秋田の暮らしの風景を映し出し、世界で約300万回再生され
話題となっている映像シリーズ『True North, Akita.』。
これまで五城目町と上桧木内、そして男鹿半島が舞台となってきた。
3作目の男鹿篇は昨年末に展示形式で公開されていたが、
現在は再編集されたかたちでウェブでも公開されている。
『True North, Akita.#3』男鹿篇 (c)augment5 Inc
そして、撮影で訪れた各地域を巡る小さなツアーが、
制作チーム〈augment5 Inc.〉によって開催された。
ツアーには都内から子連れの家族ふた組が参加。
プロデューサーの井野英隆さんをはじめ、映像に関わったスタッフも
同行・案内するという、少し変わったスタイルで実施された。

1日目は秋田駅に集合した後、男鹿半島へ。
美しい海岸線や、八郎潟を干拓した大潟村をぐるっと見渡せる寒風山の展望台を経て、
向かったのは半島の北側に位置するかつての北浦町。
ハタハタ漁で有名な地域だが、かつては北前船の寄港地として
東北の中でも早い時代から栄えていた場所だ。
陸路が中心となった現在は、国道や電車でのアクセスがいい半島の南側から入り、
ゴジラ岩、ナマハゲの五社堂、男鹿水族館〈GAO〉、夕日スポットとして有名な
入道崎あたりまでが主力観光地となっているため、
ここ北浦エリアまで訪れる人は珍しい。
今回のツアーでこの北浦を訪れるのは、
『True North, Akita.#3』の男鹿篇に登場する漁師の一家、
石川さん一家が暮らしているからだ。

北浦漁港のすぐ裏で、井野さんたちが撮影でも拠点にしていた宿、
亀屋旅館に立ち寄りそのまま漁師一家、石川さんご家族のもとへ。
実際に漁に出るのは信之さん、修勢さん親子 。
高齢化の進む男鹿の漁師の中で、親子で海に出る船はとても珍しい。
そして石川さん一家がさらにすばらしいのは、
親子3世代が同じ屋根の下で一緒に暮らしていることだ。
信之さんの奥さんの柾美さん、修勢さんの奥さんの雅子さん、
そして3人の子どもたちという8人の大家族の暮らしは
いつもにぎやかで笑顔が溢れている。

『True North, Akita.#3』映像シーンより。(c)augment5 Inc
到着すると夕方前だというのにすでに食卓には豪勢な夕食の支度が整っている。
早過ぎると思われるかもしれないが、日の出前に仕事を始める漁師は朝早く、
18時頃にはだいたい寝てしまう。
生活のサイクルも、この豊かな海の暮らしとともにあることを感じさせてくれる。
今朝あがったばかりの甘鯛やヒラメの刺身、あんこうのとも和え、
旬のかれいの煮つけ、海の幸盛りだくさんのちらし寿司など、
新鮮な魚料理が豪華に並ぶ。
でも石川さん一家にとって変わらぬいつもの食卓だという。
お魚がおいしいのは言わずもがな、どの料理も絶品なのは、料理担当の柾美さんの、
男鹿半島の魚を知り尽くしたうえでの料理の腕前あってのもの。
新鮮な魚を最高の状態で味わえる機会もなかなか少ない。
「うちの母ちゃんと父ちゃんの息子でほんとによかったと思う」と修勢さん。

石川家は代々漁師で修勢さんで5代目。
北浦の海で育った修勢さんは、漁師仲間からも一目置かれる父を見て
「漁師っておもしろそうだ」と思い、
幼い頃から男鹿で漁師になることだけを考えてきたという。
ただ修勢さんが地元男鹿の海洋高校を出て漁師になる頃、
父の信之さんは北海道での遠洋や鮭漁、関東での線路工事などの仕事で、
長く秋田を離れることも多かったという。
もっと男鹿の海を知りたい、腕を上げたいと思っていた修勢さんは
「父ちゃん、戻ってきてくれ」と素直に伝えたそうだ。
そうして信之さんは再び地元に戻ってきた。
「息子が父を家に呼び戻すなんて、ふつうと逆だな」と修勢さん。

漁師の現場ほどおもしろいものはないと話す修勢さん(左)。
いまでは親子で同じ船に乗り、修勢さんの弟の知幸さんもまた
男鹿の海でエビやカニの漁をする。
「一人前になるにはまだまだ」と言う信之さんだが、
息子とふたりで船に乗れることはうれしそうだ。

『True North, Akita.#3』映像シーンより。(c)augment5 Inc
地元の多くの漁師は高齢で跡継ぎがおらず、次々と船を捨て海を離れていってしまう。
毎日のように親子で船に乗る石川さんたちはいまではとても珍しく、
地元の漁師も「男鹿の漁師の希望だ」と語る。
食事をする間も、「とにかく漁師はおもしろい」と、
豪快な笑い声をはさみながらたくさん海の話をしてくれる石川さん親子。
とにかく男鹿の海が大好きなことが、そこで生きているプライドとともに伝わってくる。

どうしたら魚がかかるか考えながら網をつくるのも漁師の仕事。ものづくりはどんな仕事でもおもしろいという信之さん。
『True North, Akita.』の映像について感想を尋ねると、あまり多くは語らないものの
「ふだんからあんな感じ。日常をよくあんな映像にしてくれたなって感心してしまった」
と修勢さん。
真剣に話し込む間に、東京から来たツアーの参加者家族ともすっかり仲良くなり、
子どもたち同士も一緒に遊び、はしゃぎ回っていた。
こんなふうに、自然と地元の人たちの暮らしの時間のなかで交流できることが、
この旅の醍醐味なのだ。

