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古民家宿LOOF vol.5
山梨の集落で2棟目の空き家を、
小さな子どもも安心の宿へ

リノベのススメ
vol.143

posted:2017.4.1   from:山梨県笛吹市芦川町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Yoshie Hoyo

保要佳江

古民家宿LOOF代表。山梨県笛吹市芦川町育ち。2013年、任意団体〈芦川ぷらす〉を立ち上げ、古民家でフレンチを食べる〈囲炉裏フレンチ〉を実施。2014年からは芦川町内に100棟以上ある古民家を生かし、同年10月に〈古民家宿LOOF澤之家〉、2016年6月に〈古民家宿LOOF坂之家〉をオープンさせ、都内の20代後半の女性や外国人の観光客をターゲットに一棟貸し宿を経営。

古民家宿LOOF vol.5

山梨県笛吹市芦川町で運営している、
古民家一棟貸し宿LOOF〈澤之家〉・〈坂之家〉ができるまでを綴ってきました。
前回までに紹介した1棟目の澤之家が完成後、
すぐにお借りできた2軒目の空き家は、
1棟目の澤之家から徒歩1分のところにありました。

改修を急ぐ理由

改修が本格的に始まったのは2016年1月からでしたが、
どうしても冬の間に改修をしたくて、
大家さんにも年末の忙しい中ドタバタで契約をさせていただいたのは、
お願いする大工さんのことがあってでした。

今回2棟目の改修をお願いしたのは
芦川町に10年以上住んでいる大工さんの根本則夫さん。
冬の間だけ狩猟をするため、芦川町に住んでいる方です。
毎年11月〜3月の狩猟期間だけ芦川町に来ては、
毎年どこかのお家の改修をお願いされて大工をしながら狩猟をしています。
私が芦川町に帰ってきてからすぐに知り合い、とても良くしていただいていた方で、
どうしても芦川町で改修をしていくなかで1棟はその方にお願いしたいと思っていました。

思いがけず早くに2棟目を始められることになり、
それならばぜひ根本さんにお願いしたいと
根本さんの滞在している冬の期間に合わせて改修を行うことにしました。

2棟目に借りられることになった古民家。

大家さんとまずは大そうじ

今回は夏前のオープンを目指したいと思い、宿づくりアカデミーは行わず、
基本的にはボランティアを入れずに行いました。
物件が決まってから始まるまではとても早く、お借りすることになってからすぐに
大家さんや親戚の方が大掃除に来てくださいました。

改修前の台所。

大家さんたちと大そうじ。

古民家を改修するのになによりも大変なのはゴミ捨て。
澤之家同様、今回もものすごい量のゴミが出てきました。

2棟目の物件はとても立派な大黒柱や天井板を使用しており、
大家さんからもできるだけそのまま使用してほしいとお願いされていました。
そこで今回はもともとあった立派な木材が生きるような内装にすることにしました。

大工の根本さんと打ち合わせ。右奥にあるのが、改修前の立派な大黒柱。

2棟目ということもあり、旅館にするための手続きなどは自分で行い、
施工も基本的には大工さんと私で行い、建築士さんは入れずに進めていきました。
ただ、なかなか大工さんに私の求めている内装を伝えるのは難しい。
写真などのイメージだけでは伝わりきれず、
やってみてはやり直しという作業が続いてしまいました。

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どうしたら、イメージが伝わるのか……

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一度土間に色をつけ、また元に戻す作業となってしまいました。

イメージを共有するために

どうしたら室内のデザインを大工さんに理解してもらえるのか、
さまざま考えた結果、ある人を思い出しました。
ちょうど数か月前に講演に行った山梨学院大学で、
古民家をご自身で改修して住んでいる外国人の教授アレキサンダー・ワイルズさんを
ご紹介していただいたのでした。

ワイルズさんは、現在は山梨学院大学で教授として働く以前に、
奥さまとふたりデザイン・施工の仕事を行っていました。
以前は島根県で大工さんとして古民家の改修を行っていたという話をうかがい、
「お手伝いいただけないか」と相談したところ、快くお受けしていただき、
ワイルズさんの奥さまの由紀子さんにサポートいただくことになりました。

それから、私の内装の希望写真などをお見せし、
絵にしてもらい、大工さんに伝えていくというやり方にしていきました。

また、全体を考えながら壁や床はどんな素材で
どんな色にしたらいいのかなどアドバイスをいただき、
大工さんとのやりとりもとてもスムーズにいくようになりました。

押し入れを利用して、あるスペースをつくります。

そして、資金面では1棟目と同様、クラウドファンディングを利用することに。

今回は一度お越しいただいたお客さまに
次は2棟目にもお越しいただけたらうれしいなという思いで、
お得な宿泊券をいろいろと用意しました。

2棟目は、建物が大きかったため、使用するのは1階部分のみ。
1棟目の際に運営をしていて特に感じたのは、小さなお子さまが多いこと。
そこで、2棟目は小さなお子さまでも
安心してお泊まりいただけるような空間にしました。
囲炉裏は掘りごたつにはせず、テーブルタイプのものを。
走り回っても落ちたりしないような造りを心がけました。

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いよいよ、完成!

Page 3

工事は少し押したものの、
根本さんがいる3月終わり頃にどうにか終わりが見えてきました。

そこからは、旅館業の申請、
スタッフの採用などオープンに向けての受け入れ態勢を整えていきます。

広々としたキッチン。

仕切りをとって3部屋をつなげて広いリビングに。床は無垢材を使用。

畳の寝室スペース。

1棟目同様、地元の神主さんにお越しいただき、
今回は落ちついてお祓いをすることができました。

2棟目オープンに伴い、1棟目を〈古民家宿LOOF澤之家〉。
2棟目を〈古民家宿LOOF坂之家〉としました。

坂之家は「暮らしてみたい田舎のお家」をイメージしてつくった宿です。
より快適にお過ごしいただけるような空間をつくりました。

押し入れを利用して完成したのは、広々のソファスペース。

ヒノキの香りが漂う、お風呂。

オープンは2016年6月15日。2棟目だったため、
まったくお客さまが来ないということはないだろうとは思っていましたが、
1棟目とは全然違った建物。築100年の古民家ではないこともあり、
古民家の宿を目指して坂之家に来てくれるのか、やはり不安がありました。

しかし、クラウドファンディングの宿泊券利用もあり、
結果的には澤之家と変わらないくらいのお客さまにお越しいただきました。
特にリピーターのお客さまが、半年間で20パーセント。
澤之家と坂之家両方を貸し切った団体のお客さまもお越しいただくようになりました。

坂之家は、特に20代の若いお客さまや、
小さなお子さま連れのお客さまにお選びいただく宿になっています。

次なるチャレンジへ

宿が2棟になったことで、スタッフも増えてきました。
そして実は、もう1棟の空き家改修が進んでいます。
県外から働きたいと来る方も多く、
2017年はおなじく芦川町でお借りしたその古民家を
シェアハウス兼シェアオフィスにする計画で、夏頃に完成する予定です。

もともと古民家についても、宿についても何の知識もないところから始まり、
ようやく3年が経ちました。仕事を辞めて、知らない世界に飛び込んで、
今は挑戦してみて本当に良かったなと感じています。

まだまだわからないことだらけですが、
無理に空き家をどうにかしなければと、実行したというよりは、
ただ自分がこんなふうになったら楽しいと思ったものを
つくり上げてきたという感覚のほうが近いのかもしれません。
無理してやるのではなく、まずは自分自身が楽しみながら行動をする。
その結果、お客さまさまが喜んでくださり、
地域にとっても少しでもプラスになれたらうれしいなと思っています。

また、今後はこのモデルを芦川町はもちろんのこと、
ほかの県や場所にも広げていきたいと思っています。
まずはオープンした2棟の稼働率をしっかりあげることが今年の目標です。

今回で古民家宿LOOFの連載は最後となります。
今までやって来たことをここまで細かく文章に興すことは初めての経験で、
私にとっても考えが整理され、いい経験になりました。
最近ではこちらの連載を見てお越しいただくお客さまも増え、
とてもうれしく思います。たまには何もせず、
ぼーっとしたいなと思ったらぜひ古民家宿LOOFを思い出してみてくださいね。

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