仕事柄、国内外の観光地を繰り返し歩いているが、
富山県の八尾(やつお)ほど過小評価されている土地は、少ないと思う。
八尾自体の知名度が高くないうえに、知っている人であっても、
八尾は「毎年9月1~3日に開催される〈越中八尾 おわら風の盆〉のまち」
との認識で終わっているはずだ。
「おわら」とは「おわらまつり」の略称で、秋の季語にもなっている。
まちの若い男女が三味線や胡弓などに合わせて踊り歩く
豊年祈念の行事であり郷土芸能だ。
おわらまつりの3日間で八尾には人口の100倍近い20万人以上の人が訪れる。
一転して普段は一部のイベント開催時を除いて閑散としている様子を見れば、
まちの世間的な評価はおおよそ察しがつく。

しかし、八尾は極端な言い方をすれば、
1年のうち9月1~3日を除く362日が実にいい。
その美しいまちを祭りだけで終わらせず、通年で盛り上げようと、
八尾で体験型宿泊施設を立ち上げた女性がいる。
本人の名刺に印字された通りに記せば、
〈株式会社オズリンクス〉の代表取締役「女将」、原井紗友里さんだ。
今回はその原井さんの挑戦を紹介したい。

風情あるまちに誕生した観光拠点
そもそも八尾という土地は、富山県の県庁所在地である富山市のほぼ外縁部にある。
県内最大のターミナルステーションである富山駅から
JR高山線が岐阜県高山市方面に延びており、その沿線に越中八尾駅がある。
富山駅から越中八尾駅は普通列車で30分ほど。
さらに駅から徒歩25分ほどの高台に、「八尾」と言われる古いまち並みが広がる。

浄土真宗本願寺派の聞名寺(もんみょうじ)。
井田川と八尾丘陵に挟まれる河岸段丘で、
江戸から明治に絶頂を迎えた聞名寺の門前町・八尾は、
まち全体が地形と地形の境界(エッジ)にあるため、高低差に富み、
景観の変化が豊かだ。街路も丁字路や鍵状路が多く、散策が実に楽しい。

家並みも完全ではないが修景が進んでおり、車の速度では確実に見落とすが、
徒歩でこそ気づく味わい深い路地や狭路があちらこちらに延びていて、
旅情を大いにかきたててくれる。
平日でも夜になれば、祭りに向けて稽古をする人たちの胡弓(こきゅう)や
三味線の音色が民家からもれ聞こえてくる。風情が極まる瞬間だ。
この八尾の魅力を伝えるべく、体験型宿泊施設
〈越中八尾ベース OYATSU〉を立ち上げた「若女将」が、原井紗友里さんだ。

〈越中八尾ベース OYATSU〉。旧商家を生かした八尾の観光拠点。
富山市出身の原井さんは、ユニークな経歴を持つ。
東京学芸大学に進学後、中国の青島にある日本人学校で4年間、教師を務めた。
帰国後は中国と富山をつなげる仕事がしたいと、
中国にも拠点を持つ県内の経営コンサルティング会社に入社する。
しかし、久々に帰ってきた富山は原井さんの目にとても美しく見えたそうで、
その良さが本当に「旅の人」たちに伝わっているのか疑問に感じ、
自分でも何かを始めたいと考えるようになった。
そこで1年間の就労を経てコンサルティング会社を退職し、
〈とやま観光未来創造塾〉グローバルコースの門を叩いた。
同コースは県内で外国人旅行者向けにツーリズム事業を立ち上げたいと考える人材に、
県が教育と訓練の機会を提供する場だ。
入塾に際して、希望者には厳格な選考が行われる。
原井さんは1期生として狭き門に合格し、半年間の集中的な教育と訓練を受け、
2016年に八尾の地で観光拠点を立ち上げた。


















































































