連載
posted:2017.5.24 from:茨城県水戸市 genre:旅行 / 活性化と創生
PR 養命酒製造株式会社
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
茨城県水戸市と薬用養命酒でおなじみの養命酒製造株式会社が、
2016年夏からスタートした官民協働の新たな試み、
薬草活用プロジェクトのシンボルガーデンがついに完成。
それが、この4月29日、開園30周年記念事業の一環として
水戸市植物公園内にオープンした〈水戸 養命酒薬用ハーブ園〉です。
薬草に親しんでもらいたい。
そして先人の知恵の結晶ともいえる薬草文化を、いまの暮らしに役立ててもらえれば。
そんな願いが込められた薬用ハーブ園の薬草の一部は
ふたつのアルプスが見えるまち・長野県駒ヶ根市から届けられました。
初夏に美しい花を咲かせるシャクヤクもそのひとつ。
今回は、薬用ハーブ園に関わった裏方さんを紹介します。
薬草園と聞くと地味なイメージがあるけれど、
4月29日にオープン記念セレモニーでお披露目された、
〈水戸 養命酒薬用ハーブ園〉は、憩いの場という言葉がぴったり。
まるでイングリッシュガーデンのような雰囲気です。
「西川綾子園長が描いたイメージを再現しただけで、
私はそのお手伝いや下準備しかしていませんが」
そう前置きしつつも話してくれたのは
入庁4年目の若手技師ながら、ガーデンの設計を任された
水戸市建設部建築課の園岡 藍さん。
いままでの仕事は公共建築物の修繕が主だっただけに、
園長からぜひ手伝ってほしいとの依頼に驚いたとか。
「あなた、名前が薬草よね、と誘われて」
未体験の仕事にチャレンジすることに。
藍染めの染料“藍”は水戸藩ゆかりの薬草でもあると聞き、
この仕事に不思議な縁を感じたのです。
そこで考えたのが、自分のように薬草を知らない人でも
心地よくくつろげる空間にしたいということ。
なかでもシンボルツリー・キハダを囲む円形ウッドデッキは、
“憩いの空間”らしい印象的なデザイン演出ですが、
これは地元の大工さんからのアドバイス。
「直線的な形状にするつもりで相談したら、
放射状に板を並べたほうがキレイだし長持ちするんだよと」
ただし扇型に1枚ずつ板を加工するのは大変な作業。
それをこころよく職人さんに引き受けてもらい、
予想以上に見事な出来映えに園岡さんも感動したそうです。
また、特に思い入れがあるのが自然石を積み上げた看板。
これはドライストーンウォーリングと呼ばれる、
セメントなどを使わない英国伝統の技法ですが、
実は、このモニュメントの構想がまとまったのは、開園4か月前というぎりぎりの時期。
「私自身が最終的な段階で煮詰まってしまって」
この薬用ハーブ園ならではの何か。それって何だろうと思い悩む園岡さんに、
“バラの先生”が教えてくれたのがこの石積み。
英国といえば料理にはもちろんのこと、
ホリスティックな医療など、さまざまなシーンでハーブを活用してきたお国柄。
旧水戸藩校・弘道館の古瓦をあしらった、
隣接する“江戸時代の水戸藩にまつわる薬草エリア”とも好対照。
この看板が決まるとあとはとても順調に進み、
オープニングの日を無事に迎えることができたのです。
「ただ、こうして完成した薬用ハーブ園を見ると、やはり主役は薬草なんだなと。
2週間前のがらんとした状態とは見違えるようです。
美しく咲いてくれたこのシャクヤクとか、“花を添える”という言葉通りですね」
こんなにいい空間になったのも、薬草を大切に育ててくださった方々のおかげ。
この園岡さんの言葉を聞いたら、駒ヶ根にいる“あの人”はきっと安心するはず。
伝えてあげたいなと思うと同時に、ふたつのアルプスを望む広い畑を思い出しました。
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それは薬用ハーブ園オープンの5日前。
水戸に寄贈する薬草を育てた人がいると聞き、長野県駒ヶ根市にある
養命酒製造の工場を訪れたときに見た光景です。
その人の名は花岡信義さん。
養命酒製造でいま進めている、薬草試験栽培の担当責任者です。
さっそく案内された畑にはポツポツと赤い苗が。
「これはシャクヤクですね。
養命酒に使われている14種類の生薬のなかでも、かなり主要な成分だといえるでしょう」
漢方では月経不順や生理痛、冷え症などによく使われ、
薬酒にして服用すると血の巡りがよくなるんだとか。
可憐な花が美しい女性にたとえられるシャクヤクが、
まさか薬草だったとは知りませんでした。
「生薬の名前は難しいので気づかない人がほとんどですが、
意外と身近な植物の場合があるんですよ」
たとえばクロモジの生薬名は〈烏樟(ウショウ)〉。
高貴な香りを持ち高級爪楊枝の代名詞ですが、
もともとは駒ヶ根界隈でも自生しているクスノキ科の樹木。
高ぶった神経や咳を鎮める作用が知られています。
シャクヤクは〈芍薬(シャクヤク)〉と名前は同じでも、
生薬として使うのは乾燥させた根の部分だけ。
根を太らせるために3~4年かけて大事に育てても、
水はけが良くないとすぐ根腐れを起こす。
中央アルプスの麓にある駒ヶ根は、水が豊かな土地なだけにそれが大問題です。
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しかも、無事に育ったとしても、
果たして有効成分がどれだけ含まれているか。
生薬には「日本薬局方」に定められた厳しい基準があり、
それを満たさないと使うことはできません。
「生の状態が良くても乾燥させたらダメな場合もあり、
見た目だけではわかりません。これが薬草栽培の難しいところです」
それだけに、多種多彩な樹木や草花のなかから、薬効を持つ品種、
部位だけを選択して利用した、先人たちの知恵と探求心はすばらしい、と花岡さん。
「クローブやシナモン、ターメリックなど、
生薬として活用されているスパイスやハーブも同じ。
料理に使うのも、風味付けや香りだけじゃなく、
効能もあることを経験から学んだのでしょうね」
この薬草文化をこれからも広めていきたい。
栽培方法で試行錯誤を繰り返す日々のなかで
花岡さんは、自然とそう考えるようになりました。
「だから水戸での試みは本当にありがたいですね」
薬草は基本的には地味なものばかり。
派手さがないから見過ごされがちでも、
薬用ハーブ園で実際の姿を見てもらえれば、きっと親しみを持ってもらえるはず。
「特に水戸は薬草を大切にする風土ですし、
しかも30年続く植物のプロが集まる植物園内。
薬草にとっては理想的な嫁ぎ先でしょう」
どうか、水戸の人たちにかわいがってもらえますように。
まるで娘を嫁がせるような気持ちで
育てた薬草を数日前に水戸へ送り出したそうです。
「特に気になるのがシャクヤク。
花の時期にはまだ少し早いけど、なんとか29日に間に合えばいいのですが」
自分は29日のオープニングには立ち会えない。
GWに開催する「生薬植え付け体験会」の準備なので……
と、ちょっと残念そうな花岡さん。
この「植え付け体験」のように、駒ヶ根工場では薬草に親しむ企画が随時行われています。
この日も、中国の香辛料・五香粉(ウーシャンフェン)を
自分好みの調合でつくる講座を開催中。
講座には地元の熱心なリピーターが多く、さすが、養命酒発祥の地と思いましたが
ここは独特の山国文化を育んだ信州・伊那谷です。
都会で想像するよりもずっと、薬草は身近な存在なのかもしれません。
information
水戸市植物公園
住所:茨城県水戸市小吹町504
TEL:029-243-9311
開園時間:9:00~17:00(入園は16:00まで)
休園日:月曜(祝日、振替休日のときは翌日)、年末年始(12月29日〜1月3日)
入場料:高校生以上300円、小・中学生150円、県央地域にお住いの60歳以上の方150円
information
養命酒製造株式会社
information
養命酒製造 駒ヶ根工場 健康の森
住所:長野県駒ヶ根市赤穂16410
営業時間:9:30~16:30
定休日:年末年始、臨時休業あり
入場料:無料
※工場見学は要予約、無料
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