兵庫県北部にある豊岡市には、子どもたちが楽しみにしている保育や授業がある。
脳や心の発達を促す「運動遊び」(幼稚園・保育園・こども園児対象)、
幼児期から英語に触れる「英語遊び」(幼稚園・保育園・こども園児対象)、
そして、演出家・劇作家の平田オリザさんが監修する
コミュニケーション教育の授業(小・中学生対象)。
これらは市内すべての幼稚園、保育園、こども園、小・中学校で行われる。
豊かな自然の中でコウノトリが羽ばたくまちとして知られる豊岡は、
実は子どもが羽ばたく準備を教育面から支える、教育先進都市でもあるのだ。
2017年3月、東京都内にて、豊岡市の教育を体験できるワークショップが行われた。
先生は平田オリザさんや、全国の舞台を中心に活躍する現役の演出家、俳優、
普段豊岡で運動遊びを実践している豊岡市教育委員会の指導員たちだ。
子どもたちは2〜3歳児、4〜6歳児、10〜12歳児クラスに分かれ、
それぞれ30分ほどのワークショップを体験する。
東京の子どもたちが、たったの数十分でどこまで変われるのだろう?
かくしてワークショップが始まると、
子どもたちの変化に驚かされることになった。
当日の朝、9時半。会場のノアスタジオ 学芸大スタジオの一室に近づくと、
子どもたちの嬉々とした声が聞こえてきた。
広いフロアーに解放された子どもたちが、床の上を走りまわっている。
今日のひとコマ目は、2〜3歳児を対象とした運動遊びのクラス。
先生は、豊岡市教育委員会こども育成課の仲義 健(なかぎたける)さん。
颯爽とした体操のお兄さんといった雰囲気だ。
まずは教室の真ん中に集まり、レクチャーを受ける。

豊岡市教育委員会 こども育成課 仲義 健さん。
「昔は子どもが空き地で遊んでいて、
子ども同士の遊びのなかで身につけていたものがたくさんありました。
今の遊びは、ほとんどがゲームですよね。
このままではイカンということで、豊岡ではこんな取り組みをしています」
ここで仲義さんは、簡単な運動を教えてくれた。
右手は右へ回し、左手は左へ回し、交差するところで拍手。
それを数回繰り返したら、今度は逆回し。
単純な動きだけど、逆回しに戸惑ってしまった。
「体には400の筋肉があり、この筋肉を動かすのが、脳です。
その脳と筋肉をつないでいく作業、これが10歳までに完了します。
なので、この動きがすぐにできる人は10歳までにたくさん遊んだ人です」
運動遊びでは、こうした簡単な動きにはじまり、
楽しみながら運動をしていくうちに「動ける身体」をつくり、脳と心の成長を促していく。
松本短期大学教授の柳沢秋孝さんが考案しているプログラムをアレンジしている。
でも、なかには今日体験する運動遊びの動きをすぐにできない子もいるでしょう、と仲義さん。
そんなときの対処法も教えてくれた。
「子どもさんができなかったときは、見ているだけでいいです。
『なんでできないんだ』というのはNGです。
脳は人の動きを見ているだけでも、実際に体を動かすときと、同じところが活性化しています。
もし、家に帰ってから同じ動きをしたら、その時は思い切りほめてあげてください。
僕は11年間この仕事をしていますけれど、
笑顔、ほめる、触れあう。この3つが揃えば、子どもは間違いなく健やかに育つ、そう実感しています」

この後は、いよいよ実践。
手をつないで、部屋のなかをぐるぐるまわったり、
オムレツに見立てた子どもを床の上で揺すったり、軽くほうり投げて受けとめたり。
子どもたちのテンションはみるみる上がっていき、
親御さんたちも童心にかえったような顔をしている。

お父さん、お母さんに背負われておもいっきりダッシュ! 仲義さんはフェイントをかけて笑いを誘い、緊張を解きほぐしていく。

フライパンを揺すってオムレツをつくるように、子どもの足を持ってゆ〜らゆ〜ら。

最後はオムレツを腕の中で成形して……かぶりつく! 子どもたちのキャッキャと甲高い声が響く。
一番盛り上がったのは、動物に変身するゲーム。
四つん這いで歩くクマさん歩きや、ほふく前進のように進むワニさん歩き、
お父さんたちの腕に子どもがぶら下がる象さん歩き。
これらの運動が、自分の腕で体を支える力や、ジャンプ力、ぶら下がる力を身につけ、
「動ける身体」をつくっていくという。

象さん歩きは、支えるほうの体力も必要! お父さんお母さんにとってもいい運動になったようだ。

小さい子どもも少しずつ、一歩ずつ。できなくても注意せず、笑顔で楽しもうとすることがポイント。

ワニさん歩き。大人も子どもも楽しそうに床を這う。
4〜6歳児クラスでは、もう少し難易度の高い運動が行われた。
感動的だったのは、懸垂の練習から始めた女の子が、逆上がりができるようになったこと。

「腕と脇の下に接着剤を塗ります。ペタペタ」と、逆上がりの一番のコツである、腕と胴体を離さないためのおまじないをかける仲義さん。

おまじないが効いた!? 簡単な補助で、逆上がりができた!
「懸垂とひっくり返る動きができれば、逆上がりができるようになります。
体重が30キロを超えると難しくなるので、小さいときから始めることが大事ですよ。
今日やった動きができるようになれば、跳び箱や側転もできるようになります。
親子でにこにこ遊んでいれば、できるようになるんです。
運動が脳の発達を促すというと、スポーツを強制しようとする親御さんがいるんですけれど、
大事なのは子どもが進んで遊ぶことです。
大人の役割はスポーツクラブに強制的に行かせるということではなく、
まずは一緒に遊んであげること。
豊岡では、そんな『運動遊び』を推進しています」

ワークショップの最中には、ぐずりだした子もいた。
でもその子は、最後までお父さんの膝に座って、みんなが遊んでいる様子を見ていて、
仲義さんにポンと頭を撫でられ帰っていった。
仲義さんはそういう子がいても、決してガミガミいわない雰囲気を大事にしているという。
「最初は消極的だった子も、続けていくうちに化けますよ。
そういう子がいかに『やってやろう』となれるか。
そういう機会をつくれるのが、運動遊びのいいところ。
幼稚園・保育園・こども園で行う運動遊びの時間だけではなく、
家に帰ってからも大事です」

こんなアクロバティックな動きも……!
豊岡では、現在37の幼稚園、保育園、認定こども園で、この運動遊びを取り入れている。
また、0〜15歳を一元的にとらえる施策も進められており、
幼稚園の子たちと小学生が一緒に遊ぶ試みなどが行われている。