連載
posted:2017.4.21 from:大阪府大阪市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Tomohisa Ito
伊藤智寿
1985年大阪生まれ。神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒業後、webデザイン、大工修行を経て、独立。2013年より、シェアスペース〈上町荘〉を協同運営。受賞歴は第23回JIA東海支部設計競技学生の部銅賞、第19回CSデザイン賞グランプリなど。
http://itoutomohisa.jp/
自分の居場所になる空間を、自分でつくれたら生活の幅が広がると思います。
近年空き家の数が多くなって、治安の悪化につながる一因となったり、
また、人が住んでいないことで建物の劣化スピードも速くなります。
建物が空いているのはいい状況ではありませんが、DIYと空き家ってすごく相性がいいのです。
DIYが空き家問題を解決する糸口になるのではないかと考えています。
大きく手を加えることができるので、自分の描いたような空間となる。
しかし、DIYと言っても初心者にはなかなかハードルが高いもの。
そこで僕は、“DIYのインストラクター”といったことができないかと思っています。
プロの職人に任せるだけでなく、
自分たちだけでもない、プロの職人がインストラクターとなりながら、
DIYを進めていくかたちがいいと考えています。今回はそんな事例を2軒紹介します。
2017年2月の工事後の写真。コツコツと工事は進んでいます。(撮影:古市邦人)
大阪市東住吉区の連棟長屋にカレー屋店舗をつくりたいという相談です。
店名は、〈nimoalcamo〉(ニモアルカモ)。
依頼主の古市邦人さんは当初工務店への相談を考えていたのですが、
でき上がりがイメージできないということと、
作業するのが好きで自分も工事に参加できる方法はないかということで相談をいただきました。
古市さんの持っている空間のイメージを客観的に立ち上げるために、
DIYだけでもない職人だけの工事でもない、その真ん中のやり方として
僕がインストラクターとなり作業をレクチャーする立場で
工事に参加させてもらうことを提案して、こころよく了解してもらいました。
2016年7月、工事前にテープを貼って実測している様子。
空間を前に実測し、大きさのイメージを確認します。
アイデアを出し合い、予算を確認しながら
「手をつける場所と手をつけない場所」の選択をして一緒に輪郭をつくっていきます。
そのためにはまず現状の空間を褒めるところから始めます。
「この階段、華奢だけどかわいいよね」とか
「天井はこのまま見せてもカッコいいじゃない?」とか
「床のワイルドさ、こんな雰囲気を生かして全体をつくりたいね」
などが古市さんとの話のなかで浮き上がってきました。
これを最初の計画に組み込んで、床と天井と階段は手をつけないという選択をしました。
全体に手を加えることができなくても、
厨房に集中してアイデアを投入することで最大の効果が出せるように計画を進めます。
話をしているなかで「舞台装置のような厨房」というキーワードが出ました。
それをもとに天井を下げて床を上げて、
厨房がこの空間の中で浮き上がって見えるような演出を考え始めます。
この会話でふたりともイメージが膨らみ、ワクワクしたのを覚えています。
次に仕上がりの材質を選択します。
木なのか、鉄なのか、ペンキなのか、漆喰、モルタル、化粧パネル、ガラス……
どの部分にどの素材を使うかという選択は、
組み合わせで言うと星の数ほどありますので相談しながら決断していきます。
照明は現場用のライトの傘をひっくり返した造形をそのまま採用。
古市さんが製作した建具。右手に写っているのが現場用照明の傘をひっくり返したワイヤーシェード。(撮影:古市邦人)
やりたいことは無限に出てくるので、組み合わせを考えないと混乱してしまいます。
素材の選定から、前もって計画をしてから次の工程に進みます。
古市さんのイメージをもとにここではコンクリートの床の無垢な表情に合わせ
厨房の内部を仕上げるように素材をチョイスします。
コンクリートブロック、コンクリート補修塗料、
厨房内土間はコンクリートを金鏝(かなごて)で押さえて、
金額的にも予算内でクリアする見通しが立ったので次に進みます。
作業段階に移っても、選択だらけです。
「職人に任せる」or「自分でやる」という選択をひとつひとつしていき、金額に反映させます。
古市さんは、まず自分でやってみる。
わからなかったらインストラクターを呼ぶ、
または職人にお願いするような順番で作業を進めました。
手伝いに来てくれた知人にも作業をレクチャーし、工事してもらいます。(撮影:古市邦人)
結果、水道工事・電気工事・カウンターの製作や扉の吊り込みなどは僕が工事し、
それ以外の部分を古市さんが担当することになりました。
建具やスツールもつくってしまうこんなカレー屋さん、一度行ってみたくなりますよね。
古市さんがDIYで作ったスツール。足はガス管を切って組み合わせています。(撮影:古市邦人)
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もうひとつの空き家改修事例は、兵庫県たつの市。
揖保川のそばの自然に囲まれた場所にある延べ床面積294平米の木造住宅。
およそ10年前まで、こちらに住んでいた方のお孫さんご夫婦から相談があり、
空き家があるけれど住み方を考えたいとのことで現地を調査しました。
ふたりの住居兼アトリエスペースとして計画を始めたのですが、
すべてを工事するには広すぎるので、一部分だけ工事をする提案をしました。
まず北側部分に居室をつくり、住みながらじわじわと生活に必要な空間をつくっていく。
色のついた北側部分が居室。そこから南側に生活が広がっていくイメージ。
1期目の工事で最低限必要な機能=居室となるダイニングキッチン+トイレ+風呂+寝室
2期目の工事で整備する箇所=アトリエ+居室の家具(リメイク)+収納(リメイク)
3期目に必要なのは温室?レコード空間?
4期目に必要なのはゲストルーム?畑?
5期目は……など、暮らしながら工事できるように、工事の手順やコツをレクチャーします。
将来的にはご自身で計画を進められるのが僕の考える、DIYの理想のかたちです。
ここで完成! という決まりはなく、暮らしにひとつずつ新しいものを加えていくように、
じわじわと工事を進めていきます。
工事前のキッチン部分。立派な木造住宅だけれども、あまり個性のない空間でした。
キッチンに大きなガラス面を。天井を解体。考えながらつくる、お施主さんご夫婦も作業に参加しています。
全体の計画は最初の時点である程度決めましたが、
最終的に決定するのは現場で現品を見てからにします。
その場その場で計画を微妙に調整しながら進めていきます。
また、以前からこの家にあった照明・家具などに手を加えてもう一度この空間に戻すことで、
祖父が遺してくれたモノとこれからの生活が折衷し、新たな暮らしをつくります。
気に入ったから選ぶ、気に入らないから選ばない。と選択しがちな空間ですが、
まず話をして意味を考えて本当に暮らしに必要なモノを選んでもらいたいと思っています。
応接間についていたシャンデリアは居室に転用。
職人による手づくりの家具もたくさん残っていて、リメイクして活用する予定です。
以前応接間にあったシャンデリア。あえてリビングに使用するのは好みよりもご夫婦の暮らし方にマッチしたから。
試しては考える。また話をする。時間のかかるやり方だけど、家づくりの一番楽しいところ。
このプロジェクトはスタートを切ったばかり。
またの機会にどのような空間になったのかをお伝えしたいと思っています。
DIYのなかでも、これだけの大きな工事をする方たちがいます。
見ていただいたふたつの事例に関してはどれも、莫大な時間と労力と費用がかかっています。
しかしどの空間も「私たちでつくりました」という想いがあって、
完成したときにはお金でも時間でもない何かを手にしてもらえたのだなと感動します。
できない部分を補ってもらいながら、建物の仕組みを知る。
そうすれば家に対する興味も増すと思います。
これからは技術もシェアする時代。職人技術は内部で守るのではなく
もっと外に向かって出していきたい。とはいえ、
職人さんはやはりすごいんです。すさまじい経験と現場での知恵を持っています。
そのうえで労力をかけてつくっている。
それをあらためて実感できる機会になるんじゃないかと思います。
DIYだからといって、お膳立てはしませんし、「家づくりは簡単です」なんて言いません。
家をつくる・空間をつくるというのは、思っている以上に大変なことです。
でもわからないことは教えてもらいながら
コツコツ、コツコツ時間をかけてやっていると必ずできます。
自分で試してみて、失敗して、学んで、生かす。悩んで、喜んで、泣いて、楽しむ。
ハッピーしかないDIYではなくて、
その労力から「こんなはずじゃなかった……」と思うことも時として、あると思います。
でも最後にはハッピーで終わってもらえるよう、
ずいぶん離れたところからのぞき見しているような心境です。
さて、毎回登場事例のなかから、簡単DIY術を紹介したいと思います。
今回は、たつの市の住宅で製作している「土壁+セメントタイル」のつくり方です。
このタイルは、例えば土間をコンクリート仕上げにしたいけれど、
普通にコンクリートで仕上げるのは味気ないと思う場合などに
タイルを使うことで動きのある土間になります。
DIYで土間コンクリート打ちするのが難しいときの仕上げとしてもおすすめです。
タイルとタイルの隙間(目地の間)には土や目地材をお好みで詰めて仕上がりとなります。
それでは、土壁+セメントタイルのつくり方です。
用意するもの
・タイルの型となるタッパーを必要な個数。(やわらかいポリ容器が使いやすく、これは100円均一で調達。さまざまな大きさのタッパーから選ぶのも楽しい) ・セメント 適量
手順1
解体した土壁をふるいにかけて、大きな石や藁を取り除きます。
手順2
土とセメントを2:1の分量で混ぜ合わせ、水を加えます。
きちんと混ぜたらタッパーに移します。
手順3
そのままの状態で固まるまで放置します。
手順4
型から外せばタイルのでき上がり! 写真左側のタイルは光沢があり、右側はマットな仕上げになっています。これはまったく同じ工法でつくっているのですが、型から外す時間が違うだけでこれだけ仕上がりに違いが生まれます。目安でいうとマット仕上げにしたい場合は6時間程度で型から外してください。光沢仕上げにしたい場合は24時間以上固めてから型から外してください。
土壁+セメントタイルは乾くと、グレーになります。こちらは、床の一例として展示に使っているときの写真です。
次回はDIYとはまた異なり、設計者との協働しましたリノベーションを紹介したいと思います。
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nimoalcamo
ニモアルカモ
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