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株式会社建大工房 vol.4
木材、布にガラス。
地元企業の廃材を組み合わせて、
ラーメン店にリノベーション!

リノベのススメ
vol.138

posted:2017.2.26   from:福井県福井市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Kendai Demizu

出水建大

株式会社建大工房代表取締役。福井市出身。2009年に仲間とともに〈FLAT〉プロジェクトを立ち上げ福井市内の廃ビルを再生。現在は160坪の廃工場をリノベーション中。廃材STORE&DIYスペースとして〈CRAFTWORK&Co.〉をオープン予定。

株式会社建大工房 vol.4 
地元の廃材プロジェクトの始まり

一般的に、建築には人件費が一番高くつくといいます。
それを削減するためにどんどん工業化や簡略化が進み、
結果、職人不足になるというスパイラル。
今回は廃材やもらい物を使うことで安く上げるのではなく、
材料費で浮いた分を、あえて「職人の人件費に分配しよう」ということから始まりました。

今回の物件は廃材をふんだんに使ってつくったラーメン屋さん。
福井市に2店舗を構える人気店〈いちろくらーめん〉の新店舗で、
福井市内の空き店舗をリノベーションしました。
大きなコンセプトとしては廃材を利用するということですが、
ほかにもいろんな意味のあるプロジェクトになりました。

通常、店舗の内装工事であればできるだけ短期間で仕上げて店をオープンさせるところを、
廃材を使うなど、あえて手間と時間をかける。
1日十数万円売り上げる店舗が、逆にテナントの空家賃という余計な出費まで発生します。

そんなリスクを負ってまでこのプロジェクトを実現させてくれた、
〈いちろくらーめん〉山中与志一社長に感謝します。

業界トップシェア、地元ガラス商社との出会い

事の発端は僕の知人で、山中社長の友人でもある、
〈OOKABE GLASS HD〉(元大壁商事株式会社)の大壁勝洋社長が
このプロジェクトを発案したことでした。
このOOKABE GLASS HDという会社はインターネットで特殊なガラスを販売する、
業界トップシェアを誇る福井の企業で、建築業界だけではなく個人でも購入できます。
また、ネット販売でも電話での顧客対応サービスに特化していることで定評のある会社です。
同社の大壁社長が考えているのが自社で日々排出されるガラスの端材などを含め、
さまざまな産業から出る廃材の流通や活用法でした。

〈いちろくらーめん〉3店舗目の出店が福井市の繁華街でも目立つ中心部に決まった時に、
大壁社長が「どうせならおもしろいお店にしようよ!」ということで、
廃材を使ったデザインをするのが好きな僕に山中社長を紹介してくれたのが始まりでした。

閉鎖的な夜のお店が多い繁華街でガラス張りの壁。

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廃材が、ここまで変わる! 

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素材集めの旅

ひと口に廃材と言ってもいろいろありますが、
今回は先にも述べたように企業などで出てくる副産物的な廃材の利用を考えるために、
いくつかの知り合いの企業にも協力してもらおうということで、
福井県内をみんなで廃材めぐりの旅をしました。

まずは福井県の越前市にある縫製の会社〈株式会社MONSTER〉。
有名ブランドの縫製などを手がけるため、工場もとにかく大きくて社員も100人規模。
ここでは一度に何百枚と同じ型の縫製をするため、扱う布の量が半端じゃない。
端切れとなる布もロール単位で処分費もバカになりません。
ここいただいた布はお店の暖簾になりました。

処分予定の布でつくった暖簾。せっかくならと、MONSTERの草桶嘉之社長のこだわりで特殊なミシンで縫い目も幅広くしてもらってカッコよくなりました。

パッチワークが廃材の板材との相性もいい。

次に向かったのは同じ越前市の〈中西木材株式会社〉。
ここも大きな会社で普段からムダをなくすべく、
不要な木材はチップにしてペレットストーブ用の燃料のプラントまで自社で持っている。

そこで「何か捨てるものないですか?」とうかがうと、
たまたまケヤキの古材を切った端材が出たところで、
ケヤキは硬すぎてペレットのプラントにも適さないらしく
処分するしかなさそうなので(もちろん最後は薪になるのですが)、
このケヤキをいただき、カウンターの一部とテーブルの脚になりました。

古い蔵を解体して出てきた梁や柱を割って使える部分はちゃんとほかの建築に使っていて、その切れっ端を今回いただいた。

カウンターの手前の部分はケヤキで天板部分は福井産のナラ材。反りまくってて使いものにならない部分を切り貼りしてサンダーで削り、樹脂で埋めた。

もらってきたケヤキの材料がカウンターの長さに足りなかったので、接ぐ(継ぎ合わせる)ために無理やりかつ、さりげなく大工の技術を使ってくれた。

テーブルの天板のスギ材は大木の根っこに近いくねくね曲がった部分をスライスして小さくしたものを張り付けた。貼ってあるタイルももちろんタイル屋さんの倉庫に眠っていたもの。

そして今回のメインテーマと言っても過言ではない、大壁さんのところのガラス。
僕は個人的にアンティークガラスやステンドグラスが昔から好きで、
手がける建築にはほぼすべてどこかにそういうガラスを使います。

昔からお世話になっているステンドグラスの作家さん〈TOKI GLASS工房〉で
自分でもしばらく習ったことはありましたが、
今はそれをうちの奥さんが受け継いでくれて
ステンドグラスの作家として日々作品をつくり続けています。
もともと廃材利用と思ったことはなかったのですが、
確かに小さなピースをつないでいく過程ではほとんど捨てる部分が出ないものづくり。

日々大量に捨てられるいろいろな種類のガラス。素材感のある建築との相性もいいのでリノベーションの現場でも大いに活躍できます。

廃材を生かす、ものづくりのマッチング

今回のミッションの中のひとつが「ふんだんにガラスを使うこと」。
こういう特殊なガラスの魅力や存在を幅広く知ってもらうため、
というのももちろんありますが、ステンドグラスを自分でも案外簡単にできるということも
同時に知ってほしいという思いもありました。

そこで工事中に何度かOOKABE GLASS HDでステンドグラスのワークショップを開催して、いちろくらーめんのスタッフにも参加してもらい、ステンドグラス作家の指導のもと、
お店の一部を自分たちでつくる体験もしました。

第1回目のワークショップは一般公募はせずにスタッフのために開催。普段はラーメンをつくっているいちろくらーめんのスタッフもまったく初めての経験で楽しく作業してました。

プロジェクトの別のミッションとしても、
ものづくりの楽しさをより多くの人に伝えるというのもありました。
廃材をうまく活用できるのは作家さんやアーティストだということで、
そういう人たちとつながっていくために

「ワークショップを定期的に開いていこう」

そんな大壁社長の思いはさらに広がります。
「インターネット販売に特化した今の業態を利用して、世の中の廃材をもっと流通させたい」

そこで僕と大壁さんとで始めたのが〈TRASH BOX PROJECT〉。
廃材の処分に困っている企業とアイデアや技術を持っている
アーティストや職人をつなげてものづくりを活性化するプロジェクト。
その一環としてのワークショップでもありました。
しばらくは作家さんを呼んでさまざまなワークショップをしていくかたちですが、
今後は大壁社長のネットワークを生かして、
廃材などの情報を誰でも簡単にサイト上にアップしたり
購入したりできるようになる予定で、幅広くいろんな素材とアイデアをミックスしていきたい。

第2回目のワークショップでは一般の人も交えて、自分でデザインを決めてアルファベット文字をつくった。これは〈いちろくらーめん〉では使っていませんが、本当に小さいガラスのピースを使ってつくれるので廃材利用にはもってこい。そして何よりもうれしいのはこの回をきっかけにステンドグラスを習い始める人が出てきたこと!

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完成した店舗には……

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正面の大きな窓にはこれからステンドグラスのワークショップでつくっていくガラスで1枚ずつ埋められていく予定。

ラーメン店のイメージとのバランス

こんな感じでいろいろこだわってつくった部分が増えてちょっと心配だったのは、
変にカッコよくなり過ぎること。
僕は個人的にはあんまりカッコいい、キレイなラーメン屋さんを
「おいしそう」とは思えないからです。

もとのいちろくらーめんは新店舗から歩いてすぐの場所にあり、
そこはカウンターしかない赤提灯の似合う昔からのラーメン屋さん風なつくり。
でも今回、施主の山中さんの新店舗への要望としては
「ワインが似合う、オシャレな女性でも入りやすいお店」でした。
そしてもうひとつ、海外にも出店を目論んでいるので、
どの国でも通用するお店にしてほしいという無茶な要望。

そこはいつも組んで仕事をしていて、毎年一緒にポートランドにも行っている、
デザイン事務所〈HUDGE〉の内田裕規さん(vol.1vol.2に登場)に
ブランディングを任せました。ロゴは元からあるものを使いたいということで、
そのほかのユニホームやメニューにも随所にこだわりを見せて。

メニューも紙質や写真にこだわってZINE風に。

エプロンもオリジナルデザインで縫製からつくった。

全体的なイメージのコンセプトはキャンプに行った先の、
山の中のロッジ風(山中さんだけに)。
廃材で仕上げた壁もいい意味で新しさやキレイさを抑える役割をしてくれて、
オシャレな中にもどことなく懐かしさと温かさを感じられる雰囲気になりました。

Rのサインはラーメンの「R」。もちろんトタンの端材で。グレーの部分の塗り壁はもともと左官屋さんをしていたオーナーの山中さんが年末の休み返上で塗りあげたもの。

女性客がたくさん入ってくれた開店直後。

オープン前の新しい厨房で山中社長が自らつくってくれた最初の一杯。HUDGEの内田と共においしくいただきました。

廃材によって生まれた、ワクワクする時間

正直、廃材を使うというのは大変です。
割れてたり曲がってたり汚れてたりしています。
新しい材料を買ってきてつくったほうがよっぽど簡単で
あまり考えなくてもキレイに仕上がります。

ただ、リノベーションという行為自体がそうですが、
ものを見てそこからイメージを膨らますという行為は
やっぱりクリエイティビティを刺激します。いつも思うことですが、
こうやってたくさんの人と関わってものづくりをしてると、
子どもの頃の「図工」の時間を思い出します。
隣で友だちがつくっているのを見てそれに刺激されて、
もっとおもしろいものを、もっといいものをつくってやろうという、
ワクワクする感じを大切にしていきたい。

今回も本当は単なるラーメン屋さんづくりだったのが、
大壁社長のひと言でたくさんの人たちが楽しみながら、
才能を出し合う大人の図工のような時間に変わりました。

そして当然のように捨ててしまうものでも、
見る人が違う目線で見て別の何かとくっつけることで、必要とされるものに変わる。
今はインターネットやSNSなどを使ってその「目線」をたくさん集められる時代。
その橋渡し役として今後も〈TRASH BOX PROJECT〉として
いろいろワークショップを企画していきます!

そして次回はホームセンター大好きな僕がコツコツとつくってきた、
大人の図工が楽しめる場所、廃材ホームセンターの記事です!

information

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いちろくらーめん 片町新店

住所:福井県福井市順化2-21-17 ライブリービル1F

TEL:0776-97-9016

営業時間:19:30〜27:00

定休日:日曜・祝日

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