連載
posted:2016.11.25 from:福井県福井市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Kendai Demizu
出水建大
株式会社建大工房代表取締役。福井市出身。2009年に仲間とともに〈FLAT〉プロジェクトを立ち上げ福井市内の廃ビルを再生。現在は160坪の廃工場をリノベーション中。廃材STORE&DIYスペースとして〈CRAFTWORK&Co.〉をオープン予定。
「Happiness is only real, when shared.」
幸せが現実となるのは、それを誰かとわかち合った時だ。
前回にも書きましたが、僕はホームレス工務店だったことがあります。
家もなく、借金を抱えながら、何のために生きるか、何を信じるかなど、
いろいろ悩んで哲学書や宗教の本などを読み漁って出会った1本の映画がありました。
『イントゥ・ザ・ワイルド』(into the wild)。冒頭の言葉はその中の一節です。
ストーリーはこうです。
物質社会に嫌気がさした青年がすべてを捨てアメリカを横断。
目的地であるアラスカの奥地で完全自給自足の生活をしながら自分をみつめていく。
1992年に実際に起こった実話に基づいた話です。
主人公がアラスカの地で苦悩の果てに、
最後に残したメモにあったのが、先の言葉でした。
当時、生きることの意味を模索してる僕にとって救われた出来事のひとつでした。
その映画の公開を知ったのが〈IDEE〉創始者の黒崎輝男さんのブログです。
鯖江の講演を聞きにいってすぐのことでした。
さて、今回は、ホームレス工務店となり、
どん底だった当時の僕にとって、大きな財産となった黒崎さんとの出会い、
アメリカの旅、そして2016年にオープンした古ビルの話を書きます。
まずは今年2016年9月にオープンした〈CRAFT BRIDGE〉(クラフトブリッジ)について。
ここ福井にもまたひとつおもしろい場所ができました。
もともとは住居や賃貸住宅として使われていましたが、2階、3階は10年以上放置されていて廃墟同然でした。
1階が日本酒バーとパン屋さん(予定)、2階にシェアオフィス、
そして3階とルーフテラスにクラフトビールのビアバーがある複合施設です。
FLAT(vol.1参照)から派生した仲間に新たなメンバーが加わり、
代表は不動産屋さんで、建築家、漆器屋さんなどの方々も参画して、
みんなでつくりあげています。
ビルのコンセプトは福井はもちろん、北陸の地域に根づく工芸や食、
地酒などのものづくりの文化を、体感できる橋渡しの役目となり、
これからの新しい働き方を生むような、交流の場となる場所。
FLATは福井のクリエイターたちの交流や表現の場所という感じで使われてきましたが、
ここクラフトブリッジはもう少し発信の範囲を広げていくのと、
これからの「仕事」のやり方を提案していくような、
人材を育てていく場所としても活用できるようになっています。
1階の日本酒バー〈rice bar〉は黒崎さんの紹介で福井出身のデザイナー水谷壮市氏の設計。
1階のパン屋さんが入る予定のスペース。これは、オープニングパーティーの様子で、東京から黒崎さんの事務所のスタッフもたくさん駆けつけてくれて盛り上がりました。
3階のクラフトビアバー〈Bridge Brew〉。壁面の廃材のヘリンボーンの壁はここを経営するデザイン事務所〈HUDGE〉のスタッフたちがDIYでつくったもの。テーブルはもともとついていた鉄扉をそのまま使っています。
インテリアのチョイスはHUDGE代表の内田裕規さん。アメリカで買い集めたものばかり。
屋上のビアガーデン。北陸のクラフトビールと地元食材のオーガニックフードが食せる。薪はディスプレイだけではなく、石窯もつくってあり本格的な石窯ピザも焼ける。屋内に薪ストーブも設置予定。
リノベーションスクールの時にDIYワークショップでつくった屋上に設置したオブジェのフラードーム。ホームセンターの1×4材で総材料費は3万円程度。直径3.4メートル。
1番上のルーフテラスのコンセプトはアウトドアリビング。ハンモックに揺られながらまったりと過ごせる。
実はクラフトブリッジをプロデュースしてくれているのが、
冒頭でも書いた黒崎輝男さんです。
東京・青山の国連大学前広場で開催されている〈Farmer’s Market〉や
フードカーが集まるコミュニティ空間〈commune 246〉のプロデュース、
米国・ポートランドのガイドブック『TRUE PORTLAND Annual 2014』など、
数々のおもしろい本も出版しています。
仏人デザイナー、フィリップ・スタルクを日本に紹介しオリジナル家具をプロデュース、
ほかにもマーク・ニューソンなど世界に名だたるアーティストの才能を見出してきた
現代の千利休みたいな人だと僕は思っていて、
90年代後半〜2000年代初頭の東京のデザインシーンを語るうえでかかせないひとりです。
今も常に世界中を飛び回りながら最先端を走っています。
クラフトブリッジでは2階のMIDORI.so FUKUIを運営してもらって、
平均すると月に1度くらいのペースで黒崎さん自ら出向いてもらってイベントをしたり、
福井と東京の若者たちとの交流を促してくれたりします。
2階のギャラリースペース。今は越前漆器や金継ぎの作品、越前和紙などが展示されています。
2階のシェアオフィス〈MIDORI.so FUKUI〉の窓の外には隣にある隈研吾氏設計の料亭〈開花亭sou-an〉が。
伝統工芸などのものづくりが根づく福井にはそれを守りたいという若者がまだまだいる。
黒崎さんは、日本古来の文化や風景をどう残していくかという活動をしていて、
伝統を担う福井の若者がそれぞれ現代的なやり方や見せ方などの葛藤があるところに、
突破口となるヒントをくれながら、応援してくれています。
そんな北陸のものづくりがクラフトブリッジのテーマになったのも
2年前に黒崎さんに連れられて行った旅から始まります。
まさか僕らが黒崎さんとアメリカに行くことになるとは……
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オープンして間もないクラフトブリッジでの黒崎さんを招いてのスクーリング〈We work here〉。工芸や和紙職人など地元の若い伝統工芸師や作家、学生たちにこれからの新しい働き方の提案をしてくれた。
黒崎さんとの出会いは2008年。
メガネの産地として知られる福井県鯖江市での黒崎さんの講演を聞きにいった僕らは、
世田谷ものづくり学校での自由大学やスクーリングパッドなどの取り組みを知って、
ここ福井でもそんなことを始めたいと思い、
スタートしたのが前回紹介した〈FLAT〉プロジェクトだったのです。
初めて会う僕らの相談を聞き入れてくれた黒崎さんは、
それ以来福井の古いまち並みや食、ものづくりを気に入って、
ちょくちょく顔を出してくれるようになりました。
そして古いものが好きな黒崎さんとともに〈北陸古民家再生機構〉なるものを始め、
福井の田舎にある伝統工芸の産地などを回るようになりました。
そこから派生したのが今回のクラフトブリッジです。
クラフトブリッジの構想が生まれたのは福井市でも少し風情の残る、
旦那衆の飲み屋街“浜町”という通りでいい感じの古ビルを見つけたことから、
「ここで何かしたいよね~」と仲間と話していました。
もともとはFLATの仲間が日本酒が好きで、
北陸のお酒をもっと広く知ってほしいと思っていて、
同じように日本酒に興味を持ってる黒崎さんも世界に広めるために、
アメリカの市場を調査しに行く予定とのことでした。
そしていろいろ考えているうちになんと黒崎さんと一緒にアメリカ旅の話が出たのです。
そのころポートランドの〈リビルディングセンター〉にずっと行きたかった僕は
その旅に便乗させてもらいました。
2014年6月、ロサンゼルスから始まり、サンフランシスコ、ポートランド、
シアトルと西海岸の4都市とニューヨークを2週間ほどで回るという、
タイトなスケジュールですが黒崎輝男がどんな人かを知る人なら
これがどんな貴重なことかわかってもらえると思います。
そしてどれだけお金がかかったかも……。常に各地元の方のアテンド付き。
NYマンハッタンのとあるアイスクリーム屋さんにて。左から東京でフルーツ業界を引っ張る〈フタバフルーツ〉の成瀬大輔さん、福井のデザイナーHUDGEの内田さん、アテンドしてくれた高橋歩くんのところのスタッフ・キヨさん、黒崎さんです。
アメリカへは20代の頃、合計すると2年くらい住んだり旅したことがありましたが、
食やデザイン、アートなど黒崎さんに連れられて行く場所は、
軽く芸能人にでもなったかと勘違いしてしまうほど、
当時の僕のキャパでは刺激が強すぎて消化しきれない内容でした。
本当なら細かく書きたい濃い内容ではありますが、
この旅のなかでも心に残った場所のことをひとつだけ。
LAにある〈ワッツタワー〉という廃材のアート作品を見に行った時、
ギャラリーの人に次はサンフランシスコに行くことを伝えたら、
バークレーの西にある“Albany Bulb”(オールバニーバルブ)という場所を勧めてくれました。
何やら廃材のアート作品がある場所のようで、
ネットでちょっと調べてもあまり載っていませんでした。
観光地でもないそこは、もともと産業廃棄物などのゴミ捨て場だった埋立地で、
サンフランシスコに住んでる人ですらあまり知られていない場所みたいでした。
実際に地元の人に聞いてもホームレスのたまり場みたいなイメージでしかないという話で。
バークレーの宿にチェックインして次の早朝、黒崎さんが寝ているうちに
さっそくAlbany Bulbに向かいました。
駐車場に車を止めて何もない産廃だらけの荒れた野原を歩くこと20分、
いつまで歩いても見えてこないので、
もう撤去されてなくなったのかなぁと半分あきらめながらふと海岸線を見下ろすと、
いました!
一番にまず目に飛び込んでくる印象的な作品。身長は4メートルくらいあるのに海沿いの風が吹きさらす中、よく立ってると思う。
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「よく来たな!」って感じで出迎えてくれてるようで見た瞬間鳥肌が立ちました。
何もないんじゃないかと思っていただけに余計に。
廃材や廃墟が好きな僕としてはたまらない作品の数々。
しかも海岸沿いで野ざらしにされながらもなんとなく表情までちゃんと残ってて。
歩いていくとその先にもまだまだアート作品がありますが、
今残されている立体の作品のほとんどがOsha Neumannという人がつくったもので、
職業はホームレス問題専門の弁護士だそうです。
今年2016年7月もこの場所に行きましたが2年前より大分、
風化が進んでいたのでたぶんそう長くはもたないと思います。
2年前は10体ほどあった大きな作品も今年は3体ほど、ほぼ形がなくなってた。年々風化していっているみたいなので全部なくなるのもそう遠くはなさそう。
アメリカのまちをちょろっと見て歩いて思ったのは、
良くも悪くもアメリカらしさってのを国民はわかっていて
新しいものを取り入れながらも軸は「アメリカ」だな~と、僕にはそう映りました。
そして同時に「日本らしさって何だろう」ってことを考えながら旅をしていました。
表層のデザイン的なことだけではなく。
アメリカで出会ったヒッピーカルチャーを振り返ると
古いものを無理に守ろうとするわけでもなく、
かといって新しいカルチャーをつくりだすわけでもなく、
自然とストリートから生まれていたりする。
個人が自分の住んでる家やまちを愛していてアートとともに暮らし、
そして何よりも生活を楽しもうとしている姿があり、お金をかけて何かをするんじゃなく、
あるものを使い、ときには自然なかたちで
目の前にあるストックをシェアするということがベースになってる。
そんなまちの様子が目につきました。
日々の生活や仕事に根づいたコミュニティの自然なあり方。
何気ない日常に廃材やアートが溶け込んでる。
ブルックリンの有名なリノベーション建築〈ワイスホテル〉のサインはサインの廃材からつくられている。
最先端を走っていると思っていた黒崎さんがアメリカの旅で僕らに見せてくれたものは、
結局「人間らしい」生き方に基づいたまちのあり方でした。
そしてもうひとつ、僕らがエンターテインメントの国、アメリカで学んできたものは
「魅せ方」かも知れません。ここクラフトブリッジでは
伝統工芸や福井の文化もみんなで勉強しながらも今、
日本に残されているものを現代風にちょっとおもしろおかしくアレンジしていけばいい。
日本とか福井とかの「らしさ」を探すというよりは、
日々の暮らしや生活の中で、まずは身近なものを使い、
身近な人が楽しめる環境をつくっていく。そんなかたちで
仕事も遊びも文化も発信していけるような場所になっていけるといいと思います。
次回はクラフトブリッジで話していたら盛り上がり、
身近な産業や建築の現場などから出てくる端材や廃材を使って
ラーメン屋さんをつくろう! と言ってでき上がってしまった飲食店の話です。
information
CRAFT BRIDGE
住所:福井県福井市中央3丁目5-12
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