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地域の古材を生かして、
仲間とともにDIY!
カフェ併設の託児所をハーフビルド。
COKAGE STUDIO vol.2

リノベのススメ
vol.154

posted:2017.10.14   from:岩手県奥州市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

witer profile

Keisuke Kawashima

川島佳輔

フリーランスデザイナーとして3年間活動し、2016年12月に(株)COKAGE STUDIOを設立。「くらしに、豊かな1ページを。」をビジョンに掲げ、岩手県奥州市でカフェと託児所が併設された〈Cafe&Living Uchida〉をオープン。改装中は大工兼デザイナー。現在はカフェの皿洗い担当。

COKAGE STUDIO vol.2

岩手県奥州市にある古ビルをリノベーションし、
カフェと託児所が併設された
〈Café&Living Uchida〉(以下ウチダ)をオープンしました。
前回は私が子育てで感じたことや
カフェと託児所をオープンするに至った経緯をお話しました。

第2回目の今回は物件と改装の話をします。

もとは地域に根づく画材屋さん

私たちがCafé&Living Uchidaを始めたこのビルは、
もともと額縁や画材を販売する〈アートショップウチダ〉というお店でした。
JR水沢駅の東口で50年もの間営業してきたお店です。
私の年齢よりも遥かに長い間、この場所にあり続けたアートショップウチダ。
家族経営の小さなお店でしたが、額装をお願いしたり、
絵の具を買ったりと数少ないまちの画材屋としてなくてはならない存在でした。

アートショップウチダ営業当時の懐かしい外観。

私自身、同店の近所に実家があり、幼少期を過ごした場所です。
水沢駅裏(東口)には、アートショップウチダがあって当たり前。
まちの風景にとけ込むお店だったのです。閉店の話を聞いた時、
馴染みの風景がまたひとつ失われることに寂しさを感じました。

水沢駅東口(駅裏)の様子。

2016年10月、まもなく閉店を迎える店に挨拶にうかがいました。
これまで一度も入ったことのなかった店内に足を運び、
ほんの数分、店主(現在の大家さん)とお話しして店をあとに。

後にこの場所を借りることになるとは思いもしませんでしたが、
とても雰囲気の良い方だなぁという印象でした。

それから数週間が経ち、シャッターに貼られた閉店の案内を見ると
「あぁ、本当に閉まってしまった」というなんとも言えない寂しさと同時に、
この建物を自分の手でどうにかできないか!
という思いがこみ上げてきました。

このとき、ちょうど新しいかたちの子育ての場所を
つくれないかと考えていたところでした。(第1回参照) 
それからすぐに大家さんへ連絡して、私の考えているプランを話したところ、
このビルを改装して使うことを快く承諾してくれて、物件が決まりました。
額縁店として続いてきたストーリーを引き継ぎ、物語の第2章が始まるような、
そんな思いを店名に込めて〈Cafe&Living UCHIDA〉と決めました。

まちぐるみで子育てをしていた昔懐かしさをウチダで見ることができたらいいなと思い描いたイメージ(イラスト:Mako.pen&paper )。

つながりが生んだ心強い仲間たち

改装コストをできる限り抑えつつ、良い空間をつくるために、
今回は空間デザインと施工の一部を業者に依頼して、
DIYできる部分は自分たちでやる
ハーフビルド形式でリノベーションに挑戦しました。

自分たちでDIYするにあたり、結成した〈チームUCHIDA〉。
メンバーとして声をかけたのは盛岡勤務時代の先輩たち。
みんなDIYは好きですが、施工経験のあるメンバーはゼロ。
素人だらけの店づくりです。

〈チームUCHIDA〉の主要メンバー。左から茂庭甲子、私(川島佳輔)、千葉夏生、久保友佳。

下地や電気工事などは地元工務店に依頼。
空間デザインは長野県に店を構える〈ReBuilding Center Japan〉に依頼しました。

ReBuilding Center Japanは、
解体される古民家などから古材や古道具を回収して販売する会社で、
アメリカのポートランドにある〈ReBuilding Center〉から正式に許可をもらい
日本で活動を始めた会社です。

長野県諏訪のRebuilding Center Japan。建物内にはカフェ、古材売り場、古道具売り場があります。

こちらは古材売り場。レスキューされたたくさんの木材が並べられています。

代表を務める東野唯史さん(以下、アズノさん)とは、
2010年に世界一周の旅中に出会い、帰国後も交流のある友人です。
「地元にお店をつくることがあったら相談して! 協力するよ」
という言葉を7年越しで実現することができました。

リノベーション前のビルで現地調査をするアズノさん。厨房スペースの寸法を計っています。

アズノさんは帰国後空間デザインユニット〈medicala〉として
ゲストハウスなどのデザインを手がけていて、
2016年9月にReBuilding Center JAPANを設立しました。
古材を使った空間はかっこいいのはもちろんですが、
建物のストーリーを大切にしたり、地域の素材を生かした空間づくりで、
良い空間を全国につくっています。(※リノベのススメでも連載

2017年1月、物件と改装チームが決まり、いよいよ改装がスタート。

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埃まみれになりながら……

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改装現場前にて。チームUCHIDAとアズノさん夫婦。

まずは解体から始まります。
既存の壁や天井を剥がしていきます。徐々に構造が露になっていく店内。
数日して大家さんがやってきて、

「懐かしいわ〜!このあたりが増築した場所よ!」

「ここに鉄骨を入れたのよ〜」

なんていう昔話もしてくれました。
解体時に出た廃材は釘を抜いて薪として再利用して、
できるだけゴミの出ない工夫をします。

解体作業は天井の板剥がしから。ゴミと再利用できるものを分けていきます。

天井を剥がし終えると、鉄骨部分が見えてきました。この鉄骨を生かして天井を高くすることに。

地域資源をフル活用! 古材と古道具をレスキュー

店舗となるビルの1階の解体と並行して進めたのが古材のレスキュー(回収)。
長野のReBuilding Center JAPANから古材を仕入れるとなると、
高額な送料がかかってしまうので、
今回リノベーションで使う古材・古道具は自分たちで調達することにしました。

解体する古民家や片づけをするというお宅から、
相談を受け、使われなくなった古材や古道具を引き取ります。
古材や古道具はもちろん、
建具や屋根に使われていた古いトタンなどもレスキューします。

さまざまな種類の建具をレスキュー。託児スペースとの仕切りに使用します。

レスキューした古材をきれいに磨きました。地方では古材を納屋に保管していることも多く、たくさんの古材をレスキューできました。

トラックを借りてレスキューに向かうことも。

レスキュー現場は解体前の家屋にうかがうことが多く、
埃まみれになることもあるのですが、
古材や古道具に出会うたびに「おぉ!かっこいい!」などの歓声があがります。

私を含め、改装メンバーはもともと古着を扱う仕事をしていました。
古いものは磨けば光る原石で、それらを純粋にカッコいいと思えるからこそ
埃まみれになりながらのレスキューも楽しめたのかもしれません。

寒い岩手の冬を乗り越えるために

解体の次に行ったのが断熱です。古い木造の建物なので、
解体した床や壁に断熱材はほとんどありませんでした。
現在も窓はそのままですが、床と壁に断熱材を詰めて、
できるだけ暖かい空間を目指します。

解体が終了し、断念材を入れている様子。託児スペースの床上げの際に床にも断熱材を敷きました。

改装スケジュールは、黒板に書きみんなで共有します。

解体が終わり、断熱や下地工事が始まる頃に大工さんたちが現場に入り、
床、壁などの木工事を進めていきます。
下地ができたら私たちが引き継いで
石膏ボードを貼ったり、床の仕上げをしていくという施工の流れで、
大工さんたちの仕事の速さに圧倒されながらも、
プロの仕事を間近で勉強できる最高の時間でした。

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あっという間の職人仕事

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5か月の改装期間中、約3週間ほど大工さんに入っていただきました。プロの指導を受けながらチームUCHIDAも天井の仕上げや、左官の下地などを施工していきます。

天井が仕上がり、カフェとリビングに古い建具を組み合わせた窓をつくっていきます。

改装中何度も現場に足を運び私たちや大工さんとイメージの共有をしてくれるアズノさん。

カウンターに合う材料を選んでいる様子。

左官作業にもトライ

断熱のあとは左官に入ります。
今回カフェはモルタル、リビングは漆喰で仕上げるので下地も異なり、
モルタル部分は〈ラス網〉と呼ばれる金網、
漆喰は石膏ボードといった具合で下地づくりをします。

壁づくりも自分たちで。モルタルを塗っていきます。 

アズノさんも左官指導に駆けつけてくれました。 

レスキューした建具を、託児スペースとの仕切りにはめて大きな窓をつくりました。

左官を終えたカフェの様子。手前に写っているのは、大家さんから紹介していただいた物件からレスキューした古材でつくったテーブル。

カフェのカウンターには前職の古着屋で販売できないデニムをタイル状に貼りました。

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DIYのメリットはある?

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解体や左官、家具の制作など、どれをとっても初めての作業ばかりで
今思えば効率の悪い作業も多かったのかもしれません。
今回の改装を通じてDIYでリノベーションするメリットを
ふたつ上げたいと思います。

1 改装のコストを抑えられる

コストカットについては、かなり大きなメリットがありました。
施工費を抑えるために自分たちで解体をしたり、
水道の配管経路を掘ったり、左官をすることでコストカットができました。

2 つくりたいイメージを空間に反映できる

古材のようにひとつひとつ表情の違う材料を扱う際にとても大切でした。
岩手と長野は距離的なハードルもあり、
デザイナーもどんな材料が現場にあるかを完全には把握できません。
デザインの意図を汲みながら、
現場で材料を適切に配置していく役割を私たちが担いました。

窓際席のテーブルが完成! 自分たちで試行錯誤しながら古材を選び作成しました。

排煙窓の工事に数十万円かかると言われた入り口も、
屋根板を揃えた材でヘリンボーンの扉を自作し改装費を抑えたりといった具合に
「コストを抑えながら、かっこよく」を実現する方法がDIYであり、
現場に入る良さだと思います。

古材を加工してつくったヘリンボーンの扉。

2017年1月〜6月の改装期間5か月を経て、お店が完成!(長かった!)
長い間機械の音が響いていた現場に、
子どもたちが楽しそうに遊ぶ声が飛び交いお店の完成を実感します。

改装中もたくさんの人がお手伝いや応援に駆けつけてくれたおかげで、
現場も毎日賑やかでした。

改装中はお手伝いの方たちも一緒に、現場でお昼ごはんを食べました。

場をつくると新しい空気がそこに流れて、
いいものも、そうでないものも運んできます。
そのいいものをひとつひとつ積み重ねていくことで、
いい空間はできていく。ようやくそのスタートに立ちました。

オープン直前の店内。和気あいあいとオープン準備を進めます。

改装を終えて、迎えたグランドオープンの日。長野からRebuilding Center Japanのアズノさん夫婦が駆けつけてくれました。

長い改装期間を終えたウチダ。
次回はオープンしたカフェとリビングカフェの様子をお話しします。

information

map

Cafe&Living UCHIDA 

住所:岩手県奥州市水沢区東大通り1丁目5-35

TEL:0197-47-4158

営業時間:cafe10:00〜17:00、living9:00〜17:00

定休日:日曜日、月曜日

Facebook:https://www.facebook.com/cafelivinguchida/

instagram:https://www.instagram.com/cafelivinguchida/

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