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古民家宿 LOOF vol.2
経験ゼロの古民家改修。
遊んで学べる、
宿づくりアカデミー始動

リノベのススメ
vol.133

posted:2017.1.7   from:山梨県笛吹市芦川町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yoshie Hoyo

保要佳江

古民家宿LOOF代表。山梨県笛吹市芦川町育ち。2013年、任意団体〈芦川ぷらす〉を立ち上げ、古民家でフレンチを食べる〈囲炉裏フレンチ〉を実施。2014年からは芦川町内に100棟以上ある古民家を生かし、同年10月に〈古民家宿LOOF澤之家〉、2016年6月に〈古民家宿LOOF坂之家〉をオープンさせ、都内の20代後半の女性や外国人の観光客をターゲットに一棟貸し宿を経営。

古民家宿 LOOF vol.2

山梨県笛吹市芦川町で、
古民一棟貸し宿LOOF澤之家・坂之家という2棟の宿を経営しています。
vol.1では、どうして私が芦川町で古民家の宿を始めようと思ったのか。
全国の宿や、古民家プロジェクトなどを見学に行き、地元の方の理解を得て、
実際に古民家を借りるところまでを書きました。今回は、いよいよ古民家に手を入れます。

改修方針を決めるマーケティングリサーチ

築100年の古民家を改修するにあたって、
改修する前にいろいろ勉強に見学に行ったところでわかったことは、
やはり古民家の改修にはお金がかかるということ。
何千万、何億の費用がかかるということがわかりました。

クオリティは高いものをつくりあげたいけど、費用を下げたい。
そこで、「プロ×セルフDIYでイニシャルコストを徹底的に抑える」方法を考えました。
完全にプロに任せては費用がかかってしまうので、
私も実際に作業に加わることにし、さらに手伝ってくれるボランティアの人を集めようと。

ただ単純にボランティアで手伝ってもらうのでは、参加してくれた方は楽しくない。
ボランティアの方にも意味のあるものにするためには、どうしたらいいか。
考えたのが、「宿づくりアカデミー」です。

建築の勉強をしているけど、実際の作業をあまりできていない建築学科の学生さん、
古民家に興味のある方、宿に興味のある方が、ただ手伝うだけでなく、
その方にもプラスになるようにプロに学びながら古民家の宿を実際につくり上げていきます。

今回、プロフェッショナルの先生としてお願いしたのが、
一級建築士の斎藤 透さんと、山梨県古民家再生協会に所属している大工さんの市田 仁さん。
アカデミーの内容は、部活動のようなかたちにし、3つのチーム分けを行いました。

1、マーケティング企画部

2、設計・デザイン部

3、建築・ものづくり部

マーケティング・企画部はまず、「コンセプトメイキング」。
宿企画の軸となる部分。“誰に何を売るのか?”を明確にします。
3C分析として、Customer(顧客)Company、(自社)、Competitor(競合)の分析。
SWOT分析として、Strengths (強み)、Weaknesses (弱み)、Opportunities (機会)、
Threats (脅威)の分析。
5P戦略として、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、
Promotion(プロモーション)など基本的なフレームワークを基に、
コンセプトを明確にし、具体的なところまで落とし込んでいくことを考える。
そして企画・販売戦略立案として、コンセプトが決まり、それに沿った内装が決まった後に、
今度はそれをいくらで、どのようにして、
認知してもらい商品を買ってもらうかを明確にします。

次に、設計・デザイン部。
現地調査・図面おこしを建築士の斎藤さんと行い、
古民家の現状調査をはじめ、まずは図面におこし、
問題点・修正箇所を明確にしていきます。
その後、コンセプトから具体的になった内装イメージを基に、
完成図面をおこし、空間スケッチを作成し、施工業者に見積もりを依頼します。

最後に建築・ものづくり部。
ここは実際に手を動かす作業。まずは、古民家内にある荷物のゴミなどをまとめ、
使用するもの・捨てるものに区別し整理整頓をします。
その後、解体作業が始まります。変更やつくり直しが決まったところに関しては、解体し、
使える資材などをまとめていきます。整理整頓が終わったら、古民家の改修。
実際に大工の市田さんと一緒に改修するとともに、
古材を使用しながらインテリアを作成していきます。

宿づくりアカデミー始動

最初に始まったのは、2014年2月に始まった、マーケティング・企画部。
このチームは単発の参加ではなく、しっかりコミットできる人員である必要があり、
さらに外部からの視点・内部からの視点の両軸が必要でした。
内部の視点として、芦川育ちの私と、山梨出身の友人、
プランナーの宮川しおりさんに協力してもらい、
外部の視点として、東京で出会った友人の丸谷篤史さんと関口照輝さん、
本間めぐみさんに協力してもらい、
ニーズ・シーズ目線からコンセプトをつくり上げていくことに。
それぞれ「自分を知ろうチーム」と「外部を知ろうチーム」に分かれ、
まずは情報を集めていきます。

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たどり着いた宿のコンセプトは

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「自分を知ろうチーム」は私としおりちゃん。
芦川町について書かれている分厚い本を読みながら歴史などを学んでいきます。
一方「外部を知ろうチーム」は、富士吉田・石和温泉エリアなどの周辺地域や、
都心から60〜90分で行ける範囲の古民家宿など、競合を調べます。
さらに、顧客ニーズの調査として、山梨県観光調査票を基に、
既存のお客さまの反応を統計的に調査していきます。
これらの情報を基に、それぞれが考えるコンセプトのアイデア出しを行い、
コンセプトを完成させていきます。
そして私たちが出したコンセプトは、「懐かしいは美しい イナカに暮らすように泊まる宿」。

イナカがない都会の方、すぐにイナカに帰れない方が、
週末ふらっと帰って来られる場所になるように。また、ただのイナカのお家ではなく、
イナカで暮らす最高に贅沢な暮らしを感じてもらいたいと、
古民家の良さは生かしつつ,快適さやおしゃれさを追求したつくりで、
贅沢な時間を過ごしてもらえるような宿にしようということになりました。

その後、2014年3月頃より、作業は設計・デザイン部に移行していきます。
こちらも単発参加ではなく、しっかりコミットする必要があるため、
建築士の斎藤さんを中心に、私と丸谷の3人で行うことに。
コンセプトに沿う私たちが考えるターゲットのお客さまに、
より楽しんでいただくための仕掛けを内装に落とし込んでいきます。
雑誌やPinterestを参考に、内装の夢は膨らむばかり……。斎藤さんを困らせます(笑)。

斎藤さんと打ち合わせの日々が続きます。

みんなで片付けと解体

ほぼ同時期の2014年3月に建築・ものづくり部も始動。
私の通っていた大学の教授の紹介で、後輩10人が手伝いにきてくれることになり、
その日を古民家の片付け日に設定し、スタートを切りました。

古民家の片付けを行ってくれたメンバー。

家の中の荷物をすべて外に出していきます。
立派なタンスがあったり、とても古い本があったり。
何が入っているかわからない怖い箱があったり……。それらを一度すべて家の中から出します。
昔の方は家で結婚式・お葬式をやっていたため、座布団やお盆や布団の数がとても多い。
一旦整理して、大家さんに必要なものを確認してもらうため、整理整頓をしていきます。

ひとりでは持ち上げられない箱や、大きな家具は協力して外に運びだします。

1泊2日の合宿で片付け作業を終わらせる予定が、次の日朝起きてみると、
3月にもかかわらず外は大雪。
芦川町は標高が600〜1000メートルの場所にあります。冬は雪が積もると、
まちから出られなくなることも。積雪がひどくならないうちに急いで芦川から脱出。

こんな雪道のなか、無事に市街地へと戻りました。

毎回知り合いにお願いして人を集めるのは難しいため、
その後のボランティアを集める方法はFacebookで募集することに。

「遊んで学ぶ宿づくりアカデミー」というイベントページを立ち上げ、
毎週末のイベントをメインに、作業ごとにボランティアを集めていきます。

作業期間は約半年間。延べ100名以上のボランティアの方が集まってくれる結果になりました。
知り合いもいたり、地元の方もいたり。
一番驚いたのが、ボランティアのほとんどが、知らない方。
古民家が好きな方、宿を立ち上げたい方、田舎での仕事をしたい方。

家の中の荷物をすべて外に出した後は、解体作業へ。
柱・屋根以外はほとんどすべての部分を解体することに。
今まで使ったことのないバールを持って、ボランティアと一緒にひたすら解体! 
家の中の壊れかけていた壁・床をどんどん壊していきます。

解体した家の中は空っぽで完成の絵はまったく見えず……、不安は募るばかり。

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解体が終了したら……

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1階部分の床をすべて解体しました。

床をすべて解体した後は、家の中を水洗い!
10年近く空き家になっていた家の中の埃・煤を高圧洗浄機で水洗いしていきます。
暖かい日は1日もあれば、乾くとのこと。
ボランティア全員でカッパを着て、びしょ濡れになりながら家の中を洗っていきました。

難航する、クラウドファンディング

今回資金調達のためのひとつの方法としてクラウドファンディングを実施しました。
作業の合間に撮影をし、クラウドファンディングのための動画を作成します。
初めてのクラウドファンディングにも四苦八苦しながら、想いが伝わるにはどうすれいいのか、
支援してくれた方に喜んでもらえるためにはどんなリターンを用意すればいいのか。
時間をかけながら作成したプロジェクトは、
「少し新しい“イナカ”づくり 築100年の古民家を双子姉妹が宿にリノベーション!!」。

内装費・家具代の一部を賄うため、
80万円を目標に約1か月半の間で達成を目指し、スタートしました。
プロジェクトが始まったら自動的にサポートが集まるかな? と思いきや、
まったく集まらない。
一般的にクラウドファンディングは8割知り合い、
2割知らない方が支援してくれるかたちが多いそう。
家族や友人にひとりひとりにお願いの連絡をし、SNSで拡散、
お会いする方にはクラウドファンディング用の名刺を作成し、
サポーターを着実に増やしていきました。

姉の志帆には建築・ものづくり部として協力してもらうことに。

うれしいことに古民家が好きなので活動を応援したいといったメッセージとともに、
知らない方からもたくさんの支援をしてもらえることに。
結果は目標金額を越える100名のサポーターの方から945,000円を集めることができました。

今回は壊すところまで! 
次回は、古民家が宿としてどのような変貌を遂げたのか、お伝えします。

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