連載
posted:2017.2.28 from:山梨県笛吹市芦川町 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Yoshie Hoyo
保要佳江
古民家宿LOOF代表。山梨県笛吹市芦川町育ち。2013年、任意団体〈芦川ぷらす〉を立ち上げ、古民家でフレンチを食べる〈囲炉裏フレンチ〉を実施。2014年からは芦川町内に100棟以上ある古民家を生かし、同年10月に〈古民家宿LOOF澤之家〉、2016年6月に〈古民家宿LOOF坂之家〉をオープンさせ、都内の20代後半の女性や外国人の観光客をターゲットに一棟貸し宿を経営。
山梨県笛吹市芦川町で運営している、古民家一棟貸し宿LOOF〈澤之家〉・〈坂之家〉という、
2棟の宿ができるまでを綴っていきます。
古民家宿LOOF〈澤之家〉が、解体、改修を経てようやく完成しました。
しかしすぐ迎える冬、大きな観光地でもない芦川町に、果たしてお客さまは来るのか。
オープンは2014年10月15日。
その前に、お世話になったたくさんの方へお披露目として、
オープニングパーティーを行いました。
オープニングパーティーまでには準備がしっかり整っているはず……でしたが、
パーティー当日にまだ水道の蛇口が付いていない。
お祓いも終わっていない。パーティーの準備もできていない。
朝から水道工事が始まり、同時に古民家のお掃除、神主さんによるお祓いと、
ドタバタのオープンになりました。
オープニングパーティーには、地域の方、お手伝いいただいたボランティアの方、
クラウドファンディングで支援してくださった方、
友人、議員さんなどたくさんの方にお越しいただきました。
無事、お披露目も終了し、本格オープンは10月15日。
首都圏の20〜30代、海外のお客さまをターゲットに、
若い方にも古民家に気軽に泊まっていただけるように、
過ごしやすい空間づくりを徹底しました。
始める前は90パーセント以上の人に失敗すると否定されており、
私も観光地ではないこの場所に本当にひとりもお客さまが来なくても
不思議ではないと思っていました。
ただ、プレスリリースなどは行わず、お越しいただいたお客さまから
確実に口コミで広げていこうと特に大きな広告は打たずにオープンをしました。
しかしオープン直後、冬ということもあって、不安は募るばかり。
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田舎でも持続可能なビジネスモデルにしようと、
固定費のかからない箱物ビジネスにすることにしました。
まず、宿運営に関わる人件費はできるだけかけないようにと、
お料理・掃除・仕入れ・お客さま対応、すべてをひとりで行えるオペレーションにし、
スタッフひとりで回る仕組みをつくり上げました。
また秋にオープンすることになったので、
まずはお越しいただくための目的をつくろうと、
トレッキングガイドの〈eight-peaks〉代表、尾又慶寛さんと組み、
御坂山系の主峰であり、迫力の富士山が望める、
黒岳をトレッキングしてご宿泊いただくセットの販売を行いました。
狙い通り、最初にお越しいただいたお客さまのほとんどが
トレッキングとセットでご宿泊してくださいました。
そのほか、クラウドファンディングで支援してくださったお客さまが
リターンのご宿泊チケットの利用でお越しいただいたり、
クラウドファンディングや、SNSで活動を見ていて
話を聞きに来ましたというお客さまなど、
オープン直後から多くのみなさまにお越しいただきました。
冬にはイナカにある宿であることを利用し、同じく、〈eight-peaks〉代表であり、
ジビエとアウトドア料理のバル〈URBAN’S CAMP〉(コロカルでも紹介)を経営している、
尾又さんと狩猟体験ツアーを企画。
狩猟免許を持っている尾又さんから狩猟で使用する罠のかけ方を教えてもらったり、
猟師さんの滝口雅博さんからジビエの解体を教えてもらい、
そのジビエをお料理して食べるというツアーを企画しました。
また、山梨の方でも、芦川までなかなか来てもらう機会がないと考え、
「LOOF de CAMP」を企画。楽器の演奏があったり、お鍋をしたり、飲んだり。
山梨の方を中心に30人くらいの方にお越しいただく
冬のフェスのようなイベントも企画しました。
オープンしてさまざまな企画を行ったり、たくさんの方に来ていただきましたが、
そのなかでも、初めてお越しいただいた海外のお客さまは印象深いです。
フランスから東京にお仕事に来られており、
週末を使って山梨へ旅行にお越しになりました。
宿の近くである河口湖を案内し、初めての古民家滞在にとても喜んでいただきました。
今でもときどき連絡を取ったり、東京に来た際はお会いするように。
そんな関係がお客さまとの間で生まれるとはまったく思っておらず、
驚きと同時に、本当にさまざまな方と知り合える場所だなと感じました。
ひと組のお客さまに対してひとりのスタッフが対応するため、
お客さまとはとても距離感が近く、その後お会いする方もたくさんいらっしゃいます。
逆にこちらからお客さまに会いに、旅に行ったりも。
また、お客さまの中には、「自分でもこういった宿がやりたい!」
とその後仕事を辞め地元に帰った方もいました。
ご利用いただく方の8割は日本人の方で、
そのほとんどが東京・神奈川の首都圏からとなっています。
ときどき、遠くからもお越しいただきますが、
夏にご家族で3泊でお越しいただいた富山県からのお客さまとは、
とても仲良くなり、その後お客さまに会いに富山県に行って来ました。
そして、近所の方からはよくお客さんが来るねと大変驚かれるようになりました。
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近所の方からはお彼岸にはおはぎをお客さまに差し入れしてくれ、
お客さんがたくさん来ているようだからと大量の野菜を持って来てくれたり、
子どもが来たら、畑にトマトを採りに来ていいよとお誘いしてくれたりと、
大変温かい近所の方々からたくさん助けていただいています。
冬には近くで狩猟をしているおじさんに、ちょうど鹿がとれたからと、
解体を体験させてもらったお客さまもいました。
また、近所のおばあちゃんからは「外国の人とお話しちゃった」と、
近所に散歩に出かけるお客さまが地元の人とお話する光景も見るようになりました。
こちらがなにかするわけでもなく、
勝手にお客さまと近所の方との交流が生まれるようになりました。
オープン前はどうなるかと思いましたが、夏にはほぼ毎日稼働するまでに。
春は桜を見に来る海外のお客さまが多く、夏は近くの川に泳ぎに行ったり、
カブト虫を捕まえたいというご家族のお客さまに多くお越しいただきました。
秋は紅葉が見たいというお客さまや、トレッキングに行かれるお客さま、
冬は囲炉裏と薪ストーブで温まりながら
古民家でゆっくり過ごしたいというお客さまが多く来られます。
1年が過ぎ、400人のまちに1000人以上のお客さまにお越しいただけるように。
また徐々に海外のお客さまも増えてきて、桜の時期は8割が海外のお客さまとなりました。
狙い通り、お越しいただいているのは首都圏の30代のお客さまが一番多く、
友だち同士や友だち家族でお越しいただいたり、3世代のご家族など大人数でいらっしゃいます。
ご利用いただくお客さまのほとんどが古民家に宿泊されるのは初めてで、
初めて見る茅葺屋根や囲炉裏、檜のお風呂などにとても喜んでくださっています。
キャンプと旅館の中間と思い、古民家の宿にしましたという声もいただきました。
またお子さま連れのご家族は、ほかのお客さまを気にせずに楽しめるのでうれしいと
1日ひと組の宿を選んだ理由を教えてくださいました。
オープンまでが本当に大変なことの連続であり、
その期間に比べるとオープン後は本当に大変と思うことも少なくなりました。
自分の時間も取れるようになり、目標としていた、都会もイナカもある暮らしを実践し、
東京と山梨の行き来をしながら、生活ができるように。
2015年10月でちょうど1年経ち、
もともと店舗を増やす予定で始めていたので、
さっそく2棟目の計画を始めることにしました。
なかなか最初は手間取った物件探しに、2棟目はどうしようかと考えましたが、
普段からとても良くしてくださるご近所の方に相談してみると、
所有している物件を使用していないとのことで、トントン拍子に話が進み、
2015年12月30日に2棟目の物件の契約を結びました。
1棟目の実績や、経験があったため、今回はとてもスムーズに契約も行い、話が進んでいきました。
2016年1月から2棟目となる、坂の家の改修が始まります。
こちらはまた次回。
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