連載
posted:2017.3.8 from:岐阜県高山市 genre:食・グルメ / 活性化と創生
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
これまで4シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
第5シーズンは、“100年企業”の貝印株式会社創業の地である「岐阜県」にクローズアップ。
岐阜県内の企業やプロジェクトを中心に、次世代のビジネスモデルやライフスタイルモデルを発信します。
editor’s profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:石阪大輔(HATOS)
飛騨の高山市は、ほうれん草の産地。
秋から冬にかけて旬の野菜であるが、高冷地という高山市の特色を生かし、
春から夏にかけても出荷が可能である。
特に他地域にほうれん草がないときに重宝され、
市町村レベルでは全国一の出荷量を誇っている。
この高山のほうれん草を冷凍にして発売しているのが、
2015年にスタートした食品加工会社〈ミチナル〉。
扱っているほうれん草は、すべて規格に合わせるために取ってしまう外側の葉、
つまり端材だという。
きっかけは代表取締役の山下喜一郎さんが、ほうれん草の畑を見学したときのこと。
「たくさんの葉が捨ててあったんです。
でも束になっていないだけで、通常のほうれん草と何も変わらないので
『持ち帰っていいですか?』と聞いたんです」
同じほうれん草ではあるが、農家にとっては捨てるもの。
しかし実際に持ち帰って食べた山下さんは、
「何の問題もなく食べられたので、何かに活用できないか」と考えた。
こうして〈ミチナル〉では端材を使った冷凍ほうれん草を発売し始めた。
工場では、契約農家からほうれん草の端材を仕入れ、
土や根などを洗浄し、茹でてカットしたのち冷凍する。
工場で製造工程を見ていても、普通のほうれん草と遜色ない。
「“出てくる副産物を処理するところまでが農業である”と思っています」と言う山下さん。
そもそも端材ほうれん草の利用は、
端材やその背景にある規格への問題点を広めていき、
農業の変革を目指した取り組みのひとつである。
「農業界にも高齢化が進み、
これからは人の手間をかける作業が難しくなっていくと思います。
そうすると流通の仕組みや考え方などを変えていかなくてはならない。
ビジネスモデルが大きく変化していくと思います」
規格には流通を円滑にする役割があるが、その規格に合わせるために端材が出てしまう。
だから規格に対する意識に変化が起こり、
もしかたちを整えないままでいいような流通システムになれば、端材が出なくなる可能性がある。
当然、端材で商売している〈ミチナル〉にとっては
原材料がなくなるという側面では痛手だ。
しかし〈ミチナル〉がアプローチしているのは農業そのもの。
端材が生まれてこないようにするために、端材で商売をしているのだ。
一時的にはマイナスかもしれないが、長い目で見れば意味が出てくる。
その覚悟がある。
「私たちがやっている意義が広まっていけば、実は端材が減っていく。
それでいいと思っています。課題は時代とともに、変わっていきます。
これから私たちに求められるものは食品加工だけではありません。
人口減少する世の中になって、これまでの市場が伸びてきた社会での原理は通用しません。
それに合わせて、こちらもどんどん変わっていくつもりです」
〈ミチナル〉は「ミチナル食品」という会社名にはあえてしなかった。
農業や食文化全体が新たなステージに移行していくなかで、
自分たちも、食品加工だけでなく、変わらなければならないからだ。
「変わっていけないのであれば、存続している意味がない」とまで、
山下社長は強い言葉で言う。
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ほうれん草の端材を利用するということは、
農家がこれまで当然のように捨てていたものを使うということ。
だからそれぞれの契約農家にその意味を理解してもらわなければならない。
また〈ミチナル〉の工場で土や砂などを洗浄するが、
契約農家にも「なるべくゴミを取り除いておいてほしい」とお願いしている。
通常通り発送するほうれん草はきれいに整えるが、
生産者は、やはり端材に対して商品価値を感じづらい。
「なぜ、ゴミに手間をかけなければならないのか」と、理解できない農家もいる。
だからなるべく農家に出向き、ときには工場に招くなどして、
農家とのコミュニケーションを深めながら、取り組みの意義を説明している。
「消費者の声を農家さんにお伝えすることもできますし、
どれだけ切実な問題であるのかと伝えることが重要です。
それにはやはり直接的な対話が必要ですね」
農家とコミュニケーションを深めるなかで、農家の6次産業化の後押しをしている。
農家が6次産業化したいとき、設備投資などで経費がかかる。
それが難しい農家に対して、〈ミチナル〉では実際にそれをスタートする前に、
テストで製品をつくってみたり、契約書類などのフォローも行っている。
「うちには機械が揃っているので、
『もしつくりたい商品があれば、一度うちで加工してみたらどうですか?』と。
その商品を試しに市場に出してみて、売れるかどうか判断する。
それでやっていけそうな感触をつかめたら、
本格的に設備を入れてやってみてはどうかと案内しています。
もちろん難しければ、私たちに製造を発注してもらうことも可能です」
初期投資の前にテストマーケティングができるのは農家にとってもうれしいことだろう。
相談窓口のようなかたちで、農家にとっては可能性の選択肢が増えるのだ。
ミチナルは地域の農家との
さらなる密接なコミュニケーションや情報を得ることができる。
どんどん飛騨の食文化のハブになっていける。
「お客様であり、仕入れ先でもある地域の農家さんに、
我々がどのようにお役に立てるのか。
地域の農家さんに元気になってもらうことが、
飛騨の食文化の底上げにつながると思います」
〈ミチナル〉は、飛騨で〈喜八郎の飛騨牛まん〉などを発売している
〈山一商事〉のグループ会社である。〈山一商事〉は1925年創業。
もともとは地域の山菜やキノコなどを缶詰めや瓶詰めにして販売していた。
その後、時代の変化とともに山が荒れ、原料を中国産にシフトせざるを得なくなった。
しかし〈山一商事〉が本来持っている理念は「飛騨の食材を使うこと」。
だから原点回帰し、地元の素材にもう一度注目してみる。
そこで農業を勉強するために農場の経営に乗り出し、
高山の地場産業であったほうれん草などを栽培し始めた。
「2015年で90周年だったのですが、あらためて我々の強みは飛騨だと再認識しました。
飛騨や岐阜など、地域にこだわった素材でやっていきたい」
そこまでフォーカスしていけば、
端材利用などの細かなアイデアの実現も可能になってくる。
まずは加工という位置づけで地域をどうサポートしていけるか。
新しい流通のモデルをつくっていけるか。
「加工のステージを上げていくことで、
飛騨の生鮮品のブランド力もイメージアップしていく。
そういう戦略を立てていかなくてはなりません」
山下社長は「農業の世界で企業が成功するにはあと15年かかる」と言う。
それをわかっていて、今から農業に取り組む。
先頭を切って、「地域のブランド力アップ」に寄与していくという覚悟なのだろう。
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ミチナル株式会社
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貝印株式会社
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