連載
posted:2018.12.1 from:北海道旭川市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ6年目へ。
舞台をイエノミからソトノミに移し、
“酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
credit
門脇雄太
帯広に続いて訪れたのは、北海道で人口第2の都市・旭川。
到着した旭川駅の広々としたコンコースでは、
誰もが思い思いに木の椅子やモダンなソファでくつろいでいます。
これは今年5月に誕生した〈旭川家具ラウンジ〉で、
旭川で受け継がれてきたクラフトマンシップを、
地元の人にも知ってもらいたいという新たな試み。
この駅正面から始まる平和通買物公園が、
きょうの案内人・阿部路子さんがこよなく愛する
旭川のまちなかへのメインストリートです。
阿部さんはデザイン事務所〈よつば舎〉を営みながら、
旭川のおいしいものを描くイラストレーターとして知られています。
いつでもふらりとひとり飲みできるようにと、
あえて車の免許を取らず、まちなかの移動は徒歩が基本。
特にカウンターの居心地にこだわる酒場好きです。
「これからご案内するのは私がずっと行きたかった店。
あそこはいいねとよく話題になるのに、
なぜか飲みに行くチャンスがないままでした。
だからきょうは楽しみです」と、阿部さんは元気良く歩き出しました。
噂のローカル酒場は駅から歩いて10分ちょっと。
有名な飲み屋街「さんろく街」の少しだけ先にあり、
料理と値段が書かれた看板が目立ちます。
これなら初めてでも安心、親切ですよねと、
阿部さんは〈せんや〉の赤い暖簾をくぐりました。
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店内に入ると阿部さんの目が輝きました。
店の主役はちょっと渋めのコの字型カウンター。
奥には50席ほどの小上がりがありますが、
13席あるカウンター周りはしっとりと落ち着いた、昭和を感じさせる懐かしい雰囲気です。
「このカウンター席は本当にくつろげますね。
お客さんに長く愛されてきたのもわかります。
大きな神棚があるのも安心して飲めるような気がして好きです。
ここはおいしいもの好きな先輩方が通っている店で、
話はよくうかがっていましたが、
こんな居心地の良いカウンター席があるなんて知りませんでした」
そう話しながら阿部さんは店内のあちこちを観察。
コロンとした“かめ”の形に魅かれて、
まずは本格米焼酎〈巌窟王〉の水割りをオーダー。
天然洞窟で貯蔵されている珍しいお酒だそうです。
黒板メニューやおばんざいも含めると料理は全部で100種ほど。
手づくりのなんばん味噌、紋別産無添加かまぼこの焼き物など、
北海道ローカルな料理から、オリジナルのラーメンまで幅広く揃っています。
「刺身かおばんざいか迷いましたが、
おとなしく食欲に従いおばんざいにします。
大皿のおばんざいは、ひと手間かけたものばかりで季節感がありますね。
これ目当てで通うのも楽しいかもしれません」
この手前のおばんざいはなんですかと、阿部さんが声をかけると
「これは大根とカンパチのカマ煮です。
きょうは脂ののったハラス(鮭の腹部分)がありますよ」と女将さん。
おばんざいをきっかけに、カウンター越しの会話が始まりました。
阿部さんは太平洋沿いの釧路出身で、
女将の一江さんはオホーツク海沿いの北見枝幸の出身。
お互いに海辺のまち育ちなのがわかって話が弾みます。
「不思議なのは、旭川は内陸なのに魚がおいしいこと。
このネタケースのホッキとホタテも立派ですよね。
初めて旭川に来た25年前にタチポン(真鱈白子のポン酢和え)を食べて、
どうしてこんな新鮮なタチがあるのかと驚きました」(阿部さん)
「北海道のほぼ真ん中だからでしょうか。
旭川は道内全域からいい食材が集まるまちなんです。
特に魚貝類はオホーツク海、日本海、太平洋から届くので種類も豊富。
市場に通い始めた頃は知らない魚もたくさんありました」(一江さん)
「私も旭川に来て初めて食べたものが多いです。
タコ頭の刺身とか、カスベの干物、山菜や天然キノコも。
いまでは全部好んで食べています。
おいしいまちという印象はずっと変わりませんね」(阿部さん)
「私は逆に、旭川のウニにがっかりした経験があります(笑)
もう40年前のことなので流通の問題でしょうけど。
お客さまにはそういう思いをさせたくないので、
この店ではいい魚を揃えようと心がけてきました」(一江さん)
そこに料理が次々と運ばれてきましたが、
阿部さんはどうやら絵心をくすぐられた様子。
どれもおいしそうな形で描きたくなるわと喜びながら、
米焼酎の水割りをお代わりして料理をいただきます。
北海道名物のザンギ(鳥の唐揚げ)も登場。
阿部さんは初めての店では必ずザンギを頼みます。
地域や店ごとに違いがあるので、食べ比べる楽しさがあるそうです。
「これは下味のニンニクと生姜が効いています。
すごく香り高い私好みのパンチのあるザンギでおいしいですね。
ザンギ発祥地の釧路ではソースで食べますが、
私はマヨネーズを付けるのが好き。
北海道ではザンギのことになるとみんな熱くなるんです」(阿部さん)
おいしい料理とお酒で幸せそうな阿部さんに、
「本当においしそうに食べますね」と声がかかりました。
牛肉ちゃんこは? カスベ(エイ)のヌタは食べた? と、
やけに料理に詳しいこの男性は、オーナーの落合博志さん。
もともとは昔からこの店に通っていた常連客でしたが、
前のオーナーが諸事情で閉めると聞き、3年前に店を譲り受けたそうです。
「あまりにももったいないでしょ。
この女将はね、料理の腕が超一流ですから。
だからオーナーといっても、何も口出ししません。
いい雰囲気をなるべく変えたくないので、内装もそのままでメニューも変えていない。
僕は道外の出身だけど、50年住んで心はもう道産子。
ここで僕は北海道のおいしさをずいぶん教えてもらったね」
この店のネタケース前のカウンター席に座って、
好きな料理でひとり飲みするのが楽しかったと落合さん。
阿部さんもその気持ちはよくわかると同意します。
「牛肉ちゃんこが気になりますし、次回は旦那を連れてこようと思います。
実は新婚なので、最近はイエノミが多くなって。
でも酒場で飲む酒はやはりおいしいなと、きょうはあらためてそう思いました」(阿部さん)
時を経て味わいを増したカウンター席は、
多くの人の幸せな記憶が、お酒をよりおいしくするのかもしれません。
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大分県野津町にある“天然の貯蔵庫”で熟成することにより、
米の旨みと香りをこれまでになく引き出した本格米焼酎。
精米歩合55%まで磨いた米麹のみを使用する“米麹全量”ならではの
華やかな香りとまろやかな味わいです。
〈せんや〉では1杯ずつ女将が柄杓で汲み上げて提供。
阿部さんも香りの良さと飲み飽きない旨さに満足していました。
水割りからスタートしたら次はロックで。
女将手づくりのイカゴロルイベにもよく合いますよ。
information
せんや
住所:北海道旭川市5条通7丁目右1号
TEL:0166-22-5320
営業時間:17:00~23:00
定休日:日曜日
アクセス:JR旭川駅から徒歩約10分
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