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writer profile
Yu Miyakoshi
宮越裕生
みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。
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撮影:出地瑠以
奈良県北部の天理市に、日本最古の道といわれているハイキングコースがあります。
その名も「山の辺の道」は、北は奈良から南は三輪山の麓まで、
山裾を縫うように続く道。
その道程には『記紀』『万葉集』ゆかりの地名や、旧跡、
社寺、古墳がたくさんあります。
しかもうわさによれば、超個性あふれる無人販売所もあるとのこと。
そうと聞いては、行かないわけにはいきません。
コロカル一行、山の辺の道をゆき、うわさの無人販売所
〈せんぎりや〉の店主にお会いしてきました!
〈せんぎりや〉店主の仲谷一之さん。仲谷さん節が炸裂するインタビューは次ページにて!
昔からたくさんの人が足跡を重ねてきた山の辺の道。
せっかくいくなら、その道のりを辿ってみたいものです。
というわけで、スタート地点の天理駅にやって来ました。(※1)
駅前には、2017年4月にオープンした話題の〈天理駅前広場 コフフン〉があります。
〈天理駅前広場 コフフン〉Photo : Takumi Ota
今回は駅前で自転車を借りられると聞き、自転車でいくことに。
こちらの〈吉本サイクル〉でレンタルしているのは、なつかしのママチャリです。
駅前にある吉本サイクル。自転車はコフフン内にある〈バイシクルカラー奈良天理店〉でも借りられます。
それではいざ、いにしえの古道をめぐる旅へ。
駅前から東の山の方へ向かって自転車をこいでいくと、
やがて大きな建物が姿を消し、小さな民家や畑が増えてきました。
小さな道に入り坂道を上りきると、森の奥に神社が。
ここは、日本最古の拝殿をもつ〈石上(いそのかみ)神宮〉。
古代へと通じる道の入り口です。
〈石上神宮〉このまちへ来るとよく「日本最古の」という言葉を聞きますが、天理市は古代大和時代にヤマト政権がつくられた場所。永い歴史をもつ場所がいたるところにあるんです。
その後は山を下ったり、畑のあいだにある急な坂道をのぼったり。
ママチャリでもいける所なら楽勝と思っていたら、ちょっと甘く見ていました!
木の下は涼やか。太古の森が体の熱を冷ましてくれるようです。でも、途中には日を遮るものがない場所も。夏場は日射病にご注意を。帽子は必須です。
その後は〈天理観光農園/CAFE WAWA〉でひと休み。
〈天理観光農園/CAFE WAWA〉石窯ピッツァやフレッシュジュースを楽しめます。季節によってきんかんやみかん、ブルーベリーなどの収穫体験もできるのだそう。
それからしばらく進んでいくと、
珍しい茅葺き屋根の拝殿がある〈夜都伎(やとぎ)神社〉があり、
その辺りから静かな集落に入りました。
突き当たりに見えるのが〈夜都伎神社〉の鳥居。神社のまわりに木々が集まり、小さな森のようになっています。お社を守る鎮守の森とは、このこと。
辺りにあるのは、歴史を感じる家々と田んぼ、草むらのみ。
温かい空気に包まれ、どこかなつかしさを感じさせます。
※1 山の辺の道のハイキングコースには天理駅から奈良市に通じる〈山の辺の道 北コース〉と櫟本から奈良市に通じる〈伝・山の辺の道コース〉、天理駅から桜井駅に通じる〈山の辺の道 南コース〉があります。今回訪れたのは南コースです。
撮影:出地瑠以 ※天理駅前広場 コフフンの写真を除く
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静かな集落を進んでいくと、とつぜん無人販売所を発見。
お米や葉タマネギ、里芋などが並んでいます。
この辺りには、なぜか無人販売所が多いのだとか。
昔から多くの人が訪れた山の辺の道には、
おもてなしの文化が根づいているのでしょうか。
さらに自転車をこいでいくと、
ついにうわさの無人販売所〈せんぎりや〉さんに到着!
入り口の看板や貼り紙から、既に個性が溢れ出ています。
なかに入ると、メイン商品の「せんぎり大根」や小豆、玄米、タケノコなどがいっぱい。
奥には休憩スペースもあります。
ここのすごいところは、アイスクリームやビールまで販売されており、
休憩スペースで自由にくつろいでいいこと。
お金は料金箱に入れるようになっていますが、
防犯装置のようなものはありません。何とも寛大です。
そうこうしているうちに、お店の方が出てきてくださいました。
こちらが店主の仲谷一之さん(64歳)。
仲谷一之さん。
なぜ無人販売所を始めたのかを聞くと、次のようにお話ししてくれました。
「私は農家としては3代目なんですけれど、
もともとは左官屋の職人ですねん。
せやけど病気をして、まぁなんとか生きていければ結構やなあと思って、
この仕事に切り替えたわけです。
土地を放っておいたらあきません」
そうして、いまから10年以上前に農業と無人販売所を始めた仲谷さん。
当初はお店の名前にもなっている「せんぎり大根」の販売から始めました。
「そのせんぎり大根が売れていきまして、
これならやっていけるんちゃうか、といって
乾燥芋茎(ずいき)や切り干し大根も売り始めました。
ほんなら、それも適当に売れていきまして」
乾物のつくり方には、お母さんの経験が生かされているのだそう。
ところで、非常によく似たせんぎり大根と切り干し大根。
一体何が違うのでしょうか?
「せんぎり大根は機械でザーッと切って、バーナーを使って一昼夜で乾かします。
切り干し大根の方は包丁で切って、天日干しにして蒸しています。
蒸さないとこの色は出ません。
なぜか大阪方面の方にはせんぎり大根が売れて、
京都方面の方には切り干し大根が売れます」
せんぎり大根は、仲谷さんが
「これやったらいけると思った」という自慢の一品です。
せんぎり大根と切り干し大根をつくるのは、冬の仕事。
春から秋にかけては、田んぼ仕事が忙しくなります。
「お米はなるべく農薬を使わずに育てて、
大阪や全国へ直接宅配しています。
直接なら、自分で値段をつけられるわけです。
人に値段をつけてもらっていたらあきません」
休憩スペースには、お客さんがコメントを書けるノートが。ここに書かれたリクエストから生まれた工夫もあるそう。無人販売所だからこそ、お客さんと仲谷さん一家をつなぐ大事なノートです。
お客さんのことを考えて椅子やビールなどを置くうちに、
お客さんが増え始め、テレビの取材などもくるように。
仲谷さんのことを「おっちゃん」呼び、
何度も来てくれる人もいるといいます。
仲谷さんは「せやから思いつきで始めた商売やけど、
これでええかなと思って」とつぶやくように語ります。
お店の人がいてもいなくても、なんだか温かみが伝わってくる、無人販売所。
無人といいつつ、仲谷さんにはぜひいてほしいせんぎりやさんなのでした。
お米から自家製の揚げおかき。おいしいです!
山の辺の道の見どころは、ほかにもたくさん。
紅葉100選にも選ばれる長岳寺や、
豊かな森を育くむ大和朝廷創始者のお墓、崇神天皇陵(行燈山古墳)、
三輪山を御神体とする大神(おおみわ)神社なども素晴らしいのだとか。
いつかまた、ぜひ訪れたいと思いました!
天理駅から山の辺の道へいく場合は、駅前の
〈インフォ&ラウンジコフン〉内にある観光インフォメーションが便利です。
せんぎりやさんの場所も教えてくれますよ。
いまも昔ながらの暮らしが息づく、山の辺の道。
ぜひめぐって、太古の温かさを感じてみてください。
information
せんぎりや
住所:奈良県天理市乙木町236
information
インフォ&ラウンジコフン
住所:奈良県天理市川原城町803 天理駅前広場
インフォメーション:9:00〜16:00(季節により変動あり)
パークサイドキッチン:11:00〜22:00
バイシクルカラー:平日12:00〜20:00休日11:00〜20:00
Web:天理駅前広場 コフフン
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