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小さな港町に、世界とつながる
〈真鶴テックラボ〉誕生

真鶴半島イトナミ美術館
作品No.27

posted:2017.3.22   from:神奈川県足柄下郡真鶴町  genre:ものづくり / アート・デザイン・建築

sponsored by 真鶴町

〈 この連載・企画は… 〉  神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

MOTOKO

「地域と写真」をテーマに、滋賀県、長崎県、香川県小豆島町など、日本各地での写真におけるまちづくりの活動を行う。フォトグラファーという職業を超え、真鶴半島イトナミ美術館のキュレーターとして町の魅力を発掘していく役割も担う。

Uターンしたら、まずは仲間を見つける

のんびりとした漁港のまち真鶴に、
なんとファブリケーション施設が生まれようとしている。
〈真鶴テックラボ〉だ。
3Dプリンターやレーザーカッターなどを使って、
自分たちの手でものづくりをすることができるという「ファブリケーション」。
世界的にもその流れは広がっていて、特別な技術がなくても使えることから、
カフェと併設されているようなスペースも増えている。

昨年11月から試行を続け、真鶴港が眼前に広がる空き家を利活用して、
新年度に本格稼働の段階を迎える真鶴テックラボは、
真鶴町観光協会の柴山高幸さんが中心になって進めてきた。

柴山さんは真鶴生まれで、都心部でシステムエンジニアとして働いていた。
あるとき、大きなプロジェクトを終えて憔悴してしまったという。
そのときにこれからの生き方を考え直し、Uターンすることを決断した。

「だけど、真鶴のまちの状況なんてまったく知りませんでしたね。
自分が通っていた小学校は統合されてしまってもうなくなっているし、
そこに向かう“メインストリート”は、お肉屋さんも、魚屋さんも、駄菓子屋さんも、
すべてなくなっていました」

大好きな釣りの話を始めたら止まらなくなる柴山高幸さん。

そんな状況を目の当たりにしても、Uターン当初は「自分にできることはない」と、
何かアクションを起こそうとは考えなかった。
しかし、次第に観光協会や行政に同級生や先輩後輩など、同世代がいることに気がつく。
「ひとりではできないけど、仲間がいれば何かが起こせるのではないか」
という気持ちになっていった。

まずは、自分自身が真鶴を出ていってしまった理由を振り返ってみた。

「ひとつは、若い人の意見があまり受け入れられなかったこと。
同様に外から来た人に対しても冷ややかで、
当時、移住者のことを“新住民”と呼んでいたりして。
よく考えればお嫁に来てくれた人だって移住者じゃないですか。
移住者はたくさんいるのに……」

かつて自分が感じていた息苦しさを払拭するために、
移住者や若者も含めてみんなで楽しめる〈真鶴なぶら市〉を立ち上げた。
補助金などに頼らず、すべて自分たちの手弁当で運営。
月1回の開催で、今年で3年目を迎える。

漁師も料理人も石材職人も、“エンジニア”である

なぶら市とともに着手した一手が、新たな仲間との出会いとなった。
2014年6月に〈スタートアップウィークエンド(週末起業体験)〉を真鶴で開催。
ハスラー・ハッカー・デザイナーでチームを組み、
必要最低限のビジネスモデルをつくり上げる。
世界の700都市で開催され、週末の54時間でアイデアをカタチにする方法論を学び、
スタートアップをリアルに経験できるイベントだ。

日本では都心部で開催されることがほとんどで、
真鶴のような小規模のまちで行われることは国内ではあまりない。
そのユニークさも手伝って、さらなる感性の似た人たちと出会うことができ、
「ひとりじゃない」という感覚を得る。
そのメンバーのなかにジェフ・ギャリッシュさんがいた。

ジェフ・ギャリッシュさんは佐世保生まれで、日本人とアメリカ人のハーフ。

ジェフさんは、日本やアメリカなど各地に住んでいたが、
現在は小田原在住で、行政や観光関係などの英語コンテンツを制作する仕事をしている。

「もともと真鶴が好きで、人や自然、東京との距離感など、
すごく可能性があるなと思っていました」と話すジェフさん。

スタートアップウィークエンドで意気投合したふたりは、
住むまちは違えども同じ志向を持つ者同士、協力して活動していく。
ジェフさんは、その後真鶴で行われた3回目のスタートアップウィークエンドでは
運営側にも回っている。

「僕自身はシステムエンジニアが本職ですが、やはり真鶴ではITはハードルが高い。
スタートアップウィークエンドでは、3日間でプロダクトをつくりあげますが、
アイデアはもちろん、実際に組み立てられるエンジニアがいるから可能なことです。
このエンジニアという領域を広く捉えれば、町内の料理人も、石材加工も、
漁師や海士も入れられて、敷居を低くできるのではないかと」(柴山さん)

次のスタートアップウィークエンドへ向けて。

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起業の種が生まれる場所に

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3Dプリンターやレーザーカッター、ハンドツールなどがあれば
すぐに製品をつくることができ、ビジネスを始めやすい。

こうしてスタートしたのが、真鶴テックラボ。
町民はもちろん、町外の人でも自由に出入りできる施設だ。

「最初は『レーザーカッターあります』なんて言ってもわかってもらえないので、
まずはつくってみました」と、移住者夫婦が始めたばかりの
〈KENNY〉というピザ食堂の看板を木でつくってみた。
その後、真鶴漁港にできた〈honohono〉というレストランの看板製作の依頼がきた。
それらが口コミで広がり、まちのイベントなど、
さまざまな方向に真鶴テックラボでできることや役割が広まりつつある。

レーザーカッターでつくったhonohonoのサイン。

観光協会がこのような先端系のラボを持っているということが、
特徴のひとつとなりそうだ。新しいかたちの観光誘致にもつながる。

「昨年、横浜のエンジニアたちが来て、ハッカソンのようなことをしていました。
そういう人たちが真鶴まできて、真鶴の魅力を感じてもらえたらいいと思います」
と言うジェフさん。

まずは真鶴を体験する「交流人口」を増やすことから始められる。
美しい景色やおいしい魚介、そしてテックラボ。
真鶴の魅力として同列に語られてもいい。

「移住は確かに熱いキーワードだけど、みんな移住先での仕事に不安を持っています。
僕たちがこの場所で支えながら、真鶴テックラボを使ってもらって
それが起業の種になったらうれしい。
グーグルもアップルもアマゾンも、すべてガレージから始まった企業。
そのような、自由に集まってアイデアなどをぶつけ合う交流スペースが
日本には少ない。いまスマホ、AI、IoTなど、市場は変わってきています。
小さいまちでも、アイデアがあれば誰でもやっていける。
真鶴テックラボをそういう場所にしたい」(ジェフさん)

当然、手づくりのTECH LABサイン。

「地元の若手や移住者と、おじいさんたちが話し合いながら一緒につくって、
ひとつの製品を完成させたり。ものづくりを通して、
みんなが刺激を与え合い、出会えるような場所にしていくことが理想です。
固まっている歯車をコツコツとやって回していく。
回り始めたら速いと思うので」(柴山さん)

もちろん真鶴町民にも、役に立つことが多い。
真鶴で17世紀中頃に起源を持つという〈貴船まつり〉では、
古くから宮大工が彫刻を施した小早船などが用いられているが、
老朽化が進んでいることも事実。

「そういったものをここで直せれば、すごく意味があると思っています。
真鶴のお祭りなので、なるべくなら真鶴で直したい。
そうすればもっと愛着が湧いてくると思う」(柴山さん)

さまざまなものをつくれることが、実際にサンプルを見るとわかる。

子どもが真鶴を好きになるきっかけに

小さなまちに最先端の機器が揃い、世界へとつながりその動向もキャッチアップできる。
これは子どもたちにとって大きな魅力。うまく広がっていけば、
柴山さんが若い頃「真鶴がイヤで出ていった」ことのひとつが解消されそうだ。

「最近のアメリカでは、STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)
という教育概念が積極的に取り入れられています。
まだまだこういったスキルを学ぶ場所や機会が少ないので、
ここで子どもたちにどんどん機会を与えていきたい」(ジェフさん)

「いまの子どもたちが、仮に一度、真鶴から出ていったとしても、
“戻ってきたい真鶴”にしておかなければなりません。
それが明るい未来です」(柴山さん)

真鶴テックラボの目の前には真鶴港、海、青空が広がる。(写真提供:真鶴町)

真鶴が魅力的であれば、柴山さんのように
一度真鶴から出ていったとしても、必ず戻ってくる。
そのような未来になるように、真鶴テックラボは外部から人を呼び込み、
仕事を生み、地域のハブスペースとなってくれるだろう。

information

真鶴町観光協会(真鶴テックラボ)

真鶴半島イトナミ美術館

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