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児童館がなければどうする? 
子どもが少ない地域の工夫、
放課後預け合い

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.039

posted:2017.3.23   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

困っているお父さんお母さんと協力し合ってつくる場

例年より少し早く、北海道にも春の気配がやってきた。
雪が解けた地面から、ふきのとうがちょこんと
顔を出しているのを見かけるようになった。

来月には息子もいよいよ小学1年生。
いま、4月からの生活について具体的に考える時期にさしかかっている。
春に岩見沢の中山間地・美流渡へ移住するにあたり、息子は在校生8人の小学校に通う。
学校のことについては以前にも書いたが、
入学にあたって私の頭を悩ませている問題があった。

美流渡地区の人口は400人。
子どもの数も少ないため、小学校から歩いて行ける距離のところに、
児童館など放課後に子どもを預かってもらえる施設がない。
これまで息子は幼稚園の制度を利用して、夕方まで預かってもらっていたが、
これから帰ってくる時間は早まることになる。
特に4月は午前中で終わる週もあることを考えると、
このままでは午後は仕事ができなくなる予感……。

私の本業は編集者。自宅で原稿を書いたり編集をしたりしているので、
ある程度は時間の融通がきくのだが、締め切りが重なる時期などは、
いくら時間があっても足りないような状態になってしまう。
さて、どうしようかと考えていたところ、
同じような悩みを抱えている人たちがいることを知った。

また、地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さんや上井雄太さんによれば、
美流渡で子どもを預けることができる場がほしいという声は、
ずっと以前からあったという。
ならば、困っているお父さんお母さんと何か行動を起こすことができるんじゃないか、
そんなふうに思い、話し合いの場を設けてみることにした。

雪のあいだから顔を出すふきのとう。ようやく北海道に春が来た!

2月に一度開いた話し合いには、わが家を含め、
今年、美流渡小学校の1年生になる親子が3組と3年生になる親子のほか、
地域の保育園に通う親子や保育士の女性などが集まった。
また、私が誘ったのが、これまで岩見沢市街地で活動を続けてきた
プレーパークを主宰するふたり。

プレーパークとは「ケガと弁当は自分持ち」を合い言葉に、
子どもが自発的に遊ぶ場のことで、これまでの経験から、
何かヒントをもらえるんじゃないかと思い参加をお願いした。

話し合いには子どもたちも参加。何人か集まると大騒ぎ!

自分たちのできる範囲で一歩を踏み出してみたい

それぞれの家の事情をまず聞いてみると、
私と同じく仕事を持ち、放課後の子どもの預け場所があったらと
考えているお母さんがいることがわかってきた。
また、17、18年前に美流渡に移住したという地域の保育士さんからは、
自身の子どもが小学生だったころ、学童保育をできる場をつくれないかと
活動したこともあったというが、実現には至らなかったそうだ。

つねに、この地域では放課後子どもを預かる場所が必要という話は
持ち上がっているようだが、組織だった動きにはならず、
親戚や近所の人を頼ったりしながら、そのときそのときで
なんとかやりくりをしていたというのが現状らしい。

私としては、まずは自分たちのできる範囲で、
小さな一歩を踏み出せたらという想いがあった。
ゆくゆくは行政などの力を借りることも必要だろうが、
手を差し伸べてくれるのを待っているだけでは、何も事は動かない。

例えば、困っている親子が数名集まって、自分のできる範囲で
ローテーションが組めれば、小さな預け合いの場をつくることができるんじゃないか。
そんな提案をしてみたところ、うれしいことに
3人のお母さんの賛同を得ることができたのだった。

この春、1年生になる息子と友だち。学校に入る前から、すでに仲良し。

ただ、同時に不安の声もいくつかあった。
一番大きい心配は、もし子どもがケガや事故にあってしまったらというもの。
その責任の重さを考えると、預け合いをしたくても躊躇してしまうという意見だ。
これは、私も立ち上げに関わった岩見沢のプレーパーク活動でも
議論の的になった問題だ。

このときはプレーパーク開催時に救急箱をつねに携帯すること、
また子どもが自らの責任で遊ぶ場であることを、
参加者みんなに周知していくなどの意見が出された。

岩見沢のプレーパークでの様子。木登りやロープ遊びは定番。

泥んこもOK。何をやっても基本子どもの自由。大人は細かいことに口出しせずに、温かく見守るのがプレーパークの精神。

今回話し合いに参加してくれた、プレーパークの代表・林睦子さんの体験談を聞くと、
2014年に活動をスタートして以来、ヒヤッとした出来事は2回。
子どもが木登り中に足を滑らせて落ちてしまったこと。
足をくじいて病院に行った子どもがいたこと。
しかし、いずれも大事にはいたらなかったという。

100パーセント安全ということは、なかなか難しいが、
プレーパークのように「ケガや事故はお互い様」の精神を持って、
それに共感してくれる人たちと会をつくっていこうということで話はまとまった。

3月で開催50回を迎えた岩見沢プレーパーク。今春から新しいポスターを制作。ちなみにデザインを私が担当。

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いよいよ〈放課後あずかりの会〉発足!

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実現に向かって、いよいよスタート!

3月にも再び話し合いの場を設けた。
今回は預け合いに参加したいと考えている、わが家を含めた4家族が集まり、
実施に向けた具体的な話し合いがもたれた。

会の名前は〈美流渡放課後あずかりの会〉。
場所として使うのは福祉会館。
1回の利用で約500円かかるが、学校から歩ける場所であること、
天井が高くスペースが広いことからここがいいのではないかということになった。
預け合いは火曜日から金曜日までで、
お父さんお母さんが交代で子ども4人を見守る態勢だ。

実現に向かって一歩を踏み出すことができて、本当にうれしかった。
各家庭の事情がいろいろあって、まとめることの難しさを感じることもあったが、
ゆるくやわらかなつながりが保てるといいなあと思っている。
実務的な話だけでなく、「本当は外で遊ばせたいよね」とか、
「地域のおじいちゃんおばあちゃんに手づくりの何かを教えてもらう機会があったら」
とか、楽しいプランもいろいろと出ているところ。

私としては、岩見沢のプレーパークのメンバーと
連動する道を探っていきたいと思っている。
メンバーのひとり春田恵里さんは、6歳と0歳の子どもを持つお母さんで、
彼女はゆくゆく「森のようちえん」をやってみたいという夢を持っている。
岩見沢の市街地に住んでいるため、美流渡にはあまり馴染みがないが、
この放課後預かりに顔を出してもらって、
外遊びができる機会につなげられたらと期待している。

いまのところ子どもを見る大人は毎日ひとりずつだが、
こんなふうに大人の参加が増えれば、外遊びにも積極的になれる。
それを広げて、いずれは森で子どもたちを遊ばせられたら、
きっと楽しい場になるにちがいない。

昨年夏にプレーパークのメンバーが、美流渡でお試し森のようちえんを開催。

ヨモギ入り白玉団子づくりが、泥んこ遊びに発展して……。

両親たちの仕事の関係があって始める放課後あずかりの会だが、
義務感だけになってしまうときっと続かないと思う。
子どもたちとどんな遊びができるのか、
大人もワクワクしながら関わっていけたら何よりだと思う。

もし、児童館などの設備も整った地域にいたら、
子どもを預けるだけで、それ以上の広がりはなかったかもしれない。
行政の手もなかなかまわらない小さな地域にいるからこそ、
知恵を出し合って場づくりができるって、実はとってもすてきなことなんじゃないか。
そんな気持ちを持って、この会を少しずつ育てていけたらと考えている。

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