連載
posted:2017.8.29 from:大阪府大阪市此花区 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Tomohisa Ito
伊藤智寿
1985年大阪生まれ。神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒業後、webデザイン、大工修行を経て、独立。2013年より、シェアスペース〈上町荘〉を協同運営。受賞歴は第23回JIA東海支部設計競技学生の部銅賞、第19回CSデザイン賞グランプリなど。
http://itoutomohisa.jp/
前回はDIYのインストラクターの事例を交えて
空間のつくりかたを紹介しましたが、
今回はまた違った協働、設計者とのコラボレーションの話をしたいと思います。
大阪市此花区に事務所を構える設計事務所〈NOARCHITECTS〉から声をかけていただいて
工事に参加した「大辻の家」「スペース丁」という一連のプロジェクトをご紹介します。
NOARCHITECTSの代表で、建築家の西山広志さんは、
僕が大学時代からお世話になっている同じ大学の先輩であり、
実務でも何回か協働させてもらっています。
西山さん夫婦の住まいとなった「大辻の家」は、
此花地区にある空き家を改修することとなりました。
(詳しい経緯は、リノベのススメにて紹介)
大辻の家のつくり方で特徴的だったのは西山さんの図面と、
その指示をもとに施工することを基本にしているのは通常通りなのですが、
ところどころ図面に空白部分が残されているんです。
まるで「いとうくんならどうする?」という声が聞こえてきそう。
大工としてワクワクしながら工事したのを覚えています。
例えば1階のキッチンのシンクはもともとタイルが割れたり
汚れたりしていて汚いものだったのですが、
もとのかたちを生かしつつ、ステンレス製のシンクに交換。
キッチン全体をどういうかたちにするかは現場で、意見を交換しながら決めていきました。
材料は安くても、このキッチンはここにしかない一点もの。
すべて取り替えて新しいシステムキッチンを入れるという選択肢もあるなかで、
あえて手づくりにこだわる意味を考えました。
長く愛してもらえるような、そしてここに流れる時間をイメージして
「日常に溶け込むようなキッチンを」
という気持ちで提案し、西山さんと話し合いながら工事はスタートしました。
こちらの提案を尊重してもらい、
タイルとステンレスの間に木材の層をサンドイッチしたキッチンができました。
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また工事するメンバー編成も特徴的で、自ら考えて手を動かす施工者が参加し、
それぞれに工事する部分を受けもったのです。
お風呂とトイレの設備工事・玄関の大工工事などは地元此花区で活動されている
〈POS建築観察設計研究室〉大川 輝さんが担当。
2階のリビング空間を印象づける天井のベニヤ貼り工事を
〈MICROCOSMOS〉飯坂拓也さんが、お風呂の銭湯絵を画家の権田直博さんが、
そのほか全体のつくりものをいとうが担当。
というように部分部分をさまざまなメンバーが受けもちました。
ローコストでもそれぞれの分野のプロフェッショナルが
限られた予算のなかで手づくりしたものが溢れる空間。
そのチョイスや指示は、NOARCHITECTSがやわらかく個々のつくり手に投げかける。
心地よい協働はそうやって生まれ、
大辻の家のローコストリノベーションは次の広がりを見せます。
大辻の家が完成して1年が経とうというときに、
大辻の家とくっついた「もう1軒の空き家に多目的ルームを計画している」
というお声がかかりました。
NOARCHITECTSのリノベのススメにも登場するこのスペースですが、
西山さんが書いている通り、特に打ち合わせをしたり、
図面を描いて検討したりはせずに
世間話の延長上でイメージをすり合わせてスタートしました。
予算を読み、何ができるかを考える。
リノベーションでの僕の役割はここが大事なところ。
最小予算で最大のパフォーマンスをするために、
仕上げにはベニヤ板だけを使うというテーマが決まりました。
壁・床などすべてベニヤ板に置き換える。
同じ素材でも、切る、積み重ねる、角を落とす、帯状に割く、貼るなど、
さまざまな加工を施します。
材料費は安いのですが、加工方法次第でベニヤ板の空間も美しく見せることができます。
素材が安いからといって安い空間になるわけではないんです。
NOARCHITECTSとの協働を通して僕が発見したことは
「素材は何であれ人が頭を使って手を加えたものの価値はずいぶんと高い」ということ。
リノベーションに求められているのは「どうやって手間暇をかけるか」
プロフェッショナルにも突きつけられている課題だと思っています。
スペース丁は僕の工事が終わった後もいろいろな人が手を加え、
リノベーションのリレーのように表情を変えています。
それが此花らしさであり、愛すべき下町のつくられ方なのかなと。
久々に訪れて感慨にふけったのでした。
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今回、連載記事をよい機会に西山さんとあらためて、
リノベーションの設計、施工について意見を聞いてみました。
いとう: NOARCHITECTSと協働していて心地がいいのは、でき上がる空間について、
どう使われて、さらにどう広がって暮らしに結びついていくか
というところまで、西山さんが深く考えている。
此花区で長く住んでいる経験と暮らしの感覚をよく知っているからこそ、
いとうという別の要素を調整してはめこんでくれるという安心感があります。
個別に僕にできることを相談してくれて調整する期間がある。
それは業務的な調整というより、数値や図面には表せない大事な計画だと感じています。
工事をするものとして、ときには図面で取り決める契約よりも
強度のあるものになる可能性があります。
僕は、テーブルをこっちに移動させる。
そんな感覚でリノベーションできないかと思って
DIYのインストラクターというのを始めたんですね。リノベーションは
設計図面にだけ沿ったつくり方というよりその場で実測しながら試して考えて、
トライアンドエラーで空間をつくっていく。これもひとつの方法だと思うんです。
ここで大事なのが設計者との協働が必要ないと言いたいわけではなくて、
むしろすごく重要だと思っている。
ここで誤解が生まれないように注意しなきゃいけないですよね。
西山: そうだよね。
いとう: 逆にもっと専門的な人とも協働したい想いはあるんです。
西山: ずっと昔からいとうくんの活動を見ているけど、最近はひとつ進んでいるなって。
ちゃんと積み重ねた経験を共有することで技術や興味を
みんなと共有する、振る舞うようなフェーズに変わっているなと思っています。
仕事の技術というのは自分のものにしていくのがプロフェッショナル。
高い技術の対価としてお金に換えてもらう。それが商売としての職人のかたち。
でも一方でいとうくんはそれを否定するような言い方もしている。
『自分が経験して培った技術や知識を
みんなで共有して自由にやればいいんだ』と。
本来、商売人であれば絶対しなかったようなことが、社会性を帯びてきているよね。
この連載でも、紹介している最後にあるDIYのレシピ。これ仕事減るんじゃない?(笑)
いとう: いとうともひさというひとりの人間でやっていると、
簡単にパンクしちゃうんですよ。だからできることはできる人にやってもらいたい。
お施主さんがタイルをつくれるのならつくってもらいたい。
そうやって協働していくことで、
母体は少人数でもよりよい建築はつくれると思っています。
さて、毎回関連する事例のなから、簡単DIY術を紹介したいと思います。
今回は「ベニヤフローリング」の貼り方です。
手順1
ベニヤ板を短冊状にカットします。幅は自由。通常のフローリングは幅90ミリ〜150ミリのものが主流です。カットしたベニヤ板の角をかんなで面取りします。
手順2
ベニヤ板には“実”(さね、ジョイントするための凹凸)がないので少しだけ隙間をあけて貼ります。このときに2.5ミリ、4ミリ、5.5ミリなどの端材をパッキンにして隙間をあけると効率が上がり、キレイな目地が取れます。貼るときは裏に木工用ボンドを塗り、フィニッシュネイルでベニヤ板を止めていきます。
手順3
次に木屎(こくそ、木工用ボンドに木粉を混ぜたもの)をベニヤ板とベニヤ板の隙間に塗り込みます。フローリング部分に木屎が付かないようにマスキングテープで養生してから塗り込みます。このときのポイントは隙間に詰めたボンドを1ミリ程度凹ませるようにゴム製のヘラなどで押さえておくこと。こうするとキレイな目地ができます。木粉はベニヤ板をカットした際に出たものを使うとよいです。
手順4
ボンドが乾く前に木粉を上からまぶして、乾くまで放置します。乾いたら全体に紙やすり(#150程度)でヤスリがけを行います。この際、ベニアの木目に沿うようにしてヤスリがけを行ってください。木目と直行方向にヤスリをかけると傷になって線が残ってしまいます。隙間のサンプルを製作して実際に雰囲気を確認。写真の隙間は右から1ミリ、2.5ミリ、4ミリ、5.5ミリ、お好みで保護塗料を塗れば完成です。
手順5
ヤスリがけ後、塗装をした様子。写真は浸透系クリア塗料を塗っています。
次回からは海辺集落に立つ一戸建て古民家のリノベーションプロジェクトに
密着したいと思います。
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