連載
posted:2017.2.3 from:岐阜県岐阜市 genre:ものづくり / アート・デザイン・建築
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
これまで4シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
第5シーズンは、“100年企業”の貝印株式会社創業の地である「岐阜県」にクローズアップ。
岐阜県内の企業やプロジェクトを中心に、次世代のビジネスモデルやライフスタイルモデルを発信します。
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:石阪大輔(HATOS)
岐阜駅から10分ほど歩いた場所に、〈アラスカ文具〉がある。
間口は狭いが、奥に広い。
すっきりと白い店内に、たくさんの色とりどりの文具が映える。
「海外のポップな文具と、日本に昔からある定番文具を中心に取り扱っています。
見ていてワクワクするものが好きですね」と言うのは店主の横山七絵さん。
オリジナル商品も展開していて、小さくてちょっとユニークなものばかり。
ほっこりするようなプロダクトには横山さんの人間性が表れているようだ。
このアラスカ文具を運営しているのは〈リトルクリエイティブセンター〉。
岐阜が地元で、同じ高校・大学に通っていた仲間3人で2011年に立ち上げた。
「僕は岐阜のデザイン系の高校出身で、名古屋の芸術大学に進みました。
今一緒に働いている石黒公平と横山七絵も、同じ高校なんです。
大学時代に3人でデザインユニットみたいなものを始めたのが、
この会社に至るきっかけです」と教えてくれたのは、
クリエイティブディレクターの今尾真也さん。
大学卒業後は、それぞれの道を歩んでいった。しかし25歳頃、また仲間が集結する。
「正直にいうと、当時は何か大きな野心があったわけではなく、
このままだとマズイという漠然とした不安のほうが大きかったです」
3人はグラフィックデザイナーであったので、当然、デザインの仕事をしていきたい。
しかしすぐに仕事があるわけではなかった。
そこで自分たちのデザインを外にアピールしつつ、売り上げも出していくために、
〈アラスカ文具〉としてオリジナル商品を開発していく。
「当初は紙もののグラフィックが中心でしたが、
自分たちがつくったものを全国に卸すことができれば生計も成り立つかなと思いました」
当時は、岐阜のまちにも“シャッター”が増え、遊び場が減っていた。
そこで自分たちで場をつくるためにも、文具の卸しだけでなく店舗を構えることにした。
まずはたくさんの小さな店舗の集合体であった〈やながせ倉庫〉に出店。
その後、柳ケ瀬商店街に移転する。
この2か所に出店することで自分たちの認知度があがり、
デザインの仕事が少しずつ舞い込んでくるようになる。
当初は、名刺やパッケージのデザインなど平面のグラフィックが中心だった。
しかしローカルでは、制作にまつわるすべてを頼まれることがよくある。
「お菓子のお土産のパッケージデザインの仕事をいただきました。
でも、まずはお店のブランディングから始めたほうがいいと思い、
ロゴマークなども制作しました。
始めに依頼をもらったものとは、
最終的に違うものをつくるということはよくあります。
こっちのほうが必要なんじゃないかと、
ブランドや店舗のことを考えることはすごく楽しいです」
また地域密着していれば、相手のことがよくわかる。
なるべくなら性格や人間性まで知りたいという。
「たとえば地域の個人店だと、
自分たちでスタンプを捺すようなショップツールをつくることも多いんです。
そういう場合も、相手の性格に合わせたものにしたいですね。
まっすぐ捺さなくても良しとしちゃうような、
めんどくさがり屋さんもいますからね(笑)。
極力、お話してどんなタイプか把握するようにしています」
パッケージデザインが変われば売れるという単純な話ではない。
経営者、売り手、つくり手の意識まで変えていくようなことができれば、
それこそが、デザインの力と呼べるのかもしれない。
最近では、リトルクリエイティブセンターはたくさんのイベントに関わるようになった。
〈サンデービルヂングマーケット〉〈ハロー! やながせ〉〈マーケット日和〉などに、
積極的に参加している。
もちろんデザイン面で関わっていくのだが、
立ち上げから最終的にはやはり運営面にも協力することになる。
「本当にデザインが必要だから呼ばれているというわけではないと思うんです。
日頃の関わりのなかから、
デザイナーというよりもまちの一員として“何かやろうよ”という流れです」
まちのスタッフとして、その役割がデザイナーだったというわけだ。
しかしそこにデザイナーという存在がいるかいないかでは大きく異なる。
「まちの専属デザイナー」とはいわないが、
よろず相談のようなポジションにデザインの力が及べば、いい変化が起きそう。
「まちとがっつり関わりながら仕事しているので、
僕たちがおもしろくなれば、まちもおもしろくなる。
まちがおもしろくなれば、僕たちにまた仕事がくる。
そんな相乗関係にあると思います。
クリエイティブの力でまちに刺激を与えていきたいです」
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2014年からは〈さかだちブックス〉という出版業も始めた。
岐阜をコンテンツにした本をつくって、
わかりやすく岐阜に人が訪れるきっかけづくりを目指している。
「岐阜に人が訪れる目的をつくりたいですね。
さかだちブックスの本を見て遊びに来てもらったり、
アラスカ文具に買い物に来てもらったり。
どんどん県外からお客さんが来るようになれば、
おもしろい場所になっていくと思うので、がんばりたいです」
全国的な流れと同様に、岐阜もシャッター通りが増えている。
少しずつ若い人も増えているが、減っていく数のほうが圧倒的に多い。
そんな現状で、彼らがまちづくりに興味があるのかといえば、すんなりYESではない。
「いまこうやって成り立っているのも、商店街の人たちのおかげなんです。
だからお世話になっている人たちに、
まずはどうにかして恩返ししていきたいという思いです。
お金だけを介している間柄ではないのです。
まちをおもしろくしたいとは思っていますが、あくまで結果論だと思っています」
「柳ケ瀬商店街のある人に、“今尾くんのところは、本当に儲からないよね。
でも好きなことやっているからいいよね”と言われました。
たしかにそうかも、と納得してしまいましたね。
楽しいからというのが、最終的な結論です。
これから事業がどう発展しても、その感覚はそのまま持っていたいです」
東京で働くことも考えたという、名古屋で働くことも考えたという。
でも結果的に岐阜にいる。
「まちへの恩返し」なんて、一見、古くさい考え方かもしれないけど、それが楽しい。
動機が純粋だから、ただデザインを落として終わりなんて乱暴なことにならない。
そんな結果論のまちづくりが岐阜にあった。
information
LITTLE CREATIVE CENTER
リトルクリエイティブセンター
TEL:058-214-2444
information
アラスカ文庫
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貝印株式会社
貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』でも、岐阜を大特集!
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