連載
posted:2015.12.13 from:熊本県熊本市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
SHOTARO NAKAGAWA
中川正太郎
ASTER代表。1977年熊本市生まれ。20代前半から建築現場や家具店など内装に関わる職を経て、
2003年よりASTERで活動開始。ASTERは、熊本県内を拠点に個人住宅、店舗、賃貸物件などデザイン・設計・施工を一貫して行うリノベーション集団。ほかに、運営する“街のよろず屋”KUHONJI GENERAL STOREや、熊本のマニアックな物件を紹介するサイト「あんぐら不動産」なども企画運営している。
みなさまこんにちは。ASTERの中川です。
今回はvol.1でご紹介しました僕らの店“9GS”がある
熊本市九品寺エリアに新しく誕生したコンバージョン複合施設の紹介をしたいと思います。
僕自身、この場所ができたことでまちへの想いと期待が高ぶりました。そんな場所です。
九品寺というまちは僕の地元。
小さい頃から学校の帰り道に毎日“ケイドロ”という遊びをしていた場所。
どうでもいいですが、ケイドロというのは警察と泥棒に分かれてやる鬼ごっこのことです(笑)。
最初に教室、次に校庭、そしてまちへと範囲がどんどん広がり、
僕らにとって、小さい頃から家と学校の間にあった
この九品寺のまち全体がケイドロの遊び場でした。
中心市街地にも歩いて行ける立地で熊本でも人気のあるまち。
でもラブホテル街もあるし教会もあるし公園もたくさんある。
カオスなエリア。
そんなエリアに昔から誰もが知る大きな邸宅がありました。
川沿いで角地という立地抜群で存在感のあるその邸宅は
最近ではずっと空き家になっていました。
この邸宅が現在では熊本でも話題の複合商業施設に生まれ変わり、
連日大勢の人が訪れるようになりました。
どういった経緯でそうなったのか。
まずはこの複合施設の紹介をしたいと思います。
名称は〈RIVER PORT9(リバーポートナイン、以下リバーポート9)〉
九品寺にある川沿いの船着き場という意味です。
築50年のRC造3階建ての邸宅をコンバージョンし、
レストラン、カフェ、アパレルショップ、ブライダルショップ、アンティーク家具店、
バーなどさまざまなショップが入る複合商業施設として、
2014年にオープンしました。
僕もオープンまでにアドバイザーのひとりとして参加させてもらったり、
リバーポートナイン9に入っているお店のひとつをASTERが手がけています。
この複合施設を企画からリーシングまで
トータルでプロデュースしたひとりの不動産屋さんがいます。
(株)トラスト・アンド・フィーリングス代表の久保貴資さん。
久保さんは熊本で不動産の売買や賃貸管理事業を行いながら、
複合ビルブランディングなどの商業施設の企画と運営をされています。
また、古い建物のコンバージョンやリノベーションの企画もされている、
感度の高い不動産屋です。
はじめ、この邸宅のオーナーさんは長く空き家になっている状態をどうにかしたいと、
いろいろな不動産屋へ相談されたそうです。
でも軒並み来る提案はどれも建物を壊して新築賃貸マンションか駐車場への提案ばかり。
そんななか、久保さんが出した提案は建物の歴史と素材価値をなるべく残し、
このロケーションをみんなで共有できる複合施設へのコンバージョン案。
もともとが母屋であり、
なるべくなら建物を残したいというオーナーさんの強い想いと一致し、
この建物の再生を請負うことになったそうです。
しかしプロジェクトを進めていくにあたり、いろいろな問題がでてきます。
そもそもこの九品寺エリア、商業エリアとしては微妙な場所でした。
住宅のほかに、近くにラブホテル街もあり、近隣に駐車場も少ない。
そして熊本市中心市街地から川を渡り
10分か15分ほど歩かないといけない微妙な距離。
なかなか歩く習慣が少ない熊本の人にとって
中心市街地からわざわざ川を渡って
九品寺エリアに買い物に来るなどあまり考えられませんでした。
でも建物の重厚なつくりや
窓から見える川の景色などこの建物のポテンシャルに魅力を感じた久保さんは
この場所でしかできないことを考えていきました。
まず、複合型の商業施設という形態をとること。
大きな1店舗にするのではなく、複数の個性あるお店が混在することで
集客の相乗効果を生み出そうと考えたそうです。
そして時間軸も考え、せっかく来てもらうのであれば
施設に3〜4時間は楽しんで滞在してもらえるような動線イメージで
テナント構成を企画しました。
そこで知り合いの飲食店や物販店などに声をかけ候補のお店を集めることに。
当初順調にテナント候補は集まっていきましたが、
ひとつのテナントがNGになると、
決まっていたほかのテナントもすべてNGになってしまったそうです。
話は振り出しに戻ってしまいました。
Page 2
それでもこの場所には、
やっぱり自分が理想とする感度の高いお店に入居してもらいたいと考えた久保さんは、
あらためてこの建物の雰囲気やロケーションの良さを知ってもらおうと、
来場者ターゲットを絞った内覧会を開催することに。
一般的な中古ビルやマンションの内覧会のように
物件のセールスポイントを押しつけるのはちょっと違う。
まず建物の内部を全て解体し、スケルトン状態を来場者に見てもらおうというのです。
そこへ空間デザイナーの川端あきさんに協力してもらい、
内装をはがした何もない空間に
アンティーク家具や雑貨をディスプレイ。
2日間の展示期間中は建築など各専門のアドバイザーが常駐し、
来場者に具体的な空間の使い方の提案などを行いました。
僕もこのアドバイザーのひとりとして参加させてもらったのですが、
Facebookのみの告知にもかかわらず100名ほどの来場がありました。
おそらく、熊本でも稀なコンバージョン複合施設で、
しかもビフォー状態での内覧会という希少性が
たくさんの人々の興味をそそったのだと思いました。
「何もない空間でそれぞれ何かをしたくなる気持ちを持ってほしかった」
久保さんは来場者ひとりひとりに丁寧にこの場所に対する想いを伝えていました。
そしてもうひとつ、施設を企画するにあたり
“デッキコミュニケーション”というコンセプトも。
施設に来るお客さん、働くスタッフ、そして近隣住民の方々。
みんなに笑顔が生まれるような人が集える共用スペースを
施設の中に設置しようというものです。
この共用部は川が見える一番ロケーションがいい場所に
広いウッドテラスとルーフトップをつくることに。
一般的な考えでは複合施設の場合、
共用部は家賃面積ではないため、最小限のスペースに抑える場合が多いなか、
リバーポート9では共用部を広くとり、開放しました。
カッコよく特別な共用部があるからこそ、専有部の価値に反映されると考えた提案でした。
そんな企画やイベントの成果もあり、結果、すてきなお店ばかりが
リバーポート9の住人として揃いました。
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3階建ての邸宅であったこの建物は、
各階さまざまな使われ方をしています。
最上階である3階はワンフロアで新しく独立開業されるレストランが。
2階には共用部のデッキスペースに、
カフェ、セレクトアパレルショップ、ブライダルメイクの3店が並びます。
1階には内覧会のインスタレーションを手がけた空間デザイナーの川端さんが運営する
アンティーク家具ショップと、オフィス&バーという新しい空間が。
この〈voyager〉は熊本でも数少ないクラフトビールが人気のバーです。
オープン以来、連日多くの人で賑わっています。
実はこのvoyager、バーとオフィスというふたつの空間が共存する少し変わった空間です。
あるふたりのオーナーが運営しています。
このvoyagerについては次回に詳しくお話したいと思います。
話は戻り、
こんなすてきなお店が集まったリバーポート9は
オープンから1年経った現在でも人気のスポットとして継続しています。
共用部のデッキスペースでは昼下がりに地元の人たちが散歩の途中でコーヒーを飲んでいます。
レストランはディナーの予約がなかなか取れないほどに人気です。
夜にはライトアップされたこの場所をめがけ、
中心市街地から川を渡って人々が歩いてくるようになりました。
少しだけ人の流れが変わったのだと思います。
リバーポート9ができたことによって。
以前、ある講演を聞いた時に印象に残っていた言葉があります。
「まちを変えるにはそのエリアの“核”となる場所を、まずはつくること」
その核となる場所を中心に人の流れが生まれ、
その周りにさまざまなお店ができ始める。
それが増幅していくことでそのエリアが変わっていくと。
僕はリバーポート9がこの九品寺エリアの核になる場所だと思っています。
ここを中心にして、おもしろい人たちを集めるしかけや
継続していくための仕組みをつくることができれば
これからいろんなお店が増えてまちが変わっていく。
僕が幼い頃はケイドロのエリアでありみんなの遊び場だったこの九品寺というまち。
大人になってもまだまだこのまちで遊びたいし
遊ぶ場所がなかったら自分たちでつくっていきたい。
最近はそんな想いで地元に対する期待感が高ぶっています。
次回はこのリバーポート9に誕生したオフィス&バーという新しい空間、
voyagerの誕生秘話をお話したいと思います。
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River Port 9
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