連載
posted:2017.3.17 from:大阪府大阪市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Tomohisa Ito
伊藤智寿
1985年大阪生まれ。神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒業後、webデザイン、大工修行を経て、独立。2013年より、シェアスペース〈上町荘〉を協同運営。受賞歴は第23回JIA東海支部設計競技学生の部銅賞、第19回CSデザイン賞グランプリなど。
http://itoutomohisa.jp/
はじめまして、伊藤智寿と申します。
大工・ディレクター・インストラクターのような動きを並行して行う
株式会社いとうともひさを主宰しております。
大阪を拠点としていますが、日本各地に出向いて
その地域の方と協働するスタイルで活動しています。大工工事と並行して、
お客さんに工事の指導をしたり、設計業務に協力させていただいたり、
プロジェクトを企画したりしています。
具体的な業務は、現場で工事する、依頼主に予算内で使える材料・つくり方の提案をする、
全国の地域にある空き家の利用方法を考える、設計者とチームを組む、
DIYのサポートをする、場所を運営するなど、
家をはじめとした空間を一緒に考える・つくるという案件が多いような気がします。
第1回目は現在、拠点として運営に携わっている
シェアスペース〈上町荘(うえまちそう)〉の話をさせてもらおうと思います。
そこから見えるリノベーションのひとつのあり方を知ってもらえたらうれしいです。
2014年大阪市中央区に誕生したシェアスペース、上町荘。
大通りに面した角地に建ち、3階建てで延べ床面積300平米超の大きな空間です。
1階はホールスペース92平米+工房スペース50平米、2階はライブラリスペース20平米に、
打ち合わせスペース10平米+オフィススペース50平米、
3階に85平米オフィスと45平米のオフィスといった構成になっており、
上町荘は入居以来、時間をかけてリノベーションし続けています。
梅田・心斎橋・難波など大阪の主要部へのアクセスが便利なエリアにあり、
以前は自動車ディーラーの展示空間・オフィスでした。
ディーラー時代に車の見栄えが良いように設計され、
交差点に向かって大きなガラス面がはめられています。
もともとはオフィス兼倉庫をひとりで探していたのですが、
上町荘のようなビルをひとりで1棟借りするのは
大工が工房や倉庫として利用するには家賃が高すぎるし、選択肢になかった。
まともに考えると田舎でかつ、車の便がいい倉庫を借りるほうが断然現実的だったんです。
しかし今では思い切って地価の高いエリアに飛び込めたことの意味を感じています。
それはほかの人の利益になることをすれば、利益を受け取る人の数が多いため、
シェアする利益が大きいということ。
自分だけの空間として閉じてしまえばもったいない話なんだと思います。
上町荘に入ることになったきっかけは
建築家の白須寛規さん(designSU主宰)からのお誘いでした。
学生時代から、まちに開かれた活動をされていたのが魅力的で
白須さんの催したイベントに通い、いろいろなことを教えてもらったり、
さまざまな人を紹介してもらったりしていました。
そんな白須さんから「共同オフィスを一緒に探さない?」とお誘いをもらったのです。
以前から白須さんと仲が良かった山口陽登さん(シイナリ一級建築士事務所主宰)と、
3人で共同オフィスを探すところから始まりました。
エレベーターがない、駅から遠い、など大阪市内でも安くなりそうな条件で検索して、
とにかく広いビルを探しました。
そんななか、大阪市中央区に100坪を超えるビルがあると山口さんから連絡をもらい、
3人で見に行くことにしました。
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空調・水道・ガスなどの設備は解体後切りっぱなし、内装も尖った部分や危ない箇所が多い、
雨漏りもしている。とにかく大きな空間がぽっかり浮いているような状態だったんですが、
僕たち建築家ふたりと大工という職能を生かし、
自分たちで設計して工事していく、という計画を念頭に思い切って借りることにしました。
1階部分がワンフロアで142平米と広いので、
入居当時はもっぱら1階のホールだけを使っていました。
3人でも空間を持て余していたので、
まずは、大きな空間を必要としている人に入ってもらおうという話になりました。
建築家、アートマネージャー、グラフィックデザイナー、アパレル関係、ウェブデザイナー、
写真家、アーティスト、ベンチャー事業家など、
上町荘にジョイントしていくメンバーの職業に合わせて、
空間の構成は自然と変化していきました。
上町荘で行っている工事はどんなものか、どのように進んでいるのか、
実例を挙げてみたいと思います。
まず上町荘を整備・工事していくうえで必要になる拠点、
1階工房スペースの整備から始まりました。
外壁を壊して大きくくり抜き、隠れていたシャッターを引っ張り出し、
加工して開口を設けたことで軽自動車サイズの車が収まります。こうしたことで将来的に
・外部の人も使えるシェア工房にできるかもしれない。
・入居者用シェアカーの駐車ができるかもしれない。
・ガラスをはめて路面店を開けるかもしれない。
などなど、いろいろな発展が見込める状態になりました。
今は僕が現場作業ラッシュでして、工房に資材がどんどん流れてくる。
もうすぐで家を建てられるんじゃないかってくらい流れてくる。
工事では通常、資材不足では支障をきたすので
「余分に」材料を発注しなければいけないんです。場合によっては結構まとまった量が余る。
それをどこかに利用するためのストック場となっています。
ストックした大量の建材は新品をはじめ,
きれいな中古品や古建具など、使い方によってはまだまだ価値のあるものばかりです。
工房では誰でも利用できる素材を使って加工方法の実験も行っています。
最近では僕が現場に出ることが多く、なかなか実験ができていないのですが、
これまでにつくったものは、「薄ベニアの網代組天井」
「シナランバーコア・トーチバーナー焼き天板ウレタン仕上げ」「鉄錆ステイン塗料」
など、よく目にする素材に手を加えて
イメージとは違う見せ方ができればいいなと思って始めました。
そもそも工房の廃材に困っていたのがきっかけです。
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上町荘がスタートして1年目に、まだまだ、リノベーション途中の空間にもかかわらず、
「1階のホール部分をイベントで使いたい」
という外部からの依頼があったんです。
さらに、「キッチンがあればイベントがやりやすい」
という話が上がったんですね。
だったらと、上町荘のメンバーでキッチン+バーカウンターをつくってしまいました。
また、白須さん・山口さん・伊藤をはじめ、
皆さんが共有してもいいよという本をライブラリスペースとしてシェアしたいよね。
という話題が上がり、2階の吹き抜け空間にライブラリスペースをつくりました。
このテーブルは作業していても気持ちがいいので僕もこのスペースで作業したりします。
またあるときには、「プロジェクターを使ってイベントをしたい」
という外部からの依頼があったんです。
その際は白須さんと山口さん主導で大きなカーテンを発注して、
電動スクリーンを吊り込みました。
というように、上町荘の各スペースは何かが起こると何かが変わる。
生活のスピードと同じくらいゆっくりと書き換えられています。
生活の中から要望が生まれたり、ワクワクが生まれたりするのを
しっかりキャッチすることで空間は部分的にリノベートされます。
今年で3年目を迎える上町荘。
現在総勢12組が入居されていますがまだスペースがあります。
まだ残っている余白を埋めたり、変えたり、今年いるメンバーと来年のメンバーは
また変わるかもしれない。そうすれば要望もまた変化し、
居心地が良かったり使い勝手の良い空間は変わります。
上町荘はメンバーが変わると随分と変わるんです。
人と人との反応がダイレクトに空間の要望になります。
空間が人の行動を決めるのではなくて、人が空間のあり方を決められる。
そんな空間にできるのはゆっくりと空間を変えていく大事さがあるのかもしれません。
上町荘はまだまだ工事中です。
さて、毎回登場事例のなから、簡単DIY術を紹介したいと思います。
今回は、新品の木材を古材のような雰囲気にする、
手軽な「鉄錆ステイン塗料」のつくり方です。
用意するもの
・バケツ ・鉄釘(N32程度が扱いやすい) ・塩、水 適量 ・空きビン
手順1
箱売りの鉄釘をバケツに移して塩水を入れて、数日寝かせてください。
コツとしては鉄釘は32ミリ程度がよいです。
鉄釘の頭擦り切れまで水を入れます。
暗所よりも外部の雨ざらしに置くことでサビの進行が早まります。
手順2
赤錆→黒錆に変わった段階で、ステイン塗料を塗料缶に移し、木に塗ります。
この際、下のほうにサビの濃い塗料が溜まっていますので、混ぜてから取り出すといいです。
手順3
しっかり染み込ませるように多めに塗ると、経年劣化した風合いを出すことができます。
特にこの塗料に適した木材はスギ。
スギは、水分を含みやすいのです。
スギの足場板に塗って使用したり、最近ホームセンターでも目にするようになりました、
スギのバラ板などに塗ると加工性もよく、効果大です。
次回はDIYリノベーションのインストラクター事例についてお話したいと思います。
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上町荘
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