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岩手〈cafe&living UCHIDA〉
カフェと託児所、
地域の新たな子育ての場へ。
COKAGE STUDIO vol.3

リノベのススメ
vol.156

posted:2017.12.7   from:岩手県奥州市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

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Keisuke Kawashima

川島佳輔

フリーランスデザイナーとして3年間活動し、2016年12月に(株)COKAGE STUDIOを設立。「くらしに、豊かな1ページを。」をビジョンに掲げ、岩手県奥州市でカフェと託児所が併設された〈Cafe&Living Uchida〉をオープン。改装中は大工兼デザイナー。現在はカフェの皿洗い担当。

COKAGE STUDIO vol.3 
いよいよオープンしたウチダ。見たかった風景がここに。

前回紹介したように、5か月という長い改装期間を終え、
2017年6月15日にグランドオープンしました〈cafe&living UCHIDA〉。
ついこの間まで釘を打つ音や木を切る音がしていた店内からは
仕込みをする包丁の音とカレーの香りが。完成したカフェの空間を前に、
いよいよお店が始まるんだなと楽しみになりました。

完成した店内。手前がカフェ・窓の奥に見えるのがリビング(託児所)。

こちらは改装前の様子。

ウチダの特徴は、カフェとリビング(託児所)が併設されていること。
カフェとリビングは古い建具でつくった
パッチワークの大きな窓で仕切られていて、 
子どもたちが楽しそうに過ごしている様子をカフェから眺めることができます。

カフェからリビングを見た様子。

リビングは6か月の赤ちゃんから5歳まで、幅広い年齢の子どもが過ごす空間なので
年齢に合わせた過ごし方ができるように、
子ども用トイレとお昼寝ルームも備えています。

左側の小屋が子ども用トイレ。壁越しにお昼寝ルームがあります。お昼寝ルームの窓は、額縁を利用しています。

古いのに、新しい。古材や古道具の魅力

店舗に使用した古材や古道具は奥州市周辺からレスキュー(回収)したものです。
テーブルやカウンター、床に使った板も、もともとは
別の建物で使われていたもので、
それぞれに刻まれてきたストーリーがあります。
一度役目を終えた古材たちに、価値を見出してお店に使うことができたら、
きっとレスキュー先の知人や友人たちの思いも引き継ぐことができるはず。
そんな想いで古材を空間にはめ込んでいきました。

カウンターに使われている天板の一部は、奥州市にある仕入れ先のたまご屋さんの自宅からレスキュー。

カフェのカウンターに施したタイル状のデザインは、販売できないデニム約30本分を敷き詰めたもの。DIYしたメンバー“チームUCHIDA”は前職で古着を扱っていたので、それをイメージして、全体の空間デザインをお願いした長野の〈ReBuilding Center Japan〉の東野唯史さんがデザインしました。

古材や古道具の良さは、新しいお店でもその場所に
ずっとあったかのような雰囲気で、落ち着いた空間に仕上がります。
古材は反りがあったり、長さがバラバラだったりと
決して使いやすい材料ではないのですが、

「これはどんな場所に使うと良いだろう」

なんていうことを考えるのも楽しかったりします。
古いものが身近に多くなかった世代の私たちにとって、
古材や古道具は古さというよりも、新鮮でかっこよく見えています。

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試行錯誤の末、決まったメニュー

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食材でと地域とつながるカフェ

改装と並行してカフェのメニューを考案していて、試作しては食べて、
また試作をするという試行錯誤の日々。

現場でのお昼ごはんの様子。

カフェではカレーやスコーンのほかに季節のフルーツをきび糖や
スパイスと一緒に漬けて自家製シロップジュースにして提供しています。

改装中何度も試作した看板メニューのカレーとスコーン。

どのメニューも「おいしいもの」をつくりたいし、食べてほしい。
おいしいものをつくるために、
どんな素材を選ぶか、ということも大切にしています。

例えば、人参ひとつとっても、農家さんの人柄や想いによって味や形、
大きさなどに違いが出ます。
だからこそ、つくり手の方とじっくり話をしてよく知ったうえで選びたい。
「もう時期が終わってきたから先週よりも小さな人参になった」とか、
「新しい野菜の種を蒔いたから楽しみに待っていてね」とか。

農業もしているスタッフから仕入れた新鮮な色とりどりの野菜。季節によって仕入れられる野菜も異なるのでメニューも少しずつ変わっていきます。

誰がどんな思いでつくったものなのか、できるだけつくり手の顔が見えたり、
育てられてきた背景のわかる食材を扱おうと思うと、お店のある奥州市や
その近隣でつくられている食材を使うことが自然と多くなります。

野菜を持ってきてくれた農家さんから、
畑の状況や野菜の様子などを聞けるのがとても楽しいんです。
時間をかけて大切に育てられていることがわかるから、
その野菜ひとつひとつから農家さんの温かみを感じたり、
野菜ごとの個性がよりはっきり見えてきます。
そういう食材は調理していても楽しいものです。

カフェと託児所が共存する未来を目指して

ウチダと普通の託児所との違いは、カフェを利用しているお母さんが
リビングに子どもを預けてゆっくりとお茶ができること。
もうひとつは予約が必要ないので、急な予定や通院時にも利用できます。

子育て環境は地域によって違いはありますが、
保育園や幼稚園のように親と離れるか、家庭で親と一緒に過ごす。
ほとんどの地域ではこの2択なのが現状です。
ライフスタイルの変化に応じて柔軟に利用できる場があると、
親も子ももっと豊かに暮らせるはず。

子育て中のお母さんたちが子育ての悩みなどを共有する場にもなっています。

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子育ての解決の糸口に……

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私たちのように20代で子育てをしていると、
両親は現役で共働きという家庭も多く、
子どもの預け先として親に頼れないことも多々あります。
私たちも初めての子育てで経験したのですが、
保育園や幼稚園に通っていない場合、いざ子どもを預けようと思っても、どこに、
どうやって預けたら良いのかわかりませんでした。
そんな子育て世代が抱える悩みや課題をウチダがあることで解決できる。
そんな未来がくるといいなと思っています。

最近のウチダは、子ども連れのお母さんたちが
子どもを抱っこしながらランチを楽しんでいたり、
ひとりで読書しながらゆったりとしたコーヒーの時間を過ごしていたり。
リビングで楽しそうに遊んでいる子の姿や、
お母さんと離れて少し寂しそうな子どもの顔、
それを見守る保育士の姿があります。

カフェはリビング利用のハードルを下げる役割も果たしています。カフェがあることで利用する前に、中の様子を知ることができます。

新たなコミュニティが生まれる場所へ

ある日、子どもと一緒にカフェの時間を楽しむお母さんたちで、
席がすべて埋まったことがありました。
子どもの声がまるでカフェのBGMのように流れている店内。
子どもの声が自然と聴こえるカフェの空間はとても柔らかい空気が流れていて、
みんなが優しい気持ちになれる子どもの存在って
やっぱりすごいんだと実感しました。

オープンから5か月の間にカフェを訪れる人や
リビングを利用してくれる子どもが行き交うことで、
少しずつウチダが育ってきました。

子育てで困った時、ウチダのリビングを頼ってくれるような
関係性を築くことも、私たちの大切な役割だと思っています。
「良い天気ですね」とか、「お子さん大きくなりましたね」など、
ちょっとした会話を重ねて、お客様と店員という立ち位置から、
よりフラットな関係性を築いていく。単なるカフェと託児所ではなく、
子育てのサードプレイスとしてウチダが育ってほしい。
そうしてこの場から新しいコミュニティが生まれていけば、
世の中をより豊かにしていける気がします。

今回で3回目の登場となりました。
リノベのススメでの連載も残すところあと1回となりました。最終回は、
ウチダのリノベーションを通して感じたことをまとめたいと思います。

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