「いいかげん」という言葉には、
ご存じの通り「ちょうどよい」と「でたらめ」という相反する意味がある。
文脈や受け取る側の印象によって、どちらにも取ることができてしまうわけだが、
三重県いなべ市は大胆にもこの言葉をテーマにプロモーションビデオ(以下、PV)を
つくってしまった。

(いなべ市プロモーションムービー『いいかげんな街 いなべ』より)
『いいかげんな街 いなべ』は、いなべの魅力を市内外に広くPRすることを目的に、
官民協働で制作されたPVだ。
撮影・演出などを担当したビデオグラファーのウラタタカヒデさんは、
愛知県弥富市の出身で、いなべに移住してきたのは7年ほど前。
それ以前は名古屋や京都にも住んでいたことがあり、
いなべにやってきたのもたまたまで、特にこだわりはなかったようだ。
「20代のときはスノーボードに夢中になって、冬場はずっと山にいて、
夏はスノーボードの練習施設で働くような生活をしていたのですが、
映像に興味を持ったのもスノーボードがきっかけでした。
最初は見よう見まねで撮影していたのですが、
サラリーマンをしながら知り合いの下で修業させてもらい、
3年前に会社をやめて独立したんです」

ビデオグラファーのウラタタカヒデさん。
移住してしばらくの間は、いなべに知り合いがほとんどいなく、
遊びも仕事も市外に出かけていて、なかなか地域に入り込む機会がなく、
意識も外に向いていたというウラタさん。
「映像の仕事に関しても、いなべには何もつてがなかったので、
修業させてもらった四日市界隈や伊勢のほうによく行ってました。
それで外の地域のプロモーションに関わらせてもらったとき、ふと思ったんです。
せっかくいなべに住んでいるのだから、僕自身ももっと知りたいし、
いなべをアピールしなきゃいけないんじゃないかなって」
今ではすっかり、地域と深くコミットしているように見えるが、
市民や行政とともに、一体どんなPVをつくったのだろう。
そして自分の暮らすまちに対する新たな発見はあったのだろうか。

藤原町古田地区で、田園風景を撮影するウラタさん。(写真提供:いなべ市役所)
「いいかげん」という言葉に込めた思いを、
いなべ市企画部広報秘書課の伊藤淳一さんは、こんなふうに説明してくれた。
「いなべは何もないところだと思われがちですし、実際に田舎なんですけど、
都会からもほどよい距離にある。
田舎過ぎず、都会過ぎないちょうどよさを打ち出したいと思いました。
官民協働というのも今回の大きなテーマで、
市民のみなさんに出演していただいていますし、
市内唯一の高校であるいなべ総合学園の放送部の生徒さんが、
メイキングムービーをつくっているんです」

いなべ市役所の伊藤淳一さん。

今回の映像の舞台となった3地区のひとつ、藤原町鼎(かなえ)地区。中央にあるのは映像にも登場する地域拠点〈○鼎家〉(かなえハウス)。(いなべ市プロモーションムービー『いいかげんな街 いなべ』より)
たしかにいなべには、全国的に有名な観光スポットもないし、
自然は豊富だけれどもそのスケールが突出しているわけでもない。
だけど、暮らすうえではその「何もなさ」がむしろちょうどいいのかもしれない。
「『いいかげん』というキーワードを行政の方から聞いたとき、
単純におもしろいなと思いました。だけど、
それを表現するのって実はすごく難しい。だって住んでいる人たちにしてみれば、
『自分たちはいいかげん(でたらめ)に暮らしているわけじゃない』
と思うのは当然じゃないですか。どうやって映像にしていくべきか悩んだのですが、
市役所の加藤さんを主役にすればいいと思ったんです。まさか本当に、
その案が採用されるとは思わなかったけど(笑)」(ウラタさん)

取材のこの日、映像制作に携わったメンバーに〈○鼎家〉に集まってもらった。