連載
posted:2017.3.21 from:神奈川県足柄下郡真鶴町 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
sponsored by 真鶴町
〈 この連載・企画は… 〉
神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。コロカル編集部員。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。
photographer profile
MOTOKO
「地域と写真」をテーマに、滋賀県、長崎県、香川県小豆島町など、日本各地での写真におけるまちづくりの活動を行う。フォトグラファーという職業を超え、真鶴半島イトナミ美術館のキュレーターとして町の魅力を発掘していく役割も担う。
真鶴半島先端に豊かに生い茂る「お林」に寄り添うように佇む
〈真鶴町町立中川一政美術館〉。そこに新しい息吹が次々と吹き込まれている。
日本を代表する洋画家のひとりである中川一政。
戦後まもなくから1991年に没するまで真鶴にアトリエを構え、
油彩だけでなく書や陶芸など多くの作品を残し、
溢れんばかりの情熱で創作活動に情熱を注ぎ込んだ。
その作品650点余りを所蔵するのが、真鶴町立中川一政美術館だ。
美術館には、全国各地、また海外からも一政のファンが訪れる。
その美術館がいま、地域に根づき、町民に愛される場所となるよう、
新たな歩みを踏み出している。
2017年2月18日、19日には、書家の川尾朋子さんを招いて
「書に触れる」イベントが開催された。
生命感あふれる絵画に加え、一政の「書」という新たな魅力を開拓する試みの一環で、
18日には川尾さんによる書のライブパフォーマンスと、
真鶴町の小学生を対象にした書道教室が、
19日には美術館にあるお茶室で、川尾さんと美術館の指導員であり
生前一政の秘書を務めた佐々木正俊さんのトークショーが行われた。
書道教室には、町内の小学生10名ほどが参加。
川尾さんが墨のすり方や基本的な筆遣いを教えるだけでなく、
半紙に円を何重にも書いてもらったり、
子どもたちを周囲に集めて間近で文字を書いてみせたりなど、
学校などの習字の時間とは少し違ったワークショップに、
子どもたちも目を輝かせていた。
最後に、子どもたちに今年の目標を一文字で書いてもらうということになり、
「紙からはみ出すように書いてください」と川尾さんが言うと、
子どもたちの顔つきが変わり、のびのびと一文字を書き上げていた。
これまでも子ども向けのワークショップをしたことがあるという川尾さんは、
毎回自分にとっても発見があると話す。
「子どもたちは想定外のことをしてくれるので、私も勉強になります。
習字は美しい文字を習うことなので、それもとても大事なことですが、
書道では、はみ出してもいいんだよということを教えたかった。
そうでないとみんな同じになってしまいます。ものづくりをするうえで、
ちょっとはみ出してみると、こんなにおもしろい世界があるよ、
ということを知ってもらえたらと思います」
子どもたちにとっても、川尾さんにとっても有意義な時間になったようだ。
参加した小学生のひとりが、翌日のイベントにも来たいと言って帰って行った。
このように、町民が美術館にまた来たくなるような、
そんな体験の場づくりが始まっている。
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3月4日から20日まで、アートイベント〈真鶴まちなーれ〉が
17日間にわたり開催された。有志による実行委員が運営するイベントで、
美術館が主催ではないが、連携した試みもある。
まちなーれの作品は真鶴港エリアなど、まちのあちこちに点在していたが、
中川一政美術館の中庭にも1点、まちなーれ作品が登場。
彫刻家、阿部乳坊さんの新作で、阿部さんが一政の作品や著作に触れながら
コンセプトを練り、命尽きるまで芸術に向き合い続けた一政の姿勢に敬意を表し、
彫刻で表現したという。
通常は一政の作品しか展示しない美術館だが、川尾さんといい阿部さんといい、
美術館を舞台に、一政と現代の作家が競作するような試みともいえる。
また、まちなーれの期間中の3日間、「ナイトミュージアム」として
美術館の開館時間を延長。
2月に、真鶴でマリンクラフトの体験教室などを主催している
〈Sea side house 海家〉の黒葛原真実(つづらはらまなみ)さんを講師に招いて
シェードランプづくりのワークショップを開催し、
真鶴の子どもたちがつくったシェードランプが夜の美術館を彩った。
ほかにも、真鶴在住のピアニスト森田由子さんと、
ファゴット奏者の小林佑太朗さんによるロビーコンサートを開催したり、
9日間にわたり、美術館に“旅カフェ”〈CAFE Ryusenkei〉が出店。
町民待望の“カフェのある美術館”は、新しい憩いの場になった。
CAFE Ryusenkeiのオーナー合羅智久さんは、
4年前に箱根に移住し、移動カフェを始めた。
現在も箱根を拠点にしながら、アートイベントなどに呼ばれて
各地に出店することも多いという。移住前から真鶴や湯河原が好きで、
中川一政美術館を訪れて一政のファンになったそうだ。
「今回、縁があって声をかけていただいたのですが、
一政も晩年、箱根の駒ヶ岳をたくさん描いていますから、
箱根と真鶴の縁を感じます。真鶴は自然が豊かでまちなみもきれい。
住んでいる方は何もないと言うかもしれないけど、
こんなに豊かな場所は、いま貴重だと思います」と合羅さん。
キャンピングトレーラーの店内には座席はあるが広くないため、
隣り合わせたお客さん同士、自然と会話が生まれる。
美術館のリピーターのお客さんにも喜ばれているようだ。
また、かねてより有志によって準備されてきた
「中川一政美術館サポーターズ」がいよいよ4月1日から始動。
こういったさまざまな美術館でのイベントや活動をサポートしていく団体だ。
町民たちが美術館の活動を支えていくことによって、
さらに町民に親しまれる美術館になり、
町民たちの文化活動も活発化していくに違いない。
まちに開かれた美術館。地域に愛される場所が真鶴にまたひとつ生まれている。
information
真鶴町立中川一政美術館
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