「身体のゆくえ」をめぐるキューブ空間
岐阜市にある岐阜県美術館では〈清流の国ぎふ芸術祭
Art Award IN THE CUBE 2017〉(AAIC)が開催されている。
公募によって選ばれた作品が展示された現代美術展だが、
特徴的なのは、大型の立方体の空間の中でそれぞれの作品が展示され、
そのキューブが美術館の館内、一部館外に設置されているということ。
それぞれ作品の形態も技法も素材も異なり、
いろいろな作品世界が見られるショーケースのような展覧会になっている。

このフレームが規定で決められたキューブの大きさ(W4.8m×D4.8m×H3.6m)。この空間の中にそれぞれの作品が展示される。〈清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017〉は、6月11日まで岐阜県美術館で開催中。
県展をリニューアルすることが発端となり、新しく誕生したAAIC。
第1回目となる今回は「身体のゆくえ」というテーマで、
新しい才能の発掘と育成を目的に開催された。
選ばれた15組の作家たちは年齢層も幅広く、
活動の拠点も地元岐阜から東京、関西までさまざま。
バラエティに富んだ作品が並ぶが、作品のユニークさもさることながら、
審査員の顔ぶれがすごい。
美術家のO JUN氏や中原浩大氏、小説家の高橋源一郎氏、
哲学者の鷲田清一氏、ダンサーの田中泯氏など、
県の公募展の審査員にしては異例ともいえるような顔ぶれだ。
さぞかし有名なキュレーターやディレクターが後ろで糸を引いているのかと思いきや、
地元の美術関係者たちが中心となった企画委員会により議論され、
岐阜県が中心となった実行委員会が運営しているのだそう。
「アートでまちおこしをという出発点ではなく、
本気で現代美術の新しい潮流をつくりたいというのが企画委員会の考えなんです。
みなさんとても真剣で、一生懸命、議論しながら進めてきました。
伝統を大切にしながら、新しいものを生み出していこうという、
岐阜ならではの公募展になったと思います」
と、岐阜県文化創造課の鳥羽都子さん。熱い思いがつくりあげた展覧会のようだ。

中原浩大賞を受賞した『Mimesis Insects Cube』。メガネや文具などいろいろなものを解体した部品を再構成してつくった昆虫の造形物がキューブを埋め尽くす。作家の森貞人さんは1950年生まれで愛知県を拠点に活動。

三輪眞弘賞を受賞した『移動する主体(カタツムリ)』は、まずキューブの外から見た瞬間、度肝を抜く。中にはまた別の「身体」が。長野と東京を拠点とするチーム〈耳のないマウス〉による作品。(写真提供:清流の国ぎふ芸術祭Art Award IN THE CUBE 実行委員会)
展覧会がスタートして2日目、岐阜県美術館の館長である
日比野克彦さんによる作品講評会があった。
講評といっても、単に日比野さんが新人作家に対して
評価やアドバイスを下すのではなく、会場をめぐりながら、
その場にいる作家と対話しながら作品のねらいなどを紹介していく会となった。

『縫いの造形』は、糸で紙を縫い、キューブの壁に縫いつけた作品。キューブの中に入ってみると不思議な感覚に包まれる。中村潤さんは京都出身のアーティスト。
中村潤さんの作品『縫いの造形』は、キューブと同じ大きさの紙のキューブをつくり、
いろいろな糸を縫い込んで、それを少しずらしてキューブの壁に縫いつけるという作品。
一見、静かな作品に見えるが、制作はキューブを出たり入ったりしながら
縫うという動作の連続で「私の体はキューブのそこらじゅうに満ちてます」と中村さん。
日比野さんは、「針がぶすっと刺さったり、針に糸が滑る振動が伝わったり、
縫うという行為の快感ってありますよね」と共感したようす。
日比野さんは過去に、半透明のプラスティックの段ボールを挟んで
ふたりひと組で向き合い、針を刺し合って縫いながら
絵を描いていくというワークショップをしたことがあるそう。
針と糸が行ったり来たりすることで、知らない人とのあいだに、
ある種の関係性が生まれるという。
中村さんは、紙はひとりで縫い、壁はふたりで縫ったそうだ。
「意外なところから針が出てきたり、私が何かを描こうと思っても、
向こうは思っていなかったり、裏にまわると思ってもいない形が表れたり。
いろいろなせめぎ合いがありましたね。
自分以外の体との関わりがとても感じられました」と中村さん。

「縫っているときの、あの感覚が好きでたまらないという人じゃないと、ここまでできないですよね。糸が持っている力、縫うという行為に何かある気がします」(日比野)「潜って出て、潜って出て、ひたすらニヤニヤしながら制作してました(笑)」(中村)
カラフルな糸は、中村さんの亡くなった祖母が
編んだセーターをほどいてとってあったという毛糸や、
自分が小さいときに気に入って持っていたひも、人からもらったものある。
「縫い目を見ると、自分のセーターだったり、もらったプレゼントだったり、
それぞれ連想するものがあって、こうして見ると不思議な気持ちがします。
ほかの人の物にはほかの物語があって、それが重なり合わず、
併走するくらいでちょうどいいと思っています」
中村さんは今回の制作で、次の作品につながる大きな手応えを感じたようだ。






































































































































