map

KUHONJI GENERAL STORE(9GS) 

住所:熊本市中央区九品寺4丁目1-6 岩崎ビル1F

TEL:096-372-9000

営業時間:10:00〜19:00

定休日:火曜

※駐車場無し
https://www.facebook.com/kuhonji.general.store

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