連載
posted:2016.10.27 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
岩見沢の市街地に住みながら、山間部・美流渡(みると)の古家をリノベーションし、
来春には移住をしようと考えているいま、
地元の人たちとのつながりが少しずつ深まりつつある。
来年4月、美流渡をはじめとする東部丘陵地域と呼ばれるこの場所を
広く知ってもらうための展示を札幌で計画しており、
そのチームにわたしも参加させてもらっているのだ。
チームのメンバーは、このエリアの地域おこし推進員(協力隊)や
地域活性を目指すNPOに所属する人たちなど。
今夏より計画を練っており、ようやく概要が固まってきた段階だ。
展示をする会場は札幌市資料館。大通公園にある施設で、建物は国の登録有形文化財に選定。大正時代に建てられた趣のある部屋の一部がギャラリーとして使用できる。
概要を企画書にまとめた。プロジェクト名は〈ミル・トーブ〉。東部丘陵地域を見てもらいたいという願いを込めて。
この展示の一番の目的は、岩見沢の東部丘陵地域について知ってもらうこと。
そのためにエリアマップを作成し、会場で配布する計画だ。
この地図は、単なるスポット紹介ではない、とびっきりの工夫を凝らそうと考えている。
コンセプトは「人の顔が見える地図」。
この地域には、誰もが知っているレジャー施設や
地域全体を包括するような物産があるわけではない。
東部丘陵地域とひと口に言っても、そこには、万字、毛陽、
美流渡、朝日、宮村、宝水、上志文、上幌といくつもの地区があり、
元炭鉱街として大きく栄えていた場所や、農村だった場所などさまざまだ。
個々の地区ごとに特色があるのが東部丘陵地域らしさであり、
この多様性が住民の魅力にもつながっているように思う。
レジャー施設などはほとんどないが興味深いスポットもあるので、それも地図に落とし込んでいきたいと思っている。万字線の廃線に伴い廃駅となった朝日駅は、現在、万字線鉄道公園となっている。大正3年に全線開業した万字線は、万字炭鉱や美流渡炭鉱、朝日炭鉱などの石炭輸送で大変な活況を見せた。
万字にある炭鉱森林公園はズリ山の跡地。ズリ山とは、石炭を採掘して出た岩石や廃石(ズリ)を長年堆積させてできた山のこと。当時は真っ黒い山だったが、いまでは木々に覆われ、自然が再生していく力の強さを感じさせてくれる場所。
この地域と関わるようになって1年ほど経つが、
地域の人々の考えや暮らし方に接すると、いつも興味深く刺激的に思えるのだ。
この地域は過疎化が進み、人口も1000人にも満たないが、
美流渡地区に唯一残った食堂のおかみさんや、
あえて住民の多くない土地でひっそりと営業を続ける美容師さんなど、
それぞれが自分なりのこだわりを貫き通す姿を見ていると、
清々しい気持ちになってくる。
また、ここに移住してきた人たちも個性的な面々が多く、
地域おこし推進員のふたりを例にあげれば、
ひとりは元バックパッカーでDIY精神をもつインテリアデザイナー、
もうひとりは昨年まで青年海外協力隊としてフィリピンで活動していた人物と、
ひと癖もふた癖もあっておもしろい。
こうした地域に住む人そのものがおもしろいということを
ダイレクトに伝えるために、人々の似顔絵とひと言コメントを、
地区ごとにマップに落とし込んでいきたいと考えたのだ。
ひと言入れるコメントは、できればここに観光で訪れた人や
移住を検討したいと思っている人に向けたものになったらと思っている。
例えば「ここでは陶芸が体験できるよ」とか、「花火大会の企画をしているよ」とか、
そんな親しみのある言葉が集められたらいいのではないか。
地図づくりの構想を書いた企画書。地域の人々を似顔絵にして、ひと言ずつコメントを入れたイラストマップをつくってみたい。
似顔絵のイメージは、こんな感じ! 地元の有機野菜を販売する〈やおやのVeggy〉との共同企画でつくっている農家の取材記事「泣いて笑って、野菜の話」では、わたしが文章のほかにイラストも描いている。
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4月の札幌市資料館の展示では、顔の見える地図を手縫いのポーチに入れて、
ギフト感覚で販売することも検討中だ。
このアイデアは、以前に美流渡でワークショップと講演会を開催してくれた、
ファッションデザイナーの岩切エミさんによるもの。
エミさんは、いまハギレを使って、バッグやアクセサリーに
布で絵を描くような作品づくりをしており、
この展示でデザインを検討してくれているポーチも、
そうしたものの延長線上になるのではないかと思う。
モチーフとするのはリンゴ。東部丘陵地域の万字や毛陽には
果樹が多いことから、この展示のアイコン的なイメージとして、
随所にリンゴのモチーフを取り入れていけたらと考えている。
10月はリンゴ収穫の最盛期。毛陽にある〈東井果樹園〉ではリンゴ狩りも行われ、新鮮なリンゴがその場で味わえる。
アクセサリーデザイナー・岩切エミさんのバッグ。こうしたハギレをあしらったキュートなポーチができあがる予定。
地図とともに、会場で販売するものをどうするか?
これは現在、さまざまな可能性を検討中だ。
そのひとつが蜜蝋のロウソク。
このプロジェクトのメンバーのひとりである東井永里さん一家の仕事は農家。
サクランボ、ブルーベリー、リンゴなど果樹を中心として栽培しており、
最近では直営店で果樹園の花の蜜を採取したはちみつの販売も始めている。
はちみつを絞ると蜜蝋がとれることから、これを使ったリンゴ型(?)の
ロウソクができないだろうかと考えている。
北海道の雪の季節の始まりは11月頃。
4月頃まで雪に閉ざされ長い農閑期となるため、この時期を利用して、
何か手仕事ができないかと永里さんは模索をしている。
このほかにも、果樹や木の実を使ったリースなど、
東部丘陵地域らしい素材による手づくりの品の制作も
計画中だ(前回の連載で紹介した、わたしがつくる小さな本も販売予定)。
東井果樹園ではドライリンゴなどの加工品もつくっている。自然な甘みがおいしい。直営店では、果樹園の花の蜜からとったはちみつも売っている。
連載で何度か紹介している、私たちが活動している山で掘った土を焼いて、リンゴをかたどった置物の試作もつくってみた。売れるか!?
さて、どのようなカタチになるかはこれからだが、来月からは地図づくりのために、
東部丘陵地域のいろいろな人々に会ってお話を聞く活動を行っていきたい。
人の顔が見える地図づくり、目指すは100人掲載!?
こうした活動を通じて、この地域のおもしろさを
さらに深く知っていくことにつながったらと思っている。
このプロジェクトのメンバーのみなさん。地域おこし推進員(協力隊)の上井雄太さん(左)と吉崎祐季さん(右)、東井果樹園の東井永里さん(中央)。
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