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北海道・神恵内村と岩内町で始動。
ウニ養殖が未来の海を変えるかも?
天然と変わらないおいしさへ

青と白の小さな半島、積丹の四季
vol.008

posted:2018.2.28   from:北海道岩内郡岩内町、古宇郡神恵内村  genre:食・グルメ / 活性化と創生

sponsored by 岩内町、神恵内村、泊村

〈 この連載・企画は… 〉  北海道の南西部に位置し、日本海に囲まれた積丹半島。
まるで南国のようなコバルトブルーの海が広がり、手つかずの自然と、神秘的な風景が残っています。
なぜ、積丹の海はこんなに青いのか? この海とともにどんな暮らしが営まれてきたのか? 
この秘境をめぐるローカルトリップをご案内します。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

Tada

ただ

写真家。池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。神奈川県横須賀市出身。典型的な郊外居住者として、基地のまちの潮風を浴びてすこやかに育つ。最近は自宅にサウナをつくるべく、DIYに奮闘中。いて座のA型。
http://yukaistudio.com/

試行錯誤で成長中! 2年目のウニ養殖

ウニといえば、北海道・積丹半島の夏を代表する高級食材。
しかし積丹半島の神恵内村と岩内町では、最近は冬でも食べられるらしい。
なぜならばウニの養殖に乗り出しているからだ。
2016年度から本格的に事業として乗り出し、2回目の冬を迎えた。

ウニ養殖の背景には深刻な「磯焼け」がある。
磯焼けとは、水中に生えている昆布などの海藻が生えてこない状態のこと。
その磯焼けをもたらしている要因のひとつが、ウニである。
本来は水温が下がり、ウニが昆布を食べない一定期間があるのだが、
年々高くなる水温が原因でウニの活性が収まらず、
昆布が生育する前の芽を食べてしまうという。
すると昆布がそれ以上育つことなく、「磯焼け」状態になってしまう。

海の中に昆布が生えていないと、海中の栄養状態も良くなく、
またニシンをはじめとしたさまざまな魚が産卵する場所がなくなり、
魚が戻ってくる場所がなくなってしまうのだ。
年々、漁獲量が減少している理由のひとつともいえる。

養殖ウニの引き上げ、ウニ剥きは冬に行うので雪があって当然の状況。

そこで、海中のウニを適正な個体数に戻すように試みることになった。
夏の通常のウニ漁が終了した後、過剰なウニを駆除する。
ただし廃棄するのではなく、その後に養殖していくことで
商品価値を高められる。後志地区水産技術普及指導所の調査・試験により、
養殖が可能だということがわかり、
神恵内(かもえない)村と岩内町が実際にウニ養殖に乗り出した。

とはいえ、まだ2年目。ウニ養殖は、全国的にも例が少ない。
どうすれば効率よく身入りがよくなるのか、
さまざまな実験を繰り返している試験段階でもある。

養殖ウニにエサを与えに出発。(岩内町)

ウニの養殖って?

まず、夏のウニシーズンが終わった9月、磯焼けしている漁場から
ウニをとってくる。この時期のウニは産卵を終え、
身がない状態なので商品価値はない。これをカゴにいれて、餌を与える。

ウニのカゴを力を合わせて引き上げる。(岩内町)

カゴも漁師たちの手づくり。直径60センチ×2メートル程度の円筒型カゴで、
現在はひとつのカゴに300個程度のウニを入れているが、
実際に何個入れれば効率的か、それも試験段階。

エサとなる昆布を運び込む。(神恵内村)

エサは昆布である。基本的に週2回程度与えている。
もちろんシケなどで海に出られないこともある。
養殖とはいえ、自然相手なことに変わりはない。
これも量、回数、間隔など給餌方法を少しずつ変えながら比較検討している。
積丹半島エリアは、昆布が水温の上昇とともに枯れてしまうため、
秋以降は使えない。そこでマコンブという昆布自体も養殖することにした。

カゴにエサを投入。(神恵内村)

昆布をエサとして与えるときは、
一度ボイルした昆布を冷凍しておき、適宜、与えている。
9月から12月まで養殖し、年末商戦に合わせた出荷を目指す。

一度ボイルし冷凍した昆布をエサに使用。(岩内町)

まだまだ試験的なことが多く、さまざまなパターンをデータとして記録しておく。(神恵内村)

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養殖できるのか不安も……

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北海道では、浜中町という道東エリアでウニ養殖の先進事例があった。
しかし浜中町はエゾバフンウニが中心で、
積丹エリアはキタムラサキウニが中心。品種が異なり、海の状況も違うので、
すべてを参考にすることはできない。
そもそも実例が少ないなかで苦労は絶えない。

「初めてウニ養殖の話を聞いたときは、正直、難しいだろうなと思っていました。
しかし2年間やってみて、ある程度はできることがわかってきたので、
これからはより改善していけると思います」

というのは、岩内町の漁師で青年部の石橋大輔さん。

ウニの入ったカゴを引き上げるのは重労働。(神恵内村)

カゴを開けてエサの減りを確認。(神恵内村)

積丹半島のウニは、品質の良さから人気が高い。
そのブランドを、冬ウニで壊すわけにはいかない。
そういう意味では挑戦ともいえる。

「昨年は、8割方成功したと思っています。ある程度の手応えは掴めました。
もちろん、夏の天然ウニに比べたらまだまだですが、
味、色など、外に出して恥ずかしくないレベルには達しています」

と、神恵内村の漁師、神恵内ウニ養殖部会長の金田一輝昭さん。

引き上げてきたウニはその日のうちに剥いてパッケージ、そして発送する。

はさみを使って殻を剥く。さすがに慣れた手つき。

漁業活性化へ新たな一歩

昨年1月に出荷した分は、すべて売り切れた。近くにニセコエリアがあり、
冬にたくさんの外国人観光客が訪れる。彼らが冬に珍しいウニに飛びついた。
夏ウニに比べて手間暇がかかっているため高額にはなるが、
スーパーマーケットなどでは、飲食店も食材として購入していたという。
冬にウニがあるという希少性からか、注目度は高いようだ。

「このあたりは冬になると、特に小さい磯舟漁師たちはどうしても水揚げが減ってしまいます。
そうした時期にいくらかでも収入になればいいと思います」

と言うのは岩内町の漁師で青年部の阿部剛志さん。

剥いた身をサイズや色ごとに仕分けていく。

「将来的には通年出したい」と神恵内村の金田一さんも言うとおり、
うまく循環していけば経済的な一助になる可能性が高い。

昆布の養殖から含めれば、年間通した仕事になる。
秋に昆布の種を植え付けて育て、春に刈り取る。そして冷凍しておく。
夏は通常の天然ウニ漁を行いながら、養殖用のカゴづくりと修理。
秋から冬にかけて養殖し、年末年始には「冬ウニ」として発送する。
1年を通した仕事になるが、冬の収入源としては大切だ。

産地だからこそ食べられる塩水ウニ。

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ウニ養殖の成功の先にあるもの

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磯焼け対策としては、今すぐに回復するわけではなく、
5年、10年を見越した活動になる。
現役の漁師にとっては、次世代も見据えなくてはならない。

海はひとつ。漁業の未来のために

「かつては沖のほうまでずっと昆布があったけど、
少なくなったことはあきらかです。父親世代からは、海水浴で泳いでいると、
足に昆布が絡まったと聞いています。今はそんなことはありません。
磯焼けしている海では、魚が帰ってきません。
将来的に自分たちのためになるならば、今、苦労して対策しておきたい」

と言うのは岩内町の漁師、青年部長の中村正紀さん。

お客さんからの要望に応えて折りウニも作成。見映えが重要だ。

実は積丹エリアは、明治から大正時代にはニシン漁で栄えたエリア。
しかし中村さんが漁師になってからは、
ニシンをほとんど見たことがなかったという。
そこで岩内町でも10年ほど前から、
ニシンの放流や追跡調査などの活動を行ってきた。
すると少しずつニシンがとれるようにもなってきたという。
しかし磯焼けしてしまっては、ニシンが産卵する場所がなく、
根本的な解決には至らない。

「海はひとつ。つながっています。ここで起こっている磯焼けは、
積丹半島近海だけでなく沖のほうやほかのエリアの海にも影響を及ぼします」

と中村さん。

磯焼け対策としてのウニ漁の新たな取り組み。
冬にもおいしいウニが食べられるうえに、
海が健康になって豊かな生態系が戻ってくるかもしれない。
そうなれば、もっとおいしい魚が食べられるはずだ。

岩内町の漁師たち。

青と白の小さな半島、積丹の四季

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