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古民家LOOF vol.1
育った山梨の集落で、村おこし。
イベント赤字から抜け出すには?

リノベのススメ
vol.130

posted:2016.12.3   from:山梨県笛吹市芦川町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yoshie Hoyo

保要佳江

古民家宿LOOF代表。山梨県笛吹市芦川町育ち。2013年、任意団体〈芦川ぷらす〉を立ち上げ、古民家でフレンチを食べる〈囲炉裏フレンチ〉を実施。2014年からは芦川町内に100棟以上ある古民家を生かし、同年10月に〈古民家宿LOOF澤之家〉、2016年6月に〈古民家宿LOOF坂之家〉をオープンさせ、都内の20代後半の女性や外国人の観光客をターゲットに一棟貸し宿を経営。

古民家LOOF vol.1

みなさま、はじめまして、〈古民家宿LOOF〉の保要(ほよう)佳江です。
山梨県笛吹市芦川町で古民一棟貸し宿LOOF澤之家・坂之家という2棟の宿を経営しています。
築100年の兜作りの古民家を生かした内装になっている澤之家と、
大きな囲炉裏が特徴の坂之家。都内の20〜30代の女性、外国人観光客をターゲットに、
1日1組限定の宿として営業しています。

2014年にオープンした澤之家の特徴の“兜造り”とは、屋根の形状からそう呼ばれ芦川地域に見られる古民家の様式。小屋裏に広い空間が取られています(topの写真)。写真は改修後の小屋裏部分。ほかにも若い世代にも古民家を身近に感じてもらいたいと、水回りはきれいに、快適に過ごせるよう改修しています。

2016年にオープンした、2軒目の古民家宿、坂之家。

芦川町に戻り、古民家宿を始めるまで

芦川町は、東京から約1時間半の場所にあるのに、
“山梨のチベット”と呼ばれる秘境です。
そんな、人口400人もいない限界集落は、私の育ったまち。

東京と神奈川出身の両親が子どもは田舎で育てたいと選んだのがこの芦川町でした。
2歳でこのまちに移住し、高校生までの間をこのまちで過ごし、
大学・就職と東京に出て以来10年ぶりに地元に帰って活動を始めました。
当時は何もない、このまちから早く出たいといつも思っていました。

芦川町の風景。

戻ってきたきっかけとなったのは、大学の時の友人からの言葉でした。

「身近なことも変えられないのに世界は変えられない」

幼少期に田舎に住んでいた反動だったのか、
ずっと世界で活動することを目標に生きていた私にとって衝撃的な言葉でした。

ちょうど同じタイミングで偶然見つけた本『限界集落』に
出身地である芦川町が限界集落であることが書いてありました。

「これだ!!!」と直感的に思いました。

写真家・梶井照陰著書『限界集落ーMarginal Village』(FOIL)。写真がメインのこの本は、芦川の風景が掲載されていたりと、とても懐かしい気持ちになりました

それまでは、ずっと海外での仕事に就くことを目標に、大学では留学をしたり、
休学をして勉強をしたり、国際協力の仕事をするために活動をしていましたが、
大学4年生のときに芦川町の「村おこしをしたい!」と
方向性を変えて生きて行くことにしました。

そこで、就職活動などは一切せず、「村おこし」=農業かなと考え、
地元に戻って農業の勉強をしようかと模索していたところ、
友人からおもしろい会社があると聞き、たまたま説明会に行ったのが、前職の農業関連の会社。

入社前の面接で社長に「村おこしがしたい」と話すと、
「うちの会社を踏み台にして、自分のやりたいことに進みなさい」
と言われ、そのまま入社することにしました。
配属された飲食部門でトップまで行って、結果を出してから辞めようと決め、4年間勤務。
並行して周囲に「村おこしがしたい」と言い続けていました。
3年目に、まずはできることから始めてみようということで、飲食関係の友人に手伝ってもらい、
地元の食材を使用して芦川にある古民家でフレンチ料理を提供する、
週末レストラン「囲炉裏フレンチ」というイベントを開催しました。

イベントのときにつくったチラシ。

村おこしって何だろう?

毎回イベントはすべて満席。とても好評で1年間続けましたが、収支はずっと赤字。
これではいけないと悶々としていましたが、
そもそも“村おこし”ってなんなのか? を考えずに、
突っ走っていたため最終的にどうなることが理想の“村おこし”なのかを
イメージできていなかったのです。

そこで、一旦考え直し、「なにかしてあげよう」という考えから
「地域の人が抱えている問題を、自分のやりたいことを通じて解決していこう」と、
自分に軸を置いて活動をしていこうと決めました。

私のやりたいことを考えた時に辿り着いたのは、
「トカイもイナカもある暮らし」の実現。

ありのままの自分を出せる場所=イナカ

背伸びした自分をつくる場所=トカイ

イナカ過多、トカイ過多な人が多いけど、私は両方がほしい。

そして地域の人が抱えている問題を解決したい。
その頃ちょうど芦川の地域全体で行うワークショップが開催されており、
地域の一番の課題が「空き家の問題」という結果に行き着きました。
300軒ほどある建物のうち、3分の1の100軒が空き家という事実。

私のやりたいことと、地域の抱えている課題の2点に加え、
私は必ず入れないといけない視点として考えたことが、ふたつあります。

①まずは「しっかり稼ぐ」ということ。

②地域の課題を「おもしろく解決する」ということ。

少ない収入でも暮らせるのがイナカなのかもしれないけれど、
それが個人の希望とは合わないこともあります。
実際、私の周りの同世代の友人も、地元に戻りたいと思っている人は
たくさんいました。しかし、みんな共通して戻らない理由が
「仕事がない」ということと、「魅力的な仕事がない」ということ。
選択肢の多いトカイから抜け出すのはなかなか勇気のいること。
だから、私は芦川に戻ってくるときに、
「おもしろいこと」しかしないということと、
「トカイ以上に稼ぐ」ということを決めました。

そこで私のミッションは
「地方に持続可能なビジネスモデルをつくり、
集落に残る日本の生活文化を継承する」こと。

そして意識する点として、「おもしろく社会問題を解決する」と考えました。

そこから具体的に芦川町で何をしようか考え始めました。
この地域だからこそできる強みとはなんなのか、
ほかのイナカでなく、この地域だからこそできることってなんなのか。

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芦川の価値とは

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いろいろ調べているうちに、この地域の強みが2点出てきました。

1点目は、芦川は古民家が多数現存している数少ない地域だということを知りました。
茅葺きの上にトタンの乗ったスタイルの兜造りの古民家が156棟現存しているらしい。

そしてもう1点はアクセス。東京からアクセスのいい山梨県。
実際に山梨に観光に来る大半が関東エリアからのお客さまだということがわかりました。
芦川町は山梨の人でも知らない人がいるほど、不便な場所と言われています。
でも、実は芦川町はちょうど山梨の主要観光地である河口湖と、
石和温泉のちょうど真ん中に位置している。
地元の方となると、わざわざ行くような場所ではないのかもしれないが、観光客にとっては、
それほどアクセスの悪い場所ではないのかもしれないと考えました。

わからないから、まずは視察の旅へ

次に考えたのは、どう収益をあげるか。
囲炉裏フレンチの活動から、イベントだけで収益を上げるのは難しいと感じていました。
また、囲炉裏フレンチにお越しいただいたお客さまの中には、
せっかくおいしい食事をしてもアルコールが飲めない、
帰らないといけないのが残念だったという感想もいただきました。

そこで、問題となっている古民家の空き家と、
観光客をターゲットとして組み合わせ、「古民家の宿」ができないかと考えました。

需要はありそう。考えていてもわからないので、
前職を退職し、2013年12月の1か月間、
“古民家の宿”“地域の宿”をヒントに旅に出ることにしました。

徳島県、祖谷(いや)にある〈Chiiori〉、

日本のチベットとも言われる集落にある築300年以上の藁葺屋根古民家。アレックス・カー氏が購入し、現在はゲストハウスとして宿泊可能。

兵庫県、丹波篠山にある〈集落丸山〉、

全12世帯のうち7世帯が空き家になっていた限界集落で、空き家3軒をリノベーションして2009年に宿泊施設としてオープンした〈集落丸山〉。(写真提供:一般社団法人ノオト。コロカルのリノベのススメにも登場)

広島県、尾道にある〈せとうち湊のやど〉〈あなごのねどこ〉、

尾道にある歴史ある建物を改装したふたつの建物からなる〈せとうち 湊のやど〉は滞在型施設で、旅館・ホテルとは異なり“貸家”というスタイル。(おでかけコロカルにも登場)

空き家再生と言えば全国的に有名なのが尾道市。さまざまなイベントやワーショップを行い、空き家をゲストハウスやカフェスペースなどに再生している。一緒に写っているのは〈NPO法人まちづくりプロジェクトiD尾道〉代表理事の村上博郁さん。

山口県、萩にある〈ruco〉、

元楽器屋だった4階建てビルを改修して生まれたゲストハウス。リノベーションには、たくさんの人が参加し、萩の素材、職人の技術がちりばめられている。写真は、rucoの塩満直弘さんと。(コロカルのリノベのススメにも登場)

熊本県にある〈三角エコビレッジ サイハテ〉。

山のなかの約1万坪の敷地のなかにある衣食住+文化循環型のエコビレッジ〈三角エコビレッジサイハテ〉。大自然のなかの暮らしなどを体験しながらゲストハウスに滞在できる。

さまざまな業態の、価格帯の宿に泊まり、見学し、それぞれの強み、運営方法、
取り入れられそうな部分、私だったらこうしたい部分などを研究しました。

そして2014年1月、山梨に引っ越し、
芦川町で物件を探すことからスタートしました。

10年以上も離れていて、
同級生もみんな出て行ってしまっている状況でのスタートでしたが、
同級生のお父さんや、地域で軸となって活動している方にお願いし、
物件を探していただきました。

最初の宿としてオープンすることとなった澤之家は、
当初2棟紹介していただいた古民家のうちの1棟でした。
直感で「こっち!」と感じました。
古民家について、改修について、宿について何かしらの知識があれば
また判断は変わっていたのかもしれませんが、
当時は何の知識もない。古民家に住んだこともない、
建築の勉強をしたこともない、宿で働いたこともない。
ただなんとなく、日当りがよくて、隣近所からはほどよく離れていて、
こぢんまりしたちょうどいいサイズの古民家がなんとなく気に入って選びました。

改修前の澤之家の外観。

では、すぐに契約してスタート! 
というわけにはいかず、問題は、貸してもらえるかどうか。
そもそも大家さんが悩んでいるらしいのです。

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空き家を貸してもらえない理由とは

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空き家を貸したい人は少ない

以前にも何度か借りたいという方がいたけれど、すべて断ってきたらしい。
ということで、何度も話し合いを重ねました。

私たちが大切にしていることのひとつに
大家さんにもメリットになるようなかたちで事業をしていくこと。
空き家の大きな問題となっているのは、
借りたい人は多いけど、貸したい人が少ないということでした。
芦川町で家を借りるとなると、家賃はとても安く、月1〜2万円が相場。
しかし近くに住んでいない大家さんも多く、
知らない人に貸して何が起こるかわからないリスクが大きい割には
収入は少ない。それなら貸さずに、
そのままにしておくのが一番いいねという流れになってしまうのです。

そこで、改修費用はすべて負担し一定期間建物をお借りする代わりに、
家賃を下げてほしいとお願いをしました。
家賃は大家さんが支払っている固定資産税を家賃として、お支払い。
私たちは家賃が安く済む。大家さんは固定資産税を払わずに、
一定期間経った後はきれいに改修された古民家が戻ってくるという流れ。
これは始める前に旅行で訪れた集落丸山でやられていた方法を取り入れました。

私たちの想いを理解していただき、家賃にも納得していただきましたが、
解決する問題はまだまだあります。
先祖代々の建物を血のつながりのない、知らない人に貸すということ。
仏壇はどうするのか、きれいに保存されているタンスはどうするのか、親戚は納得するのか。

そんなたくさんの心配ごとを、大家さんは
すべての親戚の方を説得してくれ、承諾の印鑑をもらってきてくれました。
契約書も、普通の賃貸契約書では適応できず、かたちに合うものをつくり上げないといけない。
何度も何度も話し合いを重ね、大家さん、仲介の方、私、保証人皆で集まり、
最終的に契約が完了したのは最初の話し合いから半年が経ってからでした。

夏前のオープンに間に合わなくなるということもあり、大家さんの理解を得て、
改修は、契約が完了する前の3月頃から始めていました。

次回は澤之家の改修のお話になります。

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