連載
posted:2017.3.1 from:神奈川県足柄下郡真鶴町 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
sponsored by 真鶴町
〈 この連載・企画は… 〉
神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。
writer profile
Shun Kawaguchi
川口瞬
かわぐち・しゅん●1987年山口県生まれ。大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。2015年より真鶴町に移住、「泊まれる出版社」〈真鶴出版〉を立ち上げ出版を担当。地域の情報を発信する発行物を手がけたり、お試し暮らしができる〈くらしかる真鶴〉の運営にも携わる。
2017年3月4日、神奈川県の真鶴町で、
〈真鶴まちなーれ〉というアートイベントが始まる。
真鶴まちなーれは今回で3回目。期間は3月20日までの17日間で、
期間中まちの各所に現代アートの作品が展示される。
また、同時に「アートで遊ぶ」をテーマにさまざまなワークショップも開催される。
実行委員は有志で集まった7人。真鶴生まれの人もいれば、
移住してきた人も、隣町の湯河原から参加している人もいる。
年齢も20代から50代までさまざまだ。
今回まちなーれの中心となる会場は、真鶴駅から港に向かう途中にある、
「西宿中通り(にししゅくなかどおり)」と呼ばれる商店街。
普段はシャッターが降りる店が多く静かな通りだが、
かつては「真鶴銀座」とも呼ばれるほど賑わいを見せた商店街であった。
「私が子どもの頃おつかいに行っていたときは、
シャッターはほとんど開いていたんです。お店があって、にぎやかな場所。
人と人が買い物の間におしゃべりをしたりするようなことが、
ほんとにあった場所なんです」
そう語るのは、真鶴まちなーれの実行員のひとりである草柳采音(ことね)さん。
現在大学3年生だ。
今回のまちなーれのテーマは「懐かしい賑わい 新しい眺め」。
なんとこの西宿中通りの閉店したお店にアート作品を展示し、
かつての賑わいを取り戻そうというものだ。
対象となるお店は、元魚屋、元文房具屋、元薬屋、元中華料理屋などさまざま。
アート作品の展示だけでなく、3月19日(日)には
ワークショップもこの通りで一斉開催する。
この日が今回のまちなーれの最も盛り上がる日だという。
まちなーれがほかの芸術祭と違うところは、
アート作品を巡るのに、自分たちで自由に訪れるのではなく、
1日2回行われるガイドツアーに参加する必要があるところだ。
この仕組みについて、実行委員長である卜部美穂子さんは言う。
「現代アートって難しくて、私も初めて見たときに
どう見ていいのかわからなかったんです。だけどガイドツアーに参加することで、
少しだけアーティストの考えていることにアクセスできたりするんです。
アートって答えがないと思うんですけど、アーティストの考えることに
少し触れるだけで、世界が広がる感じがする。
ガイドツアーで回ることで、もっと広がりが見えると思うから、
絶対参加してほしいですね」
ガイドツアーは、アートに興味がある人も、初心者の人にも楽しんでもらいたい、
そんな思いが込もった仕組みなのだ。
さらに、このツアーの魅力は作品についてよりよく知ることができるだけではない。
それは「対話」による新たなつながりだ。
地元の大学生の遠藤日向(ひなた)さんはこう言う。
「ガイドツアーのなかでは、真鶴の話をすることもあれば、
すれ違ったまちの人と交流することもあります。
ときには、ガイドさん以外で、長く真鶴に住んでいる参加者が
ガイドし始めることもあるんです(笑)。昔はこうで、ここの道は通れたんだとか。
外から来た人と、まちの人。いろんな方向から作品を楽しめる要素が
詰まってるんです。1回だけでなく、何度でも参加してほしいですね」
小道が多く、歴史もある真鶴は、歩いていると思わず隣にいる人と話したくなるまちだ。
だからこそまち歩きをするだけで交流が生まれるのかもしれない。
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まちなーれの実行委員が口を揃えて言うのは、
「まちの人に楽しんでもらわないと意味がない」ということだ。
ほかの芸術祭の規模と違い、真鶴は歩いて回れるくらい小さなまちで、
住民の数も少ない。勝手に開催してもまちの中で浮いてしまうのだ。
協賛のお願いにしても、何度も一軒一軒お店に通って
企画趣旨を説明することを大切にし、丁寧に進めることを心がけているという。
卜部さんはこう語る。
「私の感覚としては『感謝祭』なんです。
準備のために本当にたくさんの人に関わってもらってるので、
『ありがとう』という思いを伝えたくて。
真鶴のまちと真鶴の人への愛が伝わるような芸術祭にしたいなと思っています」
また、展示するアート作品も「真鶴らしさ」をとり入れたものを展示する。
もしただ単に現代アートの作品があるだけでは、
アートに興味がある人しか楽しむことができない。
しかし、どこかで真鶴らしさをとり入れていれば、地元の人でも
「なんでこの作家はこれを真鶴で表現したんだろう」と、楽しめるようなものになる。
だからまちなーれに参加するアーティストは、必ず事前にまちについて調べ、
まちの人と交流する。人によっては数週間から1か月近く滞在する人もいる。
自分の中から出てくるものを表現するだけでなく、
そこで感じたものを作品にとり入れるのだ。
実行委員のひとりで、アーティストを選ぶディレクターでもある
平井宏典さんはこう語る。
「大前提として、真鶴のまちが舞台なので、
当然その舞台を生かせる作家を集めています。
必然的にこういう場所で制作をしたことがある人って、
まちの人と交流するのがうまいんですよね。
まちの子どもに制作を手伝ってもらうこともあれば、
制作中にコーヒーや恵方巻きなんかを差し入れしてもらったりもします(笑)。
今回は特にそういうことが多いですね」
では、実際に参加しているアーティストは真鶴についてどう思ったのか。
「チョークグラフィック」と呼ばれる、チョークを使った
手書きのアート作品を手がけるチョークボーイさんは、
取材中、西宿中通りの交差点で作品づくりをしているところだった。
連日様変わりしていくお店を見て、「何か」が始まっていることは
すぐにまちの噂になった。
「なんのお店になるの? とよく聞かれましたね(笑)。
アートについて説明すると、どこまで理解してくれているかはわかりませんが、
賑やかな装飾についてはポジティブな反応が多いですね。
人間の心理を利用して、中を覗けるような作品にしました。
外から来る人も、まちの人も誰でも楽しんでもらいたいと思っています」
もともとのお店の名前であった〈魚㐂代(うおきよ)〉の名前をもじって、
作品の名前は『UOKIOSK(ウオキオスク)』。
「かつて賑わいを見せたこの十字路に再び店が戻って来たら、どんな店がいいだろう」
と考え、「コンビニほど仰々しくない店主の顔が見える店」、キヨスクにした。
今回がきっかけに初めて真鶴に来たというチョークボーイさんは、
真鶴は「土地」がおもしろいと言う。
「真鶴は、独特の土地が人を集めていると思います。地形、まち、港、海の風景。
これらに魅せられておもしろい人が集まってきている気がします。
東京からわりと近いのに、別世界。まるで時が止まったようなところが
すごくおもしろいです。別荘を持つ人が多いのもわかりますね」
一度失われてしまった賑わいが、たとえ一時であっても
戻ることはどんな意味があるだろう。
一時的なものだったら意味がない、という人もいるかもしれない。
しかし、もしかするとそのとき見た一瞬の賑わいから、その場所に希望を見つけ、
長期的な活動をする人が出てくるかもしれない。また、古くから住む人が
新しいことを受け入れやすくする土壌をつくることもできるかもしれない。
真鶴まちなーれは、単なるアートイベントではない。
実行委員はアートを通して参加者やアーティストはもちろん、
町民、そして自分たちが真鶴で幸せに暮らすことを本気で考えている。
はたして「懐かしい賑わい」の先にある、「新しい眺め」とはどんなものなのか。
真鶴まちなーれの小さな実験がいま始まる。
information
真鶴まちなーれ 2017
開催日時:2017年3月4日(土)~3月20日(月・祝)10:00〜17:00
ガイドツアー
出発時間:10:00~、14:00~(予約不要、雨天決行、荒天中止)
集合場所:コミュニティ真鶴(神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴504-1)
参加費:1000円(公式ガイドブック代500円含む)
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