連載
posted:2017.4.13 from:北海道札幌市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
4月11日、これまで何度か準備の様子を連載で書いてきた、
〈みる・とーぶ〉展がついに札幌市資料館のギャラリーで開催となった。
もうすぐ、我が家族が移住を予定している岩見沢の中山間地一帯は、
東部丘陵地域と呼ばれており、「東部」を「見る」で「みる・とーぶ」。
地元でとれるリンゴをモチーフに、みんなで縫い上げたポーチや、
この地域で制作を行っている工芸家やアーティストの作品が集まり、
最終的に出品数は500点を超えることに!
ギャラリー空間は、作品を並べるだけでなく装飾にも力を入れることができた。
美流渡に昨年オープンした花屋〈Kangaroo Factory〉の大和田さん夫妻が、
まるで岩見沢の山里の森が札幌に出現したかのような、
インパクトのあるデザインを考えてくれた。
なんと! 白樺の木を山から切り出し、中央に大胆に配置。
そこにブドウの蔓で編んだボールや松ぼっくりをリズミカルに飾り、
ギャラリーの雰囲気を一変させるような空間が生まれることとなった。
思い返せば準備を始めたのは昨年秋。最初に集まったメンバーは、
岩見沢の地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さんと上井雄太さん。
そして、東部丘陵地域のひとつ、毛陽地区で
〈東井果樹園〉をご主人が営む東井永里さんと私。
4人はこれまで、自分で作品をつくって売るという経験がほとんどなかったため、
イベントが開けるのかと不安も大きかった。
まずは、月に何度か集まって、札幌市資料館での展示に誘ってくれた、
私の長年の友人でアクセサリーデザイナーの岩切エミさんのデザインによる、
リンゴ型のポーチの制作から始めてみることにしたわけだが、
1個つくるのにも数時間がかり、しかもあんまり上手にできず……。
加えて資料館の会場費の捻出方法や行政や
地元団体との連携をどうするかなど問題も浮上していた。
ただ、そんななかでも集まったメンバーはいつでも前向き。
リンゴポーチづくりもだんだんとコツをつかみ、
ワイワイおしゃべりしながら楽しく制作をすることができた。
そういう雰囲気がよかったからか、
次第にリンゴポーチづくりを手伝ってくれる人たちが集まり、
なんとひとりで20個も仕上げてくれる心強い友人も。
また、メンバーのひとり東井さんが家族総出でものづくりにチャレンジするようになり、
お姉さんが実は切り絵がとても上手だったり、
お母さんが麻ひもでカゴをたくさん編んだりと、
短時間に多数の作品をつくってくれたのだった。
地域おこし推進員の吉崎さんも、
地域の工芸家やアーティストにどんどん声かけをしてくれて、
陶芸家3名、木工作家3組の作品が会場をにぎわせることとなった。
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私はふたつの印刷物を制作した。
ひとつは、東部丘陵地域を紹介する地図。
とくに今回は、このエリアの中から、朝日、美流渡(みると)、
毛陽(もうよう)、万字(まんじ)にスポットを当てて、
そこで暮らす人々58名の似顔絵とコメントを掲載した。
この地域には北海道の名だたる観光地のようなスポットはないが、
山間で生きる人々たちは、とても個性的。
また東部丘陵地域とひと口に言っても、田んぼや果樹園などの農業が盛んだったり、
工芸家やアーティストが多く住む地域があったりと、特色豊か。
そうした地域の魅力を感じられるような地図づくりを目指した。
地域おこし推進員のふたりが数か月間にわたって地元の人に声をかけてくれて、
それをもとに私が絵を描いていった。
もうひとつつくったのは、昨年春に私が購入した山のことをまとめた小さな本。
タイトルは『山を買う』。
東京生まれでアウトドア経験もまったくない、いわば山の素人の私が、
ほとんどノリで山を手に入れたその道のりと、山に入るなかで気づいた
思いがけない数々の楽しみについて、絵と文で綴ったものだ。
私の本業は編集者。出版社勤めをしていた20年間は、
大量につくって大量に売れる内容を考える日々だった。
しかし、一昨年にフリーランスになってからは、
こうした商業出版とは一線を画す本づくりをやりたいと考えるようになり、
ようやく第1号をつくることができた。
A6サイズで24ページ。価格も500円と本当に小さな本だが、
冊数を重ねることによって、今後の自分の暮らしを支えるような、
そんなものへと育っていったらいいなあという想いを持っている。
この原稿は、〈みる・とーぶ〉展の初日に書いていており、
会期は16日までの6日間となる。
4月に入ってからは、地元岩見沢の新聞各紙でも取り上げられ、
開催初日はUHB北海道文化放送のニュースでも展示の様子が紹介されるなど、
不安な立ち上がりをよそに、蓋を開けてみれば、
思いのほか話題になっている(かも?)。
この連載が公開される13日からはワークショップもたびたび開催するので、
新しい人々との出会いの場となったらいいなあと思っている。
そして、今回の展示を皮切りに、できればもっと各地で
〈みる・とーぶ〉展が開催できたらと夢はふくらむ。
それは、岩見沢の山里をもっといろんな人に知ってほしいということだけでなく、
このプロジェクトを行うことで、地図制作や作品出品のために
多数の人に会うことができ、私たちメンバーがより深く
地域を知ることにつながっているのが大事なことのように思う。
また、締め切りがあることで、ものづくりを始めるきっかけにもなったりと、
自分たちの可能性を広げるチャンスになっているところもいい。
さて、このイベントが終わったら、移住計画を実行しないと!
夫が家の改修をしているのだが、子どもたちの入学・入園式や
〈みる・とーぶ〉展のバタバタで、またちょっと手が止まってしまっているのが
気がかりなところではあるが、雪も解け北海道も春本番!
暖かな陽気のなかで、作業もはかどるんじゃないかと、願いつつ……。
information
みる・とーぶ展
会期:2017年4月11日(火)~4月16日(日)
会場:札幌市資料館(北海道札幌市中央区大通西13丁目)ミニギャラリー2 Go North展内
開場時間:11:00~18:00(最終日~17:00)
https://mirutobuproject.localinfo.jp/
*ワークショップは予約受付中。当日参加も可能です。詳細はウェブページへ。
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