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高齢化するドヤ街。
簡易宿泊所から生まれた
ゲストルームとは。
IVolli architecture vol.3

リノベのススメ
vol.097

posted:2016.1.6   from:神奈川県横浜市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

IVolli architecture

アイボリィアーキテクチュア

永田賢一郎と原﨑寛明による建築ユニット。2013年より横浜を拠点に活動開始。建築設計をはじめ、インテリアやプロダクトのデザインからプロジェクトデザイン、インスタレーションなど建築にまつわる様々な活動に取り組んでいる。
永田賢一郎(ながた・けんいちろう):1983年東京都出身 横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了 KUUを経て2013年より活動開始。
原﨑寛明:(はらさき・ひろあき)1984年神奈川県出身 横浜国立大学工学部建設学科卒業 オンデザインパートナーズを経て2013年より活動開始。
http://ivolli.jp/

IVolli architecture vol.3

こんにちは。アイボリィの永田です。
これまで2回にわたって僕らの拠点のある黄金町について
ご紹介しましたが、今回は少しだけ足を延ばして、
寿町というエリアでの仕事をお話したいと思います。

ドヤ街と呼ばれたまち

寿町はJR関内駅、石川町駅から徒歩5分ほどの場所にあり、
僕らの事務所のある黄金町からも自転車で10分ほどのところにあります。
黄金町が以前は特殊飲食店でにぎわっていたまちであることは
vol.2でお話してきましたが、
この寿町もまた、独特な歴史を持った地域です。
「寿町」と検索すればいろいろな話が出てくるのですが、
ここは日雇い労働者のための簡易宿泊所が集まる、
「ドヤ街」と呼ばれてきたまちです。
“ドヤ”とは簡易宿泊所のことを
「人が住むような宿(=ヤド)ではない」という意味から、
自嘲的に“ヤド”を逆さまに呼んだ名称のことで、
大阪の釜ヶ崎、東京の山谷、横浜の寿町は
「3大ドヤ街」とよく言われます。

寿町の様子。(コロカルのエリアマガジンでも寿町を紹介)

簡易宿泊所というのは、名前の通り、
生活するのに最低限の設備しか整えておらず、
ひと部屋はとても小規模で、3〜4畳ほどの広さも珍しくありません。

部屋数は多く、廊下にたくさん扉が並んでいます。

ひと部屋は3〜4畳ほどの広さ。

寿町の現在

寿町は戦後、横浜港での荷役などを中心とした
労働者たちのための簡易宿泊所が100軒以上立ち並ぶようになり、
一時は港湾労働者たちで大変にぎわっていた時期もありました。
しかし時代とともに港湾を中心とした産業も経済も変化していき、
かつての労働者たちが職を失っていくようになりました。
治安の悪さなども目立ち、寿町のまちとしての印象は
とてもいいものではありませんでした。
現在では寿町の住民たちの高齢化が進み、
まちで暮らす人たちの8割近くが生活保護を受けながら暮らしています。
かつての日雇い労働者のまちは静かに福祉のまちに移り変わっています。

寿町には福祉サービスがたくさんあります。

では、そのような寿町と僕らの“改修”がどこで結びつくのでしょうか。

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寿町の活性化を図る?

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ヨコハマホステルヴィレッジの活動

実はここ寿町では、2005年より「ドヤ街」というイメージを刷新し、
衰退していくまちの活性化を図るために
〈ヨコハマホステルヴィレッジ〉という事業が行われています。
住民の高齢化がもたらす生活保護受給者の増加や、
福祉介護のニーズ、空き部屋の増加といった寿町の抱える問題を、
簡易宿泊所をホステルに変えていくことで、
新しい人たちをまちに呼び戻し、
地域に再び産業を生み出してまちの再活性化を図っています。
海外からの利用者も多く、まちの住民と旅行で来た外国の人たち、
ヴィレッジを支えるスタッフの人たちとの
多様な交わりが常日頃生まれています。

その活動の中心となっているのが〈コトラボ合同会社〉の岡部友彦さん。
2007年より寿町で「モノづくりではなくコトづくり」をすることで
まちを元気にするコトラボ合同会社を立ち上げて活動されています。
いくつものプロジェクトを抱えながらご自身でも施工もしてしまう万能人です。

ヨコハマホステルヴィレッジとコトラボ合同会社の岡部さん。

〈ヨコハマホステルヴィレッジ〉では、寿町エリアの元簡易宿泊所の4棟の建物の中に
ゲストルームを、合計70部屋近く展開しています。

「ひとつひとつの空き部屋をリレー形式で次々改修していくことができたら、
“改修”そのものが“まちの活性化”にもつながっていきそうですね」
というようなことを岡部さんとお話したところから、今回声をかけていただきました。

ヨコハマホステルヴィレッジが管理しているゲスト専用のフロア。

また別の棟にあるゲストルームの一例。広さは4畳ほど。

僕たちは同じ建物内の、ふたつの部屋を改修させてもらいました。
最初に改修したのが「610号室」で、
2件目は「417号室」。
部屋はどちらも4畳ほどの大きさです。
ひとつの建物の中で、
10数部屋ほどをホステルヴィレッジが管理しています。

改修前の610号室の様子。

動きやすい仕組みをつくる。

まちの中に点在している客室がひとつずつ更新され、
それが、ひとつの有機的な運動のようになっていくとまちに動きが生まれます。
継続的な動きにしていくためには、
予算をかけず、かつ短期間で豊かな空間に仕上げていく仕組みをつくる必要がありました。
そこで僕たちは、以下の条件を設定して1物件2週間ほどで施工していくことにしました。

・簡単に手に入る材料であること

・手を加えやすい素材であること

・時間に抵抗しない素材であること

・更新可能であること

・ローコストであること

・施工に時間がかからないこと

材料の調達に困らず、
加工から運搬、施工まで自分たちでまかなえる範囲で探すことで、
部屋が更新されていった場合の速度に対応していけるようにしています。
黄金町でのプロジェクトでもそうですが、
自分たちの拠点の周りで行う仕事は、
このように動きやすい態勢と手法をつくっておくことで、
コミュニケーションとアクションが取りやすくなります。

狭くても豊かな生活を設計する

黄金町における「ちょんの間」もそうでしたが、
とても特殊な事情が特殊な場所を生み出すことがあります。
寿町の簡易宿泊所が持つ「狭さ」もそのうちのひとつです。
この「どうにもならない狭さ」を受け入れながら、
どうしたら豊かな時間を過ごせる場所になるかを考えながら、
ふたつの部屋の改修を進めました。

610号室では、クロスを塗装し、
年季の入った床のクッションフロアを剥がし、
〈OSB〉と呼ばれる合板をタイル状に加工したものを敷き詰めていきました。

OSBは20センチ角にカット、四辺を削りタイル状に加工。(撮影:加藤甫)

机と棚を兼ねた窓辺のカウンター。(撮影:加藤甫)

ベッドを中心にすべてのものが手の届く範囲にある。(撮影:加藤甫)

また、コンクリートブロックと合板で
ベッド、壁の立ち上がり、カウンターを一体でつくり、
部屋で過ごす間の、ちょっとした所作に造作が対応していくような部屋にしています。

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もうひと部屋の改修は?

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一方こちらは2番目に施工した417号室。
造作を窓周りだけに絞り、合板と角材のみで仕上げています。
部屋に唯一の窓を中心に窓辺の過ごし方を設計していきました。

正方形の窓は部屋で唯一の明かりとり。(撮影:加藤甫)

クッションフロアを剥がした床にはエポキシ樹脂を流し込んでいます。
黄金町の事例でもお世話になった稲吉稔さんによるエポキシの施工です。
半透明のエポキシはうっすらと下地の様子を浮かび上がらせます。

(撮影:加藤甫)

エポキシの光沢が部屋を床に映し込む。(撮影:加藤甫)

時間の受け皿をつくる

路上で行く宛もなく佇む生活者の方々の光景が、
寿町というエリアの空気をつくり、
それがひと部屋の狭さから接続していると聞いたときに、
まちの風景がひとつひとつの部屋の生活から
つくられていることを感じました。
そういう意味では、このプロジェクトでは
このまちの生活に流れる時間を設計していたと思います。
無数に存在する小さな部屋の数だけ生活があり、
いろいろな時間が流れています。
そのひとつひとつの時間を受け止める場所を更新していくことで、
まちの様子も変わっていくことを期待しています。
そのためにはこのような小さくとも広がりのある活動が
継続的にできていけたらと考えています。

すべては近くで起きていること

旧劇場のある黄金町から自転車で20分ほどの範囲のなかには
風俗街、商店街、外国人街、ドヤ街、オフィス街、観光地と、
あらゆる場所が存在していて、それぞれに背景があります。
僕らは日々そのようなまちのなかを行き来しながら活動をしています。
黄金町の「ストリップ劇場」「ちょんの間」、
寿町の「簡易宿泊所」と3回にわたり
少々特徴的なエリアでの活動を紹介してきましたが、
次回はもう少しみなとみらい寄りのエリアで行った、
オフィスのプロジェクトを紹介したいと思います。

information

map

ヨコハマホステルヴィレッジ

住所:神奈川県横浜市中区松影町3-11-2三和ビル1階(フロントオフィス)

TEL:045-663-3696

営業時間:9:00〜20:00

宿泊料金は1人利用3100円/泊〜

※価格は建物によって異なるので詳しくはHPでご確認ください。

http://yokohama.hostelvillage.com/ja/index.php

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