中川一政と現代の書家のコラボレーション
目の前に広げられた和紙の前に正座し、精神統一するかのように佇む女性。
やがて立ち上がると、大きな筆にしたたるほどのたっぷりの墨をつけ、
一気に文字を揮毫する。全身を使って文字を書いていくそのようすは、
まるでコンテンポラリーダンスのようだ。

ふだんなかなか見ることのできない書のライブパフォーマンスに、町民たちも息をのむ。書き切ったあとは息切れするほど、全身を使って書き上げた。
この女性は、書家の川尾朋子さん。
神奈川県真鶴半島の「お林」と呼ばれる豊かな森に隣接する
〈真鶴町立中川一政美術館〉で行われた、ライブパフォーマンスのようすだ。
続けて、町内の小学生を対象にした書道のワークショップも行われ、
子どもたちはいつもの「お習字」とは少し違う世界を体感できたようだった。

川尾さんの「習字は枠の中に収めるけれど、書道は紙をはみ出して書いてもいいので、いまからはみ出して書いてみてください」という言葉に、子どもたちもハッとさせられたようだった。
この日、川尾さんが書いたのは「生命」という文字。
「中川先生は生命感あふれる作品を描いています。
バラの絵もたくさん描かれていますが、いろいろな生きているものを
愛した人なのではと思って、この言葉を選びました」と川尾さん。

書からデザインまで。多様な作品に触れる
中川一政は日本における洋画の黎明期から活躍した日本を代表する洋画家のひとり。
戦後間もない1949年から、1991年に亡くなるまで真鶴のアトリエで絵を描き続け、
その多くがこの中川一政美術館に収蔵されている。
また一政は油絵だけでなく、書の作品も数多く残しており、書家としても人気が高い。
今回のイベントは、そんな一政の書家としてのすばらしさにも触れてほしいと
美術館で開催された。
現在開催中の企画展『中川一政の装丁とデザイン』(3月28日まで)では、
一政の書の作品も展示するほか、本の装丁や挿画、パッケージ画など、
一政の多様な作品に触れることができる。
川尾さんも、興味深く展示作品を見て回った。
一政の書はとても独特。少し角張った文字だが
大小が異なり整然としておらず、バランスが悪いようにも見える。
が、それがとても味わい深く、どこか人間臭さが感じられる。
川尾さんはそんな一政の書はとても上手だという。
「非常に書をよく学んでいらっしゃると思います。そのうえでどうバランスを崩すか、
そのズレの妙をよくご存知だったのではと思いますね。
文字の大きさも含めて、とても計算されていると思います」

中川一政美術館のロゴも一政自身が書いた。「このバランスの崩し方がおもしろいですね」と川尾さん。赤いマークは、矢印を一政がデザインしたもの。
一政はきれいな楷書も当然書けるうえで、既成概念にとらわれず、
どう作品として美しく見せるかを考えていたのではないかというのが川尾さんの推測だ。
その証拠に、もともとの文字のうまさが、ところどころに表れているという。
「作品ではうまさを出したくなかったんでしょうね。技を見せないようにしているけど、
実はその裏にはたしかな技がある。そこがかっこいいですね」

「先生の書は本当に上手なんです。それをみなさんに知ってほしい」
一政の書を見ながら、何度も「かっこいい」を連発していた川尾さん。
もうひとつ着目したのが、書の作品における色。
通常、墨の色は均一であるのがふつうだが、
一政の作品ではひとつの作品の中にも墨の濃淡があり、
それもわざとそのようにしているのではないかと見る。
また色がついた線で枠を描いたり、文字の背景に色があるものもあるが、
それは、「料紙」から自分で描くということでは、と川尾さん。
「日本では平安時代に和歌を書くことから書が広まりました。
その和歌を書く紙である料紙には、
いろいろな絵や模様を施すという文化があるのですが、
料紙から自分でつくるということをされていたのでしょうね。
そういうところも、絵画を描く人だなと思います」

写真提供:中川一政美術館






















































































































